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34皿目 番外 ミネストローネ   残念な少年天使と修道女

番外のお話。

男でも女でも笑って許せる範囲の下品な小説とはどのようなものなのでしょうか。

今後の課題にと考えております。


品のない表現があります。

口に合わないと思われる方はお戻りください。

「天使様は、私が世界で一番スケベだとおっしゃるのですか」


 質素な白いローブのような外套にすっぽりと身を収めた修道女が信じられないという顔で言った。


「はい。この愛欲の天使、エローデスの名にかけて断言します」


 あまりに美しすぎる金髪の少年は「間違いありません」と誇らしそうに胸を張る。

 白く透ける絹のような布を胸と腰に軽く巻いただけの少年は、風が吹く度に未熟な桃のようなラインの臀部をひらひらと晒した。


 修道女の名前はアイリーン。巡礼の修行を始めたばかりの敬謙な愛の女神の信徒だ。

 旅に出発する前に神殿で祈った折、【愛の女神】の息子である【愛欲の天使】エローデスを降臨させる奇跡を起こし、神殿は大きな騒ぎとなった。

 そしてアイリーンと天使エローデスが共に旅に出たのはつい先日のことである。

 余談になるが、エローデスは恋や性愛を司る力の強い天使であり、この世界では愛欲を意味する言葉としても使われている。


「私は貴女の強い愛欲への渇望に導かれて降臨したのです」


 まるでうっとりしたような表情で少年は右手を高く、左手を胸にあて大げさにポーズをとる。

 ポーズに合わせて少年の背に生えた白い翼から白い羽が舞い落ちた。


 ――全然嬉しくない。


 思春期の乙女は、悪い夢を見たような顔で、夢であって欲しいと心底思った。

 なにしろ、彼女にはそのような自覚は一切なく。

 むしろ自分は真面目で敬虔な神の信徒だと本気で思っていたからである。

 しかし、真に好色(スケベ)な人間でなければエローデスを降臨させることは(かなわな)いと天使は言い。

 ここ数百年でも(まれ)な強い(スケベ)に導かれて地上に降りたのだと付け加えた。


「か、仮にそうだとしても、先日授けていただいた奇跡はあまりに酷すぎます!」


「あぁ、《 探知 (ディテクション)》の奇跡ですか」


 ぴんと伸ばした人差し指を口元に当て、美しい少年はふむむと唸る。

 

巡礼に出る修道女は、旅に出る前に神殿で奇跡を授かる。

 愛の女神の神殿と信徒の場所を探知することが出来る《 探知 》の奇跡だ。これにより各地の神殿を巡礼して廻るのである。


「どうして私だけ、お……」


 言いかけて顔を赤くして俯く。


 アイリーンの授かった奇跡は少し違っていた。


「大きな益荒男(チンコ)を探知する奇跡……」


 修道女は赤面し、少年天使はまるで泥沼に落ちたかのように深く考え浸るような顔をした。


「おそらくこれは、愛の女神からの神託のようなものと私は受け取っています」


「神託……ですか?」


 今にも泣き出してしまいそうな修道女は、絶望の中で一筋の光に縋るように、当たり障りのない言葉を拾って繰り返した。


「本来であれば、各地の女神神殿を廻って旅をする巡礼ですが……アイリーンさんに関しては、股間の大きな男性を探し巡礼せよとの神の意向と考えます」


 美しい天使は「流石は神の奇跡」とばかりに、右手を高く上げ、左手を胸に片足を引いたポーズをとる。


 ――この天使馬鹿なの!?


 そんな巡礼になんの意味があるのか、考えたくも無い。


「次の目的地が見えてくるかもしれません。《 探知 》の奇跡を使ってみましょう。」


 顔を朱に染める修道女に「私も共感覚でいっしょに見ますから」と微笑む少年天使。

 修道女は震える手で合掌し、顔から火のでそうな思いを噛みしめ神に奇跡を願った。


「《 探知 (ディテクション)》!」


 修道女の頭の中に、自分を中心とした近隣の地図が浮かんだ。

 そして地図の上には腸詰のような紋章が無数に浮かぶ。これは男性の位置を示すものだ。

 移動しているのだろう。北に向かって進む腸詰。馬で駆けているのか、高速で移動する腸詰もある。

 ――私の横に表示されている白く形の良い腸詰は天使様の物かしら。

 白い腸詰と天使の顔が脳裏で繋がり、修道女はごくりと唾を飲み込んだ。


「おや、奇妙ですね。少し先で小さな腸詰(ちんちん)が四つ、円陣を組んで回っています」


「ここここ、子供が遊んでいるのではないでしょうかっ」


 身体が真っ赤になるような恥ずかしさを感じ、思わず噛んでしまう修道女。


「なるほど、そういうことですか……」


 少年天使が形の良い顎に親指と人差し指を当て、ふうむと唸る。


「北西に大きな反応がありますね」


 言われて見ると、北西の方角の街に、腸詰の紋章が三つぴかぴかと点滅している。

 腸詰の表示が大きい。これは大きな反応だ。

 ここに、恐らく三人の股間の大きな男性がいるのだ。


「天使様、本当に此処を目指すのですか?」


「はい。まずは授かった神の導きに身をゆだねるべきです」


 おずおずと尋ねる修道女に、まるで迷いを断ち切るかのようにポーズを決めた天使が言い放つ。


「それでは、三に……もとい三チン衆に会いに行きましょうか」


 美しい少年は腕を組むと風に腰布を(なび)かせ、決め顔でふふと笑った。


 ――こいつ、何で今言い直したの!


 これから身体の先端の大きな男性に会いに行くのだと改めて実感する。

 得も言われぬ未知の背徳感にときときと、高鳴る胸を「これは修行なのだ」といさめ、そうして修道女は《 探知 》の奇跡の表示に従い目的地を目指した。




    ∽ ∽ ∽


「私を探知していたのは貴方達ですね」


 《 探知 》の奇跡に従い訪れた魔法王国ゼリアブールの首都リ・ゼラは行商などでも賑わう大きな街だ。

 その西側に位置した邸の中庭には、両目を閉じた外套の少年と黒い猫が待っていた。


「あらゆる魔法で探知できぬよう、完全に存在を消していたのですが……」


 裸の上半身に黒い外套を纏った美しい美貌の少年は閉じられた双眸をそのままに驚きを表した。


「兄さん、私なんて完全に猫の筈なんだけどな……」


 黒い猫も「猫なんて探してどうするのか」と物申す。

 外套で分からないが、幼い少年と猫から非常に大きな反応が出ていることが以外で仕方がなく、修道女は頬を染めながら奇跡による腸詰の表示と、一人と一匹を何度も見比べた。


「私は天使エローデス。奇跡に導かれ旅をしています」


 天使の少年は腰布の両端を軽く摘み上げ、足を交差させると少し屈んだ。

 天界の天使の挨拶だ。


 ――み、見えてる!腸詰が顔を出してるよっ!


 修道女は両の目を覆うように手を引き寄せる。


「私はフルム。魔王軍四天王の一角を務める夢魔(インキュバス)です。お初にお目にかかります。天使エローデス……本物ですか。奇跡の類であれば……探知に気づいたところで、どうにかできるものではなさそうですね」


 右手を胸にあて礼をする外套の少年。


「神の奇跡を感知しますか……流石は魔王軍の幹部。腸詰(チンコ)を覗くとき、腸詰(チンコ)もまたこちらを覗いているということですね」


 天使は「()もありなん」と(うなず)いた。


 ――なんでこんなのが天使なんだろう。


「私はレーヴ。この庭に住み着いている夢魔だよ」


 冷たい黒曜石のような雰囲気の黒い猫が修道女の足に、にゃあと身を摺り寄せ挨拶をした。


「あ、愛の女神教徒アイリーンです。天使様と神の奇跡に導かれてここに来ました」


 修道女は頬を染めるも、にこりと笑顔を作り、合わせた掌を下に向けた奇妙な手つきで合掌をする。

 この奇妙な手つきの合掌とにこりと微笑む挨拶は、愛の女神教徒のする挨拶だ。

 それに神の奇跡の導きであることは嘘ではない。恥ずかしがり屋である修道女の精一杯の挨拶であった。

 そんな修道女の挨拶を目に留めた外套の少年と黒猫の貌が驚嘆に彩られる。


「「ご、五十三万愛欲力(エローデス)……!」」


 修道女を見た双眸の開かない黒い外套の少年と猫が、眉を大きく跳ね上げ、驚きに開口した。

 愛欲力(エローデス)という言葉に、きっと不名誉なことを言われているに違いないと修道女は顔を赤く染め、恥ずかしそうに俯く。


「やはりわかりますか……」


 何故か誇らしそうに微笑む少年天使。

 愛欲力(エローデス)は夢魔の間などで使われる性欲の高さを示す単位だ。

 人間の成人であれば、だいたい千を前後とした数字となる。


「祖父から聞いた伝説の英雄が、たしかそんな数値だったかと思います……」


「凄いな、一見普通の娘に見えるのに……」


「そのとおり、彼女は好色(スケベ)ではなく。真の好色(ドスケベ)なのです」


 天使が美しい貌でふわりと笑った。


 ――初対面なのに、きっと私、凄くえっちな()だと思われてるんだ。


 ざわめく少年と猫の会話に、言い知れぬ羞恥の情に駆られる。

 そういえば、大きな反応は三つだった筈だ。

 もう一つの反応も近くのようである。


 きょろきょろと辺りを見回す修道女に、外套の少年が口を開く。


「もう一つの夢魔の反応をお探しなら、邸の中ですよ」


「この反応は、お邸の中なのですね」


 夢魔の反応という言葉を否定もせずにしらばっくれる。


「私が呼んでこよう。」


 黒い猫は「にゃん」と鳴き邸の方に駆けていった。




 しばらくして邸から黒猫を抱いた燕尾服の青年が邸から出てきた。


「ついに三本が揃いましたね」とウィンクをする少年天使。


 白い貌に整った目鼻立ちの燕尾服の青年に、修道女は緊張して目線を下に逸らす。


 ――ズボンで分からないけど、この綺麗な執事さんは大きいんだ……


 奇跡の反応と重なる美しい執事に、年頃の乙女は恥ずかしくてすぐにでも逃げ出したい気分に陥りつつも、下げた視線が執事の下半身をちらちらと捕らえてしまい頬を赤くする。


「初めまして。レンゲと申します。

 旅の天使様と修道女さんと伺っています。」


 猫を抱いたまま、執事は頭を下げて礼をする。


「天使のエローデスです」


「愛の神の信徒アイリーンです」


 腰布の両端を上げる天使に、奇妙な手つきで合掌し赤い頬で微笑む修道女。


「魔法王国へようこそ。外はお寒いでしょう。皆様お邸へどうぞ。暖かいものをお出しします」


 黒い猫を撫でながら笑顔で微笑む執事。


 一向は執事に案内され、邸に通されるのだった。



 

 通された客間に、キッチンワゴンを押す音が、かたことと近き、「失礼します」と執事が入ってきた。


「お待たせしました。ミネストローネです」


 キャロトやオニーオ、パテトなどの野菜が浮かぶスープの皿がそれぞれの前に、ことことと置かれてゆく。


「酸味の利いた良い香り、これはトマテですね」


 少年天使がスープの皿に顔を近づけ、鼻をひくりと動かした。


「彼は料理がとても上手です。

 どうぞ、召し上がってください。きっと美味しいですよ」


 外套の少年が手の平をひらり。天使と修道女に料理を勧めた。


「そ、それではいただきます」


 奇妙な手つきで合掌し、短く祈りの言葉を唱えると、修道女はパテトを口に運んだ。

 スープに抱かれたパテトを頬張り、はふはふと熱を逃がす。


 ――美味しい!普通のスープと違って味がはっきりしてる。


 野菜や腸詰をトマテをベースにして煮てあるんだ!


「この腸詰も美味しいです」


 スープをたっぷりと吸って柔らかくなった腸詰もとても味が良い。

 もぐもぐごくりと、夢中になってスープを口に運ぶ。


「それは良かったです」とにこにこと笑う執事、夢魔と聞いているが、どうみても人間にしか見えない。


「これは美味しいですね。私はスープが大好きで、天界でも良く飲んでいました」


 天使の少年もスプーンで掬った薄赤いスープをこくこくと飲み干してゆく。


「天使様、天界のスープとはどのようなものなのですか?」


 きっと、きらきらと光る。美しく透きとおったスープに違いない。

 期待を込めて修道女が尋ねた。


「アンジュ・ゲイトというスープなのですが……あれは……そう、人間の女の愛液とよく似た味がしますよ」


 天使は可憐な唇にぴんと伸ばした人差し指を当て、思い出すようにふふと笑った。


「ほう、人間の女の?」


 外套の少年が興味深そうに食いつき、天使の少年が「私の好物です」ところころと笑う。


 ――なんて知りたくもならない味。美味しい みねすとろーね が台無しだわ!


 修道女は不機嫌そうに尖らせた唇をナプキンで拭った。

 天界へのイメージが崩れてしまいそうだ。


 しかし、こうして身体はぽかぽかと温まり、スープの皿は綺麗に空となったのである。




「それでは、お気をつけて」


「神のご加護がありますように」


 その後、腹の膨れた天使と修道女は、執事と外套の少年に見送られ邸を後にした。


「天使様、本当にこんな巡礼でよろしいのですか?」


 何やら不安げにおじおじと尋ねる修道女。


「ええ、腸詰に導かれ、腸詰のスープで身体を温める。

 これは順調と言えるのではないかと思います」


 理解のできない理屈をきっぱりと言われるも、それでも天使の言葉と思うと、奇妙な理屈にも少しだけ安堵を覚える。

 結果的に美味しいスープにありつけたのである。

 恐らくは神のお導き。これで良しとしなければならない。


「さぁ、アイリーンさん

 次の目的地を目指しましょう」


 白い翼をふわりと、天使が右手を高く左手を胸にポーズをとる。


 修道女はこほりと小さく咳払いをすると頬を染めながら神に奇跡を請った。


「《 探知 》!」


 この後も次々と不可解な奇跡を授かることとなる修道女の受難の旅は、まだ始まったばかりなのである。


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