11話目 休息
そろそろ投稿ペース落ちます(そう言えば、その辺りのこと心配してる人いるのかな…?)
日が昇りつつある頃。"巨人の森"の開けた土地の端で先程まで存在した淡い光が消えた。そこにいたのは、淡い光を発生させたスコーピオンと、地面に横たわったイーグル。
丁度今イーグルの姿を元に戻す魔法をかけ終えたところだ。
スコーピオンは目を閉じたまま一息吐き、イーグルは終わった事を察して閉じていた目を開ける。上半身を起こして、じっくりと自分の身体を見つめた。
半分魔物のような姿をしたあの身体はもうどこにもない。
成功したのだ。
思わず安堵の声を漏らす。
「良かったな」
微笑を浮かべたスコーピオンが呟いた。
「うん、やっぱりスコーピオンはすごいよ」
無意識に称賛の声をあげるイーグル。昔からの癖だ。
「オレがすごいんしゃない、お前の忍耐力のおかげだ。魔法は繊細なものだからな」
少し自嘲気味にスコーピオンは言う。
「それでも、そう言う繊細な魔法を使えるんだろ?やっぱりすごいじゃん」
イーグルは思った事を素直に述べただけだったが、スコーピオンは違う場所へ視線を飛ばした。
「……そう言うもんなのか」
その表情はどこか寂しげで、辛そうだった。
「スコーピオン…?」
心配になってそう問いかけると、
「いや、なんでもない」
と、軽くあしらわれた。
今日のスコーピオンは少し変な気がする。けど、魔法に関する事をしていると、周囲に存在する魔素-----自然に存在する魔力の源のようなもの-----や体内の魔力の循環が乱れて情緒や体調が優れなくなると聞いた。今の彼はそう言う状態なのだろうか…?
そんな事を考えていると、寝ていた3人が仲良く目を覚ました。
「おはよう」
いつも通り何気ない挨拶をする。
「おはよう」
眠い目を擦りながらヴォイドが返事をし、兄妹の2人は同時に欠伸をする。
なぜかほんの数秒の沈黙が生まれた。
「元の姿に戻ったんだ」
ヴォイドが状況を理解すると、
「え⁉︎マジ⁉︎」
とカメレオンが驚く。
ウルフはコテンッと倒れて二度寝に入った。
「まあ、スコーピオンのおかげでなんとか元に戻れたよ」
苦笑を浮かべる。
「あー、良かったぁ!」
カメレオンは嬉しさのあまりイーグルに抱きついた。勢いが強かったため、イーグルの身体を地面に打ちつける。
「痛えぇぇぇぇ!」
なんて悲鳴をあげるくらいには痛かったらしい。
ヴォイドは顔色一つ変えず、アグレッシブな感情表現だなと思った。
「カメレオンはそれだけ必死だったんだよ」
いつの間にか横に立っていたスコーピオンが言う。なぜ急にそんな事を言うのか不思議に思ったが、ふと舌がなかった時を思い出して察する事ができた。
「もう必要ないから使ってないと思ってたけど、まだ心を読む魔法を使ってたのか」
スコーピオンは鼻で笑う。
「今回は偶然だよ。いつも使ってるわけじゃない」
「へぇ」
ヴォイドとスコーピオンの間に妙な沈黙が流れる。
「……気なるか?」
なぜか慎重にそう尋ねるスコーピオン。
「まあ、気にならないと言えばウソになるね」
ボクは正直な事を口にする。
「だよな…」
そう前置きをして、スコーピオンは腕を組んだ。そして、重い口を開く。
「今から4年ほど前の話だ。
オレ達はまだ見習いで、今ほど知名度がなかったから、毎日酒場のオアシスに出向いて、そこで依頼や店の手伝いをして小銭を稼いでた。
その時のオレ達は、イーグル、カメレオン、オレの3人と、もう1人の計4人で活動していたんだ。そのもう1人の名前はヴァイル。オレ達より2つ年上の女剣士で異能持ちだ。
彼女は色々な面で気が利いて、女性恐怖症だったイーグルでさえ仲が良かった。
それに、その頃はすごく珍しい時期だったのをよく覚えてる。何せ女嫌いだったカメレオンとヴァイルが両想いだったんだからな。
隙あらばるす2人でちょっかい出し合ってすぐイチャイチャする。イチャつくなら人のいない場所でやれ!ってよく言ってたよ。
ただ、それは長い時間に存在する短いひと時だった。
ある日、オレ達の下にとある依頼が届いたんだ。"戦争"をするから共に戦ってくれと言う内容の依頼が。
もちろん、オレ達はすぐには受け入れなかったさ。なんたって戦争だ。そう簡単に起きてはならない大事に参加できるわけがなかった…………でも、参加せざるを得なかった。
丁度その頃のオレ達は依頼がなくて金欠の状態が続いていて、食料は狩で手に入っても、安全な水を確保できていない。
とにかく当時は仕方がなかった。川の水を飲む事で発病する感染症にかかるわけにもいかなかったからな。
だけど、参加した事がマズかった。
開戦後、オレ達が入った国が優勢になり、事が順調に運んでいた時、突如としてヴァイルの様子がおかしくなった。それこそ、あの時のイーグルのように。
オレ達は全力を尽くした。彼女を元に戻すために。
ただ、一筋縄にはいかなかった。オレ達は彼女を傷つけられないのに、向こうは殺す気でいる。力の差が出て当然だった。
ようやく……ようやく、彼女を元に戻せると言うところまで来た時、どこからか降って来た1本の剣が………彼女の心臓を貫いてしまった。
-------そして彼女は……力なく生き絶えた」
語り終えたスコーピオンは途中から目尻に溜まった涙を拭った。
「そんな事があったんだ…」
あまりにも辛い過去を思い出させてしまったと、心中で後悔する。
そんなボクらの前ではカメレオンとイーグルが楽しそうに笑い合っている。ウルフは二度寝の真っ只中だ。
「終戦後、カメレオンはヴァイルを救えなかった事に負い目を感じているせいか、関わりを求めてくる他の女性との交流をほとんど断ち切ってしまった。そうなる前は営業スマイルのようなもので乗り切っていたけど、あの時よりひどい」
後半は呆れが混じっていた。
「そのヴァイルって人の事があったから、カメレオンはあんなに必死になってたんだ」
それにしても、意外だ。スコーピオンとカメレオンはいつもケンカをしてたから、どちらか片方の事で心配したり、涙を流したりするんだなと思った。
「…オレはカメレオンとよくケンカをしてるって言われるけど、実際は戯れてるだけだから大して仲が悪いってわけじゃないんだけどな」
また心の内を読まれた。いやと言うわけではないけど、口に出していない事に対して突然意見を言われるから少しびっくりする。
「おい、スコーピオン」
すると突然、さっきまでイーグルと戯れていたカメレオンから声がかかった。彼はイーグルの長い前髪に隠れた右眼を凝視している。
「なんだ?」
呼ばれたスコーピオンは首を傾げた。
「この眼だけ戻ってないぞ」
焦りの混じった声が、状況の深刻さを表している。が、スコーピオンは平然としていた。
「別に問題はない、傷跡みたいなもんだ」
と、簡単に答える。
「傷跡みたいなものって…どうしてそんな事がわかるんだ」
カメレオンは余計に頭が混乱したと言う感じだ。スコーピオンは少し面倒くさそうにため息を吐く。
「オレをなんだと思ってるんだ」
「エセ魔法使い」
「全くもって違うな」
シリアスな雰囲気を一瞬でぶち壊しながらも真剣な趣を保つスコーピオン。カメレオンはボケに走った事で少し頭の混乱が和らいだようだ。
「…………とりあえず、お前を信じれば良いんだな?」
真剣な問いかけに首肯する。
「当たり前だ。これでも魔法の使用に関しては失敗した事がないんだぜ?」
「一度おれに猫耳を生やそうとして間違えて犬耳を生やした件についてはどうお考えで?」
「ちょっと何言ってるかわからないな」
最終的にはいつもの談笑に落ち着き、5人の中でいざこざが起こる事はなかった。その光景を羨ましいなと思いつつ、ヴォイドは自分の両手を見つめた。何の変哲もない人の手がそこにあった。
読んでくれてありがとうございます