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第23話 オレオレ詐欺

誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

うはー。誤字の嵐でした。お恥ずかしい。



 003


 俺たち5人は森を北上している。


「それで、これからどうするつもりなのかな、コーキくん」


 ウサコがにこにこ笑いながら聞いてきたので俺は短く「北の森に向います」と答えた。

 孤児院を飛び出して万が一追っ手がかかったりすると面倒なので大した準備もなく森に入った俺とウサコの行動に、三人娘は困惑顔だ。


 ミコとユウも語っていた。

 森の奥には人でなしが出ると幼い頃から言い聞かされたと。

 人族以外が人でないという見方ならあながち間違っていない上手い言い回しだと思う。


 俺が出会った種族の者達は人としての道理は弁えていたので除外できるかもしれないが、大半はそうではないのかもしれない。迷宮に集うものは基本弱者で搾取される側だったから。


 子供連れのため休憩を挟みながらだったので3時間ほどで目的の場所にたどり着く。

 ほっと一息だ。

 緊張でこわばり気味だった俺の顔に安堵が浮かんだのか、ウサコはうふふーと笑う。


 迷わずに到着できてよかった。菊千代のナビのおかげだ。今回ばかりは小憎たらしく鼻息の荒いドヤ顔も我慢しよう。


「コーキくん、こんな深いところまで来て日が暮れる前に戻れるのかな?」

「いえ、戻りません」

「森で野宿するのかな? あぶないんだよ?」


 三人の少女もこくこく頷いている。ちなみに左から、髪の長いのがリンで、髪が短いのがシャン、愛らしい軽く髪がウエーブしたのがテンだ。みんな仲良く8歳とのことだ。


「家……小屋があるはずです」

「あらまあ、そうなのね」


 何故か俺を疑うことをしないウサコは軽く頷いたけど、三人の少女はいやいやなんでそんな話を信じちゃうんですかウサコ姉しっかりして下さいという顔だった。

 失礼な嘘なんて言っていないぞ。


 てくてくあるいてすぐ。小屋はあった。ただし、見張りつきだった。


「止まれ!」


 幼い高い声ながらも鋭く言い放ったのは、歩哨を務めているのだろう鬼人族の少年だった。


「うそ、鬼人族?」


 ウサコが警戒して前に出る。鬼人族は戦闘種族だといっていたな。兎人族は狩られる方なんだろうか?

 ウサコは強そうだけど迷宮で鍛えられた鬼人族には敵わないだろう。

 俺はウサコの服の裾を引いて前に出る。


「あー突然来て申し訳ありません。イッカを呼んでくれませんか?」


 少年がぴくりと眉を動かす。あ、しまったつい、いつものように呼んでしまった。


「我が族長を呼び捨て……」


 そこかよ。それよりお前達の代表者の名前を知っているところに気付けよ。それから驚けよ。


「そ、そのような名前の者はいない」

「いや、さっき我が族長って言ったぞ」

「あら、そういえば言いましたよ」

「言った」「言った」「言った」


 鬼の少年は涙目だ。


「イッカがいないなら、西川でも、ワンコでもクロでもシロウでもこの際シルヴィでも、リッカでもいいですよ」


 幹部の名前を並べられて少し鬼の少年は不安になったらしい。顔が青い。もしかしたら偉い人ではないだろうかと思っているに違いない。


「す、少しお待ち下さい」


 そそくさと門に消えていく。


「うわあ、立派な門ですね。あれは何なのかなコーキくん」

「門です。迷宮に繋がっています」

「迷宮……さんですか? お名前にしては変わっていますね」


 時々天然だけど物凄い強いウサコのことだから演技なのかもしれない。

 それ程間も空けずイッカが門から出て来た。よかった迷宮探索中ではなかったらしい。


「また、鬼人族……あの門の向こうは鬼人族の里なのかな?」


 ウサコが首を傾げる。そうとも言えるな。当たらずとも遠からずだ。


 ふむ。一年ぶりに見るイッカは美しさに磨きがかかっていた。いや、なんというか儚げな影をまとう雰囲気に目を奪われる。

 ウサコも同じ事を思ったのか「ふわ」と息を抜くような溜め息を漏らした。


 イッカは目を細めて訝しげに俺達を睥睨する。顔を知っているか確認しているのだろう、美女に見つめられて緊張で居心地が悪い。

 イッカは少しだけ眉を寄せたがすぐに首を振って何かを振り払う仕草をした。


「私が迷宮攻略ギルド副長、鬼人族族長のイッカです。あなた達は誰でしょうか? 見たところ、人族と兎人族のようですが。聞けば、私の名前、またこの迷宮攻略ギルドメンバーの名前も知っているらしいですね。それは、どこで誰から聞いたのですか?」


 イッカにしてみれば気になる所だろうな。

 俺は一歩踏み出して、両足を広げて腕を組んだ偉そうな態度を示した。


「久しぶりだな、イッカ。俺は一条光輝、迷宮攻略ギルド、ギルドマスターだ!」


「貴様……わが主を騙るとは無礼千万。覚悟はいいのだろうな?」


 イッカは腰に差していた刀の柄に手を当てる。

 うーんダメか。あわよくばと考えたけど甘くはないな。

 残念ながら感動の再会の場面にはならなかった。


「菊千代、なんとかならないのか?」

「なるとお思いですか、一条様?」


 呆れた顔の菊千代にジト目を向けられる。知ってるよ。言ってみただけよ。

 というかイッカが本気でかかってきたら俺達なんて数秒も持たずに細切れだ。


「とは言え、我らしか知らないはずの情報を持つという点は気に掛かりますね。もしや間者が?」


 顎に手を当てて考え込むイッカの表情は暗い。


「ま、いい。今ちょっと問題があって門をくぐれないからせめてこの小屋を使わせてくれ、あと、食料を分けてもらえると助かる」


 最初に作った小屋だ。5人だと手狭だけど外で野宿するよりはマシだろう。


「そこは主様の神聖なる御所です、近寄ることまかりなりません」


 なに俺って失踪後に神格化してるの?


「ここ、俺が作ったんだけど……」


「まだそのような世迷言を、少し顔が似ているからといって……。わかりましたいいでしょう、あなたがどうしても我が主様を騙りたいのであれば、私が暴いてさし上げましょう」


 側に控えていた鬼の少年に耳打ちをしている。

 すぐに追い返されないということは希望はあるのかな? 顔が似ているとか言ってたし。


 少しするとミコとユウがおどおどしながら門から出てきた。


「おお、ミコとユウ、さすがに一年もたつと成長したな」


 11歳になったミコは少し大人びたか。ユウはあまり変わっていない。だがふたりともすくすくと育っていて何よりだ。


 え? 誰こいつキモいんだけどみたいな顔をされた。ショックすぎる。とはいえ外見というのは重要だな。誰も俺だと気付いてくれない。背が縮んでいるというのもあるんだろうけどさ。町で確認した顔は小学生のころのモノだったし。


 付き合いの長い姉妹の面通しにイッカは憮然とした表情だ。

 どうせなら西川を連れてきてくれ。同じ境遇にあった後輩なら事情も説明しやすい。


「どうですか、西川殿?」


 不意をうって門をくぐってきた西川を不躾に眺めてしまう。いや、だってな仕方がないだろう。お前、一年もたっているというのにまだOLスタイルなのか、どんだけ気に入ってるんだよ。


 西川は無遠慮な俺の視線に露骨に眉を顰める。ない胸をさっと腕で隠す。いや、胸じゃなくて服を見たんだが。


「先輩はあんなヒョロいエロガキじゃないです。大方オレオレ詐欺の類です、遠慮なく斬って下さい」


 おいこら西川、この世界にそんな詐欺があるか。

 状況的にびったりと嵌まっているので悔しいが。

 あと、お前俺に散々言い寄っておいてちょっと遠慮なく眺めただけでエロガキ扱いか。

 文句のひとつも言おうと思ったらさっと背を向けてしまう。

 おのれ、後で覚えとけよ。


 もう答は出たようなものだとイッカが溜め息を漏らす。最古参の面通しが不発だったのだ、これ以上は時間の無駄だとでも思ったんだろうな。


 もういいでしょう、気はすみましたか? そんな憐れみの目で見られる。

 仕方ない。想定内だ。


「別に危害は加えないさ。というかお前達の強さなら俺なんて数秒も持たない。行くところがないから少しだけここで休ませてくれればいい」


 管理権限の凍結が解除されるまでな。


 イッカは逡巡する。

 だが害はないと判断したのだろう、近くに滞在する許可はもらえた。

 ただし小屋の使用は拒絶された。困ったな。


 シャランと鈴の音が後ろから聞こえた。


「おや? 久しぶりに会ったと思ったらずいぶん背が縮んでいるんだねコーキ」


 森のお貴族様の登場だ。まだいたのか。つまり調査はまだ終わっていないということだから案外こいつも大したことがないのかもしれない。というか何故俺だとわかったんだ? 明らかに迷宮の外だぞ?


「ヤハス、まだいたのか、というか分かるのか?」

「ヤハス殿、今のはどういう意味なのですか?」


 イッカはヤハスに問いかけてから、俺を凝視する。森の貴族の名前まで知っているのかという顔だ。


「ん? ああ、そうか、君たちには見えないんだったね。精霊が見えるように僕達には魂の形や色が少しだけ見えるんだよ。こんな色と形は滅多にないからさすがに見間違えないよ。どうして変装なんかしているんだいコーキ」


 イッカがぶるぶると身を震わせている。


「いや、しかし、でも……」

「そうだな。分かりやすく言えば、転生したんだよ」

「て、転生……そんな」


 イッカはもうひと押しだな。ナイスアシストだぞお貴族様。


 転生という言葉を耳にして西川が振り返る。その手のキーワードには食いつく奴だ。穴が開くほど俺を見ている。よしよし、よく見ろ。そして気付け。


「ふうむ。それは興味深いけど疑問も残るね。君が亡くなったのは一年前だと聞いているよ。だとしたら体の大きさから考えて計算が合わないんじゃないかい?」


「そ、そうですよね。そんな都合のいいことが……」


 イッカが落ち着きを取り戻す。ちっ、余計なことを。


 しかし、なるほどお貴族様の言うことも尤もだ。俺が死んで転生して一年経って12歳の姿で現れたら確かにおかしい。しかし仮に本当のことを話しても同じだろう。リセットしたら15歳若返りましたなんて誰が信じる。俺だって未だに信じられないのだ。


 菊千代は既に目を逸らしている。役にたたないな。


「あはは、使い魔もいるんだね。コーキは小さくなっても変わらないんだな。まあ摩訶不思議ではあるけど非常識な迷宮のこともあるし君たちの世界での不文律なのかもしれないね」


 いや違います異常です。


「では……では、あなた様はまことに……主様なのですね……」

「ああ、さっきからそう言ってる」


「え……先輩、なんですか?」

「え? コーキ様なの?」

「コーキ様? 帰ってきたの? ん? でもちっちゃいよ」


 イッカがよろよろとした足取りで近付いてくる。触れたくてでも触れられない手がさ迷う。その場に傅く。


「ああ、世話を掛けたなイッカ。命令通り、迷宮を守ってくれたんだな。ありがとうな」


 ぶわっとイッカの目から涙が溢れた。それは俺がイッカに与えた最後の命令だから。


「イッカは、イッカは主様のご命令を……」


 そろそろと西川と姉妹が近付いてくる。


「え? 本当にコーキ様?」


 ミコもボロボロと涙を流している。頷くと盛大に泣き出してしまった。


「なんでちっちゃくなったの?」


 ユウは不思議そうだ。


「転生した罰らしいぞ。ユウは気を付けろよ」


 こくこくと頷くユウの頭を撫でてやる。でも見た目には同じくらいの子供なので傍目からは微笑ましい光景になっているだろう。


「先輩……先輩……ホントですか? ドッキリじゃないんですか?」


 西川もイッカと同じように、触れたら覚めてしまう夢を見ているように伸ばした手を引っ込める。


「西川も心配かけたな。だいたい、俺はお前を帰すと約束したぞ」

「わた……私はぁ、一生を、ここでぇ……先輩と添い遂げても平気って、いい、言いましたぁ!」


 涙をボタボタと落として膝を着き、西川は両手で顔を覆うと泣き始める。

 騒ぎを聞き付けて門からワンコ達、犬人族も顔を出す。


「何の騒ぎですか……あら? この匂いは?」


 ゾロゾロとついてきたジュニア達もすんすん鼻を鳴らす。


「コーキ様だ!」

「コーキ様の匂いだ!」


 だーっと駆けてくる。欲望に素直な子供だからこそ躊躇がない。ガバッと抱き着かれてたら、あれ? なんかちっちゃくない? と首を傾げながら、ま、良いかとガブガブあまがみされたり舐められたりする。


 あとで聞いた話だが、俺の死体は残らなかったらしい。迷宮の魔物とは違ってすぅっと消えていったそうだ。迷宮範囲の端に転移しただけだからな。


 その分、その場にいなかった者には俺の死は上手く受け入れられなかったらしい。

 実際に死んだ訳ではないが、現場を目の当たりにしたものにとっては死と同等の衝撃だったことだろう。


 だから悲しみ方は大人と子供でずいぶん差があった。


 子供達にとっては「死んだ」のではなく、「いなくなった」という感覚に近かったので、「戻ってきた」と受け入れたのだろう。


「うふふー。コーキくんはずいぶん皆に好かれているね」


 ウサコはにこにこ微笑んでいる。


「主様、こちらの方は」


 目はいくぶん赤いが落ち着いたイッカがウサコを見て問う。


「ああ、転生先でお世話になった人だ。お礼にお招きしたんだけど、今は俺の力が万全じゃないので迷宮に招待はできないんだよな」


「なんだかずっと敬語だったコーキくんが腕白な話し方をするからとてもおかしいよ」


 くすくす笑われる。

 確かに見た目が12歳の俺が今まで通りの話し方では、子供が背伸びをしている滑稽さがあるな。

 当分は敬語喋りにしよう。今さら子供の言葉使いはこっぱずかしい。


「兎人族のウサコさん、リン、シャン、テンは人族でいいのですか?」


「あ、余計なこと言っちゃったね、残念。あと違うよコーキくん。この子達は亜人族だよ」


 亜人族? 亜人というのは総称じゃないのか?


「どこかで人族以外の血が混じっているの。でももう色々な種族の血が混じりすぎて、分からないから亜人族と呼ばれてるんだよ」


 なるほど異種混血ということか。


「イッカと申します。主様をお助けいただきましたことを感謝致します」

「いえこちらこそコーキくんにはたくさん食べ物買ってもらったから」

「わたしも」「わたしも」「わたしも」


 あ、俺から買ってもらったという話になっているのか。ウサコらしいといえばらしい。


 自己紹介が済んで、中に入れない俺たちのために外で宴を開いてくれるという話の途中に、それは起こった。


「貴様ら! ウサコから離れな!」

「ウサコちゃん、今助けますわ!」


 歓喜のガヤ音を一瞬で静寂に変えた、女の鋭い怒声だった。



読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

ブクマ、評価、ありがとうございます。大変、励みになります。

では、失礼しまして。

もし、気に入っていただけたり、続きを読んでみたいと思われましたら、ブックマークとこの下にあります評価の入力をお願いします。(評価感想欄は最新話にしかないそうです)

感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。

よろしくお願いします。

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