第30話 事の露見
誤字を修正しました。報告ありがとうございました。
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迷宮攻略ギルドに所属する、わずか69名で王国軍帝国軍合わせて5万に挑んだ戦いの始まりは、迷宮攻略開始から二年の歳月が流れた、ある暖かいお昼過ぎに始まった。
後で聞いた話から推測すると、きっかけは些細な出来事だ。
王国に恭順の姿勢を見せていた宗教施設が、帝国に対し不敬な言動があったと因縁をつけられて襲撃を受け壊滅。
逃走した関係者を拘束するために帝国警備隊が出動することとなった。
帝国警備隊などと大層な名前が付いているものの末端はただの略奪者集団だ。森へと逃げた若い女信者を犯す目的で追いかけている最中に警備隊の二名が森で立派な門扉を発見した。
報告を受けた上司は鼻が利き、たまに街で出回る珍しい果物や毛皮に何か関係するものと当りをつけ、これは儲け話だとほくそ笑んだらしい。
「主様、迷宮外歩哨より連絡がありました。面会者が現れたとの事です」
鬼人族族長イッカが恭しく告げる。
出会いから2年が経ち鬼の族長は24歳、元々美しかった美貌は磨きがかかり、迷宮攻略という困難と修羅場の経験でレベルは86に到達。
凛とした佇まいには既に王族や貴族の風格をもたらすに至っている。
「またか、今度はどこの種族の何様ですか?」
西川に倣って草原でゴロゴロと転がっていた俺は体を起こす。
もたれ掛かっていた猫人族の子供がビックリした様子でキョロキョロと首を降っているのを見てイッカが僅かに微笑んだ。
迷宮第一層は、少し成長したちんまい猫人族が走り回る元気な声で賑わっていた。
二月に一度は森のお貴族様が声をかけた話に割り込んで勘違い野郎がやってくる。
迷宮に戻って以来、訪ねて来るのは屑ばかりだ。
ワンコ達を支配していた犬人族の男のような弱者を食い物にする輩が、どこで仕入れたのか迷宮の甘い汁を吸おうと、あの手この手で絡んでくるのでいい加減辟易している。
配下の種族たちの伝で定期的に勧誘を続けているが相変わらずの慢性的な人手不足で常時人員募集中とはいえ組織を瓦解させそうな人材は願い下げなんだけどな。
「人族のようです。帝国の警備隊と名乗っています」
おっと、ついにおでましか。
兎人族姉妹の伝手で雇った行商人を通じて迷宮産品を街に流している以上いずれ足がつくとは思っていたけど、いざ直面すると面倒さが半端ないな。
「追い払いますか?」
イッカが明らかに乗り気ではない俺の態度を察して姿勢を正す。
美しく勇ましい佇まいに惚れ惚れしていると視線に気付いたのか赤面してあわあわしていた。
ギャップが大変可愛らしい。
「余計面倒になりそうですから却下です。わかりました、会うことにします」
物陰で気配を殺している猫人族のシルヴィに聞こえるようにはっきりと言葉にする。
いつの間にか陰で蠢動する暗殺部隊みたいな護衛任務についている人見知り猫人族の娘は、気が利きすぎて先回りという空回りの達人なので要注意だ。
おとなしくしていろよと目で伝えるとぷいと横を向いた。二年も経つのに変わらないやつだ。
草むらで大の字になって眠っている女子力の低い西川に眠そうな猫人族の子供を乗せておこう。
わりと温暖な気候の第一層とはいえ風も吹く。シャツと短いタイトなスーツスカートというOLのいでたちをした西川の毛布代わりになるだろう。
イッカと共に少し足早に出口に向かっていると、迷宮攻略に出かけるのだろう鬼人族の第一部隊と遭遇した。特攻隊とか喧伝している痛い部隊を率いるのはイッカの弟のリッカだ。
「おう、コーキ、てめぇまた性懲りもなく姉貴に色目を使ってやがんのか張り倒すぞコラ」
相変わらずの憎まれ口に苦笑がもれる。
イッカが慌てて間にはいってきた。
「リッカ、主様に無礼な振る舞いをするなら張り倒しますよ?」
誰か早く迷宮ドロップでシスコンに聞く薬を拾って来てくれ。
ガーガーがなっているバカを無視して副長に攻略箇所を聞くと第四層のレベル4だと返ってきた。
挑み始めて二週間目になるらしい。てこずっているみたいだな。まあ、それもやむなしか。
第四層は竜の層だ。数が少ない分個体の強さが強烈で中々攻略が進まないのも頷ける。
バカ鬼を含めた特攻隊もレベルは70に乗せている。それでも竜の壁は厚い。
健闘を祈ろう。
迷宮から出ると胡散臭い笑顔な親爺としかめ面の若い男二人が待ち構えていた。
軽装とはいえ鎧姿で帯剣している。
「何かご用ですか?」
想像していたより小さな子供が出てきたためだろう戸惑っているな。
ぞんざいな口の利き方に若い方が「おい」と凄んでくるのを親爺が止める。
「我々は帝国警備隊のものだ。この門の向こうに容疑者が逃げ込んだという情報が入ったので中を改めさせてもらいたい」
親爺が笑顔を絶やさずにしわがれ声でそう言った。
管理者権限で許可のない者の出入りは不可能なので十中八九デタラメだが門を行き来する仲間が容疑者扱いされている可能性もある。面倒だが仕方ない、相手をしよう。
「容疑者ですか? どのような容貌ですか?」
「若い女だ、神官を名乗る異教の信徒だ。詐欺師まがいの奇跡の術を見世物にして人心を惑わす邪教の女で大変危険だから早めに捕縛したいのだ」
なんというかそれらしい単語を並べてきたけど具体的なものは何もない。
因縁をつけにきましたと言っているようなものだぞ、それ。
「イッカ」
「はっ。そのようなものは主様の領域にはおりません」
「だ、そうですよ。ガセ情報でしょう。ご苦労さまです」
「いやいや、変装の得意な女なのだ。私どもが見れば一発で見破れる。なに手間は取らせぬ短時間で良い」
しつこいな。
「見かけたら知らせます。イッカ、名前を聞いておいてください」
「畏まりました」
踵を返そうとすると若い男が怒鳴ってきた。
「おい、小僧! ここは帝国領だぞ? 俺達は帝国警備隊で帝国の秩序を守るものだ。お前達に拒否権などあるか! いいから早くここを通せ。さもなくば捕縛するぞ?」
「抵抗するものに容赦はしないぞ!」
剣の柄を叩いて音を立て威嚇してくる。
はいはい。女子供だと思って舐めてやがる。
国家権力か。面倒なやつに目をつけられたな。今は個人で動いているみたいだが。
いや待てよ?
「大変危険な容疑者だと言いましたね?」
「そうだ。我々はお前達を守るために言っているのだ」
親爺は厭らしく笑う。うわこの親爺イッカを舐めるように見ていやがる。リッカにぶっ飛ばされるぞ。
「ならば何故そんな少人数なのでしょうか?」
一瞬、三人は言葉をつまらせる。
「ん、な」
「そ、そんなことはどうでもいいだろう!」
できるだけ鷹揚に映えるように腕を組む。
「……帝国警備隊のどこの支部の方でしょう? 何隊ですか? 一度上役の方とお話したいのですけど?」
「小僧!」
親爺の顔から笑みが消える。
「帝国警備隊の仕事は結構ですけどやっていることは強要紛いでしかも何の証もないのですよね? 言うことはちぐはぐですし。とても公務での行動とは思えません。だから上役に真偽を問いたいのですけど? それも許されないのですか? 帝国警備隊がそれほどの権限を持っているとは初耳です」
はったりに、ぐぬぬと親爺は顔を真っ赤にする。
「こいつらを捕縛しろ!」
「へぇ? 何の容疑ですか?」
「我々に逆らい帝国に対する反逆の意思ありだからだ!」
「あなた方に従えないのは証もなく強要紛いの行動に出ているからですよ。それを反逆の意思ありと断ずるあなたは帝国でどの程度の重鎮なんですか? あなたの言葉を通すには最低限為政者くらいの地位が必要だと思いますよ」
親爺はタコのように赤くした顔で睨み付けてくる。
おや、案外建前上は法を守ろうとするんだな。問答無用で斬りかかってくるのかと思ったんだが。
甘い汁を吸う為にどの程度俺が関与していて利用価値があるのを見定めているのか?
強気なのか弱気なのか分からない奴だ。
見た目が子供だから軽く見てるんだろうけど。
どちらにしろ小遣い稼ぎがしたい小物らしい。人数が増えて分け前が減るのが嫌なのだろう。
「小僧っ」
「減らず口を叩きやがって」
若い方が我慢できなくなって抜刀してきた。
すっと音もなくイッカが俺の前に移動する。
それだけで距離を詰めようとしていた若い男達の剣はへし折られた。見えもしなかったのだろう。
アナライズで見えるレベルはふたりとも3だ。話にならないほどに弱い。
「なっ」
「ひぃっ」
「主様に対する無礼はこのイッカが許しません」
こんなバカどもを受け入れることは当然出来ないが拒絶することで騒動は大きくなるだろうな。
しりもちをついて後ずさる帝国警備隊を見下ろしながら面倒なことだと溜息が漏れる。
まあ、いずれ訪れた事態ではある。ここは気持ちを切り替えるか。
捨て台詞を吐きながらほうほうの体で離れていく三人の後姿を眺めているとイッカが心配そうな目を向けてきた。俺は首を振る。始末をして口封じをするのは容易い事だが殺人に対するタブーは俺から抜け切っていない。軟弱と言われようと受け入れるさ。
最悪、迷宮に篭る事で世界を切り離すという最終手段があるから別に手詰まりということではないからな。
第四層程度で足踏みをしている現状の打破に必要な選択の時期がきているのかもしれない。
「衝突は避けられそうにないですね」
「申しわけございません」
「ん? イッカのせいじゃないですよ、気にしないでください」
イッカが頭を下げる。
この機会に迷宮攻略を前進させる手を打たせてもらうとしよう。
無人島や未踏の地じゃない以上いずれ露見は免れないんだ、せいぜい利用させてもらうさ。
迷宮に戻ると、西川に猫人族の子供達が群がって一緒に寝ていた。
ホンの悪戯のつもりだったんだが、はい、すいません。イッカの視線が痛い。
だが、あったかい子供達にくっつかれた西川は幸せそうなので放置でいいだろう。
大変、和む光景だし。
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