40皿目 バタークッキー 《 災禍の歌姫 》 ローレライ
品の無い表現があるかもしれません。
男性向けパワーワードが多めです。
苦手と思われる方はお戻りください。
「どうですか? 私のファーストキスを、イチモツで奪った気分は? 」
はむっ……むっ……ちゅっ……れろぉ……
水色の髪、碧い瞳の少女の薄い唇が、瑞々しく丸いラインに情熱的に吸いつき、舌を絡めるキスの音が耳朶を打つ。
れるっ……れるれる……ちゅっ……れるん……
「ローレライ様、それはイチモツなどではありません。水晶玉です」
「そんなことは分かっています! これは実演しているのです」
ローレライと呼ばれた、レースの意匠のついた貝殻のビキニに水色の腰布の少女は胸に抱いた子供の頭ほどの大きさの水晶玉を舌先で「れるれる」と転がした。
黒い髪に白磁の肌の燕尾服の青年レンゲがあげる鎮痛そうな呻吟が海岸沿いの洞窟に響く。
魔王軍の伝令役レンゲは、《 四天王召集令状 》を届けるため、元・魔王軍四天王《 災禍の歌姫 》ローレライの棲む海岸の洞窟に訪れていた。
「あなたは、こういう保護欲を掻き立てられる、お馬鹿な娘が好みなのでしょう? どうですか? 私の占いは、まず外れないのですよ!」
「た、確かに……そうかもしれません」
「そうでしょうとも」と満足そうに水晶玉をちろちろと舌先で舐め上げるローレライ。
「此処にほら、こぉんなにお馬鹿な女がいますよ? どうですか? ……れろぉ……お嫁さんにいかがですか? あぁ、オチン×ン美味しい」
扇情的に水晶玉をてろり。
「ローレライ様がご婚活中なのはわかりましたが、私などでなく。お相手はより取り見取りなのではありませんか?」
「そんなことはありません。最近なんて誰も私を訪ねてなんてくれませんし……人とも魔物とも、何ヶ月も会話をしていない有様。それに私の占いによると、貴方は優良物件だと出ています」
ふふりと仄暗く笑うローレライ。
「勇者に歌を封印されてしまったからといって、自暴自棄になってはなりません」
「歌しか取り得の無い女が歌を奪われた気持ちが、あなたに分かるのですか?」
無責任に首を縦に振ることはできない。レンゲは静かに首を横に振った。
「どうですか? 歌を歌えなくなって四天王から外された。私の《 都落ちマ×コ 》を嘲笑ついでにお楽しみになっていきませんか?」
媚びたような笑みを浮かべ、座禅ころがしで水晶玉と一緒に転がり更なる自暴自棄を見せ付けるローレライ。
「ローレライ様! 落ち着いてください!」
「いいえ、落ち着きません。御覧なさい! いい歳して、誰からも口説かれたことの無い《 箱入り初物オマ×コ 》のご開帳です。きっと締まりだけは良い筈……さぁ、年明けの初笑いに、愉快に破いて行きなさい」
いざ水色の腰布を解かんとかけた手を、レンゲに止められ「いやいや」と転がるローレライ。
自暴自棄になっているのが大人というだけでも面倒だというのに、これが魔王軍の元幹部であるというのだから、尚のこと始末が悪い。
「そろそろ、お戯れはお止めになってください」
「じゃあ、私をお嫁に貰ってください! なんでも言うことを聞く《 良妻ラブハメ牝奴隷賢母 》になりますから」
沈痛そうな面持ちで白い手袋の右手で頭を抑えるレンゲ。
「もっとご自愛くださいませ」
「もう嫌なのです! 歌を封印されたのもっ! 嫁の貰い手がないのもっ! もう、雄なら小鬼妖精だっていい!」
「早まり過ぎです。お気を確かに」
まるでたちの悪い酔っ払いを介抱するかのように宥める。
「じゃあ、《 セックス専用妻 》に《 旦那様のお情けオチ×ポ 》くれる?」
「娶っておりません。代わりにこれを差し上げますので、どうか機嫌を直してください」
レンゲは燕尾服の胸元から、飴色の小袋を取り出した。中には昼食代わりに食べようと携帯した焼き菓子が入っている。
焼き菓子の香ばしい香りが洞窟に漂った。
「今日の朝、焼いた焼き菓子です。よろしかったらお召し上がりください」
「お菓子? 良い香りですね。頂きます」
渡された小袋から一つ摘み上げ口に運ぶ。
さくさくさくり
サクサクのあとに、ふわっと口どけて、バター香る。
「……美味しい」
「それは良かったです」
バターのふくよかな風味を鼻ですうと吸い込み、もう一つ摘む。
さくさくふわり
「やさしい味……幸せってこんなところにあったのですね」
ローレライの瞳の端に涙がきらりと光る。
「ローレライ様にお褒めに預かり、恐悦至極です」
胸に右手を当ててお辞儀をするレンゲ。
さくさくぱりり
「料理の得意な雄……これは完全に陥落しました。最下級の牝奴隷に堕ちた気分です。」
どんな気分なのかはよく分らないが、恐らく焼き菓子は喜んで貰えたのだろう。
飴色の小袋は空気の抜けた風船のようにぺったんこになった。
「お陰で少し、元気が出ました。ありがとうございます」
先ほどとは見違えたように「きりり」とした凛々しい佇まいのローレライ。
「色々と世話になりましたね。お礼に歌で加護を与えたいところですが、今はそれも適いません。代わりにこれを差し上げます」
すっ……かきかき
洞窟の傍らに置いてある鞄から羊皮紙の切れ端を取り出し、もにもにと何かを書き足すと切れ端を差し出してくる。
「ローレライ様。これは……?」
「《 特別ローレライさんチケット 》です」
決め顔で鼻息をふんす。
《 特別ローレライさんチケット 》と書かれた羊皮紙には魚と唄う貝殻ビキニの少女のイラストが描き添えられている。
イラストの少女は恐らくローレライであろう。
「《 特別ローレライさんチケット 》とは、どういった物なのでしょうか?」
「私への願い事がある時は、これを出してお願いすれば、大体叶えます。恋人でも、お嫁さんになって欲しいでも……大体叶う、素敵なチケットなのです」
お礼に託けた婚活の類ではないのかとも考えてしまうが、これは間違いなく好意の贈り物である。
レンゲは燕尾服の胸元に大切な物として仕舞った。
「早速、チケットを使わないのですか?」
「貴重な品なので、使いどころを見極め、大事に使おうと思います」
(あれれ? 私、大切にされてるのかな?)
ローレライの胸がきゅんっと切なく鳴いた。
「そ、そうですか……たしかに、タイミングは大切だと思います。なにしろ、一枚限りの貴重な品ですからね」
少し気恥ずかしそうに腕を組んで頬を背ける。
組んだ腕に持ち上げられ、貝殻ビキニの豊かな胸が万歳をするかのように、くいと持ち上がった。
「それではローレライ様。ありがとうございました」
ローレライに見送られて、さざ波聞こえる海岸の洞窟の入り口。
「私の占いによれば、あなたは帰りに港の市場でシュリンブを買うと出ています」
「はい。そのつもりです」
ローレライの占いは、恐ろしい程に良く当たった。
「お金を使う必要などありません。私が海に潜り、あなたの為に新鮮なシュリンブを獲ってきましょう」
「いいえ。ローレライ様のお手を煩わせるわけにはいきません」
反論する燕尾服を片手で制する。
「良いのです。これは二人の為でもあるのです」
「二人の為でございますか?」
水晶玉を洞窟の傍らに置いて、ぱちりと指を鳴らすとローレライの下半身は玉虫色に輝く魚の肢体に変わっていた。
虹の様に色を変え、きらきらと輝く美しい鱗。童話の中でのみ見知った。本物の人魚の姿に、レンゲは見惚れ、息を呑んだ。
「これが、本当の私の姿です」
「ローレライ様は人魚だったのですね」
美しい人魚がこくりと頭を振る。
恐らく、《 変身 》の魔法で人間の下半身に変えていたのだろう。
「私は、泳ぎが得意なのです。見ていてください」
虹色の鱗の肢体が網袋を片手に滑るように砂浜を進み、やがて海の中へと飛び込み消えてゆく。
海底でシュリンブを捕まえ、網に入れる。
恐らくはそういう漁になるはずだが、ローレライは瞬く間に海に浮かび上がった。
再び滑るように砂浜を歩くローレライの右手にはぎっしりとシュリンブの詰まった網袋。
物凄い速さで海底まで潜り、泳ぎながらシュリンブを捕まえていたことになる。
「凄い! 凄いですよ。ローレライ様!」
「私、凄いですか? お嫁さんに相応しいですか?」
人魚がてれてれと虹色の肢体を捩った。
レンゲは何度も礼を言い、シュリンブの詰まった網袋を受け取った。
「それでは、今度こそ失礼いたします」
ローレライに見送られ、何処までも広い白い砂浜。
「また、焼き菓子を持って遊びに来てくださいね」
「はい。必ず」
沢山のシュリンブのお礼とばかりに飛び切りの笑顔で答える。
《 特別ローレライさんチケット 》を胸に歩く。潮騒の港町。
右手には漁れたての大きなシュリンブが詰まった網袋。
(帰ったらエビフライの仕込みですね)
強い日差しに思わず見上げた港の空は、海の様に広くて深い青が広がっていた。




