第12話 迷宮攻略ギルド
ギルド上納 戦闘経験値 → レベルアップ時の迷宮ポイント に変更しました。
012
のしのしと鷹揚に歩き距離を詰めるバカ鬼の迫力にミコはたじろぐが、俺の前から退こうとはしなかった。
まあ、落ち着け。あと、無理しなくてもいいぞ。
肩を軽く叩いてやる。
ミコは緊張気味だが力強く2度頷いて返してきた。
背中で役にたちたいんですと語りかけてきている。
大の大人が少女の背中に守られているとか情けないが、保護者代わりとして我侭のひとつも聞いてやりたい気分だな。
犬歯を見せる獰猛な顔でこちらを睨むバカ鬼だが、アナライズで見る限りその刀はミコにかすりもしないだろう。問題はなさそうだ。
「どけ、小娘」
「どきません」
必死に言い返すミコをバカ鬼は忌々しげに視線で射抜く。
魔法だけではなく最近は格闘(棒)もスキルアップしているミコだ。遅れは取らない。
むしろ心配なのは、仲間の前でこてんぱんに倒したりすると余計な恨みを買うことにならないか、という部分だ。
ユウは「おねえちゃんがんばれ」と暢気に応援している。
西川は豊満な体を持つ鬼の女を険しい顔で鋭く睨みつけている。
目の前の出来事など興味の欠片もなさそうだ。何をやっているんだ、まったく。
「仕方ない、ミコ少し相手をしてやれ。怪我をさせないようにな」
「わかりました」
バカ鬼は俺とミコのやり取りを聞いて顔を真っ赤にして赤鬼になった。
鬼サイドから見れば愚弄したと受け止められるかもしれないが、鬼の若様の命を救ったつもりなんだけどな。
斬りかかってくるバカ鬼の刀を木の杖でミコは軽く弾いた。
ステータスの恩恵は凄いな。年端もいかないミコが軽い動作で大男の鬼を相手に互角以上に戦っている。
手にしているのが木の杖だから周囲で見守る相手に与えるインパクトが凄まじい。
鬼の少年少女も目を丸くしている。自分より小さな細い少女が大人を翻弄しているからな。無理も無い。
ふたりのチャンバラを眺めつつ老人の側に歩いて移動する。
「いつもああなのか? ご老体もご苦労が多そうだな」
老人は恭しく頭を下げた。
「いえ普段は心根の優しい良くできた方なのですが人族を相手にしたときと姉の心配をすると冷静さを欠いてしまわれる」
やはり何か嫌な思い出でもあるのだろう。深くは詮索しまい。
「そうか。ところで長旅でお疲れだろう、皆でこれでも食べてくれ」
リンゴを取り出す。
「いやいや強き方よそのような高価なものは受け取れません」
まただ、一体この世界のリンゴはどういう位置づけなんだ?
一月前を思い出したのかユウはくすくす笑う。
「鬼のおじいちゃん、わたしも初めてコーキ様にリンゴを貰ったときはびっくりしたよ。でも大丈夫、リンゴならユウもたくさん採ってくるから、一杯食べてね」
老人鬼は孫を見るように目を細めてユウを見ていた。
全員にいきわたるようにリンゴを渡す。
鬼の少年少女たちは目を輝かせてリンゴにかぶりついていた。有り余るほどの在庫だ、たくさん食ってくれ。
「……あの、そちらの方は何故私を睨みつけているのでしょうか?」
近付いてジト目で鬼の女性を睨んでいる西川を軽くはたくと、頭を押さえて唇を尖らせた。
どうせ、ナイスバディに嫉妬しているだけなので気にしないで欲しい。
さてミコはどうかな?
バカ鬼は刀を取り落として地面に両手をついて肩で息をしている。
なんてことだ。少し目を離した隙に決着がついていた。ミコの勇姿を見損ねたな。少し残念。
「バカな……バカな……こんな小娘に……」
隣では困り顔のミコが所在なさげに立っている。
バカ若様にはいい薬だろう。
弱みに付込むようで申し訳ないが、せっかくの出会いなので無駄にすることはない。
迷宮攻略の速度低下からくる行き詰まり感の原因は、偏に数の少なさだ。
そもそもこちらにデメリットはないのだからスカウトくらいしてもいいだろう。
ミコの実力を見せたことがプラスに作用するに違いない。
さて、交渉開始だ。
「ところでご老体、提案があるんだが」
「我らは既にあなた様の臣でございます。何なりとご命令くだされ」
うーん、変な流れだな。正直他人の人生を背負えるほど甲斐性は持ち合わせていないので遠慮したい。姉妹と西川だけで手は一杯だ。
「命令ではなく、協力の要請だよ」
老人は、はてと首をかしげた。
「俺の仕事を手伝ってくれ、見返りはこの地での安住と強さだ。将来的に鬼人族としての力をつけたいならもってこいだぞ?」
老人に迷宮攻略の説明をする。途中から他の少年少女も興味津々で加わり始める。
「女の子もいるんだ無理強いはしない」
「いえ、我ら鬼族は戦闘種族、戦いを恐れるものなどいないでしょう。是非お手伝いさせていただきたく思います」
皆は一様にウンウンと頷いている。このままくすぶったまま生きる事には耐えられない、そんな目をしていた。
仕事としてではなく、生き様としての参加か。
意欲は買おう。でもダメだ。
本能的に敵に向かっていく姿勢だけでは消耗が多い。欲張りかもしれないが、出来ることなら一人も欠けさせたくない。
平和な時代を生きてきた俺も西川も、ひとりでも犠牲者が出てしまえば精神的ダメージと罪悪感でおそらくその場から動けなくなる。
参加する以上は、戦略的視点を持ち、戦術を展開できる戦いを学んで貰わなければならない。
だが、個々での参加は数が多すぎて目が届かないだろう。
「では、ギルドを作ってはいかがでしょうか、一条様」
菊千代はにんまり笑った。
チームみたいなものか。そうするか。さくっとギルドを作成する。まず、西川と姉妹を加入させて、鬼族も加入させる。
このギルド上納ってなんだ?
「レベルアップで手に入れた迷宮ポイントをギルドに一部納めてもらうシステムです。税金のようなものです」
貯めた分はどうなるんだ?
「一条様のお好きにお使いください」
なるほど、これで左団扇で強くなれるな。しないけど。
ゼロ設定はできないようなので最小値の10%に設定しておくか。
名称は迷宮攻略ギルドとシンプルにする。
「ようこそ、迷宮攻略ギルドへ! 歓迎する」
迷宮攻略の要は集団戦だ。パーティプレイ、これに尽きる。役割分担をした戦闘で効率良く数をこなす。
鬼族に説明しながらまずは、指揮系統の一本化を行う。組織作りだ。後は情報の共有をするための分隊長を決める。いちいち皆を集めて説明をするのは面倒だからな。
ご老体の提案で、バカ鬼の姉、イッカが鬼族の代表者に就任した。
続いて年上の者から分隊長を三人選出。一番隊長にイッカ、二番隊長にバカ鬼リッカだ。三番隊長にはシロウという18歳で最年長の少年が選ばれた。寡黙なイメージの男子だ。
ここからは役割分担のためにステータスによって振り分けを行う。
老人は不参加のため6人組3パーティができあがった。
迷宮に入る前に姉妹に施したように簡単な戦闘訓練をしてスキルを身につけさせる。
各部隊に俺と姉妹が分かれて技術指導だ。
迷宮ポイントを獲得したら各自のスキルレベルをあげることにしよう。
安全策として、管理者権限で帯域の制限を設ける。
弱い者が強い場所に誤って入らないためだ。今の迷宮は分かれ道ごとに外に広がり魔物も強くなっている。ある程度までレベルが上がらない内は立ち入りを禁止とする。
ボス攻略の後にポップする宝箱だけはギルド預かりとした。ギルドの発展のために我慢してもらいたいと思っていたが、不満はないらしい。
「家臣の功績は主君のものでございますゆえ」
ご老体のお言葉だ。くすぐったいね。
バカ鬼だけは忌々しげな顔だけどな。
もちろん、迷宮攻略だけをしている訳にはいかない。
ワーカーホリックは卒業したばかりだ。
ミコとユウを案内につけて、第一陣を迷宮に送り出す。
残った者達で拠点作りだ。
俺がすいすいと伐った木を一ヵ所に集めていくのを見て、あまりの手際のよさに鬼達の目が丸くなっていた。
本格的な住居は自分達で何とかしてもらうとして、仮設住宅の建設だ。とりあえず雨と風を凌げればいいかというノリで木材を乾燥して加工していく。
鬼の子供たちはポカンと口を開けて俺を見ているが、大丈夫、君たちもこれくらいはすぐにできるようになる。
西川、どうしてお前が自分の功績の如く自慢げに胸を張っているんだ?
炊事場の準備も必要なのでかまどの設置をお願いする。
大所帯になったから食事の準備も大変だろうな。
第一陣が戻ったら1時間後のリポップを待って第二陣の突入。スキルポイントを振り分けて、第一陣はレベル2の迷宮に向かわせる。全部隊が第3レベルで問題なく狩りが出来るのを確認して本日は終了だ。
3レベルまでの敵だけで必要になる食料は手に入るからね。
夜の食事には、過剰にあった肉を放出して士気を上げることにした。みんな大喜びだった。
寝床にも余り気味の毛皮を進呈する。ありあまる布の服をほどいて作ったタオルなども支給する。建物は間に合わなかったので野宿になるけど我慢してもらおう。
人数が多くなって賑やかだ。
ミコとユウも同世代の仲間が増えて緊張気味だが楽しそうで何よりだ。
西川は相変わらず鬼の女を悔しそうに眺めているが。
3日間ほど、鬼部隊の様子をうかがった後、族長のイッカと話し合い、適材適所に振り分けを行う。
がっつり戦闘系とその他作業もこなす半戦闘半作業、最後が戦闘よりその他作業を好むものに分かれたので組織を再編だ。
種族特性だとしても好みはあるだろう。個人の意見を尊重して、第一隊長にバカ鬼のリッカを含む生粋戦闘チーム7名に。第二隊長にイッカを据えて狩りと採集を目的とした半戦闘チーム6名に。残り5人を建築炊事を主にした工作部隊に任命する。
それぞれに適したスキルをひとつふたつ上げておこう。
スキル操作をしていて気付いたのは、迷宮ポイントを無自覚で自身に使っているものが数名いたことだ。才能があるという解釈だな。もちろん、熟練度が上がって能力をつけているものもいる。ノーサポートでも迷宮ポイントは使用できるという実例だ。いや迷宮サポートなどというものがチートなだけであって本来はこうやって腕も技も時間をかけて磨いていくんだろう。
とりあえず建築に3名、炊事に2名を役職として任命した。もちろん、希望があれば交代も可能だ。
日が進む毎に物資は増えてレベルは上昇、拠点も仮とはいえ立派なものになっていくだろう。
5日もたたずに第一部隊の攻略迷宮レベルも6まで上がった。さすがに戦闘種族だ。数が多いということは本当に大事だな。怪我はあるが当然死者はいない。
そろそろ俺達の活動も再開だ。
途中で止まっていた迷宮攻略を再開させる。姉妹も程よくリフレッシュできた様子だしな。目の色も子供のそれに戻っていた。
「ミコ、ユウ。迷宮を攻略するのは俺たちだけじゃない、怪我をしないように程々に頑張ればいい」
「うん」
「はい」
返事も笑顔で返ってきた。
姉妹の様子に西川もほんわか笑いこくこく頷いている。
「お待ちください、主様」
出発前にイッカが俺たちを呼び止めた。
放浪の疲れも抜けて、身なりを整えたイッカは凛とした美しさをまとっている。
スタイルの良さが和装の上からでも分かるから相当なものなのだろう。
見蕩れてしまった俺はむうと呻った西川に脇腹を肘打ちされた。
「ご迷惑でなければ我らを供に加えていただけませんでしょうか?」
イッカの隣には元第三部隊の隊長を務めたシロウが立つ。寡黙な彼も目礼している。純粋戦闘チームにいた筈だけど転籍は自由だからいいとして、横に立つイッカは問題じゃないか?
族長でもあるし第二隊長の責務もあるだろう。
「第二部隊は副長に任せています。敵もそれほど強くないので問題ないでしょう。族長に関しましては……その、長老の意見ですので反対されることはない筈です」
ん? 歯切れが悪いな。実はやりたくなかったとかかな?
「コーキ様にぶい」
何? どういうことなんだユウ?
「族長を私にして主様に見初められれば鬼人族が自動的に主様の一族となりますれば……」
赤い顔をして族長がもじもじしている。
ああなるほど……。何かとつっかかってくるバカ鬼を族長にしてしまうと対立が生じてしまうのを考慮したうえでの政治的な配慮だったのか。
そのために俺の近くに置くというのが長老の考えなんだな。シロウは護衛的なものか。
うん、レベルはまだまだだけど、スキル的には問題ない。手数が増えることに異論はない。許可してつれていくことにした。
「ありがとうございます」
西川は拗ねていたが、姉妹たちは仲間が増えて嬉しそうだった。
読んでいただきましてありがとうございます。
楽しんでいただけましたら幸いです。
ブクマ、評価、ありがとうございます。励みになります。
では、失礼しまして。
もし、気に入っていただけたり、続きを読んでみたいと思われましたら、ブックマークとこの下にあります評価の入力をお願いします。(評価感想欄は最新話にしかないそうです)
感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。
よろしくお願いします。




