第4話 空き時間
迷宮の成長時間を次のレベル×1時間に訂正しました。
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洞窟の端で待ち構えていたのは、デカイぶよぶよだった。
感覚で20メートルほどしか進んでいないがダンジョンの終点らしい。
いくらチュートリアルでも簡単すぎるだろう。
大きさが1メートルくらいのぶよぶよが波打つ。
「一条様、ラスボスでございます」
つまり、こいつを倒すと迷宮クリアというわけか。
色々とつっこみたい所も多いけどまずは目の前の戦闘だ。
遠慮せずに西川とふたりで木の杖で殴りまくる。ぼよんぼよんと跳ねていまいち攻撃が効いているのか分かりくいな。
反撃に体当たりをされたけどダメージは1だった。
ダメージが数値化されるというのは意外に安心感があるな。
30発ほど殴るとぶよぶよは痙攣した後弾けとぶ。
→ 一条光輝はレベルアップ Lv.2→Lv.3
→ 一条光輝は迷宮ポイント20を獲得した。
ポンポンと現われるドロップイアテムを拾う。
ドロップアイテムは林檎。布の服。赤ポーション2本だ。
「レベルアップですね。迷宮クリアと併せておめでとうございます。迷宮を踏破されましたので迷宮が成長します」
迷宮の端に宝箱がぽんっと現れる。
「迷宮からのお祝いの品です」
「先輩、宝箱が出ましたよ!」
西川は大はしゃぎだ。
攻略された相手から祝われた。もう何も言うまい。異文化を理解することも文明人の義務だ。
宝箱を開けると中身は剣だった。刃渡り50センチほどだから短剣扱いなのかもしれない。肉厚で幅が広い両刃タイプだ。先端は鋭角に尖っている。
→ 一条光輝はグラディウスを獲得した。
しばらくすると周囲が滲み始める。このまま一緒に溶けてしまいそうだ。冗談じゃない。
「先輩……」
不安そうな顔で西川がシャツを握ってくる。
「おい、菊千代?」
「ご安心下さい。迷宮を攻略しますと自動的に迷宮外に排出される仕様ですので」
何気に便利だな。
一旦周囲が絵の具をデタラメにぶちまけたような景色になり、気が付くと洞窟の前に立っていた。
「外ですよ、先輩。不思議です」
「帰りを心配しなくて良いというのは親切設計だな」
「はい。迷宮内でしたら戦闘中を除きまして任意で外に帰還することが可能です。それに、スキルを手に入れることが条件ですが、迷宮内において任意の位置に転移することも可能になります」
いいのかそんなに迷宮攻略組側の利便性ばかり追求して。
「いえいえ一条様、このくらいは常識です。迷宮は成長しますと直径で100キロを超えるものもいます。それに階層も出来ますと移動に大変時間が掛かってしまい攻略どころではなくなってしまうのです。最近はこの程度のサービスがない迷宮は敬遠されますので迷宮としては標準装備となっております」
辞書に載っているかしらないけど迷宮の意味を書き換えた方が良さそうだぞ。
しかし100キロとなると徒歩だと20時間以上はかかる。それも整備された道で水分補給などが出来る状態でだ。こんな迷宮だと速度は極端に落ちるだろう。もちろん真っ直ぐ歩けるわけでもなくモンスターの襲撃を撃退しながら進むとなると4、5日はかかる。
不眠不休では無理なので寝ることを考慮すると攻略に10日はみておかないとならない。
確かに迷宮の中を旅するというのは現実的ではないな。
食料の問題もあるが、安全地帯でもなければオチオチ寝てもいられないだろうし。
齧られていた手が疼いた気がした。
「ひとまずお疲れ様でした。迷宮はこれより成長のために進入禁止となります。まずはお体を休めて下さい。一条様の自由をもちろん束縛したり致しませんが、迷宮からあまりはなれないようにお願います」
少し気になる言葉だった。
「離れるとどうなるんだ?」
菊千代はぴんと人差し指を立てた。
「まず、迷宮アシストでありますスキルの使用が弱まります。また一定距離を離れてしまいますと菊千代がアンインストールされてしまいます。そうしますと再インストールサービスはございませんのでアシスト無しでの迷宮攻略となり非常に困難が予想されます」
「俺は必ずしも迷宮攻略とやらを好き好んでしているわけじゃないんだが?」
「それも一条様のご意思でございますので菊千代は尊重させていただきます。しかしですね、何処ともわからない場所から元の暮らしに戻るのは大変困難だと思いますよ?」
脅迫に近いご意見だな。勝手に人を拉致っておいて面倒事を押し付けられているが、しかしそう言われるとツライ。
空き時間を利用して周囲を探索して帰還方法でも探そうかと目論んでいたが無理そうだな。
西川一人で探索させるのは不安でしかない。
未知の魔物がいるような世界だ。最悪未知の世界ということもありうる。公共交通機関では何を乗り継いでも元の世界に帰れない可能性が高い。
癪だが素直に迷宮攻略を行うことが近道なのだ。
俺ひとりならともかくも、せめてこの後輩だけでも帰還させたい。
「西川、俺はお前を家に帰してやる。だからこのくそったれな迷宮攻略に協力してほしい」
「先輩、私は別にここで一生を添い遂げても平気ですよ?」
いや、頼むから俺のモチベーションを挫かないでくれ。
迷宮の側で腰を下ろす。
近くに水場があるといいな。風呂なんて贅沢は言わないけど顔くらい洗いたい。
食べ物とか寝るところとかはどうすりゃいいんだ? どうせなら衣食住を揃えてくれよ、礼節が知れないだろうが。
将来の不安というのはこの事か。若者がお金を使わなくなるわけだ。
「菊千代、迷宮はどれくらいで復活するんだ?」
「レベルに応じます。次のレベル×一時間程度というところです」
意外に早いのかな? いやいやレベル50で約2日休みとか、日中暇すぎだろ。
このときの俺はわりと楽観的で呑気だった。現実を知るのは少し後のことだ。
「次に迷宮に入るときは敵が強くなってるのか?」
「迷宮の性格に依存しますので確約は出来かねますが、総合的には強くなっていると考えられます」
性格まであるのか。迷宮半端ないな。
菊千代が説明した内容をまとめると、敵個体の強化、敵個体の総数、迷宮の広さ、罠の種類と有無、などが強化されることによって迷宮の難易度は上昇していくらしい。
慎重に様子見していては迷宮の成長にプレイヤーの俺が置いてけぼりにされてしまう。
真剣にステータスの上昇だけでも考えておかなければならないか?
いやゲームなんてスマホでしかやったことがない俺だとリセット環境が激しく難易度の高いこの状況で危険は冒せない。
そうなると手は一つしかないな。
「菊千代、ステータスの管理を任せていいか? とりあえず剣を使って戦う用にステータスを最適化して欲しいんだが」
「お任せ下さい。一条様、僭越ながらスキルに使用するポイントも残しておいた方がいいと思いますが?」
「そうだな、半分残してくれ」
「妥当だと思います。お任せください」
任せてよさそうだな。得意げに胸を張って荒い息を鼻からふんすと出す菊千代の態度が実に腹立たしい。
後はそうだな。
「迷宮に入っていなくても近くにいればスキルの習得は可能なんだよな?」
「はい。可能です」
訓練も必要だな。
「最後に聞きたいんだが」
さすがに緊張が隠せない内容にごくりと喉を鳴らす。
「迷宮で俺が死亡した場合はどうなる?」
「はいご安心下さい」
良かった。復活できる仕様か。デスペナとかあるんだろうけどな。
「後任の担当者がしっかりと迷宮運営を引き継いでくれる手はずになっております」
安心できるか!
つまり都合よく蘇生とかコンティニューとかはないんだな。作戦は命大事にだ。
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