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21皿目 肉じゃが  続 ベジタリアンな夢魔

 朝起きたら、全裸の青年の腕枕で寝ていた。


 ベッドの主である執事は目を見開いて硬直する。


「やぁ、おはようレンゲ。よく眠れたかい」


 滑らかな浅葱の肌の青年は、とかれた青く長い髪をベッドに広げ、頭に生えた黒い山羊の角をこちらに向ける。

 青年の風貌にはよく見覚えがあった。邸の庭に住み着いた夢魔(インキュバス)であり、執事の友人でもあるレーヴである。

 裸で寝るのは当たり前の文化なのだから、それは当前なのかもしれない。もちろん当の執事本人も裸である。

 問題は何故、腕枕をされ共に裸で朝を向かえているのかということだ。


「おはようレーヴ、私は何故、貴方の腕に頭を?」


 額のぶつかりそうな距離で、挨拶を交わす。


 レンゲというのは、この執事の名である。邸の主であるバランシュタインに幼少の頃より使用人として従事している白雪のような肌をした美貌の執事だ。


「今日の朝はどうしても肉じゃがが食べたくてね。そこの窓からお願いをしに来たんだよ」


 なるほど、たしかに部屋の窓が開いている。


「そうしたら、まだ君が起きる時間には早いようだったから……ベッドの上で待たせてもらおうと思ってね」


 執事は『ベッドの上で待たせてもらう』という聞きなれない言葉に頭を捻るも、レーヴが夢魔であることを思い出すと不思議と合点がいってしまうのであった。


「それで、腕枕を?」


「そうとも、夢魔の身体に触れていると熟睡できるんだよ」


「それは、ありがとう。お陰で身体も軽く、頭もすっきりしているよ」


 たしかに、ずいぶん長く眠ったように心地がよい。


「喜んでもらえて何よりだよ。レンゲ」


 角の生えた夢魔はにんまりと笑うと執事にウィンクをした。


「それじゃあ、次は私の番だね。美味しい肉じゃがを君の為に作ろうじゃないか」


 雪のような肌にシャツを着込むと燕尾服をしゅるりと纏い、白手袋をはめた。




 使用人室で本日の仕事分担をメイド達に指示して、厨房で朝食の支度を始める。

 それが執事の朝の最初の業務だ。

 パテトとオニーオ、スライスした牛の肉を食べやすいサイズに切って炒める。くつくつと煮汁が湧いてきたら、水とショーユ、砂糖、ワインを入れて煮るのだ。


「できましたよ。レーヴ」


「待っていたよ」


 ほかほかと湯気の立つ器を2つ、レーヴの待つ厨房のテーブルに運ぶ。

 レーヴが舘に遊びに来た時は、厨房のテーブルで二人で食べるのがお約束になりつつあった。


「いい匂いだ! これが食べたかったんだよ」


夢魔は煮汁を吸って甘い香りを放つパテトにフォークを刺して口に運ぶ。


「美味い! 甘くほろほろと口でとけゆく感じがたまらないよ」


「君は本当にパテトが好きだね」


 パテトの舌触りを幸せそうに愉しむ夢魔に、執事が微笑んだ。


「目眩を感じるほどに愛おしいよ。それに、今日は朝からがっつりとパテトしたい気分なんだ。

 おかわりはあるかい?」


 夢魔は颯爽と空になった器を執事に差し出した。


「勿論だよ。沢山食べると思って作ったからね」


 執事はにこにこと笑顔で器を受け取ると、肉じゃがを器に盛る。


「さぁ、どうぞ」


「ありがとう」


 執事と夢魔は、知り合ってそこまでの日こそ立っていないが、お互いに相性の良さを感じており、すでに心の通じあった仲になっていた。

 不思議なことに、まるで長い間友でいるような、そんな親しみが相手に湧くのだ。


 肉じゃがのパテトと牛肉のように相性の良い二人の一日は、こうしてパテトをつつきながら始まったのである。


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