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第34話 迷宮都市への第一歩


 005


 ハマンたち御一行がやってきた翌日、迷宮前に頑固そうな親爺が三人と、ニコニコ顔の親爺が二人訪れた。

 事前に国境予定地のシロウたちに伝えておいたので混乱もなかった。


「来たぞハマン。じじいをこんな山奥に呼びつけやがって」


 口々に文句を並べる頑固そうな親爺達はハマンの知り合いだ。


「ハマンさん、今回は声をかけていただいてありがとうございます」


 柔和な方の親爺二人もハマンの知り合いだ。


「うむ、すまんな我儘を聞いてもらって。この者が我が盟友のコーキだ、あと細かい話は」

「カルラーン嬢だろ? わかってら」

「うむ、よろしく頼む」


 同席しているカルラーンも苦笑している。


「それで、お前さんが領主か? また随分かわいらしいのぉ」

「初めまして一条光輝です。北の森の領主やってます」


 胡散臭そうに睨まれる。いや呆れられる。

 ハマンが設立する冒険者ギルド立ち上げに欠かせないのが、鍛冶師、大工、商人、宿屋だ。

 この迷宮側に街を作る。それが俺の目的だ。


 山間部といっても平地はあるし、土木系のスキルがあるので開墾にそれほど時間を必要としない。ある程度の段差は仕方がないが、南の街との標高差も100メートル以内だ。高低さ100メートルの10キロの坂道だと考えればあながち非現実的ではない。


「ここを開墾して街を作るだぁ? オメエふざけてんのか? 10年は掛かるし金はそれどころじゃねぇくらい掛かるぞ小僧」


 普通はな。

 家は数年で建ち揃うだろうけど、生活手段がないから人が集まらない。狩猟でも畜産でも農耕でも商売でもいいので、自活の手段を設けないとならない。

 だがその点は迷宮が解決してくれる。迷宮に潜れば食うのに困らないからだ。ドロップアイテムを売れば金にもなる。


 問題は規模だけだ。

 その辺りは菊千代に確認済みだ。


「迷宮は侵入者に比例して魔物のポップ数を増やしてくるでしょう」との事だ。まあ、そうだな。でなければ数で押されてしまうからな。


 初期段階ではすべて迷宮から産出されるドロップアイテムで補えるが無限ではないしもちろん迷宮で補えない種類のものもある。帝国から買い付けるのが手っ取り早いが、ないなら作ればいいのだ。

 なにせ元手がかからない資源が迷宮から産出されるのだから使わない手はない。後は産出される量を見極めて街を拡大すればいい。


 迷宮産と迷宮側に作る街の産出品で補えるだけの住民(冒険者)を受け入れる。


「そんな夢物語みてぇな……いやハマンが噛んでいるならありうるのか……」


 ハマン、勧誘して本当に良かった。あの男がいないとこうまでスムーズには集められなった。

 問題はお金だな。

 資産はあるけど現金がない。

 職人、職員に支払う給料を工面しないといけない。


 そこで商業権を持つ商人の登場だ。

 昨日の今日でまだ帝国側に関所などは無いので商人に迷宮産の素材を預けて現金化してもらう算段だ。まあ俺のアイテムボックスを使用すれば関所など素通りなんだけどな。


 素材は帝国ではなく王国に売りつけてもらう。

 現物を見せると商人の顔は引きつっていた。


「さすがハマン殿に盟友といわせるだけのお方だ……値段を着けようが無いものが多い。すべて売却すると王族すら匹敵するほどの財産になりますよ」


 お金の問題も片付きそうだ。

 まあ上手くやってくれるだろう。


 次に寝泊りする場所だ。

 最終的に迷宮を一般開放する場合、宿屋は必須となる。日帰りなら国境を越えて帝国に戻るという選択肢もあるが、複数日迷宮探索をするとなると、馬車の定期便でもなければ歩いて移動だと効率が悪い。

 場所と建物を提供するので運営を任せたい旨を伝えると宿屋の親爺は快諾してくれた。


 最後は鍛冶師だ。

 これはまあ竜の素材を見せたら目をギラギラさせ始めたから問題ないだろう。

 迷宮ドロップの偏りの関係上防具を揃える必要と、素材を加工できる施設が近場にあると大変効率がいいので是非とも工房を開設してほしい。

 武器もドロップ品便りだと心許ないしな。


 大工とカルラーンに各々の部署の建築場所を打ち合わせを任せる。

 その間、ハマンは腕組みをして居眠りをしていた。本当に冒険以外に興味がないらしい。


 その後も大変だった。

 迷宮スキルの説明をして頑固な職人を説得して上納分でためてある経験値を使用してレベルアップさせてスキルを上昇させる。

 修行もせずに技術がついて大変親爺達は不満そうだったがまあそこは我慢してもらおう。今から10年修行するとか言われても待っていられない。


 リッカにハマンの迷宮接待を任せて残りの者は急ピッチで街作りに従事する。

 といってもステータス上昇のおかげで作業は楽だし工作部隊は職人から教わった新たなスキルを手にして更に効率が上がり、迷宮からリッカとハマンがガンガン素材を集めてきたりと、皆楽しそうで、お祭りのような騒がしさだった。


 二ヶ月が経ち、迷宮前は様変わりした。


 まず、冒険者ギルドが完成した。

 この世界にある物語に出てくる様相をなぞり、各種受付用カウンター、アイテム売買、依頼掲示板、食堂兼酒場を併設。二階は会議室やギルドマスターの執務部屋などがある。


 鍛冶師による武器防具工房兼売り場、客室100室を誇る宿屋、冒険者ギルド御用達の道具屋などが立ち並ぶ。

 郊外型のモールのような造りにしている。


 仲間達の集合住宅地も贅沢に用意している。町の中に集落がある不思議空間だ。ただし、迷宮一階層に既に用意されている敷地もそのままだ。どちらでも好きにつかってくれればいい。

 各種族毎に区画を割り振ったが、兎人族の三姉妹には丁重にお断りされた。風来坊が身に合っているとの事だ。

 一応将来のために土地は確保しているけどな。


 今後は南側に徐々に開発が進む予定だ。東西は険しい山や谷があるので楕円形の町になる。 

 土地は領主持ちとして売却はしない。すべて賃貸だ。

 

不動産管理も冒険者ギルドの管轄にしているのでカルラーンは今頃目を回しているだろう。

 だが、ギルド本部や職員の家など初期の建築物に関しては永続的に家賃ゼロだ、それくらいやってもらっても罰はあたらないだろう。


 そもそもここは迷宮攻略を目指す冒険者の町なので、無関係の者が住む事はない。そのうち娯楽施設も建てないとな。


 迷宮に関わるルールの改変もしている。

 迷宮からのアイテム持ち出しに関する税徴収の部分だ。


 これは、迷宮攻略ギルド改め、迷宮運営ギルドとなった俺たちと新設した迷宮攻略ギルド、冒険者ギルドの活動資金となる。


 基本、迷宮より持ち出されたものは冒険者ギルドが全買取りのルールだ。その金額から一割の税を徴収する。手元に残したい物を冒険者がギルドから買取るという形だ。


 ただそんな面倒なことを行使する者はいないだろう。ドロップアイテムを査定して税のみ現金で支払う。税が足らなければ不用品を買い取ってもらう、という流れになるだろう。


 第一層の入口内部に受付を置いて退出時に査定をする。

 担当する商人と職員の準備も出来ている。


 迷宮入場には菊千代に頼んで新設した冒険者ギルドの登録を必要にして、冒険者ギルドの本部内にギルド加入用の装置(石版)を用意した。これに触れるとギルド加入になる。レベルに応じて次のレベル帯に進めるように設定。上納は70%とした。


 さっそく街で流した噂を聞きつけて冒険者希望のものがそれなりに訪れている。一日10人程度ご新規さんが増加中だ。

 迷宮産アイテムを帝国で売り捌けば希望者が殺到するだろう。ドロップアイテムの供給量から計算して制限は設ける予定だ。


 ただ、敏い者はアイテムの転売で利鞘を儲けようと企む。これはあらゆる意味で阻止はできない。

 ギルドに卸すより帝国での売却値の方が高くなるのだから仕方がない。ただし、ギルドに売却の場合は経験値という報奨をつけることにしているのでご利用は計画的にだ。


 だがどこの世界にも勘違い野郎というのはいるものだ。


「私は帝国の貴族であるサネッティ子爵だ。このリンゴをすべて買い取ろう」


 偉そうな紳士がふんぞり返っていた。


「リンゴはお一人様3個までの購入となっております」

「だから! 私は帝国貴族だと言っておるだろうが!」


 対応している女性は人族で、帝国出身者だ。他国とはいえ貴族に睨まれているので顔を青くしたふりをしている。あれは笑いを必死に堪えている顔だ。


「困りますねぇお客様、ルールは守ってもらわないと」


 警備員が騒ぎを聞き付けて奥からやってくる。


「なんだお前は! 私を誰だと思っている!」

「どこのお貴族様か存じませんが、この国では特権なんてございませんよ? これ以上ごねられると捕縛して牢に収監になりますけどよろしいですか?」


 偉そうにふんぞり返ったいた男が姿勢を正してニヤリと笑う。


「ふむ。いいぞ。しかし、もう少し高圧的でもいいかもしれないな」

「わかりました」


 警備員がこくこく頷いている。


「では、次に武力を行使してきた場合を想定するぞ」


 訓練をしておかないといざというときに体は動かない。いわゆるロールプレイングでの訓練は順調そうだ。

 それはいいけど、後ろでポカンとしている本物のお客様をないがしろにしないであげてくれよ。


 かんかんとリズムよく音を響かす工房を覗く。

 むさい男たちが刀を打っている。

 声を掛けたら怒鳴られそうなのでスルーして販売コーナーに行く。


「あれれ、領主様いらっしゃいませ」


 ちっこい子供が店番をしていた。


「調子はどう? 売れてる?」

「武器はあんまり売れてないよ」


 まあ、武器はそこそこドロップするからな。


「防具はたまに売れるよ」

「そうか、がんばってな」

「また、どーぞ」


 宿屋を覗く。


「いらっしゃいませ、迷宮前亭にようこそ」


 朗らかな声で女性に出迎えられる。


「あ、領主様? し、失礼しました」


 慌てる女性を手で制する。


「ただの見回りです。邪魔して申し訳ないです」

「いえそんな、あの、一度泊まりに来てくださいね」

「機会があればお邪魔します。何か問題があればいつでも声をかけてくださいね」


 苦笑を返しておく。


 冒険者ギルドは対応中なので外から見るだけに留める。


 通りをひとつ挟んで、東に向かう。

 各種族の集合住宅地だ。

 大半が任務についているので人影はない。警備に何人か立っているだけだ。

 手を振っておく。


 北上すると、我が家が見えてきた。領主の家ですからと気合を入れて作ってくれた大邸宅だ。

 ユウと西川が庭で猫人族の子供と昼寝をしていた。

 ミコがお気に入りのメイド服を着て同じ格好のウサコと一緒にゆったりと掃除をしている。


 せっかく住む場所を用意したのに何故か皆集まって、いつの間にかたまり場みたいになっていた。

 賑やかでいいんだけどな。

 屋敷に入るとイッカが寄ってくる。


「おかえりなさいませ、主様」

「ただいま」

「領地視察はいかがでしたか?」

「概ね順調でしたよ」



読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

ブクマ、評価、ありがとうございます。大変、励みになります。

ノクターン版も連載を開始しました。閲覧可能な年齢の方は、是非お読みください。

では、失礼しまして。

もし、気に入っていただけたり、続きを読んでみたいと思われましたら、ブックマークとこの下にあります評価の入力をお願いします。(評価感想欄は最新話にしかないそうです)

感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。

よろしくお願いします。

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