第22話 初めての獲物
誤字を修正しました。報告ありがとうございます。
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「ひ弱ながらにも成長しているようですね。この菊千代感服いたします」
サポートプログラムに厳かに失礼なことを言われた。やかましいわ。
孤児院の敷地内にある木陰で素振りをしながら苦笑していると、にこにこ顔でウサミミを揺らしながらウサコが近付いてくる。
薄汚れたワンピースだというのに清楚なイメージのする少女だ。乳白色の肌と白い髪がそう見せているのかもしれない。
小さく手を振ってくるので、軽く頷いて挨拶を返す。
赤く大きな目が俺を見て細められる。
「うふふー。コーキくん、今日も頑張ってるんだね」
ウサコが木の根元に座り込んで俺を眺めるのも日課になったな。
何かと世話を焼いてくれる兎人族の少女は、俺の姿が見えないことを心配して探し回ったあげくにうるうると涙目で訴えてきたので、仕方なく訓練場所を教えたら毎日来るようになった。
俺はそこまで頼りなさげなのか。
「うふふー、がんばれ、男の子」
いや、見た目は幼くても中身は26ですので、そういう、男子が見栄をはって可愛らしいとかいう顔はやめてほしいです。
ろくに食べさせてもらえない上に子供の体力なので無理をせずに型をなぞるだけに留めているとはいえ、経験として記憶を持つ体はスポンジのようにスキルを修得できる。
様々な種族の平均的なレベルが5程度だとすれば、そこそこ戦えるだけの力はついているのかもしれない。
ステータスが上昇することで体力がつき疲れ難い体に成長している事を僅かに実感できる。
うん、菊千代の言ったとおり、相変わらずのイージーモードだ。
迷宮効果範囲半端ない。
だが、それに伴い危険性も増しているといえる。
俺が初日に腕を齧られるような事態が起こりえるということだからな。
「残念ですが、可能性は否定出来ませんね」
このまま迷宮攻略が進み迷宮の効果という範囲が広がっていくとどうなるのか。
最悪、魔物を生み出す災いとなりかねない。
それこそ、乏しい俺の知識の中にある物語に出てくるダンジョンのように。
「菊千代、お前まさか世を忍ぶ世界を滅ぼす悪の結社の使いじゃないだろうな?」
「失礼ですね、一条様。菊千代がそんな得体の知れない団体に与しているわけがないじゃないですか」
菊千代がつんと顔をそむける。人間くさい態度だな今更だけど。
攻略することでより巨大に強力になっていく迷宮とやらの行く末が心配だよ。
「大迷宮とやらは大丈夫なのか?」
とても気になる部分だ。今までは無我夢中で気にもしなかったが、自分が嫌々ながらも事情があって育てているモノが一体なんであるのか気になって仕方がない。
「さあ?」
さあってお前。そんな無責任な。
素振りの腕が止まり、ウサコがこてんと首を傾げる。
「そう仰られましてもですね、今の所、大迷宮まで育った例がございませんので」
俺達は前人未到にチャレレンジしていたのか! オドロキだよ!
「概ね第5層辺りで行き詰まる方が多いようでございますね」
しかも半分かよ!
本当に俺達は元の世界に戻れるんだろうな?
「コーキくん、もうおしまい?」
立ち上がったウサコが近付いてきてぎゅうっと抱きついてくる。たった2歳差だというのに背丈が違うのでまるで子供扱いだ。
「おつかれさまでした」
まあそこそこに柔らかい体に包まれて思う。ああ、本当にどっと疲れが出たよ。主に精神的にな。
翌日の事だ。
「ウサコさん、この辺りで畑を荒らす悪い動物はいませんか?」
にこにこ笑うウサコは聞いてきてあげると快く引き受けてくれた。
近所の畑はだいたい猪に被害を受けているらしい。
さっそく経験を積みに行こうとするとウサコが慌ててついて来る。
「ダメだよコーキくん一人で森に近付いちゃあ、私も行きます」
責任感の強い少女らしい。面倒見がいい性格をしているのかもしれない。
危険だし足手まといなのでついてこないで欲しいというのが本音だが、言うと泣かれそうなので黙っておく。
「コーキくんは棒で猪をやっつけるのかな?」
森をフラフラ歩いているとウサコは不思議そうに聞いてくる。
経験を積むだけなので倒すつもりはないんだけど。
「ウサコさんは狩りの経験があるんですか?」
「ん? ないよ」
素人二人の猪退治はただの森の散歩だった。ウサコが鼻唄混じりであとに続き、希に腹の足しになる木の実や山菜を食べる。
これ以上寒くなると、そんなものすら手に入らなくなりそうだ。
しかし一週間も続けていると効果が表れてくる。
ただ歩いているだけじゃないからな。
「ウサコさん、猪がいるよ?」
「あらまあ、どうしましょう」
傍から見たら随分のんきな二人に映っただろう。
魔物ではない一般動物だとしても野生育ちだ、猪だからといってもちろん楽観はしない。
そっと窺うと体長50センチ程の猪だった。小型の部類だろう。
逃げられればそれでよし。向ってくるなら腕試しをするのに丁度いい。
手ごろな木を投げつける。
猪は鼻息あらくして突進してきた。
あら好戦的。
ウサコには少し離れてもらっているので大事はない。
武器は棒。多分壊れた農具だろう。突進してくる猪を避けて棒で頭部を殴りつける。
ぶほっと猪が息を吐き出してよろめいた。続けて前足を殴りつける。機動力は奪えただろう。
ぐるぐるうなる猪の首辺りに一撃入れるとどさりと倒れた。
呆気なかったけど魔物ではないのだから推定レベル5に上昇している俺の敵ではなかった。
弾け飛ばないしドロップアイテムも出ない、死骸だけが残る光景が新鮮だけどやはり少し恐ろしい。
格闘(棒)と回避、急所打ちのスキルが上昇した。やはり実戦だとスキルの伸びがあるな。
「つよいんですね、コーキくんは」
そろそろとウサコが近付いて動かなくなった猪を見ている。
猪は細かく痙攣していて、まだ絶命はしていなかった。首への一撃で体を動かせなくなったのかもしれない。頸骨とかあるのかな?
ふたりで汗だくになりながら猪を引きずって森を抜けると、農家の人が血抜きをしてくれた。
街に運べば肉と毛皮を買い取ってくれるらしい。なんでも、猟師の組合があるらしく森で狩った動物を取り扱っているとの事。
畑を荒らす猪を退治してくれた礼に手引きの荷車を貸してくれたので街まで運ぶ。街までといっても15分ほどだ。
菊千代に確認すると範囲的には大丈夫そうなので一安心だな。
組合で猪は買い取ってもらえた。その際に、血抜きの方法や、皮剥ぎ、不要部位などを簡単に教えてもらう。一匹丸ごと持ち帰るのは効率が悪いらしい。食用になる部分は半分程度だと教えてくれた。
銀貨3枚が買取金額だった。
安いのか高いのか比較がないので分からないな。
困っていると、ウサコが教えてくれる。聞くと元いた世界の3万円くらいだと判明した。
え? 意外に高いぞ。
結構儲かるのかと心が躍ったが、プロでもないとそうそう見つけることが出来ないし大型の猪などと対峙する場合は危ないし装備も揃えないといけないらしく今回は運が良かったのだと諭されてしまう。
確かに見つけるまで1週間を要したし、偶々手頃なサイズだったことは否めない。
迷宮関連はイージーモードでも、普段の生活は違うらしい。
「ウサコさん、お金は山分けにしましょう」
清算を申し出たが、にっこり笑ったウサコはそれはコーキくんのお金ですとやんわりと断られた。
「お金を持っていることを孤児院で話してはいけませんよ」
注意もされる。見つかると職員に取り上げられたり孤児に盗まれたりするらしい。世知辛い世の中だ。
あのクズ職員どもならやりかねないしニキビ面の素行不良の少年もいるしな。
とりあえず今後の経験のためにも剣を一振り手に入れる。30センチ程の短剣だ。ウサコに何かお礼をしたいというと「では、屋台で買い食いをしましょう」と微笑まれた。
ろくに食べさせてもらえないからか屋台の肉やスープは大変美味しかった。
ウサコも喜んでいるので奢った甲斐もあるというものだ。
その後も俺は森に入れるだけ入り経験を積むことを続けた。
翌週にもう1匹、猪をしとめることが出来た。
やはり、武器があると難易度が下がる。
猪は気性が荒くて好戦的なので戦えたが、鹿のような動物は素早く逃げられるので戦うことすら出来なかった。鳥など相手にもしてもらえない。
しかし着実にレベルとスキルは上昇していた。しかしスキルについては3以上は厳しい。数ヶ月か、もしかしたら数年単位の経験が要りそうだ。
はやく凍結解除されてくれ。
一月ほど経って、事件は起こるべくして起こった。
「ウサコよぉ、お前最近客とって稼いでんだろ? 俺たちに少しは分けろよ」
ニキビ面の少年が目をつけたのだ。まあそれはそうだろう。俺と山に出掛けるようになってから、ウサコは身形が良くなったし食べ物も外で食べるので血色もよくなった。
一緒に森に入るのに獲物を売ったお金を一切受け取らないから、その度に俺はウサコに食べ物を奢ったりプレゼントをしたり繰り返していたからだ。
更にウサコは自分を慕ってくれる年少の子供にこっそり食べ物を与えている。
まあ、情報の隠蔽には程遠い。
だけどニキビ面、お前が分け前を要求するのは筋が通らないぞ?
ニキビ面に付き従う少年達もだ。
「わたし、体なんか売ってないよ? お金ももってないけど?」
「しらばっくれんなよっ。お前が町で食いもんを買っているのを見たっていうやつもいるぜ。まあ、金がないなら体で払ってもらおうか?」
ニキビ面はいひひといやらしく笑う。
孤児院にいるからといって働いてはいけないわけではない。むしろ推奨されている。
働ける年になれば皆低賃金でも仕事を請け負って小遣いにしているのだ。それを暴力で上前をはねているのがニキビ面という構図だ。
近付いてくるニヤケ面に対してウサコは凛とした態度で睨みつけている。
うん、そろそろ潮時だな。
ある程度稼ぐことも出来るし、体力もついた。孤児院に拘る理由もない。
俺はニキビ面とウサコの間に立つ。
「お? なんだ無口、どけっ」
殴りかかってくるニキビ面の素人丸出しのこぶしを右に受け流すと、勢いついたままニキビ面は地面に転がった。顔を打ったらしく鼻血までだしていた。
「て、てめぇっ」
凄い形相で睨みつけてくるニキビ面に剣の切っ先を突きつける。服に隠していたのだ。
あまり長いこと騒ぐとしびれを切らしたバカ職員どもが介入してくるので、ここは速攻で決めさせてもらおう。
「ひっ」
「俺とウサコさんは今日限りで孤児院を出ます」
俺は簡潔に言った。そうすれば上前をはねられる謂れはないからな。
「一緒に行きたい方がいるならついてきて下さい」
その場にいた孤児たちが顔を見合わせたり目を逸らしたりしている。
たたたと少女三人がウサコに近付いてすがりついた。三人とも7、8歳の少女でウサコに良く可愛がられている子達だ。
「もう、コーキくん勝手に決めちゃあダメですよ?」
メッとウサコは頬を膨らます。でもにっこり笑った。
「でも、そうだね、私もここを出る、うん。そうしよう。あなた達もいくの?」
三人はこくこくと頷いている。
「ふ、ふざけんなおらぁっ」
ニキビ面が真っ赤な顔をして立ち上がると近くにあった椅子を手に取る。
「もう、しょうがない子だなぁ」
ウサコが屈んだと思ったらニキビ面の腹に蹴りが入っていた。
スカートからこぼれた白いふとももについつい目が行ってしまう。
ニキビ面は壁まで吹っ飛ばされて背中をしたたか打ち付けるとうげぇと胃の中のものを吐き出して動かなくなった。
思わずぽかんと見てしまう。
ウサコさん、とんでもなく強いんだけど……もしかして今まで森に一緒に入っていたのは、俺の護衛のためとか? まったく気付かなかったよ。
「さ、行きましょうか」
俺達はこくこくと頷くと先に歩き出したウサコを慌てて追いかけた。
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