14皿目 チーズバーガー 歩く大胸筋な衛兵隊長
「こいつは、俺を誘っていやがる!」
右手の甲で口元の涎をぐいと拭う。もう我慢などできない。
筋骨逞しき衛兵隊長、は眼の前のむちりとした肉の塊に生唾を飲み込むのだった。
∽ ∽ ∽
ゼルギウスは王宮の入り口を守る衛兵隊長だ。
午前中の貴族達の登城する時間帯は、ゼルギウスが門番をする時間である。
今日は宮廷魔術師に遅れて登城する執事であったが、ゼルギウスはいつもと変わらず門の正面で立哨していた。
「おはようございます。ゼルギウスさん」
燕尾服を身に纏った黒髪の執事が挨拶をする。
「おう! おはよう」
生白い執事とは対照的に、浅黒く日に焼けた、上質な革製品のようなはりの良い小麦色の肌をした衛兵隊長は野太い声で挨拶を返した。
短く刈り込んだ茶色い髪と男らしい太い眉、眼光の鋭い青い目のゼルギウスは、長年この王宮の扉を守ってきた、今年三十八になるベテラン衛兵である。
日々の厳しい鍛錬で鍛え上げたその身体は、筋肉が隆々に隆起していた。
衛兵の逞しい腕が執事の胸元に伸びた。執事の柔らかな大胸筋が蹂躙される。
「ゼルギウスさん、な、なにをなさるのですか?」
執事が驚きの声を上げる。
「身体検査だ。王宮に悪い物を持ち込まないようにな」
ゼルギウスは男性ホルモンむんむんの声で答える。
勿論、これは衛兵流の冗談である。
「それで、良くないものは見つかりましたか?」
ふふふと端整な口元に笑みを浮かべ執事が尋ねる。
「残念だが、見つからん」
衛兵隊長も口元に笑みを浮かべにやりと笑う。
「そうだ、ハンバーガーを作ってきたのですが、お一つ如何ですか?」
執事は手に持っていたバスケットから肉と薄切りにしたチーズとオニーオが挟まったパンを一つ取って衛兵に差し出した。
「ほう、噂の異国の料理か?」
ゼルギウスも、執事の料理の腕前の噂は何度か耳にしていた。
どれと手を出し、差し出されたハンバーガーを受け取る。鍛え抜かれた戦士の大臀筋のようにどっしりとした肉厚のパティを挿んだハンバーガーだ。
ひゅう~
衛兵隊長は口笛を吹いた。これは堪らない。
パティに乗った、溶けた薄切りのチーズが芳しい匂いを漂わせた。
(こいつは、まるで俺の胃袋を誘っていやがる! )
目の前のむちりとした、熱い肉の塊に生唾を飲み込む。我慢など不要である。衛兵隊長は大きく口を開けて齧り付いた。
「……美味ぇ!」
口腔いっぱいに肉の旨味が広がった。
塩と胡椒のみの味付けも、肉の旨味をさらに引き出している。
しかし、広がる旨味はそれだけではない。
「こいつか、この刻んだオニーオの所為か? 肉の旨味が尋常じゃねぇ!」
食用に飼育された若い牛の肉を刻んで叩き、刻んだオニーオを合わせてこねて焼いたこの料理は、溢れるほどの肉汁と旨味をもつ。この肉厚で豊満なパティの包容力が、男の舌を包み込んで悦ばすのだ。
「危ねぇところだった! 油断をしたら舌をもって行かれる!」
(まったくもって、とんでもない料理だ)
ハンバーガーに齧り付く衛兵隊長は、ちらりと執事を横目に見る。
なんという調理の技術だ。日々、過酷な鍛錬で己の肉体を鍛え上げる衛兵隊長には解っていた。
ここまでの技術を身につけるには生半可では不可能だと。おそらく眠れない夜もあっただろう。
この執事はその鍛錬を今日まで丁寧にこなして続けてきたのだ。そう考えると、眼の前の肉の塊だけでなく、執事のその指先までが愛おしく思えてくるから不思議な物である。
「ごちそうさん! はんばーがー、美味かったぜ」
食事が終わり、ゼルギウスは満足そうに肉汁のついた親指を舐める。
「お粗末さまでした」
衛兵隊長の威勢の良い食いぶりに執事も気分が良い。
「それでは、失礼します」
「おう! また帰りにな!」
執事は一礼すると先に入った主を追って王宮に入ってゆく。
「しかし、本当に美味ぇな、あいつの料理」
そうして盛り上がる背筋を反らし伸びをすると、先ほど食べたハンバーガーの余韻を味わいつつ、ゼルギウスは門の前で、再び立哨に当たるのだった。




