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第11話 新たなる訪問者

誤字を修正しました。

 

 011


 迷宮の攻略に問答無用で駆り出されて1ヶ月がたった。


 迷宮レベルは現在10。攻略範囲は約8割。今日明日にでもボスまでたどり着けそうだ。

 最初の1週間でレベル6まで踏破した事を考えれば攻略スピードは極端に落ちている。


 それも仕方のないことだ。

幼い姉妹の体力面を考慮しながらの行軍だったこともあるが、迷宮の成長が予想外で攻略時間がうなぎ登りだからだ。


 まず、分かれ道は予想だが512ヶ所。全長だけで10キロ以上はある。長距離レンジの索敵は数が多すぎて把握しきれず役に立たない。

 ボスへの最短距離が辿れないため魔物とのエンカウントが上がり戦闘時間は増加の一途だ。


 更に迷宮攻略の鍵であるボスキャラが2匹体制になっている。いやらしく反対側に配置されているので否が応でも迷宮を隅々まで攻略しなくてはならない。


 外れの道だった後、迷宮の外に一旦出て再挑戦も試したが、魔物の出現もある程度リセットされるため戦闘回数が単純に増えて一長一短だ。一方のボスを倒した後だけは役に立つんだけどな。


 加えて奥に進むほど魔物も強い。

 盾槍弓魔法とバランスがいいのか悪いのか悩むパーティ編成では苦労が多いのだ。

 そのため無傷とはいかず回復用のポーションを集める下準備の時間も必要になってくる。


 攻略という名の育成に、タイムリミットはないのだから焦る必要はないのかもしれない。

 早く元の世界に戻るためにと全力で挑んだ結果が1月でレベル10だ。同じペースで進んでも最短で10カ月。勿論同じペースなんて不可能だ。想像したくないけど10年単位の時間がかかる可能性の方が高い。


 もうひとつの懸念事項は、姉妹の精神状態だ。めっきり笑わなくなった姉妹の目はどこか濁っている。鏡がないからはっきりとは言えないが、俺の目も似たようなものだろう。西川を見ていれば想像できる。


 戦いと戦いに明け暮れる日々に幼い姉妹の感受性が失われている気がする。多分、気のせいではない。

 情操教育に宜しくない。保護者としての立場は地に落ちている。


 ライフワークバランスが崩れているのだ。とんだブラック企業だ。

 この迷宮を攻略したら長期休暇をとろうなんてフラグが立ちそうなことを考えていたけど、手遅れになりかねないな。


 初めての人型の魔物、オークを屠った所で小休止を入れる。

 黙々と水分を取り携帯用の食料を無言で口にする4人。限界は近い。

 決断するなら早いほうが良いな。


「今日はここまでにしよう」


 3人が怪訝そうに俺を見る。

 普段なら夕暮れ近くまで潜るのだ。感覚時間だが、まだ昼を少し過ぎたくらいだろう。


「まだ、いけます」


 ミコが苦悶の表情で呻くように言った。

 何てことだ。

 子供にこんな顔をさせていたなんて。

 保護者気取りが聞いて呆れる。


「がんばります。だから……捨てないでください」


 必死に訴えかけてくる目。そうか、そんな思いで心を殺していたのか。


「いや、いいんだ。ミコもユウも頑張ってくれた。一旦休憩しよう」


 渋るミコを宥めて迷宮から出る。


 木々の隙間から見える太陽が高い。それはそうだ、ここのところ朝と夕方の太陽しか拝めていなかったからな。


 木版に今日の迷宮攻略の×を付ける。

 今まで通りの増え方なら残りは16ヶ所だ。レベル10で現れる魔物もそろそろ出てくる。下準備に時間をかけてもいい。

 とにかくリフレッシュが必要なんだ。ワーカーホリックは卒業だ。


 水場で顔を洗ってさっぱりしてから暗い顔の姉妹に俺は声をかける。

 自分たちが役立たずで放り出されるのではないかと不安で押しつぶされそうなのだろう。


「今日はハンバーグを作る」


 姉妹はキョトンと首をかしげた。

 定番ネタ来ましたねと西川がにまにま笑っているが無視しよう。


 やはり知らなかったか。食べられればなんでもいい食に無関心なオレと奴隷で食うに困っていた姉妹の食事は独創性もなくただ煮て焼いて食べるのみだった。反省しなければならない。


 よし、この機会に白米にもチャレンジだ。迷宮レベルが上がるにつれボスキャラだった魔物もたまに出てくるようになったので米俵も溜まっている。


 調理スキルは全員5まで上げている。できなくはないはずだ。


 ドロップアイテムで手に入れた、しっかりした鍋に木製の蓋をあてがい、水で軽く研いだ米と水を入れる。何となく水の加減がわかるのが調理スキル5の真髄だろう。姉妹はなにやら見慣れない食材に興味津々だった。うんうん子供はこうでなければ。


 ご飯が炊き上がるまでにハンバーグのタネ作りだ。

 オークの肉と猪の肉の合挽き……合挽きと言っていいのか不明だけど、包丁で叩いてミンチにしていく。

 西川が楽しげに玉ねぎモドキを刻んで目を潤ませている。


 姉妹の目が丸くなっている。いい傾向だ。

 でもやっぱり牛肉がほしいな。オークが豚肉だから、牛肉はミノタウルスか? その内出てきそうな魔物ではある。


 こちらの世界での主食はパンらしくパンを豊富に落としてくるので助かった。

 ミンチにした肉と軽く炒めた玉ねぎにパンを乾燥させて粉々にしたパン粉を混ぜ合わせる。下味は塩のみ。ソースがないのが寂しいけどよしとしよう。

 混ぜ合わせに参加する姉妹たちも楽しんでいる。


 オークの肉から取ったラードを敷いて丸めたタネを焼いていく。

 ジューシーな香りが充満していく。

 ああ、なんていうか、久しぶりの楽しい食事の予感がする。栄養をただ摂取するだけの味気ない食事ではない、団欒だ。


「すごくいい匂いがします」

「おなかすいた」


 両面をこんがり焼いてから少し火加減を弱くしてじっくり熱を通す。

 あまりの香りに腹が鳴り過ぎてくらくらしそうだ。


 出来上がったハンバーグとほっこりと炊けた白米の前で姉妹と西川はヨダレを垂らさんばかりだ。

 さて、いただきます。


「何これ、なにこれ! おいしーっ」

「今まで食べたことがない味と感触です。この白いのも味がしないかと思ったら仄かに甘くて美味しいです」


「先輩の手料理とか感涙ものです」

「初めてにしては良くできたな」


 あっという間に食べ尽くした。大満足の食事だった。


 迷宮の成長と共に迷宮付近という範囲が広がったおかげで、100メートルほど離れた場所にある川にも行けるようになったので、水浴びをする。


 素っ裸ではしゃぐユウとは違い少し恥じらっているミコが可愛らしい。

 大胆に黒い下着姿になってこれでもかと白い肌を見せてくる西川もまあ楽しそうだ。


 名前の知らない魚がキラキラと日を反射させて泳いでいる。そのうち釣りをして焼き魚にしよう。

 菊千代には申し訳ないが、とにかく迷宮のことはひとまず忘れてリフレッシュだ。


 だが、そうそううまくいかないのが人生というものだ。


 4人で陽の当たる場所で昼寝をしていると危機察知の電子音が鳴り響いた。


「周囲索敵」


 慌てず、動かずに索敵スキルを発動する。下手に騒ぐと相手側に気付かれたと急襲を受ける危険がある。反射的に体を起こそうとする姉妹を手で制する。ハンドサインで待機を命じた。


 西川は寝ていた。まったく神経が図太い奴だ。


 森の方から20程度の影が近付いてくる。詳細が不明なので今まで出会った山の獣ではないようだ。


「コーキ様、何か来るよ?」


 自力で危機察知を獲得しているユウも気付いたらしい。


「山の獣じゃない、足音は人かも」


 視界に捉えた。アナライズが発動する。


「どうやら鬼人族、らしいぞ」


 途端にミコの顔色が悪くなる。連れ去られて食べられるという方便を思い出したのかもしれない。

 だがなミコ、心配は無用でするだけ無駄だ。


 鬼人族の集団は、レベルで見ると最高でも5だからだ。

 対して俺達のレベルは37だ。

 うん、まあ、負ける気がしない。


 視界に入った鬼族はぞろぞろと歩いてくるとぴたりと止まった。


「強きお方よ、ここはあなた様の森であろうか?」


 鬼人族のおじいちゃんが頭を垂れてからしわがれた声で問う。その後ろにいる残りの鬼達はずいぶん若い。人と同じ姿をしているけど額には角がある。格好は和装だ。甚平や浴衣の変形した服装だ。

 森を歩く格好ではないけど、前の常識だから気にしないことにする。


 見た目では年がわかりにくいがアナライズで見えている年齢では20を超えているのが2名とあとは12から18歳の少年少女で、一番前の老人だけかが200歳と最年長だ。鬼人族長寿だな!

 俺の中の敬老精神が疼く。


「私達はここより遠くから来ました。派閥の違う者達に追われ村を捨てて逃げてきたのです」


 なるほど人族以外だからといって一枚岩というわけではなく派閥間闘争なんてものがあるのか。

 長老と少年少女だけ逃がされて引率に2名がついてきたという形かな。


「ここに我らの集落を作ることをお許しいただけるであろうか? であれば我らはあなた様に忠誠を誓わせていただこう。好きな者を娶っていただいても構わない」


 少女達は諦めたような顔で、少年達は悔しそうな顔をしていた。

 いやいや誰も妾なんかにしないよ?

 どうしてこのタイミングで目を覚まして俺を白い目で見るんだ、西川。


「ご老体、気にしなくても俺達も新参者だ。許可を出すほど偉くもないので遠慮なく捲土重来をはかってくれ」

「おお、かたじけない、強きお方よ」


 鬼人族の者達はみんな安堵の表情だ。ただし約1名を除いてだ。

 20歳を超えている1人の男が隙なく俺たちを睨みつけている。噛み付きそうな顔だ。


「長老! 俺は反対だ。人族など信用できん」


 唯一レベルが5の男だ。

 つまり鬼人族で最強ということになる。


「おやめなさいリッカ」


 男を嗜めたのはもうひとりの引率者でレベルは4。22歳。美しい顔立ちに額の角が良く似合っている女性だ。なにより出る所が出ている。なんだか久しぶりに見る女性だった。

 少女かスレンダーしかいなかったからな。


「貴様、姉上を下衆な目で見やがって。その目を潰されたいようだな!」


 シスコンかよ。一月ぶりに見る豊満な女性だったからつい目が奪われただけだよ。許してくれよ。西川もな。


「弟が失礼を、お許し下さい」


 お姉さんは深々と頭を下げている。姉の方には常識があるらしい。


「姉上、謝る必要などない、見てみろ年端もいかぬ女を3人も従えている畜生だ。人族などみな同じだ。こんなところに村を作ったら鬼人族の女はコイツの奴隷になるのが関の山だ」


 少女扱いに西川は微妙な顔だ。若く見られて嬉しいが、子供と同列で素直に喜べないらしいな。


 何か人間に嫌な思い出でもあるのか? 実は人間とは仲が悪い種族なのか?

 菊千代は、まあ、聞いても無駄だろう。


「ご明察恐れ入ります」


 そこは自信たっぷりに答える場面じゃないぞ、菊千代。


 なんだろうしかし中学生みたいな狂犬ぶりだな。怒る気も起きてこない。ただひたすらイタイぞこいつは。


 年少の鬼達がざわめく。

 長老は困ったもんだと首を振っている。

 なんでこの男が引率なんだろう不思議すぎる俺の疑問はすぐに解けた。


「若、ここは引いて下され。この先は人族の街があるのみです。人里に降りられない我ら鬼族はここを退けられればまた宛てもなく彷徨う流浪の民となってしまうのです」


 ああ、バカ殿の類なのか。長とかその辺の偉い血筋の鬼らしいぞ。

 水場が近い場所は生活する上では必須と言えるからこんないい立地は見逃したくないんだろうな。

 老人の苦労は見るに忍びない。


「こいつを始末すれば済む話だ。所詮人と鬼など相容れぬ!」


 鬼は腰から刀を抜いた。

 ミコが反応して俺の前に立つ。

 やれやれ、血の気の多い奴が多くてまったく困ってしまうよ。


読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

ブクマ、評価、ありがとうございます。励みになります。

では、失礼しまして。

もし、気に入っていただけたり、続きを読んでみたいと思われましたら、ブックマークとこの下にあります評価の入力をお願いします。(評価感想欄は最新話にしかないそうです)

感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。

よろしくお願いします。

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