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第28話 フェレンゲルシュターデン現象


 008


 第三層のレベル8地帯の攻略に必要なのは回復役だ。

 幸い第一層で回復の魔法の書は手に入るようなのでリハビリのリッカとワンコとジュニアに探索をお願いする。


 リッカは「おうよ」と豪快に返事をするとドロップアイテムだろう大太刀を肩に担いで特攻隊の面子と共にのしのしと歩いて行った。


 ワンコとジュニアも手を振って出発する。

 亜人族三人娘も同行させてもらった。ジュニアの中に友達もできたらしい楽しそうに話していて和むな。


 クロにも話を通してソロ活動中の猫人族にも手伝ってもらおう。

 何気に報酬にデカイ鮭を示すと猫人族の目の色が変わっていたからすぐに数は揃うだろう。


 ウサミとウサヨは早速行商人に渡りをつけに行くとのことで街に降りていった。

 よろしくお願いします。


 俺は第三層に初挑戦だ。

 第三層は、事前に聞いていた通りのフィールドタイプの迷宮だった。

 遠くに城のようなシルエットがある。あれがラスボスの居城かな。


 レベル1地帯は草原だ。

 右手も左手もすぐ向こうに森が見えている。


「真ん中は切り立った崖になっています。進入は難しいでしょう」


 イッカが説明をしてくれる。

 左がレベル2地帯、右がレベル3地帯との見解だ。

 判断の根拠を聞くと、左は壁になっていて先に進むことが出来ないらしい。

 フィールドとはいえ一本道で蛇行のように進んでいくらしい。


「斥候のシルヴィが亀を発見しました」


 イッカが空に飛ばされた二つの石を見て報告する。コミニュケーション不足のシルヴィだけど、ハンドサインや合図は得意なのだ。

 草原は所々に凹みがあり大体魔物はそこで待ち構えているらしい。


 俺達は石の飛んだ方に進む。

 シルヴィが亀に矢をいかけていた。

 2メートル近くある亀が眠そうな目で威嚇してくる。甲羅も固そうだけど皮膚も分厚いらしくシルヴィが牽制で放つ矢は弾かれている。


「亀は甲羅が硬く刃も矢も通りません。ですが腹が弱点です」


 イッカが続ける。


「攻撃は水を放ってきます」


 ずばんと濡れたタオルを叩きつけたような音がすると、シルヴィがいた辺りの地面が抉れていた。


「意外にすばしこさがありますが、所詮亀です。また、死角も多いので相手をするのは然程難しくありません」


 でもお腹が弱点と言われても、相当重そうな亀を引っくり返すのは不可能じゃないか?

 ユウがレベル10矢の嵐を放つと亀は敏感に反応して甲羅に首も手足も引っ込める。

 どすどすと100本の矢が降り注いでいるうちにイッカはミコに頷く。


「ひっくり返す必要はありません」

「ファイヤーフレイム!」


 ごおっと中華料理店の厨房のような焔が亀を包み込む。


「下から焼けばいいのです」


 ああ、確かに。地面の下から立ち上る焔が亀のお腹を焼きつくしていく。

 身動きのできない亀はそのままHPバーを全損させて光の粒子になった。

 ドロップ品の中にえんぺらという肉があったのはご愛敬だな。


「縄張りに入らないと攻撃はしてきませんので普段は無視して進んでいます。しかし、森の出口を陣取る主を倒さないと先には進めませんので、一応主様にお見せしました」


「ボスも亀なのですか?」

「はい、巨大な亀です」


 亀も5メートルとかを超すと一気に現実感がなくなるな。

 縄張りに抵触しない距離からの矢の嵐の牽制とファイヤーフレイムのコンビ攻撃で亀は撃沈した。


 レベル2を飛ばして3地帯だ。

 森に入ると杉が規則正しく並んでいた。

 木の下の方は葉がなく、枝も葉も頭上にしかないので手が届かない。


 花粉症が大変心配だ。


 前方からの飛来物に、危機察知が反応する。しかし、俺が動く前に右側はシルヴィの投げた石礫が、左側はイッカの一閃が弾き返した。

 確認する暇もない。


 杉林の魔物は鼻の長い赤いお面を被ったような天狗だ。複数体いる。索敵しただけでも20だ。

 迷宮攻略の速度が落ちた原因のひとつだな。


 通路という閉鎖空間の中では対峙する魔物の数と方向がある程度は絞られたが、遮蔽物のないフィールドでは、数で迫られると少数では太刀打ち出来ない。

 特に近接と遠距離が混ざった攻撃をされると簡単に足止めされる。


 勝てないわけではないが時間がかかる。

 迷宮も成長しているということだ。

 魔物側にも工夫が見られるんだからな。


「どうしました、主様」


 イッカが苦虫を噛み潰した顔をしているであろう俺を見て心配そうに体を寄せてくる。


「そんなことを考えているときもありました」

「は?」

「いや、気にしないで下さい」


 天狗が散開すればユウとシルヴィの放つ矢が次々と落とし、密集すればミコの広範囲魔法攻撃で焼かれていく。その間、近接で向かってくる者はイッカの一閃と西川の突きが炸裂する。


 ミコのファイヤーボールの効き目が悪いので、水系の魔法に切り替えを指示して、水属性の付与を弓に行うと更に時間は短縮された。


 ミコとシルヴィが「あれ? もう終わった?」と不思議そうな顔だ。


「さすが主様です。前まではこの魔物を相手にしたときは小休止が必要でした」


 イッカの顔が興奮で赤い。

 シルヴィと西川が競い合うようにドロップアイテムを拾っている。

 遠距離で止めをさした場合は拾いに行くことが必要だからな。


 30分の戦闘が俺の指示で20分に短縮されたのならば胸を張ったよ。

 でも3分の戦闘が2分に短縮されただけだ。SPの無駄は省けたけど。

 お前ら強すぎだよ。足止めとかになってないよ。玄人っぽく分析した自分が恥ずかしいよ。


 ドロップアイテムは天狗らしく羽団扇が多い。あとは何故か茄子。天狗ナスの関連かな?


「お肉と相性抜群なんですよ! 先輩!」


 ナスだからな。しかし、ナスと言えばごま油が欲しくなるな。


「おナス……」


 ミコとユウはナスが苦手らしい。どこの世界でも同じなのかな。

 だが調理方法次第だ。色々料理で実験していずれ美味しく食べてもらおう。


 大量にナスを抱えた西川を見て攻略速度が落ちた理由を知ることが出来た。

 別に西川が食い意地を張っているというわけではない。

 単に荷物が邪魔になるのだ。


 迷宮を攻略をする者にとっての目的の大半は、物資調達だ。リッカの様に先があるなら先に進むという猪突猛進タイプもいるにはいるが、呪いで休養していたから開拓者がいなかったんだろうな。

 うん、リッカが複数いるとか勘弁して欲しい。


 手に入る物資が行き渡れば無理に狩る必要もない。

 荷物になるからとドロップアイテムを放置してまで先に進むほど飽食やモノあまりの時代でもない。

 生活に密着しているからこその攻略速度なのだろう。


 俺は菊千代に目を向ける。


「これで問題ないのか?」


「一条様、迷宮育成にタイムリミットなど存在しませんので問題などありませんよ? 速度を気にされるのはブリーダー様の事情という部分でございますので」


 早く帰還したいと願うから速度が遅いと考える。

 料理本を広げ始めた西川を見る。お前、こんな所までその本を持ってきているのか。

 そっと西川にも聞いてみる。


「だから先輩、前にも言いましたけど、私はここで先輩と一生を添い遂げても問題ありませんて。先輩こそどうなんですか? まさか、早く帰りたい事情でもあるのですか? 主に女性関係で」


 何故そんな幅の狭い理由を気にするんだよ。そんなものはない。だから唇を尖らせるな。


 俺は別にこの世界でスローライフを送りたいと思っているわけではないが、急いで帰らなければならない案件が溜まっていると言う訳でもない。

 大迷宮に育て上げられた例もないらしいので時間的な予測もたっていない事だしな。


 慌てて帰りたくないわけではないが、帰った後の処遇は気になる。

 なにしろ今の状態だと帰還できても子供からやり直しだぞ? 御免こうむりたい。


 まあ、デタラメイージーモードのやることだ、この世界で10年たったからといって帰還する世界が10年たっているとも思えない。上手いこと調整して欲しいと切に願うね。


「ふは」


 西川とシルヴィの拾ってきたドロップアイテムを手をかざしてアイテムボックスに収納するとウサコが目を丸くした。


「あ、そうでした。先輩がいると荷物を分担しなくていいのでした。何気に便利です」


 俺は荷物持ちか。

 しかしまあ、荷物もちという役割の専門職も多少読んだ物語でも登場していたので必要なものなのだろう。

 いや、ウサコ。手を叩いても何も出てこないからやめてくれ。


「拾い終わりましたので、先に進みましょう」


 イッカの号令で進軍は再開された。


 第三層のレベル8地帯は半分が水辺だった。

 遠目にでかいタコの頭部を持つ体にはキンキラの何かを袈裟懸けにしている魔物が見える。

 思わず西川を見てしまう。


「だって蛸坊主じゃないですか」


 確かにそうだけど。なんだその直訳しましたみたいな表現は。蛸みたいに唇を尖らせるな。

 蛸が坊主の格好をしている魔物を蛸坊主と表現するか普通。

 蛸坊主と言えばはつるっぱげの親父が相場だろう。


「弓や魔法の射程には届かず、接近すると呪いが付与されます」


 イッカが申し訳なさそうに俯く。

 解呪のスキルがあるので試してみよう。


「あ、主様」


 てくてく進むと違和感の後、手が痺れて動かなくなった。


「バッドステータス呪いです。麻痺の症状が固定されます」


 菊千代が澄まし顔で報告してくる。


「ウサコさん、解呪お願いします」

「わかったよー」


 呪いは解けるが、一歩進むと次は視界が閉ざされた。


「バッドステータス呪いです。失明状態が固定されます」


 → 一条光輝は呪い耐性スキルを獲得した。


 視界は暗いのに菊千代と白いログが見えるというのもシュールだな。

 ふむ。一旦退却する。

 ウサコにもう一度解呪をしてもらう。


 SPも無限ではないからいちいち解呪しながら進むのは現実的ではない。


「もう少し進みますと、横の水辺から水の攻撃があります」

「お魚がねぴゅって水を吐いてくるの」


 ユウが楽しそうに報告してくれたので頭を撫でておこう。

 鉄砲魚かよ。更に横から攻撃を受けるのか。呪いで足が止まったところを攻撃とか陰険だな。


 手に入れた呪い耐性の説明は、スキル1で耐性が10%上昇だ。

 5まで上げても半分レジスト。リアルラックがないと無謀に近い。

 だが、ないよりマシなので菊千代にあげてもらう。


 → 一条光輝は派生スキル呪い無効スキルを獲得した。


 いや、もう何も言うまい。

 無言で頷くと、菊千代はスキルを上げた。


「あ、主様?」


 イッカが手を伸ばしてくるのを制す。

 てくてくと進むがさっきの場所でも何も起こらなかった。

 もう少し進むと横から鋭い水の塊が飛んでくる。防御スキルで防ぐ。直撃すると痛いだけではすまない勢いだ。


「あら、平気になったんだね、コーキくん」


 うふふーと感心したようにウサコが笑っている。

 立ち止まり、振り返ると皆、目を丸くしていた。


「あの主様、呪いをどうやって防がれたのですか?」


 一旦戻ると目を潤ませたイッカが熱い眼差しで体を寄せてくる。

 鬼人族は戦闘種族なので強いものに対して好意を持つ傾向があるのだ。


「呪い耐性スキルです」

「さすがです、主様」


 耐性スキルを既に手に入れているイッカの呪い耐性スキルを5まで上げる。

 だが、呪い無効スキルは現れなかった。え?


「菊千代、どういうことだ?」


 まさかユニークスキルだとか言わないよな?


「一条様、どれだけ自意識過剰なのですか……ユニークスキルって、どこかの物語の主人公じゃないのですから」


 菊千代にバカにされた。

 やかましい。顔が赤くなるだろうが。照れた顔に反応したウサコがうふふーと目を輝かせている。


「おそらく前提スキルが足りないことが原因だと思われます」


 ああ、なるほど。前提に必要なスキルが複数のケースがあるということか。

 年齢制限で上げられないステータスや一部のスキルがあって悔しいから上げられるだけ上げたスキルの中に偶然前提スキルがあった可能性があるな。


 話しぶりから菊千代が把握しているわけではないということは、ひとつひとつ調べていかなければならないということだ。面倒な。


 渋る西川に呪いを受けさせて耐性スキルを上げる。


「目がぁっ! 目がぁっ!」


 派手に騒いでいるが、お前の呪いは麻痺だバカ。


 後は地道に俺の持つスキルで関係がありそうなものを勘で上げることにするか。

 ポイントの浪費も甚だしいが仕方がない。

 それに西川ならスキルを不正に使ったりしないだろう。


 事情を説明すると西川は首を傾げた。


「先輩、といいますか、無効と言えばあれじゃないですか? 精霊さん」


 二層の若木にまとわりついていた精霊を思い出す。何もかもが無効化された嫌な思い出だ。

 なるほど、一理あるな。


 試しに西川に精霊を意識して見てもらう。

 西川が精霊認識スキルを手に入れたのでさくっと上げると、呪い無効スキルが現れた。


「どうですか、先輩」

「当たりだよ」


 ふふんと鼻息を荒くする西川にイラっとするが、功績をあげたんだから我慢しよう。

 さて、ここからが問題だった。


 俺や西川は精霊という未知の存在について、この世界のものではないがある程度は知識があった。

 しかし、イッカを含め、ミコユウ、ウサコについては、精霊の何たるかを説明しても理解できないのだ。知ることが出来ないものをスキルとして手に入れることは出来ないルールなので、今度絵本でも仕入れて勉強会が必要だな。


「……」


 珍しいことにシルヴィが近くに寄ってきていた。俺が見ていると赤い顔をぷいとそむける。

 銀色のしなやかな髪に、ほぼ初対面のウサコが感嘆を上げてにこにこ笑い出す。


「はじめまして、シルヴィさん」


 ウサコの挨拶にシルヴィはぷいとまた顔をそむける。

 その不器用な態度にウサコは「はうあ、可愛いすぎます」と興奮気味に顔を赤くしていた。はいはい。

 アナライズで確認すると、シルヴィは精霊認識スキルを手に入れていた。なるほど。


 呪い耐性スキルがないので手を引いて一連の作業を行い、見事に呪い無効スキルを手に入れる。

 さすがに猫だ。たしかに猫は偶に何もない空間をじっと見ていることがある。

 もしかして前世界の猫には精霊が見えていたのかもしれないな。


「シルヴィ、呪いは無効になりました。試してください」


 返事代わりにぷいと顔をそむけると、タタタと進む。

 しばらく待っても呪い付与はなかった。


 その時、少しだけ珍しいものが見えた。

 シルヴィが微笑んだのだ。

 そして、走り出した。


「あ、シルヴィ! 一人で勝手に行っては危険ですよ!」


 イッカが叫ぶ。だがすぐにその口はあんぐりと空いたままになる。

 シルヴィは水辺に向かって疾走しはじめたからだ。

 え、そっち? なんで?


 鉄砲魚の水撃を軽くかわして弓を撃つ。

 程なくして、鉄砲魚を倒し海産物のドロップアイテムを手に入れて満足気に戻って来た。

 浅瀬の水程度は気にならないらしいな。猫の癖に。


 欲望に忠実なシルヴィに皆苦笑していた。


 蛸坊主は難なく倒した。

 ドロップアイテムに大量の蛸とどう見てもたこ焼き用のプレートが手にはいる。

 脱力してしまうよ、まったく。


 西川がわくわくした目を向けてきた。

 はいはい。材料が揃ってるのか確かめよう。


読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

ブクマ、評価、ありがとうございます。大変、励みになります。

では、失礼しまして。

もし、気に入っていただけたり、続きを読んでみたいと思われましたら、ブックマークとこの下にあります評価の入力をお願いします。(評価感想欄は最新話にしかないそうです)

感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。

よろしくお願いします。

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