『もう遅いよ』と言われたがクラスの美少女が何を言いたいのか分からない
俺のクラスには美少女がいる。
他のクラスから休み時間に見に来るやつもいる。
ファンクラブもあるらしい。
花が咲いたように可愛く笑う美少女。
髪の毛を耳にかける仕草が色っぽい美少女。
睫毛が長くて大きな目の美少女。
そんな美少女の隣の席になった俺。
それが彼女と俺の物語の始まりだった。
「ねぇ、消しゴム貸してくれない?」
「あっ、うん。どうぞ」
俺は彼女に消しゴムを貸した。
彼女は消しゴムと一緒にノートの切れ端で手紙をくれた。
『ありがとう。優しいあなたに一つだけ情報を教えてあげる。お昼休みに来るパン屋さんは私のいとこなんだ』
彼女が言うパン屋とはお昼休みに俺がいつも買いにいく移動販売のパン屋だ。
『そうなんだ。俺はあのパン屋のパンが好きなんだ』
俺は彼女の手紙に返事を書いて彼女に渡した。
するとすぐに彼女から手紙が返って来た。
『今度、あなたをいとこに紹介するよ。そして安くしてくれるように言うよ』
その彼女の手紙にありがとうと返して手紙は彼女の手に戻る。
俺達は授業中に手紙のやり取りを毎日した。
彼女から手紙が来て、彼女で終わる。
だから俺には彼女との手紙は一つも手元に残らない。
俺達が仲良くなっているなんて誰も思っていないはず。
何故なら俺達は話すことがないからだ。
授業中は手紙での会話はするが休み時間になると話さない。
それは彼女が決めたことだ。
彼女と仲良くしていると俺に迷惑がかかるからと言っていた。
「ねぇ、こっち」
俺がトイレから教室に戻ろうとした時、彼女に空き教室から手招きされた。
「どうしたの?」
「今日ね、いとこにあなたを紹介するからパンを買うフリをして来てよ」
「フリっていうか今日もパンを買うつもりだけどね」
「そうね。私も行くからさりげなく隣に来てよ。いとこにはちゃんと説明してるから心配しなくても大丈夫よ」
「分かったよ。パンを買いに行くよ」
「うん。待ってるね」
彼女は可愛い笑顔で言った。
◇
それから昼休みになり俺はパン屋の所へ向かった。
彼女がいたからさりげなく隣に並んだ。
「メロンパンを二つ頂戴」
彼女がパン屋にそう言った。
その言葉が合図なのかパン屋はメロンパンだけじゃなく焼きそばパンもくれた。
「君は幸せ者だね」
「えっ」
パンをもらう時にパン屋に言われた。
それを聞いていた彼女がやめてって言って顔を赤くしていた。
なんだこの雰囲気は?
二人はいとこだよな?
パン屋はイケメンなお兄さんだがいとこを好きになるのか?
俺はこの場所にいてはいけない気がする。
俺は邪魔者みたいだ。
彼女は俺を使っていとこに会いに来たんだ。
彼女ってそんな子だったんだな。
いい子だと思っていたのに。
俺はお礼を言ってその場を後にした。
いつも食べていたパンは味がしない。
美味しいはずのパンが、好きだったはずのパンが俺は大嫌いになった。
◇
『もう手紙はやめよう』
俺は彼女に手紙を渡した。
するとすぐに手紙が返ってきた。
『どうして?』
彼女を見ると悲しそうな顔をしている。
『ごめんね』
彼女にそう書いた。
彼女は手紙を見つめたまま返事をくれなかった。
それから俺達は手紙での会話をしなくなった。
彼女は頬杖をついて俺とは反対側である窓の外を見ている。
俺はそんな彼女を見ていたが、いつしか俺も彼女とは反対側の友達と話すようになった。
接点がなくなった俺と彼女の物語はここで終わるはずだった。
◇◇
ある日、俺の机の上にメロンパンと手紙が置いてあった。
メロンパンはあのパン屋のメロンパンだ。
封筒には何も書いていない。
俺は封筒を開ける。
封筒には彼女の字で大きく一言、書いていた。
『もう遅いよ』
意味が分からない。
遅いとは?
彼女に聞きたくても彼女は隣の席にはいない。
そう、俺達は席替えをして隣の席じゃなくなった。
俺は彼女の元へ向かい、彼女の席の前に立つ。
「放課後に話があるから隣の空き教室に来て」
俺がそう言うと彼女は小さくうなずいた。
放課後になり、俺は空き教室で彼女を待っていた。
彼女は空き教室へ入ってきてドアを静かに閉めた。
「みんなの前で私に話しかけたらダメでしょう?」
「それは君が悪いんだよ」
「私のせい?」
「君の手紙の意味が分からないから」
「あの手紙はあなたが最後にくれた手紙の返事よ」
「最後って俺が手紙をやめようって書いた手紙?」
「そうよ。もう遅いのよ」
「何が遅いんだよ?」
「私はあなたと手紙での会話をやめたくないの」
「どうして? 俺なんかとそんなことをするより君にはいるだろう?」
「私にはいるって?」
「君には好きな人がいるだろう?」
「えっ。どうして知ってるの?」
「俺は君に使われたからね」
「使われた?」
「俺を使って好きな人と話したかったんだろう?」
「ん?」
彼女は俺が何を言っているのか分からないのか眉間にシワを寄せた。
「パン屋だよ」
「私のいとこがどうしたの?」
「彼のことが好きなんだろう?」
「えっ」
「いとこなんて関係ないと思う。好きならちゃんと言った方がいいよ」
「そうよね」
「分かってくれたならいいよ。それじゃあ俺は帰るよ」
そして俺はドアへと歩き出す。
「それなら言うよ。私はあなたが好きよ」
「えっ」
俺はドアへと歩いていた足を止めて彼女へ振り向く。
彼女は顔を赤くしている。
「私はあなたが好きよ。だからもう遅いのよ。手紙をやめるのは」
「嘘だろう? 俺みたいな普通の奴のことを君が好きになる訳がない」
「私はあなたが好きよ。あなたが信じてくれるまで何度でも言うよ」
「それは困る」
「どうして? あなたは私のことが嫌いなの?」
「違うよ。何度も言われたら俺も何度も好きって言わないといけないだろう?」
「えっ」
「俺も君が好きだよ。君の笑顔も君の仕草も君の横顔も君の全てが」
「嬉しい」
彼女は可愛い笑顔を見せてくれた。
俺は空き教室に置いてある机の上に彼女がくれた手紙を広げた。
彼女が書いたもう遅いよと言う言葉の下に俺も書く。
『俺も、もう遅い』
彼女はその言葉を読んだ後、俺を見つめた。
「でも手紙は必要ないよね?」
「えっ」
「だってあなたとは手紙で会話をする必要はないでしょう? もう隠す必要はないもの」
「そうだね」
俺達は恋人になった。
俺達の物語はこれからも続くみたいだ。
彼女のファンからの嫌がらせを受ける俺も続くんだろうな?
彼女は嫌がらせが嫌で俺との関係を秘密にしていたんだろう。
でも俺は負けない。
彼女への愛がその程度で薄れる訳がない。
大好きだよ。
これからもずっと。
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明日の作品の予告です。
幼馴染みが毎日、飲むものはイチゴミルク。
いつも隣で甘ったるい香りをさせて幼馴染みは可愛い笑顔を見せる。
気になった方は明日の朝、六時頃に読みに来て下さい。