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その2 クラスメイトのギャルと意気投合しました


 ……これは夢か? 妄想か?

 一体、自分の身に何が起こっているのか理解できない僕。


「へー、ここがユッキーお気に入りの本屋って感じ?」

「ま、まぁ……通学路の途中だし、よく利用するってだけだけど」


 僕は今、あの大久保新菜と一緒にいる。

 寝過ごして放課後になっていた教室の中で、何故か待ち伏せ(寝起き待ち?)していた彼女に、おススメの漫画を紹介してと誘われたのだ。

 そして、あれよあれよと言う内に、駅前の行き付けの本屋までやって来たのだった。


「………」


 しかし……僕は隣で「へー、ほー」とテンション高く本棚を見回している新菜をチラ見する。

 今更改めてだけど……本当に美人だ。

 ……いや、自分に誰が綺麗だとか可愛いだとか判断する資格なんて無いだろうし……というか、相手が女子っていう時点で意識が固まってまともに会話できないくらいのアレな男なんだけど。

 クラスの女子が、脚が長い、髪が細い、骨格から違う、とか称賛していたのを思い出す。

 モデルをやってるという噂も聞いた気がする。

 だから、本当に平均的な女子とは違うんだろう。


「どしたん?」


 おわっ!

 下から覗き込むようにして近付けて来た新菜の顔を見て、心の中で叫んでしまった。

 至近距離!

 くそっ、流石ギャル!

 パーソナルスペースが餌付けされた公園の鳩かってくらい近い!(偏見)。


「あ、いや、その」


 しどろもどろになる僕に対し、新菜はニィッと意地悪そうな微笑みを浮かべる。


「あ、もしかして見惚れてた? なーんて」


 ………。

 図星だから何も言い返せません。


「いや、その、意外、ですね。こういう漫画に興味を持つなんて」

「なんで? っていうか、どうして敬語?」


 誤魔化すように言った僕に、新菜は笑いながら、平積みされている漫画を一冊持ち上げる。

 際どい恰好の美少女が表紙にあしらわれたタイプの単行本。

 今、深夜アニメ化もされている作品だ。


「あたし、結構こういうの読むよ。好きだし。アニメとかも見るし」

「へ、へえー」

「っていうか、前に友達とダベっててそういう話になった時にさ、意味わかんないくらい漫画とかアニメとかすっごい否定する(ヤツ)がいたんだよね。『こういうの好きな奴とか無いわー』って言われたから、マヂキレて『お前がねぇわ』って言ってやったし」

「ほ、ほーん」


 こわ!

 やっぱり、ギャルって基本ヤンキーだから(偏見)怒らせると怖いんだろうな……。

 よし、この後の展開も穏便に済ませないと。


「僕のオススメの漫画だけど、これなんか、最近読み始めて面白かったかな」


 と、僕は本棚に棚差しされている単行本を一冊取り出す。


「へー、ヒロインの娘、かなりカワイイじゃん」


 表紙に描かれたメインヒロインを見て、新菜は言った。

 うん、正にそう。

 この娘がかわいいんだよ。

 このヒロイン目的で読み始めたと言っても過言じゃないくらい……。


「あ、ユッキー、もしかしてこの娘みたいなのがタイプなの?」

「……な!」


 またしても心を見透かされたかのように、図星を突かれてしまった。

 僕も僕で、そんな新菜のからかいの言葉に、わかりやすく反応してしまう。


「ユッキー、顔まっかー。わかりやすー」


 ケラケラと笑う新菜。


「べ、べべべ、別に、確かに可愛いけど、僕の好みじゃ……」


 と、僕は眼鏡を掛け直しながら平静を装おうとする。


「というか、そういう目的では無くてちゃんとストーリーが重厚で面白いから評価してるわけで決してやましい意識は」

「急に早口になってんじゃん、あやしーなー」


「ん?ん?」と、意地悪く追及してくる新菜を躱しながら、とにもかくにも必死に誤魔化す僕。

 で、一方。

 新菜は僕のオススメ通り、その漫画を購入する事に決めたようだ。

 一巻から既刊の三巻までを、羽振り良くまとめ買いする。


「付き合ってくれて、ありがとね。明日までに読んで、感想言うから」

「いや、そこまで急がなくてもいいよ……」


 店を出て、しばらく歩く僕達。

 さて、当初の目的は完了してしまった。

 この先は駅だ。

 ここらへんでお別れか……と思っていたが、なんだか新菜の様子がおかしい。

 キョロキョロと周りを見回しながら、時々立ち止まったり、妙にゆっくりな歩調になったり。

 なんだか、これで僕と別れるのがつまらなそうな……。

 ………。

 いやいや、自意識過剰過ぎるだろ。


「あ」


 そこで、新菜が何かに気付いたように声を発した。

 見ると、彼女の視線の先には、ゲーセンやカラオケが合体した複合遊戯施設……いわゆる、ラウ●ドワンの仲間のような店があった。

 新菜は、僕の方を見てニッと微笑む。


「ユッキー、まだ時間ある? ちょっと遊んでこうよ」




 ※ ※ ※ ※ ※




「ユッキー、キョドり過ぎ」


 新菜に導かれるまま入ったゲーセン。

 内装を珍しそうに見回している僕を見て、彼女が笑う。


「しょ、しょうがないだろ、こういうところ、あまり来た事が無いんだから」


 ボッチにはともかく縁のない施設なんだよ、こういうのは!


「へー、なんか新鮮な反応」

「大久保さんは……まぁ、慣れてるよね、こういうところ」

「まぁね、友達と結構来るし」

「ふ、ふーん」


 僕の質問に対して、彼女は特に気にする事も無くサラッと答えた。

 まぁ、そりゃそうか。

 ザ・圧倒的陽の側の住人である彼女には、マイホームみたいなところだろう。

 陽キャラはラウ●ドワンで生活しているという噂もよく聞くし(偏見)。


「あ、ユッキー、クレーンキャッチャーやろうぜ~」


 ぼやぼやと考えていると、新菜はゲーセン内に設置されたクレーンキャッチャーのゾーンへと向かっていた。

 僕は慌てて、彼女の後を追う。


「ほら、これこれ! ……あ、見て見てユッキー!」


 とある筐体の前にやって来たところで、彼女は興奮したように騒ぎだす。


「ワンピのカタクリのフィギアじゃん! マジかっけー! 取って取って!」


 その筐体の中に設置された景品が、彼女の琴線に触れたようだ。

 僕の肩に手を置いて、ぴょんぴょんと跳ねる新菜。

 だから、いちいち距離が近い!


「え、ぼ、僕が?」

「あたし苦手なんだよー」


 四の五の言う暇も無く、早速筐体にお金を入れる新菜。

 仕方なし、僕はボタンを押してクレーンの操作を開始する。


「おー、うまーい」


 そこから何度か、クレーンを動かし――数回やって、フィギアの箱を落とす事に成功した。

 ガタンと音を立てて落下した景品を、取り出し口から引っ張り出す。


「はい」


 景品を差し出すと、新菜はパチクリと目を丸めて僕を見詰めていた。


「……え! 凄いじゃん、ユッキー! 何でもっと喜ばないの!?」

「い、いや、何百円も使っちゃったし……」

「ぜんっぜん! むしろ、あたしなんか何千円も使っても取れない事とかフツーだし! え、マジ凄い! ありがとう! 一生大切にするから!」


 一生は絶対嘘だろ。

 しかし、満面の笑顔で喜ぶ彼女に、僕はドキドキとする。


「い、いや、どういたしまして」


 そんな眩しい姿を直視できず、僕は目線を逸らす。

 なるほど……陽キャラの〝陽〟は、〝眩しい〟の〝陽〟だったのか……。


「~~♪」


 新菜はご機嫌な様子で鼻歌を歌いながら、手の中のフィギアを見回している。


「あ、そうだ!」


 そこで、何か思い付いたかのように声を上げた。


「ユッキー、記念にプリクラ撮ろうぜ!」

「え?」


 気付くと、新菜が僕の手を握っていた。

「ひぇっ」と反応する間も与えられず、彼女は「ほらほら」と僕を引っ張っていく。

 やって来たのは、なんだかキラキラしていて、普段の僕なら居心地の悪さを覚えるような(今も覚えるけど)雰囲気漂うプリクラゾーンだった。

 入り口に、男性だけの利用お断りと書いてある。

 へぇ、そんなルールがあるんだ、今のゲーセンって。

 よく見ると、コスプレ衣装も用意されていたり、小学校以来だと色々と変化が激しく感じる。

 で、早速僕は(新菜に引きずられるままに)筐体の一つに入る。

 狭い空間。

 目前のディスプレイの指示に従って、慣れた手捌きで指定を入れていく新菜。


「ほら、始まったよ。もっとくっ付いて」


 新菜が体を寄せて来た。

 彼女の肩が、僕の上腕辺りに押し付けられる。

 綺麗な髪が僕の肩に掛かり、良い匂いが鼻孔をくすぐった。

 またしても距離が近い……っ!

 くっ……しかも、この至近距離、どうしても彼女の開けられた胸元がチラチラと見えてしまう!

 またしても、僕は必死に彼女から視線を切る努力を強いられるハメになった。


「あれ~、ユッキーどこ見てるのかなぁ~」


 そんな僕の様子に気付いて、新菜はジト目でからかって来る。

 ユッキー……。

 さっきからそうだけど、普通に渾名で呼ばれている状況に、まだ慣れない自分がいる。


「み、見てない! 何も見てない!」

「いやいや、カメラの方見ないと写真撮る意味ないでしょ~」



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