41皿目 番外 ホットドック 改め 少年魔獣使いと乙女の獣
旧41話の改稿投稿です。
大陸の西側にある魔法王国のさらに西に、魔獣の棲む森がある。そこでは、数多の珍しい魔獣や魔獣使い達がひっそりと暮らしていました。
「なんですの! この足首に挟まる板は!」
その日、高貴な私は、最高にイラついていました。
森の賢獣たる私が、春の麗らかな日差しの中、森を気品溢れる散歩をしていると、大きな木の根元に、草食魔獣の肉が食べやすい大きさで落ちているのを見つけました。
きっと愚かな人間が間抜けに落としていった物だろうと思い、高貴に匂いを嗜もうと近づいたら、突然足元から小さな木の板きれが二枚飛びだしてきて「ぱしーん!」と足首を挟まれましたの。
恐らく、魔獣捕獲用の罠……近くに住む愚かしき人間共の仕業。
それはもう、この美しくマジェスティックにくびれた腰を抜かさんばかりに驚きましたわ。
拾い食い? そんなはしたないことはしませんわ! この私には30秒ルールというものがあって……。
落ちていた物を見つけて30秒以内に拾い上げれば、私の物だったことになる素敵なルールですの。
ちゃんと拾い上げましたわ。私の物ですの。
私の物であれば、つまりこれは、高貴な私が置いておいた肉ということになります。
そんなことより、突然私のロイヤルな足を下等な板に挟まれたことにはとても憤慨しました。
美味しそうな草食肉に、高貴に釣られているところに一杯食わされたのも噴飯ものですが、なにより、森の全てが羨む、この美しく誇り高い前足が怪我でもしたら一体どうするつもりですの!
こんなイキリ雑魚罠、一踏みで壊してしまえるけど、そんなことでは、私の気高き心は収まりません。
このままここで罠をしかけた奴を待って、「まりまり」と喰らってやることにしますの。
ただ食べても面白くもなんともありません。美しい人間の娘の姿に化けて油断させ、愚かで罪深い人間を驚かしてやることにしましょう。
ぼわん
静かな森の奥、木漏れ日を浴びながら、白いワンピースの陽光のような髪の少女が、木の根元で草食肉を上品に食んでいます。
そう、変身した私です。
その肌は新雪のように白く、気高さを宿した碧玉の瞳、つんと尖った眉に少し気の強そうな印象を覚えるかもしれません。
レ-スを幾重にも重ね、女性らしさの強調された高価そうなワンピースは、少女が裕福な存在であることを想像させるに難しくないでしょう。
そうして、高貴な足に板をくくりつけたまま、私は罠の主を待ちました。
あぁ、待ち遠しい。 さぁ、早く来て無様に度肝を抜き驚嘆するが良いですわ。
次の日の朝、罠の主は来ました。
罠にかかった魔獣に期待を馳せて、「はあはあ」と無様に荒く息を切らせ、人間の男の子が走ってきましたわ。
亜麻色の髪に優しそうな琥珀の瞳、腹部の露出するデザインの丈の短い長袖、女児と見まがうばかりにか細いが存在感のある腰は異性、同姓構わずに魅惑するのでしょう。
美しい私を見て驚いています。
そのまま「ぽーっ」として……これは、見惚れていますわね? まぁ、無理もないですけど。
だらしなく鼻の下を伸ばしちゃって……こいつ、益せていますわ!
「これはあなたが仕掛けましたの?」
足元の板切れを指差し現実に戻してやりました。
「痛いので外してくださらないかしら?」
「えっ? わぁ!? 僕の罠に女の子が! 御免なさい! 今外します! 御免なさい!」
あら、素直で可愛い。
少年は美しい私に駆け寄り、足元に這い蹲ると、腰の革鞄から鉄の棒を取り出して、子供らしい小さく美味しそうなヒップをふりふりと必死に罠を外し始めました。
食べ応えがありそうで、良い眺めですわ。
愚かな人間だけれど、まだ子供、まぁ、食べるのは止めてあげるとして、少し意地悪をしてさしあげようかしら。
「私、魔獣だけど……この罠を外しても良いのかしら? 罠が外れた瞬間、がぶりとあなたに噛み付くかもしれなくてよ」
「えっ、人間じゃないんですか!」
少年が驚き、罠を解除する手がぴたりと止まりました。
白魚のような細い指が恐怖でふるふると震えています。なんてからかいがいのある子なのでしょう。
「ほ、本当に、魔獣なのですか?」
萎縮した小動物みたいにふるえて可愛い。
「この森の至宝とも呼ばれる。気高くも美しき魔獣ですわ。村人から聞いたことがあるのではなくて?」
「もりの……しほう? ごめんなさい。知りません」
いらっ
ぎゅううううううううう
少年の手の甲を短いヒールでおもいっきり踏みつける。
「い、痛っ! 痛い! 痛いよおぉ!」
手の甲を押さえて無様に転がる少年。
「私を知らないなんて無礼ですわ! もぐりで人間をやっているのかしら? 村ごと滅ぼしますわよ?」
わざとらしく、大きなため息を一つ。
「私は、この森で(自分で思うに)最強の魔獣ですわ」
それを聞いた少年のじんわりと涙が滲む琥珀のような愛らしい瞳の端整な顔が喜びに彩られる。
「す、凄い! 人間に見えるけど、魔獣なんですね! 僕、魔獣使いなんですけれど……自分のパートナーの魔獣を捕まえるために罠を仕掛けていたんです!」
少年は興奮した様子で鼻息荒く息巻いています。
「……それで?」
高貴な私は腕を組み、優雅に少年の言葉の続きを待ちました。
「ぼ、僕のパートナー魔獣になっていただけませんか?」
どきどき
ストレートに言われると、結構どきどきしますのね。
それに加えて、実力違いも甚だしいクソ雑魚オチビに潤んだ瞳でお願いされるシチュエーションの趣深さ……。
まるでLvカンストのプレイヤーが、無知な初心者プレイヤーのお手伝いクエストを求められる様な優越感……。
私の高貴な胸にも、きゅんきゅんとくるものがありました。
「パートナーになったら、私は一体何をしますの?」
「一緒に狩りをしたり、ご飯を食べたり……一緒に生活をします」
ふむふむ、なるほど。そんなに悪いお話ではありませんわね。
「魔獣同士のバトルイベントに参加したり……」
なんですって?
魔獣同士でバトルさせられるんですの?
まぁ、最強の魔獣たる私の強さを、愚かな人間共に褒め称えさせるには良いかもしれませんわね。
うん?
お子様少年の腰に束ねられたぐるぐるの紐……これは一体何ですの?
「そのぐるぐるは何ですの?」
「これは……《 魔獣調教用の鞭 》です。魔獣が言うことを聞かない時に使います。……それとこれは首輪で……」
ぶちぃ
どげしっ
「ぎゃんっ!?」
肩口を徐に私の誇り高き一撃で蹴り飛ばされた少年は蛙のように無様にひっくりかえり悲鳴を上げました。
「お前はパートナーが言うことを聞かないと、鞭を振るうんですの!? とんだケダモノですわ!」
ぎゅううううううううううう
今度は少年のブーツの先を、浅いヒールでえいやっ、と踏みつける。
「あぅぅ…痛いっ! 痛いよぉ!」
まぁ……やり過ぎはいけませんわね。
足を退けてやると、少年は座り込みブーツのつま先をひぃひぃと撫でた。
すぅううううう くんかくんか
中途半端に起き上がったと思ったら、こいつ、どさくさに紛れて私の高貴なスカートの匂いを「くんくん」と嗅いでいますわ!?
バレていないとでも思っているのかしら? それとも、これでつま先のダメージを軽減させているとでも言うんですの?
なんという格闘センス……いえ、転んでもただでは起きない精神は見上げたものです。
「……魔獣さん……いい匂いがするね。収穫祭の腸詰を挟んだパンの匂いがする」
この高貴な私が臭いとでも言いたいんですの?
ぴきぴき
これは、お仕置きが必要ですわね。
つま先を未だ摩る少年の腰から《 魔獣調教用の鞭 》を手に取る。
気がつけば、私の優美な片足を捕らえたクソ雑魚板切れは、いつのまにか壊れて外れていた。
「鞭打たれるとはどんなものか、私がこれから教えて差し上げますわ!」
鞭など振るったことはなどないけれど、天才である私は大体の物事を初見で極めてしまいます。
ぱしぃん ぱしぃん ぱしぃん ぱしぃん
革の鞭が渇いた音を鳴らし、少年の華奢なシルエットの背中に衝撃が走る。
「ひぎっ! 背中っ!? ぁ゛っ! 痛っ! やめてっ!」
怒りの仕置きに少年は痛みに悶え、可愛い悲鳴をあげます。
こんなに可愛いと手が緩んで仕置きになりません……
「お腹を出しやがれなさいですわ!」
お腹は背中の1/3も防御力がありません。これならば堪えて、もっと無様なオホ声を上げる筈。
少年は言われるままに腹を覆う布地に手をかけると、ずるりと捲り上げました。
ふるり
益せたオスガキの未熟で柔らかそうな白い腹筋がふるりと露になります。
「これはツラいですわよ……」
少年はこれから始まるであろう鞭の宴に恐怖したのか、大きな瞳をぎゅうと閉じました。
そんなに可愛いリアクションをしても、私の鞭は手加減はしませんですわよっ。
ぱしぃん ぱしぃん ぱしぃん ぱしぃん
そらっ! そらっ! しゃららららららっ!
これはヤム○ャの恨みでっ! これはグロ○アの分だっ!
「痛っ! 痛たたっ! 御免なさっ! わかりましたっ! もう鞭は使いませんっ!」
「本当にわかったんですの?」
「ぅぅ……はい……」
お腹と背中を真っ赤に腫らて、炒めた腸詰みたいに、くてーんと横になった。
……ふん。分かれば良いのです。
それから数週間後の昼。
陽だまりの暖かい森の中、二つの切り株に腰かける白いワンピースの私と向かい合う茶色の半ズボンの少年。
少年は鞄から大きな木の葉の包みを二つ取り出すと、一つを私に寄越した。芳しいこの臭い。見覚えのある包み方。間違いないホットドッグだ。
「さぁ、魔獣さん。召し上がれ」
満面の笑顔でホットドックを差し出す少年の幼い顔が近い。
暇さえあれば私に見惚れて「ぽーっ」としているのも可愛いけれど、笑うと格別に可愛らしいですわね。
私に手渡された。大きな木の葉で包まれたホットドッグは少し冷めてしまってはいるが、私の可憐な掌にほのかに温もる。
下等な動物肉の腸詰を切り開いたパンで無様に挟んで酸味の強い赤いソースのかけられたこれは、少年がたまに持ってくる私の好物の一つだ。
赤いソースが唇に付くので少し食べにくいが、ぱりりと良い音を出す下等な筈の腸詰が、ジューシーな旨味を口中に広め、赤いソースがさらに旨味を引き上げる。それらを挟んだどしりとしたパンも食べ易さと食べ応えに一役買っていた。
美味しい。 すごく美味しい。
私はこの少年と食べるこの下等料理が大好きでした。
「……どう? 美味しい?」
「……ま、まぁまぁですわよ。この味は許しています。また供出しやがれですわ」
本当は少し、ほんのちょっぴり。蚊に刺された程度には嬉しいのですが、わざと少し不機嫌そうに言います。
「それなんだけど……今度は一緒に町に行って、出来たてを食べてみない?」
こ、これはもしやデートのお誘いですの!?
お、落ち着けっ! ですわっ!?
うろたえないっ! 最強の魔獣はうろたえないっ!
ひっ ひっ ふー ひっ ひっ ふー
「ねぇ……駄目ぇ?」
そ、そんな雨に濡れた仔犬みたいな瞳で見られても、む、無駄ですわよっ?
……ぅぅっ。これは……心臓に悪いですわ。
「し、仕方ありませんわね。特別ですわよ?」
「わーい! やったぁ!」
切り株に佇み、白い歯を見せて笑う白いワンピースの少女と、天使のように笑う琥珀色の瞳の少年はそうして何度も町に遊びに行くようになるのである。
いつも読んでくださりありがとうございます。




