第7話 戦力増強
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メンバーが増えたのは喜ばしいが、言葉が通じないというのが厄介だ。
人見知りなどくしゃみひとつで吹き飛ばしそうな西川が俺の後ろに隠れているところから問題の重さが窺える。
俺には菊千代というナビがあるが3人にはない。
もちろんスキルは訓練によって身につく設定なのだから、努力次第で言語の習得は可能だろう。
しかし、月単位の時間が必要になる。
これが、支援プログラムをアンインストールされたブリーダーの末路か。想像するだけで寒気がする。
「一条様、お困りのご様子ですのでアドバイスをさせていただきますね」
菊千代がドヤ顔で、腹立たしい。
→ パーティメンバー(以下PMと略します)のポイント操作をONにしますか?
脱力するくらいのイージーモードの発動だよ。
緊急事態だYESで行く。
人様の能力を勝手に弄るのは不本意だがここは効率優先ということで割り切ろう。
最低限の操作にとどめておいて、後々には各自の希望を聞くことにすればいいか。
「菊千代、まずは西川の言語スキルを3に」
「承りました。完了しました」
事情を説明すると西川がいい顔で笑う。
「はじめまして、ミコちゃん、ユウちゃん。私は西川……だと他人行儀だから、キクって呼んで」
「はい、よろしくお願いします、キクさん」
「おねがいします、キク……お姉ちゃん」
西川はにっこりと笑って姉妹の前に屈むと目線を合わせて握手している。
姉妹は緊張気味だがすぐに西川のペースに乗せられて解きほぐされるだろう。
リンゴのおかげか元気そうなので早速始めよう。
まずは、姉妹のレベルをさくっと上げて迷宮ポイントを確保だな。
ミコとユウにドロップ品の木の杖を持たせる。
「あの……これは」
「説明は後でするから、ま、とりあえずついてきて」
「冒険に出発するよ!」
戸惑い気味の二人を西川が既に従えている。ガキ大将か。
薄暗い洞窟に入ると、早速ぶよぶよが嬉しそうに寄ってくる。相変わらず人懐っこい魔物だ。妙に罪悪感が湧くが仕事と割り切ろう。どこに口があるのか未だに謎だが噛み付いてくる乱暴な奴だ。
「ミコ、ユウ、その丸いのを叩いてやっつけて」
「あ、はい。えいっ」
「とー」
ぶよぶよの強さは変わっていない。少女と幼女の振り下ろす杖の一撃か二撃でぷしゃっと潰れる。
数が少し増えたくらいだ。
次々とやってくるぶよぶよを二人は潰す。ドロップアイテム回収が俺の仕事だ。
西川は「がんばれーそこだー」と元気に応援している。
菊千代にパーティメンバーの状態通知をONに設定してもらい、モニターするのも忘れない。
→ PMミコはレベルアップ Lv.1→Lv.2
→ PMユウはレベルアップ Lv.1→Lv.2
10匹ずつ倒したところでふたり共レベルアップだ。
「よーし一旦戻るぞ」
二人はこくこく頷いた。
洞窟から出ると、姉妹は困惑した顔をしていた。
気持ちは分かるぞ。
「あの、今の変なのは何ですか? それに、リンゴが……」
ドロップアイテムに高価とされるリンゴが入っていたのでさらに驚いている。果物は普通木になるものだからな。子供に間違った知識を与えたくないから後でしっかり説明しよう。
それにしてもこの反応だ、迷宮以外に魔物は存在しないのか?
「さっきのぶよぶよした奴は、この迷宮の魔物だ。名前は知らない」
今なら名前の確認が可能だがぶよぶよで充分だ。
「ミコとユウは魔物を見た事とか聞いた事はないのか?」
ユウは首を振る。ミコは「絵本で読んだことがあるくらいです」と返してくる。
つまり創作物以外の魔物はいない世界ということか。
「俺の仕事はこの洞窟、迷宮を進んで魔物を倒し中にある宝物を手に入れることだ。二人にはそれを少しだけ手伝ってもらう」
少し解釈が違うけど訳が分らない説明よりは良いだろう。だから菊千代、そんな顔をするな。
ユウはなんだかワクワクした顔になる。
対してミコは顔を青くさせた。
姉妹で違う反応なのは姉の方が少しだけ世の中を知っているということなんだろう。
世知辛い世の中らしいな。
世間話を交えて情報収集をしておこう。
出向くことはないかも知れないが、話だけでも聞いてみたい。帰還のヒントになるかもしれないしな。
外部情報に触れられる機会だ。
ミコに聞いた限りでは、街は文明開化をしていない時代遅れな印象だった。中世の海外っぽい雰囲気だな。テンプレ通りか。
認めたくはないが、異世界説が急上昇だ。
西川の顔がほころんでいる。
姉妹が暮らしていた街はつい最近、帝国に攻め入られ奪われたらしい。両親とは幼い頃に死に別れ孤児院で世話になっていたが、孤児は軒並みその際に奴隷になったそうだ。
少し前まで王国領だったが戦いに負けて今は帝国領か。不憫な土地柄だな。
嫌だなぁ軍隊とか攻めてきたら。まあこんな何もない辺鄙な場所にはこないか。
聞く限りこの場所は大森林の一角らしい。
さて、姉妹の強化だ。
ついでに西川も強化しておこう。
最終的にステータスは菊千代に丸投げするとして、適性を見極めないとな。
アナライズスキルで観察してステータスを確認する。
ミコは知力が高い。
ユウは器用さがある。
西川は、俺と同じで平均的だな。
まてよ、生活魔法とやらが存在するなら攻撃魔法もあるよな?
「菊千代、魔法ってどうやって覚えるんだ?」
「新たな魔法の習得には魔法書が必要ですね。ただし、簡単なものなら自力でも習得可能です」
魔法はスキルとして習得するにも手順が要るという意味だな。
簡単な魔法というのがうまく想像できないんだが。
まあいい。魔法があるなら魔法使いにしよう。せっかくだしな。
ユウは丁度武器もあるし弓を持たせて中衛にするか。
幼い二人を前に出すのは気が引ける。
西川はセカンドアタッカーとして速さを重視したタイプにするか。一撃離脱なら怪我も少ないだろう。嫁入り前に顔に傷とか負わせるわけにはいかないからな。
「先輩、そんな心配は要りません。私はいつでも傷物になる覚悟で生きていますので」
顔を赤くして不適切な言葉を口走るんじゃない。
姉妹が戸惑っているだろうが。お前の口にしている傷物の意味を知るには若すぎる。
「ミコはどんな魔法が使えるんだ?」
「はい、生活魔法が少し使えます」
詳細を尋ねると生活魔法というのは、家事をするのに便利な魔法らしい。説明を受けて、その中にある発火の魔法に注目する。
火をおこすのに使用するらしい。ふむ、これで肉が焼けるな。
「これでお肉が焼けますね」
西川と同じ思考回路とか少し凹んでしまう。
よし、ミコは後回しにして、ユウに弓を装備させる。
「とりあえず一回だけでいいから矢を飛ばしてみてくれ」
ユウは嬉しそうに矢をつがえて放つ。
矢はひょろひょろと飛んで地面に刺さった。
和むなぁ。
「えへへ、可愛い。上手だね、ユウちゃん!」
西川にぎゅうぎゅう抱きつかれて、ユウがはにかんでいる。
→ PMユウは格闘(弓)のスキルを獲得した。
ポイント操作で弓スキルを5まであげる。最大で10だが、とりあえず5で試し撃ちだ。
「もう一度だ、ユウ」
「うん。あれ? 軽くなったよ?」
さっきとは違うのか感触に戸惑っている。
ユウは軽く弓を引いて矢を放つ。
ズバン!
少し離れた木に放たれた矢が突き刺さった音だ。石の鏃だから、まあ、うん、刺さっても問題はないな。
「えええ!」
撃った本人が一番驚いている。よし合格。
「すごいすごい」
西川がうふふーと笑って褒めたためか、ユウの戸惑いは笑顔に消えた。ナイス、ムードメーカー。
次はミコだ。
「ミコ、生活魔法の発火で出した火を前に飛ばす事をできるか?」
「少しなら」
「それでいい、やってみてくれ」
ミコが発火と呟くと、ライターを灯したくらいの炎が現れた。それを前に押し出すように手で払う。
→ PMミコはファイヤーボールのスキルを獲得した。
よしよし。イージーモード万歳だ。ポイント操作で5まであげる。
「少し、迷宮に入って試し撃ちをしよう」
木にでも燃え移って山火事になったりしたら洒落にならないからな。
はてな顔のミコを連れて迷宮に入る。ユウと西川も着いてくる。
早速、水色のぶよぶよが跳び跳ねてきた。
「ミコ、手を前に出してファイヤーボールと言ってみて」
「はい、ファイヤーボール!」
ごおっと音がして周囲を赤く染めると、火の固まりは迷宮の奥壁まで飛んでいき、壁に当たると燃え尽きたように消えてしまう。
ぶよぶよは焼き払われたのか、ドロップアイテムだけが残っていた。
威力は凄まじいがオーバーキルだな。SPの消費が激しい。調整をしないとあっというまにSPが切れてしまう。菊千代に聞いてみるとスキル名のみだと最大威力で放つらしい。
「次は、レベル1ファイヤーボールと言ってみて」
次に寄ってきたぶよぶよも一撃で撃退した。魔法半端ない。
とりあえず、合格。
西川が今度はミコにぎゅうぎゅう抱きついている。
まるで甘えん坊な娘が、妹が生まれて姉に進化したような変化だな。
「菊千代、仲間の魔法に巻き込まれるということはあるのか?」
威力を考えるとその辺りが少し心配だ。
「フレンドリーファイヤーですか? オフですよもちろん。ただしいくつか条件があります。範囲は迷宮内と迷宮効果がある場所のみです、あとスキルでのダメージは防ぎますがスキル以外は防ぎません。ご注意ください」
さすが迷宮スキル。楽々イージーモードだ。だが、矢は当たるということだから注意しないと。
「あの、これは……?」
目の前の光景に恐れおののいているミコは少し涙目だ。まあいきなり自分が魔法使いにジョブチェンジだ。戸惑いは大きいだろう。
「今のは攻撃魔法だ。この迷宮でしか使えないけどな」
「はあ……え! 攻撃魔法? 今のが?」
ミコが暮らす街では攻撃魔法というのは国の偉い人や軍隊が使用するものらしい。俺達の世界で言うところの銃みたいな感覚なんだろう。
ドロップ品をひろって迷宮から出る。
よし、次に装備だ。
二人を戒めている鉄製の首輪は幸いアナログな鍵式だったので、グラディウスの先でこじ開けて解錠スキルを獲得すると、レベルをひとつ上げただけですぐに外すことが出来た。残りポイント11。少し懐が寂しくなってきたな。
「ありがとうございます、あの、コーキ様は色々出来るんですね」
ミコは首をさすりながら感心した様子だ。そういえば服がボロボロだ。アイテムドロップの布の服を着てもらうか。
その前に水で体を拭いた方がいいな。やはり、水場が近くて正解だった。
二人の世話を西川に任せて、水で汚れを落としている間に着ていたボロ服を解いてタオルにする。
布の服は二人には大きすぎるので、ボロ服の残りで腰ひもを作成し、ワンピース風に着せることにした。なぜだか二人は嬉しそうだった。女の子だからかな?
「うんうん、可愛いね、ふたりとも」
西川もご満悦だ。
汚れを落とした姉妹は幼いながらも将来が有望そうな整った顔立ちだった。
→ 一条光輝は裁縫スキルを獲得した。
縫ってないけど。結構スキルの基準が曖昧だな。
お昼まで少し時間があるので、迷宮の攻略をすることにしよう。
読んでいただきましてありがとうございます。
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