月夜の猫
それは、月がおおきく満ちる夜のお話。
木枯らしが外で暴れている。
木々に風を吹き付けて、木から落ちた葉っぱを舞い飛ばせてる。
その様子を、家の中から一匹の白猫が見ている。
名前は、ジョッタン。
丸々と太っていて、優しい性格。
僕を引っ掻いたことは一度だってない。
夜になると、ジョッタンは一緒に寝ている僕の横をすり抜けた。
僕は知っているんだ、この夜にはジョッタンが外へ抜け出すことを。
僕は、むくりと起きだした。
僕の勘では、今、ジョッタンは僕が追いかけていることに気づいている。
けれど、「ついてこい」と言わんばかりにちらっと振り返る。
猫ドアから抜け出す、僕は慌てて玄関から飛び出す。
こんな暗い道を一人で歩いたことがない僕はすぐに怖くなり、
ママを起こしに帰ろうと思った。
けれど、ジョッタンがニヤケタ顔で「意気地なし」と言った気がした。
僕は、ジョッタンに負けたくないと思ったのと、ジョッタンがいれば
大丈夫だという気持ちがまじりあったまま、とにかく追いかけることにした。
歩道を、時には家々の塀の上を軽々飛び越えていくジョッタン。
ぼくは走るだけで、精一杯だ。
そうすると、ぼくがいつも行く公園の広場の販売機前に着いた。
ジョッタンが、「待たせたな、おまえら」と挨拶している。
僕は聞き間違えかと思った、やっぱりジョッタンは喋っている。
さっきの「意気地なし」の言葉を思い出し、僕の勇気を認めさせようと
近づくと、多くの猫たちがジョッタンを取り囲んでいる。
「ジョッタン様、今日も貫禄のあるその瞳、おひげ、おなか、尻尾、
何もかもが決まっています。」と、周りの猫が口々に褒めたたえている。
ジョッタンは、何者なのだろう。この猫界の頂点にいるのかも。
そうしていると、猫たちは小銭を拾い集めている様だ、猫たちが立ち上がり、
猫の肩に次の猫が足をかけ、また次の猫が踏み台になり、上になりと小銭を口で
運ぶリレーが行われている。
最初は、ゆらゆらとバランスが取れず危なそうだったが、さすがは猫、抜群のバランスを
保ち、身軽な細身の黒猫が、最後の10円玉を入れ終わる。
大きなジョッタンがおしるこのジュースのボタンを目掛け飛び上がり、ドーンと押した。
さすがはボスの貫禄だ。
器用に咥えて取り出すと、自販機からとりだしてころがして運ぶ。
販売機のしたにあるブロックの角にプルトップをひっかけ、缶を上方から下に
器用に押して飲み口を開けるジョッタン。
中身たおして溢すと、ジョッタンが最初に味わう、
「うめぇ」と舌ねなめずりすると、他の猫にも「飲め」という。
皆、小さな舌でぴちゃぴちゃと一斉に音を立て舐めている。
一服すると、ジョッタンが
「うちの隆司、またおねしょしておかんから叱られてよ~、泣きながら
俺を抱くから鼻水とよだれつけてきやがってよ~、俺のこのふわふわした毛がよだれ
臭くなってモテなくなったらどーすんだよ。」
ナニーーーー、このぶたねこ、僕の秘密と悪口を言いふらしてるぞ。
しかも、楽しそうに猫同士が愚痴を言いあって笑いあう光景は楽しそうだ。
月夜の夜は、猫のストレス開放日なのだろう。
月がかげる頃、お開きとなる。
また、ジョッタンが歩き出す。
家の方角だ、飼い主の僕がジョッタンに後れをとっているとは
何事だと思いながら追いかける。
ジョッタンは、振り返る。
「おかんには内緒にしろよ?また連れてってやるからよ。」
そう言った。
猫には、猫の流儀と裏の顔がある。
月夜は猫が本性を出せる日なのかもしれない。
次は、僕も珈琲牛乳を飲んで仲間に混ぜてもらおう。