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約束の空に君を乗せて  作者: 御堂寺 祐司
第二章 『There’s something just as inevitable as death. And that’s life.』
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月夜のパーティ会場

 

 ――そして、リュートが逃げるように帰った日から四日後。週の終わり。


 見上げるほどの豪邸を前に、リュートはただ茫然と立ち尽くしていた。


 エルサージの中心から僅かにずれた高級住宅街。いかにも裕福そうな瀟洒な家々が建ち並ぶ中で、ひときわ大きく盛観な屋敷がその威容を見せつけるように聳えている。


 ライトアップ用の照明と昇り始めたばかりの月の青みがかった光が混じり合い、物語に出てくる王宮さながらの幻想的で華やかな雰囲気を醸し出している。


「結局、来ちまったよ……」


 自然と漏れ出る溜息は、胸中に満ちるやるせなさと諦めからくるものか。


 セランから渡された招待状はキッチリ4人分。家に戻り顛末を話すと、義姉二人は予想外にもノリ気になった。

 まさか行くはずないだろう――とタカをくくっていたリュートの思惑を余所に、「タダ酒!」「高級スイーツ!」と瞳を輝かせる姉二人が何を目的に参加するのかはあからさま過ぎるほどで。


 結局、女性陣三人に押し切られる形でここまで連行されてきた。


「もう始まっているみたいですね」


「ったく、お前がトロいから遅れたじゃねえカ」


「いや、この服、歩きにくいし……靴擦れ起こして、痛いんだって」


 リュートは両手を広げ、自身が着ている慣れない黒のタキシードを示す。


「ああ、ほら。またネクタイ曲がってんゾ」


 そう言って首元に手を伸ばしてくるサクミが纏っているのは、色鮮やかな菖蒲色のドレス。胸元と背中が大きく開いており、ほっそりとした肩周りが剥き出しになっている。身を寄せられると甘い香りが鼻孔を刺激し、押し付けられた胸の谷間の迫力とその感触の柔らかさに思わず赤面してしまう。


 ジルもぼさぼさだった赤毛にしっかりと櫛を入れ、身に纏った清楚な薄緑のドレスには細やかな刺繍がいくつも施されていた。眼鏡もコンタクトへと変えており、どこから見ても年相応の立派な淑女に見える。


「えへへ、お姫様みたいー」


 そしてエレナ。くるりと回ると大きなスカートがふわりと広がる。

 

 全体的にフリルがあしらわれ、背中に大きなリボンのついた薄紅色のドレスは非常に愛らしい。金髪に添えられた同色のカチューシャはそのまんまプリンセスのティアラのようだ。それでいてうっすらと上品に塗られた頬紅とルージュが、普段とは違う大人っぽさをも演出していた。


 すっかりと周囲の雰囲気に溶け込んでいる三人を前にして、女ってのは化けるもんだな……と感想を抱かずにはいられない。それを口にしたら即袋叩きだろうが。


「これでスイーツが品切れていたりしたら、金輪際家の敷地は跨がせませんよ?」


 割と本気っぽいジルの視線に射抜かれながら、一行は屋敷の扉を潜る。


 受付に招待状を見せ屋敷内に入ると、外装に負けず劣らずの豪華な内装がリュート達を出迎えた。


 案内係の後に続いて高価そうな調度類が並ぶ廊下を進み、突き当りにある扉を開ける。もうそこはメインホールだ。


「わああ! なにこれ! お城みたーい!」


 贅を尽くしたような、という言葉がまさにピタリと合うような空間にエレナが瞳を輝かせた。


 太い柱に煌く金銀の燭台、鏡面のようになるまで磨かれた黄金色の床、遥かに高い天井からは巨大なシャンデリアが釣り下がり、その下では楽隊の鳴らす優麗な楽曲が流れ続けている。


 既に大きな賑わいを見せていたホールには大勢の招待客がいた。長卓に並べられた豪勢な食事を楽しむ者、グラス片手に談笑する者、中央のスペースでくるくると踊っている男女たち、その誰もが高価な衣装に身を包み、思い思いの方法で楽しんでいる。


 早くも場違いな空気を感じてしまい、リュートは完全に気遅れしてしまう。堂々とした振る舞いで、にこやかに愛想を振り前いている義姉達がやけに頼もしく思えてくる。


「やあ、遅かったじゃないか」


 不意にかけられた声に振り向くと、セランが取り巻き達と共に歩いてくるところだった。


「来てやっただけ、ありがたく思えよな」


 精一杯の強がりに、セランはつまらなそうに鼻を鳴らして応える。


「ふんっ――これはこれはサクミくんにジルくん、ようこそ。やはりお二人ともお美しい。この煌びやかな会場内でさえ、ひときわ輝いて見えるよ」


 尊大な褒め言葉を社交辞令として受け取り、サクミもジルも軽い挨拶を返すに留める。


 そしてセランはエレナへと顔を向けると、ふにゃっと顔を弛緩させた。


「やあ、エレナくうううん! よくぞ来てくれた! とても愛らしいドレスだね、よく似合っているよ!」


「ありがとう! ケーキ食べにきたよ!」


 あまりにも欲望に忠実な言葉にも気分を害すことなく、むしろ微笑ましそうに何度も頷く。


「思うまま堪能していってくれたまえ! 後ほど、面白い余興も用意しているから!」


「余興?」


 聞き返したリュートへ向けて、セランはにやりと口端を吊り上げた。そのまま意味深な笑みだけを残し、「僕はまだ挨拶回りがあるので」とその場から去って行ってしまう。


「……なんだ、あいつ」


「まあまあ、せっかく来たんだから楽しませてもらおうゼ?」


 サクミはリュートを宥めるように苦笑した後、「それよりも、酒、さけ!」と言いながら上機嫌な様子で去っていってしまった。ワンテンポ遅れてジルとエレナのペアも、同じように「ケーキケーキ!」と言って離れていく。


 その場に残されたリュートは一人、釈然としない気分のまま暫く立ち尽くしていた。


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