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33皿目 カルボナーラ  強敵は土下座でやり過ごす森霊巫女

試験的にカオティツクイービルなキャラを書きました。

品のない表現があります。

お口に合わないと思われる方はお戻りください。

「仲間のことでも何でも話しますから、命だけはお助けください♡」


 才色兼備にも程がありそうな森霊巫女(ドルイド)の、控えめで形の良い唇が唱えなれた呪文のように爽やかに紡いだ。

 そう、私は命乞いをしていた。

 時折吹く不思議な風が萌葱色の艶やかで美しい髪と、控えめで形の整った白雪のような尻を撫で上げる。

 比喩の喩えでなく、本当に一糸も纏っていないのだから仕方が無い。

 生まれたままの姿でひれ伏し、地面に頭を着けて行うタイプの礼をしているのだ。

 ようは、全裸で土下座をしているのである。


 私の前には綺麗に畳まれた森霊巫女の纏う清楚な白い礼装と杖が置かれている。

 私が一年かけて編み出した土下座の奥義だ。

 相手が見逃さねばならぬと思う程に完成された祈りの姿勢と、己が無害であることを示す脱衣は必要であるとの結論に至ったのだ。

 命には何ものも代えられないのである。


 何がどうなってそのような状況に至ったのか。

 それを説明するには、まずは私のことを話さねばならない。

 私の名はエルミア。森霊巫女だ。森霊巫女は自然の力を借りて奇跡を起こす精霊信仰の僧侶のことである。

 魔王を倒すべく勇者の仲間として旅をしていた私は、ある任務の為に勇者と別行動をすることとなった。

 魔王を倒すことのできる聖剣が眠る洞窟の鍵を持った魔族を追っているのだ。

 そして、道中で白状させた魔物から、洞窟の鍵を持つ魔族がこの邸にいることを知ったのだ。

 しかし、邸の中庭で魔王軍四天王のフルムを名乗る半裸に外套の少年に捕縛されてしまう。恐らく、聖剣の洞窟の鍵を奪いにくるものを待ち伏せていたのだ。

 逃げようとするも、足元の影に吸い込まれ黒い部屋に閉じ込められてしまったのだった。


 こういう時は命乞いをしてでも逃げ延びるに限る。

 今日までそれで生き延びてこれたのだ、当然今回も命乞いはする。


「何でも答えますので、私を見逃してください」


 舞うように軽やかに脱衣して、瞬く間に衣服を畳んでひれ伏す。

 これは私が師から教わった兵法の中で、私が最も得意とする三十六計の一つだ。

 一つ覚えて置くと良い。不利な状況ではあれこれ思案するよりも、逃げてしまうのがいちばん良いのである。

 持論になるが、物語の主人公でもない限りは生きているだけで勝者なのだ。

 さぁ私を見逃せ。

 美しい巫女があられもない姿で土下座までしてやっているのだ。

 これはもう見逃すだろう。見逃すしかない。

 今は逃げ延び、今度は仲間を連れて押しかければ良い。

 その時はこの屈辱を倍にして晴らし、こいつを(なぶ)り殺してやることにしよう。


 さぁ! 見逃せ! 早く!!


「……なるほど、情報を持って仲間の元に戻り。今度は全員で押しかけて鍵を奪うおつもりですか」


 外套(マント)の少年が閉じられた双眸の眉をひそめ、透き通った声で言った。


 私の頬をこめかみから流れた汗がつうと、つたう。

 おかしい。

 何故、考えていることがばれたのか。

 この魔物は得体がしれない。これはいよいよもって早い決着をつけねばならない。

 肌寒さに鳥肌も立ってきた。腰だって冷やしてしまう。

 話を逸らせ。


「わ、私に騎乗して森霊巫女の乗り心地を試してみませんか?昔、騎乗レースをさせられた時に一番になったことがあるんです」


 腰と尻を少し浮かせ、ゆるりと軽く小さく揺らし扇情的に煽ってみせる。

 こういう行為にも、勿論こつがある。

 媚びた笑顔で出来る限りお上品な豚を演じるのがこつだ。

 忌まわしい思い出だが、まだ駆け出しであった頃、私のいた小隊(パーティ)は森の小鬼妖精(ゴブリン)によって全滅したことがある。

 小鬼妖精達は面白がって私達を脱がせると、背に跨ってレースをさせたのだ。

「一番になったものは逃がしてやる」と言われ、小鬼妖精を背に乗せ四足獣のように必死に森を駆けた。

 仲間の走行を《 植物成長 》の魔法で妨害し、レースの勝者となった私は、約束どおり開放されたのだ。

 その後、数々の魔法を覚えた私は再び忌まわしい森を訪れると小鬼妖精共を片っ端から《 樹木化 》の魔法で樹に変え、森ごと焼き払った。

 あの時の燃え盛る森と、小鬼妖精どもの悲鳴を思い出すと「ざまぁ見ろと」胸がすくのだ。


 子供のように見えようが、こいつも男なのだ。乗れ! のって来い!

 そうしたら取り入って堕としてやる。

 私の魅力ならば、子供でも老人でも十二分にたぶらかす事が出来る。 

 足を舐めてでも、無様に鳴いてでも、愛玩動物として扱われようが生き延びてやる。

 悲しそうな貌で首を横に振る半裸に外套(はだかマント)


「貴女を生かしておけば、多くの魔物が被害を被るでしょう。とても捨て置くことはできません」


 この魔物、なんだというのだ。私を始末するとでもいうのか。


「あ、足が汚れております! 舐めて掃除をさせてください!」


 ゆるりと滑らかに、それでも素早く裸体に外套の足元に這い寄る。


「掃除が終わりましたら、この姿で森霊巫女の舞をご披露します。なかなか見応えがありますよ」


 少しでも時間を稼げ……


 媚びればこいつも油断する。何か突破口が見出せる筈だ。

 裸体に外套はそんな私を微塵も気にせずに続けた。


「聖剣に関する一切を忘れていただきます。それと、貴女には私の基準で修正した人格をプレゼントしましょう。今後は中身の美しい森霊巫女として生きてください」


 信じられない。私を、私でなくすというのか。

 それはある意味、殺されるよりも恐ろしいではないか。


「私も無慈悲ではありません。祈祷(いのり)の時間を差し上げます。次に指を鳴らすまでではありますが……貴女の神にお祈りください」


 半裸に外套がいけしゃあしゃあと言う。

 何もせず終わるくらいなら、杖を投げつけ、その白い貌に爪を立てて掻き毟ってやる。

 もしかしたら、この黒い部屋の術も解けるかもしれない。

 破れかぶれで《 樹木化 》の魔法をかかるまで連打してみるのもいい。

 もし抵抗(レジスト)に失敗して万が一にも魔法がかかれば、樹木に変わりゆくこいつに火を放ち、罵りながら舞を踊るのも楽しいだろう。

 私は黒い生唾を飲み込んだ。


「――っっ!!」


 意を決して、眼の前の杖を掴み投げつける。

 そして、私は信じられない物を目の当たりにすることになる。杖は半裸に外套(いけ好かないガキ)をすり抜けたのだ。

 杖は部屋の壁にがらんと当たり地を転がった。


「それでは、良い夢を……」


 無慈悲に指を鳴らす音が聞こえ、意識がぐにゃりと暗転した。

 畜生! ……畜生!




 ∽


 ……ここは何処?


 見慣れぬ部屋で起き上がる。


 見渡すと見慣れぬ調度品。何処かの邸の客間だろうか。

 慌てて自分の身体を確認する。

 森霊巫女の礼装と……杖。身体に違和感は無い。


 私はここで何をしているのだろう?

 勇者と港町で別れて……そこから記憶がない。



 こんこん


 ノックの音二つ。

「失礼いたします」と白い貌の執事が部屋に入る。


「良かった。目を覚まされたのですね」


 不安にさせない気遣いか、執事はにこりとやわらかく微笑む。


「……あの、私は一体……?」


「中庭で倒れていらっしゃったので、客間にお運びしたのです」


「ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫そうなので、これでお(いとま)させていただきます」


 いそいそと立ち上がると私は深くお辞儀をした。


「もう昼餉の時間ですし、よろしかったら食べていってください。カルボナーラという料理です」


 部屋に運び込んだ銀色の台から平たい皿に盛られた料理を取り出すと、私の前にことりと置いた。

 白いスープのかかった練った小麦料理だろうか。

 見たことの無い料理から漂う濃厚なチーズの香りに、私の腹の虫が音を上げた。

 気恥ずかしくなって、こほりと小さな咳払い一つ


「お言葉に甘えさせて頂きます」


「どうぞ、お召し上がりください」


 執事が胸に手を当てゆるりと礼をしたのを皮切りに、皿に添えられたフォークに手を伸ばす。

 細長く切られ茹でられた、小麦を練った紐状のものに白いソースを絡めて口に運ぶ。

 牛の乳の甘さに燻製肉の塩気、チーズのコクが一体となって口を至福で満たした。


 ――なにこれ。美味しい!


 こんな美味しい物を口にするのは初めてだ。


「これ、凄く美味しいです」


 思わず感想を口に出してしまい恥ずかしくなった私は口元に手を引き寄せる。

 そんな私に執事は「それは良かったです」と、にこりと微笑んだ。爽やかで素敵な執事。

 この料理もこの人が作ったのかしら。

 すそすそと料理を(すす)り、料理を片付けてゆく。

 皿は瞬く間に空になった。


「ごちそうさまでした」


「お口に合ったみたいで良かったです」


 合掌して感謝をする私に笑顔が応酬される。


「大変お世話になりました。これでお(いとま)させていただきますね」


 受けた親切は世界を救って返すことにしよう。




 執事に見送られて邸を後にする。


「それでは、お気をつけて」


「あなたに森と風の加護を」


 料理の上手な執事に飛び切り手厚く加護の魔法をかける。

 これでよいのだ。

 なんとなく満足してふふりと笑う。

 午後の明るい木漏れ日が、進む道程を斑に照らしていた。

 街を吹き抜ける風の精が私の髪を(なび)かせる。


 さっきの【かるぼなあら】という料理も世界を守る理由に加えよう。

 決意を胸に、私は足を踏み出した。


 ――さぁ、世界を救わなくちゃ。

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