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第3話 攻略開始

誤字を修正しました。


 003


 どうも俺達が横たわっていた側にある崖にあいた横穴が迷宮の入り口だったらしい。


「いざ冒険に出発とかわくわくしますね」


 白シャツにタイトスカートにパンプスの女子と、ワイシャツにスラックスに革靴の男性のふたり組みだ。仕事帰りにアミューズメント施設にでも立ち寄った格好なので装備的には気分は出ていないがな。

 俺の順応性も大概なものだと思うが、西川も大したものだな。

 俺の説明を疑うことなく屈託のない笑顔でにこにことしてやがる。


「ご理解いただけたでしょうか?」


 菊千代がドヤ顔だ。

 確かに、俺が一方的に好意を抱いているだけの相手なら悲鳴を上げて逃げ出していてもおかしくはない。頭のおかしいやつと認定される場面だからな。


 高さは2メートル程度。幅も2メートル程度の洞窟だ。

 入り口付近は明るいが、中は当然薄暗い。

 さすがに不安なのか西川が緊張した顔つきで寄り添い腕を取る。おい、胸を押し付けるな。こいつ意外と余裕あるんじゃないのか?


「菊千代、ダンジョン攻略に定番の松明とかないけど大丈夫なのか?」

「先輩、何度も言うようですが、名前で呼ぶことを許していませんよ?」


 西川が腕をつねってくる。どれだけ名前が気に入っていないんだこいつは。


「いや、お前のことじゃない。まったく、ややこしいな」


 これは早めに何とかしないと先が辛い。

 こう、ゲームみたいに思念を読むとか出来ないのか、菊千代。


「無茶を言われても困ります。ゲームじゃないんですから。大体、殿方の思考駄々漏れとかこの菊千代に対するセクハラですか? 一条様はそのようなご趣味があるのですか?」


 お前、プログラムとか言っていたわりに人間臭い考えだな。

 菊千代に話しかけるのは小声にしておこう。問題の先送りかもしれないが。


「それはともかく、松明は不要です。意外とアナクロなのですね一条様は。迷宮内は罠でない限り壁や天井が発光していますので歩行に差し支えはございませんよ」


 言われてみれば確かに微かに明るい。

 あと、魔物の襲撃とかないんだろうな?


「何を言ってるんですか一条様、あるに決まってるじゃないですか」


 先に言えよ。

 言い返す前に魔物とエンカウントだ。


 ぼよよんとさっき俺の手に噛みついてきていた水色のまるっこいやつが跳ねてこっちに来る。しかもデカイ。サッカーボールほどもある。あ、何か琴線に触れた気がしたかと思ったらスライムだ。名前があっているかどうか知らないけど某ゲームに出てくる魔物だ。


「先輩、スライムが現れましたよ」


 解説ありがとうよ、後輩。というかこの落ち着きよう、こいつホントは経験者じゃないだろうな?

 某ゲームでは最弱でも実際には強敵だとか本で読んだことがあるぞ? 大丈夫なんだろうなと菊千代を見ると「ささ、やっちゃって下さい」と涼しい顔だった。

 ポンポンと跳ねて来るぶよぶよは気のせいか嬉しそうだ。お腹すいてるのか? というか俺をエサだと認識してんのか?


 素手で触るのは気色悪いので蹴っ飛ばす。

 我ながら良いフォームで蹴れたと思う。

 ぷよぷよは壁にあたって水風船のごとくびしゃっと音をたてて破裂した。


「弱い方の設定で良かったよ」


 やっつけたのか確認しているとぽんっと音がして、30センチ程の木の杖みたいなものが現れた。


「ドロップアイテムです。遠慮せずに拾ってください」


 菊千代に勧められて杖を拾う。いかにも物語に出てくる先が丸くなった杖だ。魔法でも撃てそうだ。


 → 一条光輝は木の杖を獲得した。


 目の前に文字が流れる。


「基本はドロップアイテムで装備を強化して迷宮の終わりを目指すことになります」


 自らの迷宮を攻略させるために武器を排出するだと? この迷宮は間違いなくマゾだ。

 それでいいのか菊千代。


「いいのかと言われましても困ります。しかしですねぇ、装備がないと先に進めないのではないですか? 近くに武器と防具の店はございませんよ?」


 そうなんだけど。そうなんだけどさ。

 理屈は分かるさ、納得したくないだけだ。


「先輩、おかしいですね?」


 西川が壁を凝視していた。

 おかしいことだらけだから何を指しているのか不明だが、さすがの西川も違和感を覚えているらしい。


「先輩の蹴りは格好良かったのですが」


 顔を赤らめて褒めてくる。そういうのはいいから。何故拗ねたように唇を尖らせる。


「壁に当たった衝撃で破裂するなら、先輩の蹴りで破裂するのではないですか?」


 細かいな。菊千代も微妙に目を逸らしているぞ。


「蹴ったダメージと壁に激突したダメージで破裂したんじゃないか?」

「なるほど! 先輩、さすがですね」


 納得したのでよしとしよう。


「迷宮探索者に強くなっていただけないと迷宮も成長できませんので」


 じやあ最初から強いやつを連れて来いよまったく。

 洞窟を進み10匹ほどさっきの水色の魔物をやっつけたところで白い文字が流れる。


 → 一条光輝はレベルアップ Lv.1→Lv.2

 → 一条光輝は迷宮ポイント20を獲得した。


「おめでとうございます。レベル2になりましたね!」


 菊千代が飛び跳ねて小さな手を叩いて自分のことのように喜んでいる。これはあれだゲームのチュートリアルというやつだ。


「先輩、眉間に皺ができていますけど?」

「いや、気にするな。少し頭痛がしただけだ」

「風邪ですか? 大変です。私が体で暖めて差し上げますね」


 これ幸いと抱きついてくるお前も頭痛の種のひとつなんだがな。


 菊千代、これは一体なんだ?


「なんだと言われましても。レベルアップでございますよ一条様。強くなれましたね」


 いや、そういう意味ではなくてだな。何故ゲームみたいな仕様になっているのか疑問なだけだ。


「分かりやすいと他のブリーダーの方々からも評判でございますよ?」


 俺の感覚が一般から外れているような言い様にそこはかとなく腹が立つが、まあいいだろう。理解した。


「上がったらどうなるんだ?」

「ステータスとスキルを上昇できる迷宮ポイントが付与されます」


 スキル? ステータス?


「そうですね、その杖で素振りをしてみてください」


 西川を引き剥がして、言われるままに杖を振り回していると、白い文字が浮かんだ。


 → 一条光輝は格闘(棒)のスキルを獲得した。


「スキルやっすいな」

「いえ、それは手に入れただけでスキルを有効するためにはスキルポイントを使用するか、修行しないと使い物になりません。ちなみにスキルレベルは種類にもよりますが最高で10まであります」


 知っていると出来るは違うというやつか成程ね。

 基本無料だけど後は有料と。

 あれ? 今修行してって言わなかったか? その言い方だと迷宮ポイントなくともあげられる?


「じゃあ、ステータスというのも」

「お察しの通りです。ポイント使用で上昇させることも可能ですが、ご自分で鍛えて上げることも可能です。ちなみにステータスは1000まで上げられます」


 気を利かせて菊千代は俺のステータスを表示してくれた。

 見事に1桁台の数値が並んでいる。


「見事に平均的で弱々しいですね」


 平和を享受する世界で生きてきた文明人なんだよ、無茶を言うな。

 基準が分からないから何をどの程度上げたらいいのかも分からない。誰か攻略ページを教えてくれ。


「このままだと先が思いやられますのでステータスを上昇させてはいかがですか?」


 普通に失礼な支援プログラムだな。


「いや、何が必要なのか分からないから温存する」


 こう見えて慎重な性格だ。エリクサーはボス戦に温存して結局ゲームをクリアしても使わないタイプなんだよ。畜生、こんな未来が待っているならもう少しゲームに力を入れておけばよかったぜまったく。


「あまりお勧めは出来ませんがリセット機能もございますよ?」

「なんだそりゃ」

「迷宮ポイント1万ポイントで、一条様のスタート地点時のスキルステータスに戻すスキルです。まあ元の状態に戻ってやり直しというやつですね」


 1万ポイントって、いまレベル上がって20ポイントって事は単純に計算してレベル500に達すれば手に入る量だろう。どの程度の速度でレベルがあがるのか知らないが、気の遠くなるほど先の話に違いない。やはりここは慎重に行くべきだな。


「ゲームみたいでわくわくしますね!」


 事情を説明すると西川は大変やる気になった。

 同じようにぶよぶよを10匹倒してパートナーの西川もレベルアップだ。

 仕事帰りのOLの格好で棒を振り回すお転婆ぶりは微笑ましいな。

 ドロップアイテムにチラホラと食べ物が混じっている。面倒だがしっかりと拾っておこう。


「そろそろ洞窟の端でございますよ、一条様」


 菊千代の声に気を引き締める。ダンジョンの端と言えば定番だからな。


読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

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