25皿目 蜂蜜レモン 続 道徳観の違う下級魔族の娘
番外で試験的に書いたお話です。
品の無い表現があります。
キャラクターのイメージを大きく損なう可能性があります。
お口に合わないと思われる方はお戻りください。
「不束ものではありますが……どうぞ、お使いください!」
金色の髪のメイドはしなやかな四足獣のように四つん這いになると、貌を朱に染めスカートを捲り上げた。
亜麻色の肌着の下にあるであろう水密桃は、布地越しに桃に共通したラインを描く。
魔族である彼女の貞操感覚は計り知れないとして、何故このような状況になってしまったのだろうか。
時間は溯る。
「なんということだ。もうみんな待っているだろうに……」
美しい執事は黒い髪に手を当て、憂鬱そうにため息を吐いた。
起床して燕尾服に着替えた執事はとても焦っていた。
寝起きの生理現象での腫れがなかなか収まらないのだ。
腫れ物はしっかりと形を成し、ズボンから浮き上がってしまっている。
これは由々しき事態である。
このような状態で使用人室に向かい、メイド達に指示を出すなど断じて有り得てはならない。
がちゃり
「……失礼します」
突然ノックも無しにメイド服が部屋に立ち入った。
「は、入る前にノックをお願いします」
突然の事態に執事は驚きの声をあげる。
「すみません! 中々いらっしゃらないので、体調が悪いのかと……」
金色の長い髪を左右で結い、肩先で揺らすメイドは、最近調理補助で雇用した下級魔族のエルザだ。
執事の下半身を視界に入れたメイドは、碧い瞳を大きく見開いた。
「調子は良いみたいですね」
口元に手を当て、エルザはうふふとやわらかに笑う。
自身の考えが杞憂であったことを知っての笑いだと信じたい。
「大丈夫ですよ? 私は気にしません。女も朝、時々固くなります。自信を持って使用人室に行きましょう」
「そ、そうなのですか? お恥ずかしい限りですが……使用人室には生理現象が収まってから行かせてください」
羞恥と硬い下半身を隠しつつ、こんな状況でも執事は端整な貌で微笑んでみせる。
「私が来て正解でしたね」
エルザは【世話が焼けますね。】と手の平をひらひらと振ると、四つん這いになってスカートを捲り上げた。
「私は下級魔族ですが、秘めたる部分は下級ではないと信じております……どうぞ、お使いください」
エルザは嬉々として、亜麻色の肌着を纏った柔らかそうな尻を突き上げる。
下級魔族である彼女の倫理観は人間のそれと少し違っている。
「使いません!」
執事はメイドを起こすと、生理現象は時間で沈める方向であることを伝える。
「な、何故ですか! 吐き出してしまった方がきっと早く収まります!」
金髪のメイドは信じられないという顔で抗議をした。
「あっ……女に 跨 られる方がお好みでしたか。それならば無理もありません……」
エルザは合点がいった様にぽんと手を打つ。
「ご好意は嬉しいのですが、時間と共に沈めたいのです」
「焦らすようなのがお好きなのですね?」
エルザは「わかります」と鼻を鳴らした。
「女の乳は、左右で味が違うと父より聞き及んでいます。私の乳房を左右で吸い分けながら時間を潰すというのはどうでしょう?」
「お気持ちだけ、ありがたく頂戴します」
「ちゃんと気合で母乳は出しますよ?」
論点の違う返答が返る。
やはり、今日はエルザを神殿に連れて行き、人間について色々と学んでもらおう。
そうこうとしているうちに生理現象はようやく収まったのであった。
∽ ∽ ∽
「ぎゃばばばばばばば! 」
エルザに人間の倫理観を教えるべく向かった光の神殿の門をくぐるなり、エルザは悲鳴を上げてがくがくと痙攣した。
「だ、大丈夫ですか? エルザさん?」
「雷の鞭で前と後ろを叩かれたような……」
ふらつくメイドを執事は心配した。
どうやら下級魔族であるエルザは神を奉る聖域に足を踏み入れるとダメージを受けるようだ。
「大丈夫です! この程度なら、勇者の魔法ほどではありません」
ばりばりばりっ
「あばばばばばばばばば!」
「邸に帰りましょう。エルザさんの身体が心配です」
「だ、大丈夫! 慣れると、存外に気持ちがいいです!」
ふうふうとエルザは荒い息を吐く。
そうして口角の端から泡を吹き、痙攣しながらエルザは神殿を進んでいった。
「いらっしゃいですの」
神官長室に通された執事とメイドを白い神官礼装に身を包んだ女神官がもてなす。
若くして神官長を務める敬謙な光の信徒セルシアだ。
「まずは、蜂蜜リモンをどうぞですの」
ガラスのグラスにいれられた薄黄色い飲み物を勧められる。
蜂蜜リモン水は蜂蜜にスライスしたリモンを漬け込んだ汁を水で割った甘く酸っぱい飲料だ。
儀式で使う蜜蝋の為に養蜂をしている神殿では、蜂蜜は副産物であり、料理にも使われている。
「いただきます」
執事はごくごくと喉を鳴らし蜂蜜リモンを飲み干す。
常温であったが、甘い酸味と清涼感のある蜂蜜リモンは喉をやさしく潤していった。
「とても美味しいです」
しかし、隣で蜂蜜リモンをくぴくぴと飲んでいたエルザには異変が起きていた。
「おいし……ごふっ!?」
最初にエルザは喉に熱い違和感を感じた。喉が焼けるように熱く身体の内側に激痛が走る。
ばたん
「お゛っ! お゛っ! お゛っ! お゛ぅっ!」
ぱたりと蛙のようにひっくり返るとオットセイのように鳴いて痙攣する。
突如、異臭が鼻を突いた。エルザのスカートにはみるみる染みが広がり、白い内ももには液体が滴っている。
メイドは失禁したのだ。
聖水と水の違いはなにか。
それは聖別されているか、いないかである。蜂蜜であれ、失禁したスカートを滴る滴であれ、聖別されればそれは聖水なのである。
執事とメイドが部屋に通される前、先に用意された蜂蜜リモンは退屈を持て余したセルシアによって戯れに聖別されていたのだった。
セルシアはエルザが下級魔族であることを知らない。
当然、聖水と化した蜂蜜リモンを飲み干した哀れな下級魔族の娘は悶え苦しむこととなる。
「だ、大丈夫ですの!」
「大丈夫ですか! エルザさん!」
執事と神官長に抱き起こされたエルザはふわふわと漂うかのごとく心もとなかった。
「真っ白に……身体が、軽い……」
ぴくぴくと身体を引き攣らせ、うわ言の様に呻く。
このままではエルザは神殿のダメージで召されかねない。
「申し訳ありません。今日はこれでお暇いたします。また日を改めてご挨拶に伺わせてください」
執事はメイドを背負うと窓から外に飛び出した。背中に生暖かい感触がぴしゃりと触れる。
途中、背中でメイドが【ひぐひぐ】と呻いたが、神殿の門を無事に越えることが出来た。
これで一安心である。
人間についての話はまた今度違う形でしよう。
それよりも帰ったら洗濯をしなければならない。
背中に背負った下級魔族の娘を揺らしながら、執事は邸への帰路を急ぐのであった。
∽ ∽ ∽
「大丈夫でしたか? 色々と申し訳ありません」
邸について、簡素な着替えを済ませたエルザに執事が謝る。
まさか、神殿や聖水があそこまで彼女を苦しめるものだとは知らなかったのだ。
「もう大丈夫です。私こそ、ご迷惑をおかけしてすみません」
「ご迷惑なんてとんでもありません」と執事は首を左右に振る。
執事が魔法で沸かした湯を浴び、身体からほこほこと暖かい湯気ののぼるエルザに薄黄色い色い液体に満たされたグラスが渡される。
「邸で漬けている蜂蜜リモンです。聖水で淹れてはおりませんので、安心してお飲みください」
「ありがとうございます。喉が渇いていたので嬉しい!」
まだ湯気の立ち上る魔族の娘はグラスを傾け、嬉しそうにくぴくぴ、と飲み干した。
甘酸っぱい清涼感がエルザの喉を潤してゆく。
「蜂蜜リモンはすっきりとして美味しいですね! おかわりいただけますか?」
「まだまだあるので、たくさん飲んでください」
空いたグラスに再び蜂蜜リモンを注ぐ。
「蜂蜜リモン~♪」
新たに注がれてゆく蜂蜜リモンに、嬉しそうな声を上げて喜ぶエルザ。
貞操観や道徳観が少し違うだけで、額を伝う汗を「ふぅ」と拭って蜂蜜リモンを楽しむ彼女は人間の娘となんら変わらないではないか。
己の無知がこの魔族の娘を苦しめてしまったのだ。
人間とはなんたるかを彼女に教えるのではなく、まずは彼女がなんたるかを知ることから始めよう。黒髪の執事はそう心に決めたのだった。




