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ヤンデレ彼女の躱しかた  作者: 負け犬
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ヤンデレに溺愛された一族

1度装備する(狙われる)と2度と外せない(逃げられない)武器、それがヤンデレ。



この小説は「pixiv」様にも掲載しています。





挿絵(By みてみん)










俺の家では朝ごはんは必ず食べる決まりになっている。


誰が決めたのかは定かではないが、我が家では暗黙のルールになってるんだよな。


朝ごはんは大事だよね、食べないとパワーも出ないし健康にも良くないと思うんだ。


ただ……ただね?



「守さん、今日の朝ごはんは和食にしてみました」


「どうぞ召し上がってください」


「……」



ヤンデレが作った病みごはんとなると話は別だ。


迂闊に食べると肉体的または精神的ダメージを負い、せっかくの新しい一日のスタートが台無しになってしまう。


まぁ、さっきの着替えの時点でもうだいぶ台無しになっている気がするが、あの程度はまだ序の口ですらない。


俺達の地獄はまだまだこれからだ!


今日の朝ごはんは白米と味噌汁、塩鮭と納豆とひじきの煮物だった。


一見すると何の変哲もない美味しそうなメニューだが油断は禁物。


俺はまず味噌汁に口をつける。


こういう色のついた液体は薬物を混ぜやすいため、いきなりゴクゴク飲むのは危険だ。


まずは慎重に舌先で少しだけ味見し、睡眠薬などの類が入っていないかを確認する。


……よし、恐らく大丈夫だ。


異常な眠気や舌の痺れを感じない。


もしかしたらゆいの血液や唾液が少量混ざっているかもしれないが、薬を盛られるよりはマシということにしておこう。


薬物の類は入ってなさそうなので、俺はそのまま味噌汁を啜る。


本当はね? 俺も嫌だよ?


血液やら唾液やらが入ってるかもしれない病んだ味噌汁なんて飲みたくないよ?


でもね? 過去に1度「まともな味噌汁作ってくれる?」ってゆいに言ったらそれはもう大変なことになったのよ。


『どうしてそういうことを言うんですか?私が守さんのために愛情込めて一生懸命作ったのに酷いですあんまりですいやまさかあなたは偽物?そうですよね本物の守さんはそんな酷いこと言いませんそうなるとあなたは誰ですか?本物の守さんをどこに連れて行ったんですか答えてください早く早く早く早く早く早く早く…』


っていう具合に、どこまでも濁った目で俺を見ながらハサミ片手に暴れだしたんだ。


暴れるゆいを宥めるのに3時間くらいかかってしまったのでその日の学校は大遅刻でした。


俺の皆勤賞……終わっちゃった。


その日以来、せめて精勤賞を獲得するために余程のことがない限り我慢して飲んでいるというわけさ。


幸い、味は普通に美味しいし。


あぁ……普通の味噌汁を気兼ねなく普通に飲みたいなぁ。



「守さん、お味噌汁のお味はどうですか?」



ゆいは若干モジモジしながら上目遣いで俺に訊いてくる。


そういう仕草は可愛いんだよなぁ。


日ごろの行いは可愛げがなくてえげつないものばかりだけど。



「あぁ、今日も美味しいよ(味だけは)」


「でも毎日朝ごはん作らなくてもいいんだぞ? 毎日作るのも大変だろ?(たまには病んでない普通の朝食を食べたいです)」


「はい! 私は大丈夫です!」


「守さんの未来の妻として、これくらいは当然です♪」



あーあー聞こえない聞こえなーい。


俺達は夫婦どころか付き合ってすらいませーん。



「君たちは相変わらず仲がいいなぁ、はっはっは」


「そうねぇ、微笑ましいわねぇ」



必死に聞こえないふりをしていた俺に、俺の正面に座って朝食を食べていた父さんと母さんが話しかけてきた。


俺の家は父さんと母さんと俺、そしてマイプリチーエンジェルな妹の4人家族だ。


美少女ゲームや恋愛モノの漫画でよくありがちな『両親が俺と妹を残して海外転勤』だの『仕事が忙しすぎて滅多に家に帰ってこない』ということはない、至って普通の家庭だ。


ちなみに、妹はもう既に学校に登校しているのでこの場にはいない。


部活の朝練があるとかで、朝早く登校しているのだ。



「私たちも負けてられないわね、はいあなた、アーン♪」


「え? 母さん? 別に張り合わなくてもいいんじゃないかな?」


「アーン♪」


「いやだから……」


「あ・な・た?」


「アッハハ~! 母さんにアーンしてもらえるなんて父さん嬉しいなぁ! いただきまーす!!」


「ふふっ、美味しい?」


「うぐっ、ごぁっ、う……うん、もちろん美味しいよ」



母さんにひじきの煮物をアーンしてもらった父さんは、美味しいと言いつつも微妙に苦しそうな表情でひじきを咀嚼していた。


まるでなかなか噛み切れないものを食べているかのように、それはもうよく噛んでいる。


あれれー? 父さんの口の端から髪の毛のようなものがはみ出ているような気がするぞぉ?


……俺はさっき、至って普通の家庭だと言ったな?


あれは嘘だ。


勘が鋭い方はもうお気づきかもしれないが、俺の母さんもヤンデレなのである。


恐らく、先ほど父さんにアーンして食べさせたひじきには母さんの髪の毛が混ざっていたんだろう。


母さんはヤンデレだが、俺に直接的な被害はないのが救いだ。


父さんと母さんは高校の同級生で、その頃に付き合い始めてそのまま結婚したそうだ。


ちなみに、母さんは父さんと付き合い始める前からヤンデレだったらしい。


今の俺とほぼ同じシチュエーションじゃねぇか全然笑えない。



「まだまだあるから沢山食べてね♪」


「はい、アーン」


「母さん、ちょっと待って? まだ髪の毛……じゃなくて、ひじき飲み込めてない」


「はい、アーン」


「待って待って! ひじきを口に押し付けないで! ていうかそれひじきじゃなくてもはや髪の毛そのものじゃん!」


「あなた? 早く食べてくれる? 早く早く早く早く…」


「うぼぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



母さんは暗く濁った目で微笑みつつ、情け容赦なく半泣きな父さんの口にひじき(髪の毛)を押し込んでいた。


父さんも相変わらず苦労しているなぁ。


残念なことに、全然他人事ではないんだけども。


そんな父さんに俺は以前「何故父さんは母さんと結婚したのか?」という疑問をぶつけてみたことがある。


ヤンデレ少女が如何に危険で面倒な存在か、俺は身をもって知っている。


高校生の頃から、ヤンデレだった母さんと付き合っていた父さんだって十分すぎるほど知っていたはずだ。


だからこそ、何故父さんはヤンデレである母さんと結婚したのかが気になったんだ。


俺が問いかけると、その時の父さんは諦めたような達観したような何とも言えない切ない表情でこう言った。




『俺もな、何度も母さんから逃げようとしたんだ』


『でも駄目だった……ヤンデレには勝てなかったよ』


『やっぱり、これは我が家の宿命なのかもしれないな』


『宿命? 一体どういうことだ?』


『実は俺の家系の男は全員、ヤンデレな女性と結婚しているんだよ』


『……は?』


『俺の母さん、つまり守のおばあちゃんもヤンデレなんだよね』


『え? 嘘だろ? 全然気づかなかったぞ』


『おばあちゃんは外面が良いタイプのヤンデレだったからなぁ』


『俺の父さん、つまり守のおじいちゃんもたまに「ヤンデレには勝てんかった」って苦々しい表情で言っていたもんだっけ』


『なにそれ全然笑えない』




父さんの話が本当なら、俺の先祖は皆ヤンデレな女性に目をつけられてしまい結婚を余儀なくされたということだ。


そして今の俺と父さんを見る限り、ヤンデレホイホイな体質? 宿命? はいまだに受け継がれているらしい。


新手の呪いかな?


一体どんな大罪を犯せばこんなえげつない呪いがかかるの?


俺のご先祖様は何をやらかしたの? ねぇ?



「お義父様とお義母様は相変わらず仲が良いですね、憧れます」


「私も将来は旦那様とあのように仲睦まじく暮らしたいです、死がふたりを分かつまで」



……あれは仲が良いと言えるのか?


俺には母さんが嫌がる父さんに無理矢理髪の毛食わせてるようにしか見えんぞ。


ゆい、お前の目は節穴か?


……あ、すまん、節穴っぽいわ。


ゆいの目に光が無いもん。


おまけに『お父様』と『お母様』のニュアンスがなんか違う気がするのは気のせいかな?


なんか字が違くない?


大事なことだから2回言うけど、俺と君は結婚どころか付き合ってもいないからね?



「では私達も……はい守さん、ア~ン♪」


「ちょい待ち! なんだそのひじきは!? おかしいだろ!?」



ゆいが箸で掴んで差し出してきたひじきには、ゆいのものと思われる髪の毛や細かく刻まれた爪らしきものが贅沢に入っていた。


異物混入し過ぎぃ!!


もはや料理じゃなくて燃えるゴミだよ!!



「はい、ア~ンしてください♪」


「うぐぉぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」



有無を言わさぬ病んだ表情のゆいに、ひじき入りの髪の毛と爪を口に押し込まれながら俺は固く決心する。


俺は絶対ヤンデレに屈しない!


先祖代々続く呪いだろうがなんだろうが、俺は必ずヤンデレから逃げきってみせる!


口に病んだ料理を突っ込まれながら俺はそう決意した。


うぇっぷ……気持ち悪ぃ…。




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