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第36話 攻略再開とちょっとしたシステムの穴

サポートプログラム菊千代の台詞の括弧の表記を変更します。


 007


 冒険者で賑わう迷宮第一層に足を踏み入れると、どよめきが起こった。

 老若男女が一堂に会する、まるで地方のマイナーなテーマパークだ。

 俺達に気付いた順に手を止め足を止める。

 迷宮産品の持ち出し管理を行う関所の職員も思わず手を止めていた。


 まあ、それも仕方がない。


 まずを先頭を凛とした佇まいで颯爽と歩く、額に角を持つ美女、鬼人族のイッカだ。

 黒浴衣は豊かな胸で押し上げられ、合わせ目からは大胆に白い胸の谷間が覗いて揺れている。


 細い腰には赤い帯。最近は兎人族の扇情姉妹に感化されたのか、浴衣の丈を短くして裾からは白い足を見せている。

 帯刀していなければまるで商売女のような艶やかな格好だ。


 戦闘種族である鬼人族というだけでも注目されるというのにこの調子だから視線を集めるのも仕方がない。


「あの、主様。あまり見られると恥ずかしいのでご容赦ください」


 少しだけ頬を染めてイッカが困った顔をした。これだ。

 圧倒的高レベルで他者の追随を許さない猛者のイッカだが、大変恥ずかしがり屋さんでもある。そんな格好で言われても説得力がないが、そのギャップが周囲の関心を買っているのだろうな。


≪何を言っているのですか……その鬼娘がそんな顔を見せるのは、一条様に対してだけでございますよ。その辺の男など木っ端程度にしか見ていません≫


 菊千代が呆れたように腰に手を当てている。

 つい心の言葉が漏れていたのか。


 ふむ。では、その後ろを歩くちんまい姉妹に対してのどよめきか?

 確かに、この世界では珍しい水色のエプロンドレスをお揃いで身に纏う人族のミコとユウは異彩を放って大変目立つ。


 布の服ワンピース仕様に感銘を受けた姉妹が裁縫スキルを駆使し、俺の世界の服飾アイデアを見事に再現した自信作だから当然だ。ノースリーブで肩を晒し、スクエアネックの胸元は下品にならないように適度な肌の露出に抑え、だけど脇の下から腰までは大胆に白い肌を見せている。


 裾はフリルに仕上げ、膝丈にしているので清楚さと偶に覗く瑞々しいふともものギャップに男の視線は釘付けだろう。幼いながらも美少女である二人に良く似合い、メイド姿のアイドルと言っても過言ではない。カチューシャの開発を急ぎたい。


≪何を言っているのですか……年端もいかない少女に裸エプロンもどきの格好をさせておいて。少女に欲情するのは一条様くらいでございますよ。まったく色々な法律に抵触しますよ≫


 失礼な欲情なんかしていない、ただ愛でているだけだ。


 しかし、違うのか。ふむ。

 では、まるでメイドな姉妹を従えて歩く後輩に対してか?


 白いシャツとタイトなスーツスカート姿で就活中の中学生ですかというちんまい体の西川だ。

 トレードマークのおかっぱボブを揺らしながら大層な名前の槍を持つ姿はまるで戦うOL。

 服装も相まって、愛くるしさの中に根拠のない自信満々な表情を浮かべる雰囲気は確かに目を集めるだけの根拠はあるな。


「えへへ、先輩って本当に戦うOL好きですね、仕方ないですからたっぷり見ていいですよ」


 得意げにポーズをとる西川に少しムカつく。

 くっ。癪だが否定できない。


≪何を言っているのですか……ビジネスファッションに武器持ちというギャップを感じるのは一条様の世界の住人だけでございますよ。そんな様式は誰も知らないのですから≫


 分かっているさ。本命は別にあることくらい。

 奥ゆかしくしずしずと歩きながらも俺に抱きついたり俺の髪を直したり俺の服を調えたり俺の体調を気にしたり、過保護な姉の姿勢を一向に崩さないウサコだろう?


 全男の憧れの兎人族である少女は最近になって清楚な体を急速に成長させて初々しい胸のふくらみを揺らすようになった。清楚な白いワンピース姿だというのに抑えきれない色気が凄い。


 半分くらいでへにゃりと折れ曲がる長い耳が愛くるしい、真っ白な肌と赤い瞳を持つ美少女に皆危険な視線を向けている。

 更に寂しがり屋で抱きつき癖のあるウサコの態度に鼻の下は伸びっぱなしだろう。


≪一条様の鼻の下の話でございますか?≫


 やかましい。時折体に押し付けられる胸の柔らかさに、俺の思春期真っ只中の小さな体は敏感に反応するんだよ。精神が引っ張られるんだよ。


 あとは、妙齢の娘では出せない成熟した包容力を持つ犬人族の母親達か、いや人見知りのシルヴィという線も……。

 いずれにしても迷宮に携わるものならば知らないものはいない有名人の集まりだからな。


「いえ、あの主様。皆、主様をご覧になっております。国の領主様が闊歩していれば臣民も驚くかと」


 俺かよ。

 俺は領主だけど、冒険者は臣民じゃないぞイッカ。別に支配していないからな。

 分かっているさ、少しだけ現実逃避しただけだ。


「どうして俺を見るのですか。美女とか美少女に注目すればいいのに」


 褒められて女達が照れている。すまん。そんなつもりはなかったんだが。


≪このジゴロが≫


 古い言葉のチョイスだな、菊千代。


「たったお一人で、たった三ヶ月で、王国と帝国を退けての建国の立役者です、注目しない方が無礼です」


 注目しない奴は切り捨てますみたいな言い様で少し怖い。


 誇らしげにイッカが胸を張ると、ウサコがうんうん偉いねと頭を撫でてきた。

 西川がプークスクスと笑い、メイド姉妹が困ったような顔をする。そこまでがワンセットだ。


 犬人族の面々はあらあらまあまあと朗らかに笑い、ワンコは肩を竦める。

 物陰に隠れているシルヴィも近くに来いと手招きすると、ぷいとそっぽを向く。

 誰もこのメンバーが迷宮最前線を走る最強のパーティーだとは思いも知らないだろうな。

 初見なら。


 手と足を止めて俺に注目する老若男女を溜め息混じりで見回す。


 迷宮に集う、冒険者ギルドに登録した者達は、魔物との戦闘を経て迷宮ポイントを手に入れる。

 だが、菊千代のサポートなしではポイントの付与はあっても使用はできない。

 獲得したスキルを習得、スキルやステータスを上げるには経験を積む以外に方法はない。


 的確な指導を受けることで効率よく腕を上げる事が近道だ。

 だが、希に、迷宮ポイントを無意識に使用して物にする強者がいる。


 天才という類いの存在だ。

 彼らは将来、才能を開いたものと呼ばれる。


 才能に人格など関係ないので、中には力に溺れ禍根となり様々な厄介事を起こす奴が現れる事になるのだが、それはまた別の話だ。


 冒険者ギルドに委託している迷宮攻略ギルドメンバーのスカウトは、その危険な芽を押さえておくという意味合いもある。


 また、ギルドマスターであるハマンの目に留まる人材も少しずつだが増加している。

 高潔な冒険者達だ。


 野放図に拡大をしているわけではない。

 菊千代の警告通り、万人に与えるべき力ではないからな。

 迷宮攻略ギルドに加入すれば菊千代のサポートを受けて飛躍的に成長できる。

 迷宮攻略の数を増やせるので、本当に待ち遠しい。


 南の街の情勢が落ち着いたので、迷宮攻略を再開することにした。

 第四層のラスボスの手前で中断して3ヶ月。

 腕の鈍りも当然あるので、一旦レベル9の竜と対戦して、問題がなければラスボスに挑む予定だ。


 遠巻きに俺達を見ている冒険者達は今にも平伏しそうだ。

 柄ではないので適当に軽く手を振って早々に第四層の迷宮入口に向かうとしよう。


「以前よりも竜の動きが鈍ったような気がします」


 イッカが困惑したような顔で言った。

 第四層レベル9の竜を瞬く間に撃退したあとの事だ。

 シルヴィと西川が相変わらず競うようにドロップアイテムを集めている。

 三ヶ月の迷宮外活動ではもちろん、迷宮ポイントは付与されていない。


 しかし、保有する迷宮ポイントを無意識に使用しているのだ。

 これは高レベルになるほど顕著に表れる。


 問題はなさそうなので、ボス討伐と行きますか。


「ふははははは、我こそは竜の中の竜――」


 あ、そういうのいいです。


「むう。気の短い小童どもだ」


 イッカの眉がひくひくと動いている。

 怒ってる怒ってる。


 言葉を解する二体目の魔物だな。

 体長はレベル9よりひとまわり大きくなった黒い竜だ。アナライズで見るとレベルは40。

 レベル的には大したことがないが、スキルに絶対防御という項目がある。厄介な。


「さて、我は無益な殺生は好まぬ」


 相手にもされていないのか、竜は地に伏せて丸くなったまま面倒くさそうに続ける。

 物臭な奴だな。


「故に、提案をしよう。この先に進みたくば、贄を捧げよ」


 またか。まったく、第三層の吸血鬼といい……。


「……主様、斬っても宜しいでしょうか?」


 イッカは激怒を通り越して白い顔で静かに口にする。

 手は既に愛用の刀の柄に掛かっている。

 だがまあ待て。


「イッカ、気持ちは分かりますが、こいつは絶対防御というスキル持ちです。あらゆるダメージは通らないと思います」


「かしこまりました」


 一礼して、イッカは柄から手を離した。


 菊千代、これは、反則じゃないのか?

 俺は、小声で呟く。


≪一条様、解決の方法は提示されてございますよ?≫


 生け贄なんて出せるか!


 仕方がない。絶対防御とやらを少し試させてもらうとしよう。

 俺は、最大威力のソニックブームを放ち、竜との距離を詰めると一閃で薙ぐ。

 グラディウスからは確かに攻撃の感触が伝わってきた。ただし、豆腐を切ったような不安になる頼りなさだ。


「ほう。わはははは、中々筋が良いな小僧。この調子なら五十年もしない内に我のスキルはやぶられるな、真に天晴れだ」


 全く以て誉められている気がしない。

 五十年も待てるか。


「主様……」


 まったく歯が立たない俺の様子に、イッカが呆然と立ち尽くす。


「さあ、選ぶがいい」


 竜は大きな瞳を半目にして睥睨してくる。


「差し出した生け贄はどうなる?」


「男なら喰らう。女ならば子を孕んでもらう。我はずっとそうしてきたからな」


 10匹目の竜を生ませるのか。

 システム上、10以上のエリアは存在しないから、別の場所か暖簾分けでもするつもりだ。


「いえあの、サイズ的に問題がありますけど」


 西川の下世話な質問に竜は呵々と笑う。

 我の体は変形自在だから無用の心配だ、小娘。

 そして、そう答えた。


 変身機能まで搭載かよ。


 別に、すべての迷宮が同じ仕様だというわけではないだろう。たが、5層で立ち止まる者が多いという事は、このくそったれなクエストをクリアしている者がいるのだ。


 生贄を差し出して。

 或いは、五十年かけて、物量で突破をしたのかもしれない。


 竜の言葉を信じるのなら、俺と同等のレベルの仲間が50人、不眠不休で叩きのめせば1年でスキルの防御を消滅させられる。

 現実的な数字なら最低150人だ。

 確かに菊千代の言う通り、解決の方法は提示されている。


「主様、私を含めて鬼人族一同は、主様の一声を頂けましたら、生け贄になることなど雑作もございません」


 イッカが傅く。やめろ。晴れ晴れとした顔でそんな言葉を口にするな。


「コーキ君が困っているならお姉ちゃんとしては頑張らないとね」


 ウサコがうふふーと笑う。姉代わりが弟を放り出してお嫁に行くとか勘弁してくれ。泣くぞ。


「コーキ様」


 ミコがぐっと手を握り締めた。俺に子供を犠牲にした茨の道を歩ませるつもりか? 俺はお前達を守ると約束した。


 西川を見る。視線に気付いた西川はえへへと照れたように笑った。親指と人差し指で丸を作るOKのサインをするな。

 まったく。お前を無事に帰すのが俺のモチベーションだよ。本末転倒も甚だしい。


 確かに、女ならば殺されるわけじゃない。

 竜の子を生み、育てるだけだからな。

 死ぬわけじゃない。今生の別れでもない。


 これは、俺の人格者としての適性を調べるための試練でもなんでもない。

 迷宮という、怖ろしいくらいのリアリストが提示する合理的でシンプルな要求だ。

 大事を成すなら犠牲を覚悟しろと告げている。

 対価として、生贄一人か、膨大な時間をかけるのか、と。


 ダメだ。

 ここで考え込んだりしてはいけない。

 悩む顔を見せてもいけない。

 躊躇すら許されない。


 そんな態度を一瞬でも見せれば、この忠誠心過多なバカ共は俺の心の痛みを少しでも和らげるために、与り知らない所でその身を竜に捧げてしまうだろう。


「菊千代」


≪はい、一条様≫


 俺は竜を見据える。自信たっぷりの偉そうな態度だか、画竜点睛を欠くというのも竜らしいといえば竜らしい。


「リセットを行使する」


≪はい?≫


「対象は、目の前にいる竜だ」


≪かしこまりました一条様。迷宮ポイント10000を消費しますがよろしいですか?≫


「お安い御用だ」


 この世界に俺一人だけ拉致されたのなら俺専用のリセットかもしれない。

 だが、西川がいる。

 ペナルティとして年齢の若返りという、老いを克服するために用意されている側面のあるリセットは、他者に対しても有効だと確信してした。


 菊千代が否定しないなら有効なのだろう。

 竜頭蛇尾も甚だしいが、足元から竜を上げさせてもらうとしよう。


 驚愕の表情の竜が慌てたようにその馬鹿みたいにでかい翼を広げる。


 システムの外にいるものならともかく、システムに縛られる存在にシステムから逃れられる術などないさ。


 菊千代は言った。

 解決の方法は提示されていると。

 スキルを持つと竜は言った。


 ならば答はひとつだ。


 システムの中の存在ならば、スキル習得は迷宮ポイントの上に成り立っている可能性は高い。リセットは使用した全迷宮ポイントの消失を行い、スキルとステータスを初期化する。

 そして、ペナルティの若返りを与える。

 何年生きている設定か知らないが、迷宮誕生時にお前は存在すらしていないぞ、竜。


 さて、どうする迷宮?

 この矛盾をどう解消する?


 大きく口を開いた竜に対し仲間は戦闘態勢にはいる。


 だが、竜は突然弾け飛ぶと、光の粒子に返った。

 潔い迷宮でよかったよ、まったく。

 イージーモードここに極まれりだ。


 仲間達があっけにとられる中、こうして第四層の攻略は完了した。


 強制排出された後の話だ。


「協力感謝するよ、菊千代」


≪まったく……迷宮を脅してハッタリだけでボスを倒すなんて前代未聞でございますよ、一条様≫


 まあ、そういう事だ。

 真相を看破できていない仲間達はさぞ首を捻っていることだろうな。

 イッカの視線が更に熱くなった気がする。


「俺が何たら委員会に頼まれたのは、迷宮攻略ではなくて、迷宮の育成だからな」


≪迷宮運営委員会でございますよ、一条様。ええ、まぁ、返す言葉もございません≫


読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

ブクマ、評価、ありがとうございます。大変、励みになります。

ノクターン版も連載を開始しました。閲覧可能な年齢の方は、是非お読みください。

では、失礼しまして。

もし、気に入っていただけたり、続きを読んでみたいと思われましたら、ブックマークとこの下にあります評価の入力をお願いします。(評価感想欄は最新話にしかないそうです)

感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。

よろしくお願いします。

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