第4陣 「1回裏 その3」
タイタンズの絶対的エース、黛薫とドリーマーズの主砲でリーグ三冠王のガスリーンの対決、第1ラウンドが始まりました。その様子をご覧ください。
1回裏、1点を先制したドリーマーズの攻撃は2アウトランナーなし、迎えるのは4番のルパート・ガスリーン、右投げ右打ちのセントラル・リーグ三冠王である。打率3割6分1厘、52本、134打点という成績は球界でも近年稀にみるトップクラスの成績である。ただ、3番の芳野と比較するとやや得点圏の打率が低いのと四死球をポストシーズンを含めて7つしか貰ってないうえ、三振することも多いバッターであるのだが、それでもこの男の名がスタメンにあることによって、相手の投手を必要以上に力ませている効果が少なからずあるとされる。
しかし三冠王でありながら、弱点は少なからず存在する。配球の組み立て方によっては、まったく手を出してくれないか、出しても内野ゴロもしくは外野フライで詰まらせることができるが、コースを間違える、取り分け真ん中にシュート回転するボールなどを投げ込んでしまうと、スタンドに持っていかれる。
タイタンズのエース、黛も女房役の子島と打ち取る作戦を少なからず練っていた。とにかくこのバッターは、詰まらせたり振らせたりする配球を組み立てれば、予定調和の術中に持ち込めるが、1つ間違えると揺動させられて、痛打される危険性があることはお互いに理解している話ではあるが、一度組み立てた配球は、ガスリーン自ら学習し、次同じ配球を組み立てるとほぼ出塁していくという厄介なバッターであることも熟知していた。
ただ、一つ新しいパターンを覚えていくことは数十打席前の配球を同時に忘れていくものであると、バッテリーは踏んでいた。実際、過去の試合を見るとおよそ3週前の配球で単打を打った時の配球を、その3週後、同じように攻められた際にセカンドゴロに倒れたという背景があるなど、特に前回単打を打った時の配球を、3週以上置いて同じように放り込むとあれよあれよという間に三振したり、凡退したりしているデータがある。もちろん、長打を打たれた時の配球はまた別だ。その際の配球は何べんやっても長打になる確率が高くなる。
何よりもガスリーンは一度調子を乗らせるとなかなか手を付けられないタイプであり、この日本シリーズでも第4戦までは抑え込んでいたものの、第5戦と第6戦で9打数6安打、3本のホームランと11打点というように気分を乗せてしまい、その流れでの第7戦なので、如何に火消しをしていくかが重要であり、そうしないことには、また一方的な展開になって、日本一まで掻っ攫われてしまう危険性が強くなってしまう。
他のバッターも巧い部分を持った選手が多く、手は抜けないものの、その中枢であるガスリーンにおいてはなんとしてでも抑えなくてはいけない、タイタンズ、いや球界随一のバッテリーとしては本当になんとしてでも。
ガスリーンがバッターボックスに入る。穏やかに、ただ黛の目をしっかりと見て、そして捕手の位置を入念にかつ瞬時に確かめながら。自分のスイングがしっかりとできているからこそ、いつもの作法ができている証拠なのだろう。それ故に、抑えなくてはならないし、抑えないと始まらない。
ガスリーンの準備が整った10秒後、黛はセットポジションから第1球を投じる。アウトコースの真ん中、やや外れてボール。ここで、キャッチャー子島が大きく溜息をガスリーンに聞こえるように洩らす。もっと調子乗らせてしまう懸念があるものの、却ってそうやって油断させてみるのもどうか・・・、少し姑息ではあるが、プレー上においては妨害行為にはあたらない。子島はそう判断してわざと溜息を洩らした。そして黛からの2球目を待つ。
黛の放った第2球、今度はインコース低めに外れてボール、これで2ボール。バッティングカウントとなった。2球外すとなると、今度はストライクゾーンにボールが入ってくるとガスリーンは予想していることだろうし、たとえボール球がやってきたとしたら振ってはこない。だからストライクゾーンに入れてはいけない。でもそろそろストライクは欲しいところ。
黛はいったん間をおいてロジンバックを少し握ったあと、子島のキャッチャーミットに向かって第3球を投げ込んでいる。ボールはまっすぐストライクゾーンへ。ガスリーンも迷わず手を出す。
しかし、黛の放っている手は、フォーシームのそれではなかった・・・・・・。