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第31話 なかなか手に入らないドラゴンステーキ


 002


 帝国なんたら隊が蠢動しようが俺達が迷宮攻略の手を緩める理由にはならない。

 適度な緊張と適度な楽観で今日も迷宮に潜る事にする。


 第四層は竜の層だ。

 全長5メートル近い竜のデカイ図体に合わせて迷宮もデカイ。

 そもそも第三層は元々フィールド状態からのスタートだった。

 だから迷宮内の第四層に険しい山々がそびえ立っていようが今更驚くことはない。

 うん、驚くことはないさ、呆れるけどな。


 それぞれの方向にそびえる山に住まう主を倒すことで手に入いる竜討伐の証を9つ集めるとボスに辿り着けるという仕様に従って黙々と竜を狩るお仕事だ。


 今までの層とは毛色が違い、魔物は竜のみで、つまりボスしか存在していない。また、ボスを倒しても迷宮の成長のインターバルはなかった。


 イージーモードなので初心者にも優しく、竜のいる場所に入山するためにはひとつ前の竜の討伐の証が必要のため、いきなりラスボスに遭遇するとかいう事態には陥らないから安心だ。

 便宜上、レベル1の山だけが、証なしでも入れる。


 各山の竜は当然、リポップとなっている。つまり竜は何度倒しても甦るからボスへの道が万人に開かれているが、逆に討伐の証を獲得するためにボスとの戦闘が不可避になった。

 第四層が一本道扱いの通路型でなくて本当に良かった。竜と10連戦なんて冗談じゃないからな。


 最初は1メートル程度だったのでまだマシだったが、山をひとつ制覇する度に大きくなり、今対峙している奴など5メートルだ。菊千代の見立てだから間違いないだろう。


「うはあ、ここまで大きいと現実感がなくなりますね、先輩」


 三層のボスドロップで手に入れたビジネススーツに身を包んだ戦うOL姿の西川が大層な名前の槍を片手に呆れた顔をする。後輩も2年たって24歳。体は小柄のままだから子供が背伸びをしているようで微笑ましい。


 竜は物語に出てくるテンプレートに添っているのかご多分に漏れず強さがピカイチなのだ。


 全魔法耐性、物理耐性、バッドステータス耐性を完備した優れもので、本来ならドラゴンスレイヤーを手に入れるクエストを見逃したのかと悩む場面だぜまったく。

 魔物の頂点を半分もいってない迷宮に出現させるとかこの迷宮はバランスというものが分かっていない。


 だが、同時にそれが懸念事項でもある。

 魔物を倒す簡単な迷宮攻略終了のお知らせのような気がするからだ。


 真面目に魔物を退治していればやがて辿り着ける終着点ではダメだと迷宮が悟りを開いたに違いない。体の強化の次に来るのは、やっぱりねぇ。次の層が心配だよ。

 菊千代の話でも、この馬鹿馬鹿しい迷宮育成が他所でも5層付近で行き詰っているという話だしな。


 つまらない考え事をしている間に、イッカの一閃が竜の左の前足を叩き斬った。

 四足歩行タイプの竜なのでバランスが一気に崩れる。

 相変わらず爬虫類系で分りにくいけど竜のあれは明らかに焦っている顔だ。

 物理耐性は? なんで切れるの? とか思ってるんだろうな。


 気持ちは分かる。華々しく登場してさあ戦闘だという場面で一撃入れられたら手がなくなってましたとか笑えないよな。


 でもそれも仕方がない、アナライズで見える竜のレベルは迷宮に合わせて39。イッカと比べると半分以下だ。更に一閃用に技術と力と速さにステータスを特化させている一撃が入ったのだ。


 苦し紛れに放って来たブレスを防御スキルで防ぐ。

 竜の尻尾にチクチクと矢が突き刺さるのが隙間から見えた。


 パーティーメンバーの前には滅多に姿を表さない仲間、人見知りシルヴィの陰険攻撃だ。竜の注意が向くとさっと姿を消す。


 視線が外れたところに待ってましたとミコの風魔法が炸裂。

 竜が痛そうに咆哮をあげた。

 次は右後ろ足だ。


 降伏してくれれば休憩が取れるのに。

 能力の差が明らかなのに逃げるアルゴリズムはないらしい。

 ミコの魔法は物理ダメージ系に絞っている。風の魔法で鱗をバキバキ破壊している。


 竜は、え? あれ? 俺って全魔法耐性持ってるよね? という表情だ。

 それも仕方ない。ミコのレベルも同じく86。更に攻撃魔法系スキル特化にステータスはあげられている。魔法無効スキルならいざ知らず、耐性程度では防げないのだ。


 12歳になり子供の雰囲気から脱した少女は強く美しく育った。元々境遇から大人びた性格をしていたが更に大人に近づいている。成長を見守る兄や父親のような心境で感無量だ。

 リセットして若返った現在は俺と比べるとひとつしか違わないけどな。


 ダメージの蓄積で動きの鈍くなった竜をユウの弓が一点集中で右後ろ足を狙い打つ。

 竜はもう涙目だ。


 その10歳になりたての小娘もレベルは86。物理攻撃耐性なんかでは防ぎきれない。一発のダメージはそれほどではなくとも補う連射がじわりじわりとHPバーを削っていく。


 生活が安定してからのんびりと育ったユウはおっとりとした雰囲気を持つようになった。暇さえあれば、うとうとしているからよく猫人族と間違われている。可愛らしくて大変よろしい。


 てくてくと歩いて竜に近付いた西川が右前足の先にざっくりと槍を刺して足止めする。分厚い竜の足も鱗も関係ない。

 死に体の竜に続けて犬人族のワンコが飛び出した。後に9人が踊るように散開して10連撃の波状攻撃だ。


 ブレスを吐く体勢になったのでそっと近付き首に一撃を喰らわせてブレスをキャンセルさせる。

 遠距離攻撃に近い、半魔法の剣圧を飛ばすスキルソニックブームだ。身長が縮んでからは重宝している。

 動けない弱りきった竜は焦った顔だ。


「うんうん。よく頑張ったよコーキくん」


 戻るとウサコが慰めるように頭を撫でてくる。

 リセットしてからは過保護に扱われて前に出るのをそれとなく止められるのだ。

 見た目が小さいから、ハラハラするらしい。


 空気を読み防御に徹して、危険な場面があったらすぐに助けに入れる様に控えてはいるものの控えているだけで終わる日のほうが多いくらいだ。

 今日は一撃入れられたのでマシな部類だな。


 初期段階の竜はかなりてこずらされたがひとつ前くらいから戦い方が熟知され洗練されてきた。

 無理に先に進まず繰り返し竜を討伐して鍛えた恩恵だな。

 最終ボスを前にいい傾向だ。レベル上げと訓練はこれくらいでいいかもしれない。


 三層のラスボスの吸血鬼といい、今回の竜といい、攻略速度は伸びる一方だったが、ようやく次で四層も終了という所まで来た。


 お前ら張り切りすぎだよ。

 竜のHPバーが消えた。

 竜は最後の咆哮を上げて弾けとんだ。

 第四層レベル9をクリアだ。


「また鱗と牙と爪だね」


 ユウがつまらなさそうに唇を尖らす。


「噂のドラゴンステーキはまたお預けですか」


 西川も唇を尖らす。

 ドラゴンの肉は食べてみたいので西川の気持ちがよく分かる。


 竜との対戦のドロップアイテムは全て鱗と牙と爪だった。ちなみに宝箱は竜の討伐の証だ。

 定番なら竜の鱗と牙と爪なんて超超レアアイテム扱いで大金が手に入ったり、武器防具が仕立てられたりするはずなのに、迷宮内ではそれらのイベントは残念ながら起こらない。


 まず、貨幣が流通していない上に引き取ってくれる道具屋もない。影響を考えると、さすがに竜のドロップ品を街に卸す訳にはいかないからな。あーでも、国家と一戦交えるなら売ってもいいのかな? いやいや、どの程度の素材か分からないが敵方に売るとかあり得ないか。


 鍛冶師もいない。

 ある程度の防具くらいなら工作スキルでどうにかなるが、本格的なものは作れない。

 街で手に入れる防具の見よう見まねで精一杯だ。

 こればかりは本職を雇うしかないんだよな。


 攻略は見た目ほど順調ではない。

 問題は、もう見えている。


 翌日、俺の家には主だった者が集まっていた。


 鬼族からイッカとリッカ、それからシロウ。

 猫人族からシルヴィ。部屋の隅でぷいと顔を背けている。来るのが本当に嫌だったんだな。それと、クロ。


 犬人族からワンコ。

 兎人族の三姉妹。内二人は相変わらず扇情的な服装で眼福だ。


 そして、俺と西川。ミコユウの姉妹は雑用係として控えている。

 迷宮攻略ギルドの幹部の集まりだ。


「皆さんに集まってもらったのは他でもありません」


 イッカに目を向けて続きを促す。


「はっ。先日、帝国警備隊なる人族の不逞の輩が我が主様の支配領域である迷宮に対して明け渡しを要求して参りました」


 美女は怒っている顔も美しいな。


 帝国警備隊の二度目の来訪は、10日後で、10名の完全武装で現れた。

 次は分りやすく明け渡し要求だった。

 イッカが軽く一捻りして追っ払っている。


「今後も妨害工作は続くかとおもわれます」


 イッカが俺を見る。


「そうですね。迷宮の存在が入口だけとはいえ露見した以上詮索は続くでしょう。だからといってこちらが相手の動きに合わす必要はありません」


 こくこくと皆頷いている。境遇の差こそあれ搾取され虐げられていたものが大半なのだ。力をつけた今、理不尽に対して抗わない選択はしない。


「幸い、昨日の竜討伐で迷宮の影響力範囲が南の街全体をカバー出来ました」


 ウサミとウサヨに適当なスキルを使用してもらい調べてもらった。

 平行して迷宮攻略を続けていたもうひとつの理由がこれだ。迫り来る敵を迷宮から追い払い続けても手間が増えるだけだ。元を断たないといけない。

 強くなったと言っても、俺達の強さなんて迷宮頼みだ。


「そこでだ」


 あえて口調を変える。

 少し間を置くと皆が緊張した。ウサコだけは目を輝かせていたけどな。


「いちいち相手をするのも面倒なので、こちらから撃って出ることにする」


 総勢100にも満たない小集団が国相手に反旗を翻すとか想像もしていないだろう。不意打ちにもほどがある。

 だが、どよめくものなどいない。


「兎人族の二人は変装して街に潜入して情報収集。特に帝国警備隊の本拠地と規模、南の街の為政者の情報を必ず押さえてくれ」

「わかりましたわ」

「わかったぜ」


「シロウ率いる工作部隊及び衛生隊は橋頭堡確保のための拠点設営と食事の準備、それから道の確保を頼む。迷宮の入口から街に繋がる道を開いてくれ」


 イッカが何か言いたげだったので手で制しておく。言いたいことはわかってるつもりだ。


「承知」


「犬人族ジュニアはシロウ達の護衛に残す」


 ワンコが頷く。一応不殺で行くつもりだけど子供にはあまり見せたくない場面があるかもしれないからな。


「シルヴィ率いる部隊は遊撃だ。伏兵として隠密に追従してくれ」


 シルヴィに目を向けるとぷいと横を向く。多分了承なんだろう。


「本陣には、僕と西川、イッカ、ミコとユウ、ウサコ、それからワンコが率いる犬人族部隊が同行。後詰めにクロの率いる猫人族。先陣はリッカの部隊だ、思う存分暴れてくれ」

「畏まりました」

「任せろ!」


「シロウにはご老体と共に迷宮の守護の指揮も任せる」

「承知しました」


 攻め込まれることはないけどな。


「宜しかったのですか?」


 解散したあとイッカが聞いてきた。道の事だろう。


「構わないですよ」


 道を開けば数で勝る帝国警備隊が進軍しやすくなる。少数である俺たちにとって各個撃破が基本の戦略にしては愚策だろう。


 だが別にいい。

 道はすぐに必要になるから前倒しで造るだけだ。道があろうがなかろうがどうせ攻めてくるのだ。まとまってくれていた方が効率よく殲滅できる。例え侵入されたとしてもだ。


 デモストレーションにもなるので精々派手にいくさ。


 まあ、死体や手足が散らばる戦場跡で土木作業をさせたくないし、無論自分でもしたくもない。

 もっとも、攻め上がられるつもりも予定もない。


「はっ。主様の深慮遠望に感服いたしました」


 何故か感心されてしまった。身内贔屓というやつだな。


「主様に必ずや勝利を!」


 イッカの目が爛々と輝く。

 いや、多分イージーモードだからそこまで張り切らなくても良いと思うぞ、絶対。


読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

ブクマ、評価、ありがとうございます。大変、励みになります。

では、失礼しまして。

もし、気に入っていただけたり、続きを読んでみたいと思われましたら、ブックマークとこの下にあります評価の入力をお願いします。(評価感想欄は最新話にしかないそうです)

感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。

よろしくお願いします。

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