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42皿目 豚骨ラーメン  豚 姫 様 ―畜生姫と白の騎士団―

ブクマがごそりと減ったので、通常運転に戻ります。

なので、ざまぁ系もありません。

作風は、また色々試しながら書き固めて行きたいと思います。

評価や感想などをいただけると、とても参考や励みになります。

 ずずっ


 ひゃっ!!


 スープを一口啜り、危うく腰を抜かしそうになった。


「―――……なによこれ」


 野菜、肉、知らない調味料。それらが織り成すどこまでも深く、ふくよかな味わい。

 まるで姫に剣を捧げた忠誠心厚い若い騎士達のようなスープ。


 一言で言うならば、凄く美味しい!


 あぁ……見える。御伽噺のような光景。

 白い騎士達に傅かれる姫の姿が……。




    ∽ ∽ ∽


 たしかに「退屈です」とは言った。変わった余興を求めた。

 しかし、それで昼餐に庶民のような食事を饗される理由が私にはわからなかった。


 私の名はエリザベート=アレクサンドラ。

 周辺諸国より魔法王国とよばれるこの国ゼリアブールの第二王女。


 まずは、私の恵まれた容姿について説明しておきましょう。たわわに実った果実のような柔らかで豊かなバスト。

 同性異性を問わずに人々を魅了するキュッとしたくびれ。陽光のような長い金髪はしなやか天使の髪のよう。

 白雪のように白く透きとおった色白の肌、気高い光りを宿す蒼玉のような瞳。

 そして甘く優しい声色を紡ぐ小さく美しい唇。というのが侍女や騎士達の弁。


 最近、父である国王アレキサンドロスⅣ世が、たまに風変わりな料理を作るという男を城に呼び寄せ、変わった料理を愉しんでいることは知っています。

 しかし、まさかそれをお父様に勧められることになるなんて……。

 王女に相応しい料理であることも、付け加えておくべきでした。


 そうして、王室の広い食事広間で、長いテーブルの先でお父様の見守る中、私の余興のような昼餐が始まったのです。


「昼餐をお作りする誉れにあずかり、恐悦至極にございます」


 ワゴンを運んできた黒い髪の男が挨拶した。こいつがお父様お気に入りの風変わりな料理の男? でも、侍従の様な意匠の服を着ているし……まぁ、侍従ということにしておきましょう。


 鴉の様に黒い髪、白い雪のような肌にとおった鼻筋。切れ長の眼に琥珀色の瞳。

 白と黒のコントラストが美しい。

 こいつは……なかなか魅惑的な男ね。少し私好みだわ。


 特別に一瞥してやります。


「……よい♥」


「失礼致します」


 ぱかり


 侍従が銀色の大きなクロッシュを私の前に置き開け放つ。出てきたのは白磁の深い器になみなみと満たされた雪のように白いスープ。スープの上には味をつけて煮た肉の切り身と、刻んだ香草が浮かぶ。

 豪華賢覧な宮廷料理とは程遠い。なんの変哲も無いスープでした。

 これには温柔敦厚な私も思わず眉を顰めます。


「スープだけなのですか!?」


 とりあえず、唇を尖らせ不満を吐くが、お父様の勧めである。食す前からあまり多くを吐きつける事はできない。


 それに、大きな器になみなみと注がれたそれは、スープにしては少し量が多い気もする。

 余興とはいえ、馬鹿にしている。


 料理を運んだ侍従の男を睨み、お父様の顔を見る。


「面白かろう? これは、こういう料理なのだ。毒見は済ませてあるから食べてみなさい」


 お父様、なんでそんなに嬉しそうな顔をしているのかしら。

 なんだか、不愉快だわ。


 いらいら


「豚骨のラーメンです。スープに沈む麺はフォークでお召し上がりください」


「………」


 つ――ん


 侍従が何か物申したけど、聞こえません。


「失礼致します。袖を捲らせていただきます」


 二人のメイドが私のドレスの豪奢な袖を捲ろうと私を挟むように横に立った。此処にきて私はこのメイド達でいらいらを発散する名采配を思いつく。侍従の男は昼餐を饗することを許す。ただしメイド、お前らの袖捲りは駄目だ。


「何をする。この無礼者! このままでよい!」


 私はぴしゃりと叱り付けた。誰が袖捲りを命じたか♪


「ひっ! 申し訳ありません!」


 メイド達は短い悲鳴を上げると何かを叫びながら引っ込んだ。いい気味です。ブスメイドのくせしてしゃしゃり出るからそうなるんだよばーか。


 気 分 爽 快♪


 そんな楽しい気分も、眼の前に置かれた何の変哲もない白いスープに再び滅入ってしまう。わざと大きなため息を一つ。

 まぁ、いいわ。お父様の顔を立てて一口、口に入れ……後は口に合わないと喚いて腰を抜かさせてやる。

 ふんすと鼻息を一つして、眼の前の器に満たされた。薄雪草のような白いスープをスプーンで掬い口に流し込む。


 ずずっ


 ひゃっ!!


 危うく腰を抜かしそうになった。


「―――……なによこれ」


 野菜、肉、知らない調味料。それらが織り成すどこまでも深く、ふくよかな味わい。

 一言で言うと凄く美味しい!

 しかしスープの旨味はあまりに一途で、どこまでも突き抜けたような奥深さがある……。まるで姫に剣を捧げた忠誠心厚い若い騎士達のようなスープ。


 あぁ……見える。御伽噺のような光景。白い騎士達に傅かれる姫の姿が……。

 なんなの!? このでたらめな旨味は!

 なんという筆舌に尽くしがたい複雑で濃厚な旨味。贅を尽くした料理を食べなれている筈の気高い王女の舌が、めくるめく味覚の暴力に蕩けふやけてしまっている。


 いけない。心奪われては……戦意を喪失しては……。


おや? スープの中に白い何かが見えますね。フォークで食せと言う《めん》とやらはこれのことですか……

まぁ……一口……一口だけですよ? お父様の勧めた料理なのですから……


 別にこんな地味な見た目の料理、好き好んで食べたくなんてありません。こんなの、ほんのちょっぴり美味しいだけ。少しでも気に入らなかったら、次の瞬間には叱り付けてやるだけです。

銀のフォークで白く細い物を絡め、口に運ぶ。


 ずるずるっ もぐ


 この白くて細長いの美味しい!


 旨味のあるスープを一身に纏ってするすると口に滑り込み、噛みしめると小麦の旨味が口に広がります。まるで逞しい騎士の胸に抱かれているような幸せな味。


 ま、また何か見えてきた。白い騎士に手を取られ、歌を紡ぐ姫の姿……。


 がばっ


 あっ、姫が騎士に抱きしめられた! お、落ち着くのです。エリザベート。何でもない。何でもないのです。


 息を……整え……。


 ひっひっふー ひっひっふー


 私は王女! 王女エリザベート=アレクサンドラ!


 ひっひっふー


 ずるっずるずるずるっ ごくっごっくん♥


 おいひぃ~~~♥


 お顔がふにゃふにゃしているのが自分でも分かる。


 誇り高き王女の矜持は何処へやら、私はきっと蕩けきっただらしのない顔でめんを啜り、スープを飲んでいることでしょう。


 無心にスープを啜る私を、白い顎髭を撫でて満足そうに眺めるお父様。

 侍従達は見守り、広間は静寂に包まれて、私のらーめんを啜る音だけが響く。


 あぁ……駄目!

 私、溺れてるっ! ……魅惑のスープに取り付かれてるっ!


 悔しい! こんな庶民臭い見た目の料理に、私の高貴な舌が喜び舞い上がってしまっている。

 屈辱のあまり、眼の端に涙が浮かぶ。


 こんな庶民臭い料理を私に食べさせて!

 酷評して、この席を設けた奴ら全員に恥をかかせてやりたいのにっ!


 駄目だわ……止まらない。

 スープを飲むのが止められないっ。


 飲んでしまう……平らげてしまう。

 気がつくと私は、らーめんの器をはしたなく両手で直に掴み上げ、口付けてスープを飲み下していた。王女である私が……こんなに浅ましくっ! 家畜のようにスープを啜るなんてぇ!

 まるで人の姿をした家畜。か、家畜といっても可憐で美しい私です。きっと愛され系です……《らぶ畜生》程度……。


 セーフっ! まだ王女の矜持はここにありますっ!そして私は、器に角度を付けて一気に流し込みました。


 ごくごくごくごくっ ずずずずずず――っ


 あ゛あ゛あ゛あ゛~~~っ!!なんでぇぇ~~~!




 ほぅと熱い息を一つ。


 私の前には見事に完飲完食し、くっきりと器底の柄が顔を出した器が一つ。

食べず嫌いの多い私が、料理を平らげた様子にお父様もにっこりです。当然、侍従やメイド達はただ、静かに控えている。


「随分と気に召した様だな。エリザベートよ」


「はい、お父様。私、この料理をいたく気に入りました」


 私は虫も殺さぬ笑顔をたたえたまま言った。考えを改めねばなりません。この料理が王女たる私が食すに値する料理であったことを。

 たしかに少しこってりとしていて、男臭さを匂わせる所もあります。

 しかしながら、修練後の騎士を思わせるような、そんな男臭さが今は愛おしくて仕方がありません。


「この料理はなんと言いましたか? 庶民の間でも好まれいるのですか?」


 私は白い貌の侍従に穏やかに尋ねました。


「豚の骨のラーメンと申します。王女殿下。この国でお召し上がりになられたのは、国王様と王女殿下だけでございます」


 私の眉間にきゅんと皺が寄る。豚の骨! そんな名前、駄目! 駄目! それにこんなに美味しいのに誰も知らないなんて許せない!


「その名はこの料理に相応しくありません。私が名付けましょう。そうですね……《 白騎士のスープ 》」


 《 白騎士のスープ 》あぁ、なんて美しい響き。この名前なら合格です。


「《 白騎士のスープ 》のご拝名、恐悦至極に存じます」


 侍従が深々と頭を下げる。あぁ……この素晴らしい料理をこの国に広めたい。よし。私は決意しました。


「お父様! 私はポケットマネーから助成金を出し、この素晴らしい料理を国中に広めたく思います」


「そこまでか! これは愉快だ! お前の好きにするがよい」


 膝を打ち「わはは」と豪快に大笑いをするお父様。えぇ、広めて見せますとも。王女の名にかけて。


 城下で広まる《 白騎士のスープ 》を供する宿屋や料理店、酒場。それを想像するとわくわくが止まりません。

 これは、退屈なんてしている暇はなさそうです。


 ぱんぱんと白い手袋の可憐な手を叩く。


「大臣を呼びなさい!」


 斯くして、魔法王国に《 白騎士のスープ 》旋風が吹き荒れることとなるのでした。


いつも読んでくださりありがとうございます。

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