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ヤンデレ彼女の躱しかた  作者: 負け犬
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病んだ修羅による修羅場

ヤンデレって好戦的な場合が多いですよね。

血の気が多いっていうかなんというか。


この小説は「pixiv」様にも掲載しています。






挿絵(By みてみん)







朝から髪の毛を食わされたりスタンガンで襲われかけたりしたせいで微妙にグッタリしている私こと浅川守です。


はぁ~もうおうち帰りたいな。


あ、家に帰ってもヤンデレに付きまとわれることには変わらないんだった。


アッハッハッハ~……誰か助けてください。


ヤンデレが追ってこれない素敵な安住の地があれば即引っ越すのになぁとか考えていると、俺を乗せたリムジンが音もなく停止した。


どうやら学校に到着したようだ。


俺はスマホの画面を見て時刻を確認する。


現在時刻は8時20分。


俺が家を出たのが7時40分なので、学校に到着するのに40分かかったことになる。


俺の家から学校までは徒歩で20分ほどで到着するのだが、イリスのリムジンに乗って登校すると倍の40分かかるという不思議。


実はイリスは俺と登校する際はいつも遠回りするのだ。


おうおうおう! ふざけんなよオラァン!!


わざわざ遠回りなんかしやがって! 学校に遅刻しちまうだろうがワレェ!!


俺の精勤賞がパーになったらどうしてくれんだキミィ!!


って、過去にイリスに抗議してみたところ



『あら、なにか文句があるの? いいわよ? それなら今から私の家に行ってゆっくり聞いてあげるわ』



遠回しに『言うこと聞けないなら今すぐ監禁してやる』って言われた。


そう脅迫されれば僕はもうお口にチャックするしかありませんとも、えぇ。


え? 精勤賞? なにそれ美味しいの?



「お嬢様、どうぞ」


「えぇ、ありがとう」



イリスと俺が乗っている後部座席のドアを老執事が丁寧な動作で開けた。



「守さんも、どうぞ」


「あ、あぁ、ありがとな」



こういうかしこまった雰囲気は苦手なんだよなぁとか思いながら俺も車から降りる。


老執事は俺が降りたことを確認するとこれまた丁寧な動作でドアを閉めた。


この老執事は長年九条家に仕えている執事長だ。


名前はセ・バスチャン。


なんでそんなところで名前区切っちゃったの?ってツッコミたくなる名前だよね。


何故か九条家の執事長はこの名前を名乗る決まりになっているらしい。


新手のイジメかな?


セ・バスチャンさんは周囲からは「セ」と呼ばれているので、俺もそう呼んでいる。



「いってらっしゃいませ、イリスお嬢様」


「いってくるわ、また放課後に迎えに来なさい」



セさんは「かしこまりました」とイリスに一礼した後、無駄のないキビキビした動きで運転席に乗り込み帰っていった。



「さ、それじゃ教室に行きましょうか」



走り去るリムジンを見送ったイリスは俺の手を取って歩き出す。


あの……ナチュラルに恋人繋ぎするのやめてもらえませんかねぇ。


俺達、恋人じゃないですし。


俺はさりげなく手を握る力を緩めて恋人繋ぎからの脱出を試みた。


しかし、俺の動きを察知したイリスが死んでも手を放すまいと万力の如く俺の手を握り締めてきた!


おぎゃぁぁぁぁぁ!!!?? 手がっ!!? 手ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!


こいつ一体どんな握力してやがんだ!? ゴリラといい勝負できんじゃねぇのかむしろゴリラそのものだよ!!!



「あら、どうしたの? 顔色が悪いわよ?」



お前のせいだろうがこのメスゴリラァァァあぁぁぁらめぇぇぇぇぇ手が逝っちゃう!! 手がポッキリ逝っちゃうからぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


このままでは俺の右手が粉砕骨折してしまう!!


粉砕骨折を回避するため、俺は今にも握りつぶされそうな手を気合と根性で動かしてイリスの手を握り返した。



「…ふん、最初から素直にそうすればいいのよ」



イリスはほんのり顔を赤らめてそう言うと、スッと手の力を緩めた。


あぁ~死ぬかと思った……。


恋人繋ぎってもっと甘酸っぱくて夢のあるものだと思ってたけど、実際はただただ苦痛な拷問のようなものだったんだな。


もう二度としねぇ、ぐすん。


俺は脂汗をダラダラ流しつつ、恋人繋ぎはもうしないと密かに固く固く決意した。


その時だった。



「!!??」



俺のヤンデレーダ―がけたたましい警鐘を鳴らした。


説明しよう!! ヤンデレーダ―とは俺こと浅川守が長年ヤンデレの脅威に晒されたことにより身についてしまったスキルの一つである!


ヤンデレーダ―は自分から半径40メートル以内の病みオーラを感知することが出来るぞ!


このスキルのおかげで俺は今まで数多くの修羅場を回避し、なんとか生き延びることが出来た。


そんな信頼できるスキルであるヤンデレーダーがビンッビンに反応している。


俺に今すぐ逃げろとエマージェンシーコールを発令している。


逃げたいのはやまやまだが、今の俺はイリスに手を掴まれているため逃げられないんだなこれが。


ヤンデレーダーによると、どうやら俺の後方に強力な病んだオーラが漂っている模様。


俺は覚悟を決め、油の切れたロボットの如くぎこちなく振り向いた。



「……やっと見つけましたよ? 守さん」



そこには満面の笑みで俺を見つめるゆいがいた。


でも顔は笑っているが目は全然笑ってないし、雰囲気も滅茶苦茶ヤバイ。


無差別虐殺5秒前な恐ろしい雰囲気を身に纏っていらっしゃる。


こんな現世に降臨した魔王みたいな奴を前にして漏らさなかった俺を褒めてほしい。



「ゆ、ゆいさん…? お、おはよう、ございます」



呑気に挨拶してる場合じゃねぇぞ俺ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?


ととととりあえず、なんとかしてゆいを鎮めなくては!


このままでは修羅場になっちゃう!!



「おおお怪我がなさそうでででなによりでございますよよよよ」



思わず声が震える俺。


涙が出ちゃう、だって怖いんだもん。



「フフフッ、もちろんです。」


「私の体は髪の先からつま先まで全て守さんのものですから、他の人には指一本触れさせたりしません」


「そそそそういえば、あの時襲い掛かってきた黒服さん達は生きてるよね? ね?」


「はい、守さんとの約束ですので殺してません」


「…殺しては、いません」



その意味ありげな含みのある言い方やめてくれる?


黒服さん達がちゃんと五体満足かどうか心配になってくるじゃん。


だが、黒服さん達には悪いけど今は人の心配よりも自分の心配をしなくては。



「さ~て、いつまでもここにいたら遅刻しちゃうゾ☆」


「守さん、私、守さんと離れ離れになって寂しかったんですよ?」


「さぁさぁ、早く教室に行きましょうそうしましょうすぐしましょう恐怖症」


「それはもう、気が狂いそうになるほど寂しくて寂しくて寂しくて寂しくて仕方なかったです」



不味い、会話が噛み合わなくなってきた。


ヤンデレって正気じゃなくなってくると会話が噛み合わなくなってくるよね。


一方的に言いたいことを言ってくるみたいな。


全然笑えません。



「本当に気が狂ってしまうかと思いましたよだって44分18秒も離れ離れだったんですよ?夫婦である私たちがそれほど長い時間離れ離れになるなんておかしいですよねあってはならないことです守さんもそう思いますよね?私と守さんの仲を引き裂こうとする人なんてみんないなくなればいいんですそうだ誰もいないどこか遠い場所に二人で暮らせばいいんですねそうすればもう私達の邪魔をする愚か者は誰はいなくなりますし二人っきりで夫婦生活も送れますそうと決まれば早速準備しなくちゃですね」



あぁ…こうなるよね、うん、知ってた。


どうすんのよこれ? このままだとどこか遠い場所に拉致されて監禁されるパターンっすよ?


くそぅ、俺はどうしてこう何度も監禁される危険に付きまとわれるんだ?


俺が一体何をした!?


おまけに口内炎が痛ぇ! 踏んだり蹴ったりとはまさにこのことだな!


俺がヤンデレ蔓延る強烈に理不尽なこの世界と昨日できた口内炎に呪詛を吐き散らかしていると、ここまで口を閉ざしていたイリスが俺とゆいの間に入ってきた。



「さっきから黙って聞いていれば好き勝手言ってくれるじゃない、流石に聞き捨てならないわ」


「おまけに随分イライラしてるのね? 余裕のない女は見苦しいわよ」



やめてぇ! お願いだから火に爆弾投下する真似をしないでぇ!!


ここら一帯に血の雨が降るぞぉ!?



「うるさいですよ泥棒猫、私の旦那様を攫っておいてただで済むと思わないでください」


「この阿婆擦れ女はなにを血迷ったことを言ってるのかしら? こいつは私の夫よ」



俺は独身だいい加減にしろ!!って言いたいけど、言ったらやばそうだから言わない。



「…楽に死ねると思わないでください」


「それは私のセリフよ」



イリスはそう言うと指をパチンと鳴らした。


するとどこからともなく大勢の黒服さんが現れた。


君たちどこから湧いてきたの?



「そんな有象無象では私は殺せませんよ」


「でしょうね、でも別に殺せなくても捕まえられればそれでいいわよ」


「捕まえた後に監禁して拷問してあげるわ。徹底的に痛めつけてから殺してやるから覚悟なさい」



イリスの家には拷問設備まであるのか……あいつの家には絶対に行かないほうがいいな。


何事も経験だとはよくいうけど、拷問までは経験したくない。


って、そんな馬鹿なことを言ってる場合じゃなかった。


どうにかしないと18歳未満の少年少女が集う学校で18禁グロ展開が繰り広げられてしまう。


世間的にも倫理的にも教育的にも非常によろしくない。


とりあえず、俺は遠巻きにこちらの様子を窺っている他の生徒や先生に助けを求めようとした。


しかし、皆は俺と目が合うとすぐにサッと顔を背けて逃げ出した。


悲しいけど、これが現実なのよね。


まぁ、俺が君たちと同じ野次馬側の立場だったら間違いなく同じ行動をとるだろうし、責めるつもりはないよ。


だが先生、テメェは駄目だ!


生徒間のトラブルを治めるのも先生の仕事のうちですよね?


泣きそうな顔して逃げていきやがって、泣きたいのは俺のほうだよコンチクショウ。


野次馬連中が逃げ出すのを気にも留めず、ゆいとイリスは無言で睨みあっている。


戦いが始まる前のこの隙に俺一人でなんとかしなくては。


ヤンデレ同士が争っている今回のような場合、二人の意表を突くような行動をすれば事態収束に向かうきっかけを作り出せることがある。


馬鹿らしい行動であればあるほど効果覿面。


要するに、ヤンデレ共の気を逸らせて戦意を喪失させるのだ。


しかし、これは俺が二人の間に割って入ることを意味している。


ヤンデレ同士の争いに割って入るなんて、餌を奪い合って喧嘩している餓えた肉食獣の間に入るくらい危険な行為だ。


失敗すれば命はないと思った方がいい。


だがここで争いを静観していても争いの勝者に連れ去られるのがオチだ。


危険を承知でやるしかない。


……よし! 逝くぞ!!


俺は覚悟を決め、戦闘開始しようと動き出した二人の間に素早く割って入る。


そして今思いついたばかりの奥義を全身全霊で二人に叩き込んだ。



「我流体術秘奥義、胸無月(むなづき)!!!!」



フニョン。



「……」


「……」



俺の奥義が見事に炸裂し、思わず固まるゆいとイリス。


そりゃあ、あんな一触即発な状況でいきなり胸を鷲掴みにされればそうなるわな。


そう、俺は今、二人の胸を鷲掴みにしている。


ゆいとイリスは胸が大きいのでそれはもうモミモミできる。


でもなぁ、前にも言ったけど俺はどちらかと言うと貧乳派なのよ。


だから大きい胸を揉んだからといって特に嬉しくもなんともないんだよねぇ。


『大きな胸には男のロマンが詰まっているのですよ!』とか言い出すおっぱい星人とは生涯相容れないと思う。



「いきなりなにすんのよ!!!」


「ひじきっ!!??」



胸を鷲掴みされフリーズしていたイリスが再起動し、俺に平手打ちをしてきた。


とっても痛い……けどスタンガンでビリビリされるよりかは全然マシだな。



「あんたねぇ!! 触るのはいいけど時間と場所をわきまえなさいよ!!」


「そうですよ! 守さんのお気持ちはとても嬉しいですがそういうことは今夜二人っきりでお願いします!」



顔を赤くして抗議してくる二人。


二人の顔は先ほどまでの泣く子も黙る殺人鬼を思わせるものではなくなり、目にも光が戻っていた。


これはチャンスだ!



「悪い悪い、でもこのままだと遅刻しちゃうから早く教室に行こう? な?」


「ですけど! この女が…」



ゆいが何かを言いかけた瞬間、俺を援護するかのように始業開始10分前のチャイムが鳴った。



「ほらほら、もう時間がないから教室に急ぐぞ」


「黒服さんたちもテキトーに解散してくれ」



俺は話を強引に切り上げて二人の手を引き、校舎へ向かって駆けだした。



「仕方ありません、今回は見逃してあげます」


「ふん、命拾いしたわね」


「…せいぜい背後に気をつけてください」


「あんたこそ、暗い夜道に気をつけなさい」



この二人、なんか走りながら物騒な会話してるけど俺の精神衛生上よろしくないから無視だ無視!


ていうかそんなことより早く教室に行かないと俺の精勤賞がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


刻一刻と刻まれる精勤賞終了までのカウントダウン。


俺は二人のヤンデレの手を引きながら教室を目指して全力で走った。


あぁ……口内炎が痛ぇなぁ。




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