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第33話 双璧


 004


 帝国軍臨時政府最高府、宰相の地位にあるギゼルは品のいい初老の男だった。

 少し神経質そうなきっちりとしたヒゲが特徴の御仁だな。


「で、卿が迷宮攻略ギルドなる組織のマスターであるコウキか、用件を聞こう」


 深々と深く腰をかけたソファで寛ぎながらの会談となった。

 同席しているのはイッカのみで、俺の後ろに控えている。

 残りのメンバーは別室で賓客待遇だ。

 西川が甘味の類に目を輝かせていた。女子はどこに行っても甘いものに弱い。


 ギゼルの右方には秘書らしき女性が一人。護衛もなし。周囲探索を発動しても気配察知を発動しても伏兵もいない。肝が据わっているのかただの楽天家なのか判断が難しい。


「どうした? 丸腰で護衛もつけていないのがそんなに不満か? 大層な能力を持っていると報告を受けているからな、見た目には騙されんよ。その辺にいる護衛など紙のようなものだ役に立ちそうもない。唯一護衛が出来そうな男が退役を申し出たので仕方がないだろう。まったく以って合理的ではないから護衛は外した。無駄なことはしない主義だ。卿も殺生を好まぬのだろう?」


 楽天家のほうだった。あと見た目通りの神経質そうな話し方だ。

 まあ前線に出ているくらいだ宰相という地位も戦地限定というからくりかもしれない。


「では率直に言う。独立宣言だ。街の北、大森林の入口に境界線を引く。それより北は俺の領土とする」

「好きにしろ」


 わざわざ偉そうに言ったのにのって来ないな。案外理性的なのかな。しかしそれならそれでいい。


「では、好きにさせてもらいますね」


 口調も元に戻してしまおう。

 にっこり子供スマイルもつけておく。ギゼルは特に反応しなかった。


 まあ何もないただの森を領土だと言い張るバカが一人いたところで国が揺らぐわけでもないしな。

 未開発の森など帝国領土と地続きなだけで領土でもなんでもないだろう。領民はいないしあるのは木だけだし、いくらでもその辺に生えているし。反対する理由はない、想定通りだ。


「関税はいかほどにする腹かね?」


 出るよね国境関税の話。隣接地なんだから下手をすると二重課税になり商人が疲弊して流通が止まる事態になる。


「我が帝国では商業権を持つものに限り持込に対して一割の関税が主流だ。持ち出しに関しては税はとらない」


 暗に合わせないと商人が寄り付かなくなるぞという脅しだなこれは。


「そうですか。我が領地は、関税を設ける予定はありません」


 ギゼルは呆れた様子だ。


「コーキよ私が口出しするのもどうかと思うが、その条件では近い内に卿の領地経営は破綻するぞ?」


 わかってるさ。

 領民が少なく経済が発展していない領地から税なんてすずめの涙程度も徴収できない。頼りになるのは国境を越えて商売をする際に掛ける税だ。これをゼロにするということは即ち領地としての収入がゼロということに等しい。ギゼルの言う通り破綻まっしぐらだ。


 だがギゼルに心配してもらわなくとも大丈夫だ。

 税は掛ける。迷宮から持ち出すものに対してな。

 顔色ひとつ変えない俺の態度をさすがにギゼルは訝しむ。


「忠告はありがたく頂いておきます。用はそれだけです。お邪魔しました」


 後にギゼルを窮地へと追い込む会談は僅か数分で終了した。

 さてすることも終わったし、帰る事にしよう。


「主様、ご無事でしたか」


 橋頭堡予定地、いや既に国境と呼ぶべき場所に到着すると待機していたシロウがほっと息を吐く。


「はい、全員無事です。戦闘らしい先頭もなかったですし。あ、リッカもそろそろ呼び戻して下さい」

「はっ」


 街から離れてミコとユウも緊張を解いた。二年経っているとはいえ逃亡奴隷の身である姉妹には酷な事をしてしまったな。今度街で売っている甘いお菓子でも買ってあげよう。


「それで主様、この者達は?」


 シロウは目を細める。


「ああ、協力者のハマンです。詳しい話は帰ってからにしますね」


 俺はシロウに国境を示す簡易的な門の建築を指示すると護衛にクロの部隊を残して帰途に着く。


「むぅ。この短期間で道が出来ているのか……」


 途中工作隊がせっせと工事を行う姿を見て同行しているハマンが唸り声を上げた。

 退役してその日の内に同行とかその行動力にこちらが唸りたい気分だ。引き継ぎとかしっかり終わらせているんだろうか?


 それと、同じく軍属で部下であった5人の連れもいる。皆若い、一人は女性だ。皆、ハマンと同じく冒険活劇に憧れる探求者らしい。

 ついでに工作部隊の面々にハマン達を紹介しておく。


「そうだ、ハマン。冒険者ギルド設立に付随してお願いしていた件はどうなりました?」

「コーキよ、案ずるな。既に伝を使い召集を掛けている。明日にでも訪れるだろう」


 明日って、この世界の人族はフットワークが軽いやつしかいないのか?


「そうですか」

「おい、おまえ!」


 ハマンの連れの紅一点が美しい顔で睨み付けてきた。黒髪に黒い瞳の和の雰囲気を持つ女性だ。帝国側が和風の国柄なのかもしれない。


「ハマン様に馴れ馴れしいぞ!」


 活きがいいな。信者ですか? 馴れ馴れしいって……ちゃんと敬語を使っているのに。


「良いのだカルラーン、コーキは我が盟友だ」

「は、出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした。コーキ殿も大変失礼をいたしました」


 頭を下げられる。なにこの素直な女。牙を剥こうとしていたイッカも呆れ顔だ。いや、それだけ絶大な信頼を置いているのかもしれない。


 しばらく北上して迷宮より100メートル程離れた場所で俺は立ち止まる。


「ハマン、この辺りに冒険者ギルド本部を建築しようと考えています。迷宮の入り口はあの辺りです」


 何もない森に開かれた道を見てハマンの部下たちは絶望的な雰囲気だ。楽園に導かれたらただの大自然の真ん中でしたみたいなオチに自分の決断を後悔しているかもしれない。

 豪快に笑うのはハマンだけだ。


「ふははは、冒険者ギルド本部か。心が躍る。だが、すまんが些事はカルラーンと打ち合わせてくれ」


 ああなるほど参謀として彼女の人選なのか。


「わかりました。ワンコ、ハマンを迷宮に案内してください」

「畏まりました、ハマン殿、どうぞこちらへ」


 ワンコに連れられて5人の男たちが迷宮に向かう。

 菊千代に迷宮侵入とギルド加入を許可を頼む。上納も同じく70パーセントだ。とりあえずは第一層だけでいいだろう。


「彼は別ギルド所属にしたほうがいいですね。一条様のギルドの下部組織として登録いたします」

「ギルドって別枠でも作れるのか?」

「可能でございます」


 実は人数が増えたら管理が大変だなと思っていたので朗報だ。まあ管理は菊千代に丸投げだから苦労はしないが。


「じゃあそうするよ。冒険者ギルドを作ってくれ。あ、それと、今のギルドの名称変更は可能か?」

「はい、問題ありません。了解しました。完了しました」


 迷宮を攻略する組織と管理をする組織をいずれ分割しよう。

 今の迷宮攻略ギルドを迷宮管理ギルドに改名して、新たに迷宮攻略ギルドを立ち上げるか。


「ミコとユウもご苦労様。人族の街に出て疲れたでしょう。今日はゆっくり休んでください」


 二人はこくこく頷いて西川と一緒に迷宮に帰っていく。

 残ったイッカがハマンを見送っている女兵士に気取られないように耳元に口を寄せる。


「僭越ながら主様、あの男に間者という可能性はないのでしょうか」

「ない、と思いますよ。ただイッカ、そうだとしても構わないでしょ? それを理由に帝国を叩く口実にしますから」


 あんな人材そうそういないから惜しいけどな。


「畏まりました」

「コーキ殿、ここに拠点を設けるという話だが……」


 カルラーンと今後の打ち合わせを開始する。その内容を聞いてさすがにカルラーンは驚いていた。


「実現の可能性はともかく、そうなった時のギゼル宰相も気の毒にな」


 俺もそう思う。


 2時間ほど話を詰めた後、迷宮に戻る。

 門を超えるときにすり抜けたことに驚き、内部に入るとカルラーンは更に驚いている。


「ここは、なんなのだ? 地下道かと思っていたのだが、空がある……そうか、先程の門は偽装で大森林ということか」


「いえ違いますよカルラーン、ここは正真正銘迷宮内部です」

「なんと、いや、イッカが言うのだから確かなのだろう、面妖な」


 短時間で仲良くなった二人だった。

 本人達曰く、立派な主に仕えるもの同士気が合うのだそうだ。


 セーフゾーンにはハマン御一行も戻ってきている。

 四人の兵士は地面に大の字に寝転がりヨダレでベトベトだ。

 橋頭堡に護衛を置いたので工作部隊の護衛を解いた犬人族ジュニアの仕業だ。


「うははははは、元気のいい小わっぱどもめ」


 ハマンは迫り来る幼い体をつかんで軽くポイポイ放り投げている。身軽なジュニア達はうきゃうきゃと喜んでいる。


「あ、コーキ様だ!」


 半分くらいが俺に気付いて迫ってきた。

 わちゃくちゃにされていると、一人の女の子がイッカにてくてく歩いていくのが見えた。


「イッカ様、わたし、新しいスキルを覚えたの!」

「そう、頑張ったのね」


 イッカが優しく頭を撫でている。女の子は蕩けるような笑顔だ。


「イッカ様、この女の人はだあれ?」

「この者は今日から仲間になったカルラーンよ」

「う、うむ、よろしく頼む」


 つぶらな子供の瞳にじっと見つめられて、少しおどおどしているぞ?


「仲間……じゃあ」


 女の子がぎゅうと抱きつく。


「はわわわわ」


 カルラーンは顔を真っ赤にしてわたわたしていた。


 子供に懐かれるのに慣れていないらしい。でも幸せそうだから良いだろう。反応が面白くて他のジュニアたちもカルラーンにまとわりついている。まあイッカが何とかするか。


「ハマン、迷宮はどうだった?」


「んむ? なるほど。その砕けた感じがお前の素なのだな。迷宮は想像以上だった。あれが魔物という存在か! 退治した後に死骸ではなくあいてむというのを残すところなどまるで物語の住人になったようで感慨深い!」


 ジュニアを5人くっつけたままのしのし歩いてくる。


「れべる7という所まで進めた。また強くなった気がする」


 もうレベル7ゾーンまで進んだのかよ。

 レベルは25まで上がってるから気のせいじゃないさ。


「部下は大丈夫か?」

「なに、この程度でへこたれるような鍛え方はしていないから問題なかろう。む?」


 ハマンが迷宮入り口に目を向ける。

 リッカも戻ったらしい。


「あ、リッカだ!」

「おかえりー」

「コラくそガキども、様をつけろっていつも言ってるだろうが!」


 何故かジュニア達に笑われるリッカだった。


「ご苦労様、リッカ」


 町中を闊歩して疲れているだろうから労っておく。


「ああ。ん? おいコーキ、その男は誰だ?」


 二人は睨み合う。


「今日から世話になる……ふふ、冒険者ギルド、ギルドマスターのハマンだ」


 名乗るのが嬉しそうで可愛らしいぞおっさん。


「ほお、俺は迷宮攻略ギルド特攻隊隊長のリッカだ」

「リッカは鬼人族か? 名前からしてイッカ殿の弟というところか」

「あんコラてめえ姉貴に手ぇ出しやがったらぶっとばすぞ!」


 いつも通りだった。

 これが、迷宮攻略ギルドと冒険者ギルドの両翼と呼ばれる二人の出会いだった。


読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

ブクマ、評価、ありがとうございます。大変、励みになります。

では、失礼しまして。

もし、気に入っていただけたり、続きを読んでみたいと思われましたら、ブックマークとこの下にあります評価の入力をお願いします。(評価感想欄は最新話にしかないそうです)

感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。

よろしくお願いします。

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