第20話 足りないピース
誤字を修正しました。報告ありがとうございます。
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迷宮第二階層レベル10に雑魚モンスターは存在しなかった。
レベル9地帯を抜けると通路はとたんに静まり返る。
その分索敵が楽なので予定より早くボスと会敵出来た。
「む」
通路の端には、侍がいた。
ただし、頭はドクロの。
「主様、このイッカに先陣を切ることをお許しいただけますか?」
珍しくイッカが声かけてくる。
「構わないが、知り合いか?」
「魔物に知己はおりませんが、あれは我らと同じ匂いがします」
良く見ると頭に角がある。
アナライズで確認できる名前は、鬼骸、レベルは20。鬼のゾンビ?
あっという間に間合いを詰めてきた鬼骸が風を切る音をさせる。
イッカも同様だ。
キンと高い音をさせて刀同士がぶつかった。すぐにイッカは身を引く。
お互い、柄に手を当てて体を斜交いにした姿勢で停止している。
イッカの使用するスキル、一閃は抜刀術に近い。鬼骸も同じスキルを使用するのか。ここまで明確に同じスキルを使用する魔物は初めてだ。
敵のレベルは階層レベルと深度に比例している。今は優位でも、この先はこちらのレベルの上がり方次第で崩れるな。安全マージンがどの程度かわからないが、ある程度は空けておかないと最終局面でレベルが並ばれる恐れが出てくる。
その上、スキルまで使用されるとなると厄介だ。
鬼骸が再始動して突きを放ってくる。
イッカは横に身をずらして一閃を放つ。
胴部分にヒットするが浅い。
別にタイマン勝負ではないので仰け反った鬼骸にユウの三連射が放たれる。
二本が命中。
鬼骸は距離をとった。
魔物の闘い方が格段に進化している。
今までの魔物はどちらかというと与えられたパターンに従って襲いかかって来ていたのに、鬼骸は相手に合わせてきた様な動きだ。
力押しでは倒せない、戦闘経験の差が出ている気がする。特に近接戦闘では顕著なのかもしれない。
学習機能付きか?
これは皆と一度話し合いが必要だな。
ミコのファイヤーボールが鬼骸に命中。
その時、鬼骸はミコに視線を移した。
「な!?」
瞬間移動のようにミコに迫る鬼骸を横からシールドバッシュで弾く。
鬼骸は壁に激しく体をぶつけて崩れ落ちた。矢が三本突き立てられる。HPバーは残り僅かだ。イッカがとどめをさす。
戦闘中にターゲットを変更した。これも新しい動きだ。
痙攣してから弾けとんだ鬼骸を俺は凝視していた。バラバラとドロップアイテムがこぼれ落ちる。
「今の動きは偶然でしょうか?」
イッカが眉を寄せる。
「いや、偶然とは思えないな。少し気合を入れなおそう」
「畏まりました」
「いや、待て、イッカ」
探索を続けようとするイッカを止める。
「話したいことがあるので一旦戻る」
「畏まりました」
第二層より第一層に転移する。
「魔物の動きに変化ですか?」
休憩を兼ねた作戦会議で俺は直前の鬼骸との戦闘の感想を皆に伝える。
イッカは考え込む。
簡単に言うと今までより手強くなったということだ。学習機能搭載なら更に強くなっているだろう。より実戦に近くなったと伝えたところで通じないか。
ヘイトコントロールが出来ないと中衛後衛に牙を剥かれて大変危険だ。今回は鬼骸に炎系の魔法が有効で一気にヘイト値が上がった、そう考えられなくもない。だけどもし、効果的なダメージを与えてきた相手を先に片付けようという考えだとしたら。もっとも怖いのがランダムにターゲットを変えてくることだ。なにしろ魔物は死を恐れないからがむしゃらでつっこまれたらなす術もない。
今回はミコに対して突進してきたから間に合ったが飛び道具や魔法だったら間に合っていなかった。
俺は自分の考えを皆に話す。
皆は真剣に頷いていた。
西川、イッカ、ミコとユウ。シルヴィもこっそりと後をつけている。
何かが足りない。そんな漠然とした不安が残る中での再攻略だ。
決定的な失敗も敗北もなかったため、攻略の中止はしなかった。
戦いの中で積まれる経験もある。
考えすぎなのかもしれない。少しの変化に対して過敏になってしまうのは良くあることだ。思考が硬直しているのかもしれないな。気を付けよう。
右側の通路の先、レベル10の帯域に入ると左側と同様に雑魚モンスターはいなくなった。
周囲索敵スキルでボスの位置は把握している。
二体目のボス、鬼骸だ。
青白い炎のような気をまとっている。これは精霊か? さっきはあったか? 確認している暇はない。
俺は足を踏み出す。
間合いに入った俺に対して鬼骸が一閃を放ってくる。防御スキルがなんなく受け止める。
イッカと西川が左右から斬りかかった。
鬼骸はバックステップで回避する。
今までならここで遠距離攻撃が発動だが、一度様子を見る。
鬼骸のターゲットは変わっていない。
間合いに入っている俺と攻撃してきたイッカと西川だ。
挑発系のスキルは持ち合わせがないので、レベル1ファイヤーボールを発動させる。ダメージコントロールが今回のボス攻略の要だ。最悪、前衛だけで決着をつける。
鬼骸の胸元で小爆発が起こり、それを合図かのように俺に突っ込んで来る。
左からイッカの一閃。右から西川の突き。よしいける。前衛にヘイトがあるならそれほど強いボスではない。
後衛にハンドサインを送る。
万が一にはシルヴィに護衛をお願いしている。
ファイヤーボールは保険を掛けてレベル5でと伝えてある。
順調に鬼骸のHPバーは減少していっていった。
それは、一瞬の出来事だった。
ユウの放った矢を鬼骸が一閃で防いだ。丁度、俺とイッカの間はユウの射線確保のために開けていたのだ。
鬼骸の視線がその間を捉えた。
このタイミングでかよ!
やっぱりヘイトなんて関係なかった。
同じことを考えたのだろうイッカも隙間を埋めるように動く。
だけど、それは罠だった。
フェイント。
視線であっさり誘導された。
敵に横を向いた状態でイッカに一閃が入る。
「くっ」
イッカは無理な体勢から刃を防いだ。しかし、剣速で負けて刀が宙を舞う。
イッカは丸腰だ。くそっ!
慌ててイッカと鬼骸の間に入ろうとして、鬼骸のドクロの中で光る目が俺を捉えていることに気付いた。
一閃が俺の腹に入る。
これが、本命かよ!
さっきの戦闘はこのための布石だったのか! どれだけ用意周到なんだよ!
「うがぁぁ」
腹に焼けつく痛み。地面に倒れこむ。
イッカが呆然とこちらを見ていた。なんて目をしているんだ? それより早く武器を拾え。
西川が投擲したショートスピアを腹に突き刺して鬼骸が後ずさる。ユウの矢の嵐でハリネズミのように矢だらけになり、ミコのファイヤーフレイムの焔の柱が燃え立つ。いやいや、お前らオーバーキル過ぎ。
鬼骸が弾け飛ぶ。
「痛ぇ……菊千代、治癒ポーション」
「……一条様、残念ですがお手持ちの治癒ポーションでは部位欠損は治療できません」
部位欠損? なにを言ってる?
地面に倒れた俺はそれを見る。
俺の下半身が血塗れで転がっていた。
「う、うぎゃあーーーーっ」
俺の絶叫が鳴り響いた。
失敗した。
痛恨の失敗だ。
体中の感覚が既に無い、
視界に映る菊千代も沈痛な顔だ。
「一条様、残念ですがお手持ちの治癒ポーションでは部位欠損は治療できません」
手足なら一旦回復させてポーションでも魔法でも探せば何とかなったのだろう。
だが下半身丸まるの部位欠損などどうやって回復する。
失敗した。
何か足らないと感じたあれだ。足りないピースだ。
そう、回復魔法だ。
ストックにある回復魔法、どの程度かは知らないが覚えていればまた違う道もあったのだろう。
しかし魔法の書を用いてスキルを習得するには転写時間が要る。間に合うならば菊千代が提案しているはずだ。
失血によるショックでも意識を保っているのはステータスの恩恵だろう。
場所は、そうか、オーバーキル気味に鬼骸を倒したんだったな。
迷宮第一層に戻っている。
西川がガクガク震えながら俺の下半身を抱いてヨロヨロと近付いてきている。
なんて顔をしてる。いつもほけっとしているのがお前のトレードマークだろうが。
手を握るイッカがボロボロと涙を流している。
ああ、よかった。
少なくとも仲間は無事だ。
周りにはミコとユウもいる。顔面蒼白だ、無理矢理手を動かして二人の頭をなでてやろう。
シルヴィが少し離れた場所で目を見開いている。
「申しわけありません、申しわけっ」
イッカが必死に謝ってくる。お前のせいじゃない。鬼骸の作戦勝ちだ。俺が間抜だっただけだ。
でも、ああ、こいつのことだ責任を感じて後追いとかしかねないな。それはダメだ。俺が命を掛けて救ったのに死なれるなんて。
「イッカ、これは命令だ。生きろ。迷宮を……守れ。西川もだ」
「主様っ」
視界は暗転。
だが俺は諦めない。最後の気力を振絞る。
菊千代、頼んだぞ。
「はい、承りました」
意識も途絶えた。
読んでいただきましてありがとうございます。
楽しんでいただけましたら幸いです。
ここで第一部完了です。
ブクマ、評価、ありがとうございます。大変、励みになります。
誤字報告、ありがとうございます。お恥ずかしいです。
では、失礼しまして。
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