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第17話 出会い物

 

 017


 第二層レベル2の迷宮から無念の撤退。

 挑み始めて三日が経過したが、どうしてもボスの討伐が出来ない。

 ある意味最強のボス相手に皆疲れきっていた。主に精神的に。


 若木のボスへの攻撃は全て通らなかった。

 物理攻撃無効。スキル攻撃無効。どないせいと。


 もちろん俺たちもただ闇雲に切りつけてスキルをぶっ放していたわけではない。

 真っ先に思いついたのは、右側に意味ありげに配置されていたトレントにヒントがあるのではと考えた。


「先輩、あの変な木を全部狩っちゃいましょう」


 ふむ、なるほど。狩りにくい右のトレントをすべて討伐すると無敵バリアが剥がれるという、ありそうな設定だな。確かに通常攻撃では中々倒せないトレントだ、西川の提案に意気揚々と伐採スキルを駆使したが、結果は高級材木が増えただけだった。


「コーキ様。まったく攻撃をしないというのはどうでしょうか」


 ふむ、なるほど。攻撃してこないただの的のトレントを逆にスルーすることで無敵バリアが剥がれるという逆の発想だな。確かに試していなかった方法だ。ミコの提案にリポップを待ち、あえて若木に向かうが結果は推して知るべし。


「コーキ様、木にごはんをあげよう」


 ふむ、なるほど。攻撃しないだけではなく栄養となる水やポーションの類を与えることで恩を売ることにより、無敵バリアが剥がれるという発想だな。ユウのほんわかした提案を採用して実行したが、結果はふるふると震えたトレントが謎の木の実を落としただけだった。


 桃に似た木の実の発見はそれはそれで効果はあったな。

 攻略は進まなかったが、三人の性格の違いが出て面白かった。


 本体への攻撃が無理なら外堀からだと、石畳を掘り返して根にたいする攻撃を実施しようとしたが、なんと根が迷宮中に広がってるのかというくらい広がっていて更に攻撃も受け付けないので断念した。


 石と粘土を利用した完全密封して放置してみたり、果ては水をやり肥料を撒いたりと思いつく限りのことは試した。


 菊千代にお願いしてみたが「無茶を言わないでくださいよ一条様。もちろん菊千代はサポートプログラムですから協力は惜しまないですが対処不能の事柄を対処しろと申されましてもただ呆然とするのみです」と半泣きだった。


「申しわけありません主様、長老にも心当たりはないそうです」


 大変申しわけなさそうにイッカに謝罪される。いたたまれない。

 迷宮の知恵袋でもダメか。万策尽きたか。

 ただ、力任せに戦うだけでは前進できない。

 迷宮も知恵をつけ始めたということだな。


 しょんぼりしている姉妹の姿を見ているのもいたたまれないし一旦攻略を中断するか。

 何をしても無理は無理だ。ここは気分を変えよう。

 壁にぶち当たったときは心の切り替えが大事だ。


 まあ、攻略以外にもやるべきことはたくさんある。

 第一層の整備でもしている内に何か有効手段が見えてくるかもしれない。

 ある意味現実逃避だけど仕方がない。


 まずは先延ばしにしていた水の確保だ。

 現状セーフゾーン外の湖までは遠いので迷宮の外から汲んで運ぶが一択になる。

 水源がひとつなので人数が増えた分地味に不便になっていたのだ。

 とても手間だから井戸を掘ることにした。


 ここで役立ったのが土の硬質化のスキルだ。土を踏み固めたら手に入ったスキルだがレベル5まで上げるとコンクリートくらいまで硬くできた。しかも解除も出来るという便利すぎるスキルだ。

 イージーモード炸裂だな。


 ボーリング検査もできない状態で井戸掘りとか素人考え怖過ぎるが、水脈発見スキルで代用する。

 地下水は豊富にある。


 場所を決めて掘削スキルで穴を掘り、周囲を硬質化して固めていく。硬質化すると密度が上がる分圧縮されて土の分量が減るので横は掘ることなく広げられる。出てくる土砂は下に彫る分だけだ。両手を広げた幅程度の太さの竪穴を5メートルほど掘るのに30分とかどれだけ怪力になったんだ俺は。


 穴を掘るとか大好きな子供姉妹と見た目も感性も子供の西川がせっせと土を運んでくれる。

 水が出始めたと思ったらぐいぐい水位が上がって地上まで押し出された。


「コーキ様、水が出てきたよ」


 ユウが大はしゃぎだ。


 いやいや物理的におかしいだろう。というか地下水がどこかに圧力がかかっていて噴出したってことなのか? だとしたら迷宮が水浸しだ。

 顔を青くしていたら水位はは地上すれすれまで来てぴたりと止まる。


 ちなみにずぶぬれの俺が這い出して減った分もすぐに補充された。

 迷宮のやることだから細かいことは気にしないようにしよう。


 水位は一定らしい、この高さを超えることはない。使いやすくするために井戸部分の壁を残して周りの地面を硬質化して低くする。井戸の壁に穴を空けると水が流れ出してきた。流れた分は補充されるから永遠に水が流れる仕組みだ。蓋をすると止まる。ちょっとした貯水庫が出来た。


 ここに簡易水道が完成した。

 地下水がある場所なら一家に一本井戸が掘れるな。


 途中から手伝ってくれていた鬼人族の子供はぱちぱち拍手をしているが、少し上の世代はポカンと口をあけている。そうだろうな。

 姉妹も無邪気に喜んでいるのは井戸の仕組みを知らないからだな。これは教育上問題のような気がする。これが常識だと勘違いしたら迷宮以外での生活が困難になるな。まあおいおい説明しよう。


 だから西川、わかったから、水で濡れて透けた下着を見せ付けるな。早く着替えて来いまったく。ここで脱ぐんじゃない!


 次は整地だ。

 セーフゾーンとはいえ木が繁っていたり草が生え繁っていたり地面が盛り上がっていたりと自然そのままなのでまずは平地にしなければならない。


 土の硬質化をするにもまずは平らにしないとならないので土木作業だ。

 まずは井戸周りからはじめる。


 建築隊の鬼の話だと木を伐採した後、切り株を残しておくと一日で元に戻るそうだ。迷宮半端ない。

 伐採地域とそれ以外を区分けして少しずつ平地を広げていく。

 将来のために植林地は残しておかないとな。やり直しが利かないから慎重にだ。


 広げる場所の切り株は掘り起こして、岩が埋まっていれば破壊して平らにしていく。

 これもステータス上昇の恩恵があるので皆仕事が速い。


 硬質化しているだけなので見た目はアレだけど平らな地面が広がり、迷宮の入り口から井戸付近までの道が一日で完成してしまった。


 あまり入り口から離れていても不便だけど近すぎるのも問題なので50メートルは離したのにこの速度だ。

 しかも大半がスキル使用後の回復に時間を取られただけなので人足が増えれば開発は一気に進みそうだ。


 フィールドの探索を終えて戻ったバカ鬼もさすがに驚いている。そうだろうそうだろう。このままセーフゾーン以外にも道を広げて進軍速度をあげることにしよう。

 やることを思い付いても人手が足りない。

 長老と打ち合わせをしていたイッカも同様だ。


「さすが主様です」


 イッカの目は潤んでいる。

 弟が睨みつけているので程々にして欲しい。


 セーフゾーンの区画整理計画を鬼族とともに話し合い、のんびりと開発していってもらう段取りになった。


 日をまたいで拠点作りに着手する。


 基礎工事が硬質化スキルのおかげで簡略できるので楽で良い。木材の準備もスキルが大活躍だ。

 しっかりとした建築知識があるわけではないが試行錯誤も楽しいものだ。時間があり、元手が掛からないという点が大きいな。


 練習用に歪ながらミニマムな小屋を組み上げた時のみんなの達成感に溢れる顔は素晴らしいものだった。前に一人で作ったものより格段に進化している。しっかりとした家だ。


 さすがに拠点作りは日数が掛かるので建築隊に任せる。

 住処は将来的に迷宮外の予定なので本格的なものは造らないつもりだ。

 やはり人手が欲しいな。他種族にアプローチしている者の帰還が待ち遠しい。


 シャランと鈴の音が聞こえる。

 お貴族様の登場だった。


「ふむ、こうやって少しずつ人里が出来上がっていくのか感無量だね。それにしても最近はよく外で見かけるようだけど、迷宮攻略とやらは一段落なのかいコーキ」


「迷宮攻略で煮詰まっているんだよ。あ」


 今日も美麗なお貴族様を見る。


「お貴族様はたしか木の精霊とかに詳しいんだったな」

「そんな呼ばれ方をしたのは初めてだよコーキ。そうだね、少し語弊があるけど精霊のことは詳しいよ」


 心の呼び方が出てしまった。怒っていない様子だからセーフにしよう。


「ちょっと頼まれてくれないか?」


 攻略組を集合させる。


「ほほう?」


 迷宮第二層レベル1の火蜥蜴を瞬殺して道を開き、道の突き当りまで案内すると、お貴族様は興味深げに若木を眺めた。


「これはまた凄いものを見させてもらったよ」


 顎に手を当てて嬉しそうに微笑む。


「何か知ってるのか?」

「知っているのか知らないのかと問われれば知らないよ、こんな非常識なもの」


 相変わらず持って回った言い方だ。非常識に非常識呼ばわりされる若木ってどんだけだよ。


「生まれたばかりの千年は生きた精霊なんて初めて見るよ」


 どっちなんだよ。


「これも人工物なのか。本当にこの迷宮は興味深いな」


 研究熱心なのは悪いことではないが、個人的興味は後にしてもらおう。


「申し訳ないが、俺が知りたいのはこいつを排除できるかどうかなんだ、どっちだ?」

「排除か……ああ、うん、出来るよ。そうだコーキ、御代にこの精霊を頂いても良いかな?」


 お貴族様はウキウキとした表情だ。少しだけ興奮している。これだけ長く生きていても好奇心が刺激されるレアな出会い物なのか。


「いやさっきから何を言っているのか分らないんだが、精霊ってその木のことか?」

「木はただの木だよ。その若木を守るように鎮座まします精霊……そうか、失礼。君たちには見えないんだったね」


 つまり幽霊みたいなものか。見えるやつにしか見えない系だ。いや、待てよ?

 じっと若木を見る。精霊野郎がそこにいるなら何かあるはずだ。歪みや陰りなんでもいい。


 → 一条光輝は精霊認識のスキルを手に入れた。


 よし来た。とりあえずひとつだけ菊千代に上げてもらう。

 そこにはぼんやりとした光の集合体があった。


「……このきらきらしたのが精霊か」

「驚いたよ、見えるようになったのかい?」


 お貴族様は驚愕の表情だけど後回しだ。

 ふわふわ浮いている光の集合体はレベル1では何か判別がつかない。だがそれでいい。今の所精霊に用はない。


「欲しいなら連れて行ってくれ」


 どうせ俺たちには手出しが出来ない。

 それに、精霊がボスなら連れて行けないだろう。


「では遠慮なく」


 お貴族様がすいと手を動かすと光の集合体が一瞬形を崩して引き寄せられていく。磁石か。


「イッカ、その若木を伐ってくれ」

「はっ」


 イッカの刀が一閃。

 若木は真っ二つに寸断され、痙攣して弾け飛んだ。なんと呆気ない。


 ドロップアイテムを拾う。何かの苗と種だ。

 続けて宝箱が現れる。

 それはジョウロだった。


「何のたね?」


 ユウがわくわくしている。


「何の苗でしょうか?」


 ミコも興味津々だ。


「こいつとまとめてお前達にやろう。しっかり育ててみろ」


 ジョウロも渡す。

 二人は大喜びだった。


 こうしてあっさりと、第二層レベル2の攻略は終了した。



読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

ブクマ、評価、ありがとうございます。励みになります。

では、失礼しまして。

もし、気に入っていただけたり、続きを読んでみたいと思われましたら、ブックマークとこの下にあります評価の入力をお願いします。(評価感想欄は最新話にしかないそうです)

感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。

よろしくお願いします。

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