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第32話 迷宮というエンターテイメント


 003


 迷宮入り口から南の街まではおよそ10キロ。

 真っ直ぐに道を作れるように伐採スキル持ちがさくさくと木を切り倒していく。

 ある程度測量も必要だな。谷や崖はしょうがないけど斜面程度なら均して平地に出来る。


 後方のシロウの工作隊が散らかった木を片付けたり、根っこを掘り起こしたり岩を砕いたり整地をしてくれるので任せておく。俺の仕事は先の橋頭堡建設で使う木材の確保だ。

 アイテムボックスに次々と放り込む。


 四時間程度で街を視認できる場所まで進軍できた。迷宮産ステータス本当に半端ない。


 橋頭堡として仮設の拠点を構築する予定地に到着。

 ここが国境となる予定だ。


「コーキ様、場所はこの辺りでよろしいですか?」


 シロウが傅く。もう慣れた。


「そうですね。近すぎず遠すぎです」


 伐っては仕舞っていた木材を取り出して積み上げていく。我ながら非現実的な光景だ。


 振り返ると山に一本の道が出来上がっているのが見えているので、街にも異変は届いているだろう。

 明日にも帝国警備隊が間抜けの集団でない限り出動してくるだろうな。早ければ二三時間後かも知れない。

 もちろんそんな猶予は与えない。


 拠点作りはシロウに任せておこう。

 ここからは道は作らない。なだらかな斜面を足取り軽く進んでいく。


 視界が開ける。

 うん、懐かしい過疎地一歩手前の農村が現れた。前の世界との比較なのでこの世界では一般的な光景なのだろう。

 木々に囲まれた生活に慣れてしまったのか、遮蔽物がない平地というのは何だか妙に不安だ。


「先輩、人がいます、家があります」


 ああ、西川にしてみれば田舎とはいえ2年ぶりだからな。そう興奮するな。


 点在して存在する家屋とそこそこ広い農地。その向こうには少しだけ高い建物が並ぶ市街地が見えている。


「行ってくるぜ」


 先陣のリッカが足を早める。先行して町に潜入している兎人族の姉妹とコンタクトをとって帝国警備隊を翻弄してもらう予定だ。作戦も何もないただ縦横無尽に町を闊歩するだけだ。


 ぽつりぽつりと歩いていた人が驚いてこちらを見ている。

 まあ、謎の異種混合の軍団が山から降りてきたら驚くよな。精々愛想よく軽く手でも振っておこう。

 一年前にお世話になった顔見知りでもいれば挨拶にいくんだけど、時間が押しているから次の機会にしよう。


 中心街に続いているだろう道を南に下っていくと、人も建物も増えてくる。

 見覚えのある猟師組合の建物も通り過ぎる。ここから先は初見の地だ。

 兎人族姉妹の長姉ウサミがハンドサインで指示をくれた。

 潜入任務は上手くいっているらしい。


 足を進めると次第に町並みが市街地へと発展していく。

 のんびりと闊歩していると通報を受けたのだろう軽鎧姿の集団が行く手を塞いだ。


「止まれ! 何者だ!」


 全員槍を構えている。数は16。後詰は拠点で待機させているので、こちらの見えている人数と同じ数だ。守勢側の警備の方が対応するには数が少ないな。まあ先陣のリッカが仕事をしていて数を割けないのかもしれないな。


「僕ですか? 僕は迷宮攻略ギルド、ギルドマスターの一条光輝と申します。この街の長に用があります。案内を頼めますか?」


「黙れ、怪しいやつめ! 報告にあった北の山に住まう盗賊の一味だな!」


 名乗れといったから名乗ったのに黙れと言われたぞ理不尽な。あと盗賊扱いになっている。報告は正確にしてくれよ。


「報告にあったのなら僕達の実力もご存知なのでしょう? 怪我をする前に案内することをおすすめしますよ」


 声をかけてきた隊長らしき男が怯む。あ、はったりだったのにしっかり報告されてるのか。


「場所を知らないなら無理にとはいいません。誰か、街の長につないでもらえませんか?」


 騒動に集まり始めた街の住人に語りかける。返答はない。

 軍事的支配下にあるなら代表者は帝国の軍隊になるのかな?


 こんな得体のしれない集団に肩入れをして帝国軍に睨まれるのは誰でも嫌だから仕方がない。

 イッカがいつの間にか一団に加わっているウサヨに耳打ちされているから情報は入っているみたいだし問題はないな。


「貴様らのような怪しい奴等の要求を聞く耳はない」

「あ、そ。じゃあ勝手にお邪魔するから、そこをどけ」


 一歩踏み込み、剣を振りレベル1ソニックブームを発動させる。ただ強い風を起こして行動を制限するだけの威嚇だ。殺傷力はないから安心してほしい。


 風圧で16名は簡単に吹っ飛んだ。

 ええ!? ちゃんとメシ食ってるのかこいつらは。

 これ以上弱い威嚇魔法なんてないぞ。


 コミカルに転がる警備の面々に、ヤジ馬達の反応はどこか好意的だった。帝国側の関係者はあまり歓迎されていないご様子だ。風で吹き飛ばしただけで皆殺しとかにしていないから恐怖心もないだろう。見た目が子供だから尚更だ。


「主様、この町は帝国軍臨時政府なる組織が統括しているとの事です」


 イッカが耳打ちしてくる。


「場所はどこですか?」


「東1キロ先の邸宅を仮本部としているようです。ウサヨの報告では、護衛に500名の帝国軍が駐在、また、この市街地にも約200名の帝国警備隊が巡邏中。西の王国側には約5000の兵が配置されているそうです」


 実行支配地域とはいえ紛争はまだ燻っているから敵国である王国のある西を固めているということか。

 吹っ飛んだのは巡邏中の帝国警備隊の面々かな?

 慌てふためいているな。仲間と連絡を取るために何名か走っていった。


 こちらが待つ義理もないので、歩を進める。圧力に押されて帝国警備隊は後退していく。磁石のようだ。

 のんびりと周囲を観察しながらの進軍になった。


 町並みは和洋折衷だ。帝国と王国の文化が和風と洋風に別れているのかもしれない。時代に照らすと近代より前の中世辺りなのかな? 中央集権とまでは進んでいないな。そのうち武士とか騎士とかに出会えそうだ。


 5分もしないで続々と帝国警備隊の面々が集まり始める。遠巻きにこちらを警戒しながら武器を構えている。

 全員集合しても200なんだろ? 逐次投入とか余裕だな。しかもリッカの相手もしないといけないはずだ、はやく帝国軍に救援要請を出せば良いのに。駐留部隊が目と鼻の先にいるだろうが。


 約30名が道を封鎖する。後方に10名ほどを配置して挟撃態勢だ。横の建物の間にも臨時警備員がチラホラ見える。臨時というのは隊服ではないのにこちらに敵意を抱いて武器を構えているからだ。非番の隊員かな? お勤めご苦労様です。


 別に足を止めるほどではないので進んでいく。


「と、止まれ!」


 これから500と次に5000の相手をしようとしている俺達を止めるには頼りない制止の声だった。

 前方が射程内に入ったのでソニックブームで薙ぎ払うと、後方から悲鳴が上がった。

 シルヴィの部隊だろう、取り餅のような粘着物をぶつけて無力化していた。

 基本は無殺傷の方針だから命拾いしたんだぜ、感謝して欲しいね。


「貴様ら、何が目的だっ」


 吹っ飛ばされて転がされた警備隊が叫ぶ。


「さっき言いましたけど? この街を治める長に会いに来たんです」


 話を聞いてなかったのかこいつらは。


「王国軍の使者か!」

「だから違いますって。僕は迷宮攻略ギルドマスターの一条光輝です」


 警備隊は怪訝な顔つきだ。

 あれれ? もしかしてギルドって名称が間違っているのか? ファンタジーなら定番の筈なのに。


「そんな組合はない! だいたい迷宮とはなんだ!」


 迷宮ないのか……。

 それは申し訳ない事を言ってしまった。


「おい菊千代?」


 散々メジャー発言しやがったくせにそっと目を反らしやがった。とんだマイナー委員会じゃないか!


「仕方ないですね、迷宮のなんたるかは直接説明しますので臨時政府とやらに繋いでもらえませんか」


「我々にはそんな権限は……」


 まあ、俺が仮に逆の立場なら総理大臣に連絡しろと言われているようなものか。


「じゃあ直接出向くから道を開けてください」


 帝国警備隊は道を開ける。

 死者を出していないしこちら側としては平和裏に交渉してるんだから警備隊側も突っ張るつもりもないのだろう。


 臨時政府在中の邸宅前は完全武装の兵士が壁を作っていた。

 連絡は入っていたのだろう。


「ふん。不逞の輩め」


 ぶっとい剣を地面に突き刺して、ぶっとい腕を乗せている髭面の男が忌々しげに睨み付けてくる。

 後方に整列する兵士は抜刀していない。


「僕は迷宮攻略ギルドマスターの一条光輝と申します。臨時政府の代表者はいらっしゃいますか?」


「この数の兵士の前で平然と口上を述べる勇気は買おう。だが所詮数が違う。警備隊にも死者はいないのだ、ここはおとなしく引くがいい、貴様の勇気に免じて我々は追撃しない」


 なんか大物っぽいやつキタ。

 アナライズで見えるレベルは20。今までで最高レベルだ。名前はハマンか。歳は30。頑固そうないかつい顔だ。

 犬人族ジュニアがいい勝負できそうだ。連れてくれば良かった。


「ジュニアの修練に手頃な相手ですね」


 イッカも同じ考えらしい。


「無益な殺生はしたくないんですけど? お勤めご苦労様ですが僕達は話し合いをしに来ただけです、取り次ぎをお願いします」


「問答無用だ」


 うわまた厄介なクエスト発動だな。

 このおっさんをなんとかしたいがテコでも動かないオーラ満開だ。


「いかがいたしましょう? 私が相手をしますか?」


 イッカなど相手をさせたら片手で数秒で切り捨ててしまう。

 コホンと咳払いをしてから顎を上げる。


「ハマン」

「む? 貴様、何故俺の名前を知っている?」


「ハマン、力は欲しくないか?」

「なに?」


 何となく自分を鍛える事に情熱を傾けているような雰囲気なのでとりあえず聞いてみた。


「ふん、笑止。お前がこの俺に力を与えるというのか小僧」


 イッカがピクリと体を震わせた。


「お前、我が主を愚弄するか……」


 イッカをまあ待てと制する。


「俺ではなく迷宮がお前に力を与えるだろう。未だ見たこともない魔物との対峙を通してまだまだ強くなれるぞ?」

「魔物、だと?」


 ぴくりと太い眉が動く。お、効果ありか?


「バジリスクを知っているか? 戦いたくはないか?」


 兵士たちがざわめく。バジリスクは有名なんだな。と言うことは竜もいけるな。


「伝説の魔獣がいるというのか!」


 ハマンは声を荒げた。


「竜もいるぞ?」

「竜……だと」

「特別に見せてやる」


 インベントリから竜の鱗を一枚出す。30センチ四方もある緑色の鱗を投げる。

 ハマンは視線を俺から外さずに鱗を受け止めた。


「ほう? 実物を見るのは初めてだが、これが竜の鱗か? ふむ、しかし本物でなくとも桁外れの素材だということには違いはないな……小僧、なにが望みだ?」


 あら? 落ちた? チョロいなおっさん。


「俺は迷宮に巣くう魔物を退治して宝を奪う冒険者を育てたい。それを手伝って欲しいだけだ」

「ぼ、冒険者だと、なんだその心をざわつかせる呼び名は、いや体が熱くなる響きは」


「ハマン隊長、お気を確かに」


 兵士たちが動揺しているな。そりゃそうか。


「この街の臨時政府代表に同じ話をするために来たが、ハマンが力を貸してくれるのならこの場は引いてもいい。冒険者ギルドを設立して純粋に力を欲する高潔な冒険者を育て上げ、迷宮攻略ギルドに送り込んで欲しい」


「お、おおお。冒険者ギルド、冒険者ギルドか。高潔な冒険者を育て上げるのか」


 この世界にはあれか娯楽が乏しいのか。冒険をするにもただの生存生活になってしまい、過去の遺産もなければ宝を守る魔物も敵対する魔族も存在しないのかもしれない。


 ただひたすら生きるのみ。

 娯楽性に欠けているからこそ、物語に登場する冒険活劇的人生に憧れているものが実は密かに大勢いるんじゃないか? 


 皆が求めているのかもしれない。

 迷宮というエンターテイメントを。


「副長! こいつらを通せ、ギゼル宰相に面会許可を申請しろ」

「ハマン隊長!」

「違うぞ副長、先ほどの命令が俺の最後の命令だ、俺は今から冒険者になるのだからな」


 うははははとハマンは豪快に笑った。

読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

ブクマ、評価、ありがとうございます。大変、励みになります。

では、失礼しまして。

もし、気に入っていただけたり、続きを読んでみたいと思われましたら、ブックマークとこの下にあります評価の入力をお願いします。(評価感想欄は最新話にしかないそうです)

感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。

よろしくお願いします。

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