第三話 デブ、転職する
前線、と呼ぶにはあまりに規模が小さいが少なくともこの世界ではよくある規模の戦争だったらしい。そして、その勝利は我々の勝利だ。
どうやらこの戦争はどっかの帝国と反乱軍の戦争らしく、反乱軍があの統制軍で帝国軍が僕が味方した無統制軍らしい。帝国軍はどうやら冒険者なる存在と傭兵を駆使して帝国とその植民地を統治しているらしい。そんな話を聞いたのは前線から引き上げる兵士達を町に送り届ける為の馬車のなかでした。
「貴方、ギルドには登録していないのね?フリーランスの傭兵かしら?」
街のギルドにたどり着き、よくわからない列に並んでいるとそのままギルドのカウンターに通されて身分証を見せろと言われた。首を横に振ると、そう言われたのだ。
「フリーの傭兵って……まぁ、そういう事にしておこう」
頷くとわかりましたと笑顔を向けられた。
「この機にギルドへの冒険者登録をしませんか?
冒険者へご登録いただければギルドからの出頭命令は絶対ですが、その分の成功報酬はフリーランスの傭兵の方とは桁違いになります。
今ご登録いただければ、冒険者の方と同じ成功報酬をお支払いできます。
冒険者に登録すると、帝国は勿論藩国への出入の際の入国審査が登録証を提示するだけで通過可能になりまたギルド加盟店での割引やサービスを受けることも可能になります。
登録に際して、必要なのは3つ。名前と性別、そして、帝国への忠誠です。登録は彼方で行えますが、どうしますか?」
「加入しておくかな。そっちの方が色々と楽そうだし、先立つお金も多く貰っておいた方が良い。
1500しかくれなかった王様ぁ!覚えていろよぉ!」
《www》
《ドラクエwww》
《ドラクエwww》
《怒られるぞww》
取り敢えず、頷いておく。頷くと、ではこちらに紙を1枚渡された。紙の質は低いが、和紙の様にガサついている。紙を貰って繁々眺めていると訝しい目を向けられた。
「あの、何か?」
「こういうのにも普通に紙渡せるんだから帝国の技術力は高いんだろうな。
ま、良いや。別に内政チートする気は無いので」
《内政チートは無理だろうね》
《内政チートしないの?》
《男なら一国一城目指そうぜ》
「一国一城目指したら多分帝国と敵対するんじゃないかな?
だったらダンジョンで出会いを探した方が良くないかい?君等もリアル猫耳少女みたろ?ちらほらとエルフっぽい人とかそういう感じの人がいるから期待しよう。FC2の限定で異世界風俗配信してみる?
性病とか怖いから裸オナニー鑑賞になるけど」
《おなしゃす!!》
《最高!》
《さすとど》
ヘルメットカメラを取って自分を映し、親指を立てる。画面もグッと言うコメントが覆いつくす。
《店員店長》
「うぉ!?店員」
突然店長からの通信でカメラを取り落としそうになった。
《風俗配信は許可されない》
「な、なんでやっ!?」
《風俗配信は、許可、されない。良いね?》
「あ、はい」
ダメでした。
「店長からお叱りを受けたので、風俗配信は無くなりました」
《えーそんなー(´・ω・`)》
《(´・ω・`)》
《(´・ω・`)》
《店長命令なら仕方ないね》
《店長の命令は絶対》
《店長……》
まぁ、そう言う訳だ。
近くのテーブルに移動し、それからペンケースからサインペンを取り出す。ペンがこれしかなかった。
「紙だけ貰っても、書く物くれなきゃ意味ないよね」
《確かに》
《確かに》
さてはて……紙に書かれている言葉は日本語だ。
「これ、日本語じゃね?」
《日本語だ》
《喋っていた言葉も日本語だしね》
《異世界転移特典?》
「特典良いから日本に帰りたい。
早くもファミチキかからあげくん食べたくなったぞ」
《今ななちき食べてる》
《俺、おでん》
くそー
「お腹は空いてないけど、精神的に食べたい。
うん」
取り敢えず、書き込めるトコを全部書き込む。名前、性別と帝国への忠誠を宣誓すると書かれた項目以外にも出身や得意な武器、流派等もある。
「得意武器、機関銃。流派?機関銃に流派なんて有るのか?」
《空欄で良いんじゃない?》
《銃には流派ないからね~構えるポージングだけ?》
《ポージングだったらとどさんはウォーキングファイア得意だからそれで良いんじゃない?》
《ウォーキングファイアで良いんじゃない?》
《ウォーキングファイアか》
ウォーキングファイアとは本来はM1918“BAR”自動小銃が使う戦法だ。腰に専用の固定具を付けて、歩きながらBARを撃つ。
僕の場合は、機関銃全般をぶっ放しながら歩く。質より量で攻めていくのが僕のスタイル。圧倒的な数の暴力。数は偉大なのだ。多数決の原理。それが機関銃なのだ。戦争の本質である。
「ま、こんな物か。
よし、提出」
開いているカウンターに紙を持って行く。
「どうなされました?
あ、冒険者登録ですね。お待ちください」
受付嬢は紙を受け取るとザっと目を通す。それから、いくつかの項目に印をつける。
「えっと、その、この、武器は何と読むのでしょうか?」
聞かれても喋れないんだよなぁ~
端末を弄って機関銃を取り出す。
MG3汎用機関銃だ。口径は7.62mmで使用弾丸は7.62mm×51NATO弾。ベルト給弾式で50ないし100、200発のベルトリンクを使える。同時に毎分1200発の弾丸を発射可能な傑作機関銃である。まぁ、凄いデカくて古い銃だけどね。
「えっと、これが武器ですか?」
頷く。
「あの、もしかして喋れなかったりします?」
頷く。
「分かりました」
受付嬢は何か納得したのか書き込んだ。
「これはどうやって扱うんですか?」
機関部上部を開き、ベルトリンクを取り除く。そして、槓桿を引いて薬室を解放。一発の弾丸が下に転がり落ちるのでそれを回収。マルチツールでペンチを取り出して弾頭を引っこ抜き、発射薬を机の上に出す。
ライターを取り出して発射薬に火を付けると、発射薬は勢い良く燃え上がる。受付嬢はきゃぁ!と声を上げるが、発射薬は燃焼時にガスを大量に放出する。広い空間で燃やした場合は激しく燃え上がるだけで何の害もない。
机をバンバンと叩き、受付嬢を注目させる。MG3から銃身を抜き取ると、先ほど取り出した弾頭を持つ。
弾頭を銃身の尻、薬室部の上に置いてそれを滑らせる。
「えっと……どういうことですか?」
「喋れないとスゲー腹立つ!説明ムズイ!」
《www》
《www》
《www》
先ほど燃えたところを指さし、それから弾頭を指さす。そして、手で燃え上がるモーションをしてから弾頭をの尻を指さし、弾頭をゆっくりと動かす。
「えっと、つまり、その……その金属ケースに入っていた物質が燃えるとその金属がその筒を通っていくという事ですか?」
おぉ!通じた。頷いて別の一発ベルトから取り外し、銃身の尻に居れてから戻す。そして、槓桿を引いて梁に狙いを定めて撃つ。ドンと銃声がすると梁に穴が開く。
「何だ!?」
「おい!ギルド内での魔術は禁止だ!!」
脇に居た傭兵みたいな男が武器を片手に僕を睨み付けながら怒鳴った。おーこわ。
「良いのです!
私が、その武器を見せてくれと言ったんです!皆さんも何でもありません」
受付嬢が慌ててそう叫ぶと傭兵達はしぶしぶ武器を下げる。
「えっと、これは後方での支援職種でしょうか?」
暫く考え、頷く。
「き、機関銃の役目は敵の頭を下げさせて味方の突撃を支援するし(震え声)」
《そうだけどww》
《そうじゃないww》
《なんか違うww》
《そうじゃないwww》
MG3をカウンターから降ろす。
「それではこちらがパーティー募集の木札です。
パーティーを募集する際に、この木札を募集掲示板に張り出してください。内容を勝手に改変した場合はギルドより重い罰が与えられます。木札が壊れたり、文字が掠れてきた場合は何もせずにカウンターまでお持ちください新しい物を発行します。紛失した場合も同様です。
他のパーティー募集をされている方とパーティーを組みたい場合は掲げられた木札をお持ちください。パーティー募集は早い者勝ちです。
勿論、されなくても構いません。また、募集が掛かっても貴方が気に入らない場合は断っても構いません。同時に、貴方も断られる事があるのでご承知ください。
それでは、何か質問が……と言っても話せませんでしたね。こちらを使ってください。何か質問はありますか?」
差し出された黒板を見る。
「はーい、では質問アンケート」
《お姉さんの名前》
《お姉さんのスリーサイズ》
《今から依頼受けれるのか?》
《何処か泊るところ教えて》
取り敢えず、ふざけた内容は省いて、依頼と泊るところを聞く事にした。
「依頼ですか?
勿論可能ですよ。貴方のランクでは、こちらの中からどうぞ」
出されたものを見れば、ゴブリンの巣の偵察とかサイクロプスの目撃情報があったので裏打ち、山賊の討伐、畑を荒らすゴブリンを退治して欲しい等と言った物だった。
「定番中の定番だな。
取り敢えず、場所と内容をマップに照らし合わせてみるか」
地図を開いて夫々の当て嵌まる地点を見比べる。すると、一つの山を3分割してるのか担当地区が全く違う内容で纏まっていた。
例えるなら富士山は山梨から見たほうが綺麗なのか静岡から見たほうが綺麗なのか?そんな感じだ。
任地は富士山で、依頼者は富士山周辺に住む人達、みたいな?
「よーし、このゴブリン討伐とゴブリンの巣の偵察、サイクロプス退治に、街道に出るウルフハウンドの討伐を受けよう」
4つの依頼を選んで受付嬢に差し出すと苦笑された。
「依頼は一人に付き3つとなっております」
マジかよ~じゃ、このサイクロプスはどう考えてもボスキャラだから抜こう。
「取り敢えず、サイクロプスは後のお楽しみって事で今回はパスしますねー
LMG効くのかも分かんないですし」
絶対効かない。象に機関銃ぶち込んで何発で死ぬのよってレベル。
「では、盗賊狩り、ゴブリンの巣の偵察、ゴブリンの討伐の3つをお受けしますね」
頷く。
「そして、宿ですがコチラの地図をご覧ください。
ギルドに協賛して頂いている店舗にコチラの冒険者カードを提出頂くとランクに見合った割引やクーポンをご利用出来ます」
出て来たのは1枚のトランプ位のカード。銀色をしていた。
「何か板切れ貰った」
どうぞと差し出されたのでそれを握ってカメラの前に出す。
ランクは変ハと書かれていた。
「へんは?」
《なんだそれ》
《なんの暗号だよ》
《それ和音階だよ》
「わおんかい?
何?イオン系列?」
《ハニホヘトイロハがドレミファソラシドで、変はフラットで嬰がシャープだな》
「あー……あれな、夕方クインテット。知ってる知ってる」
《ぜってー知らない》
《古すぎwww》
《なついwww》
「てーことはドのフラットが自分の階級か。
高いのか?」
つーか、フラットって何よ?
「ご質問は以上でしょうか?」
取り敢えず、黒板にこの板をくれと書き込むと申し訳御座いませんと言われた。
しょうがないので端末のメモ機能を使う。これはゲーム中に敵情のメモとかするようにと言う機能である。
そこに『変ハってどのくらいのランク?』と書いて見せる。
「……変ハは駆け出しの冒険者と言う事ですね。
依頼を達成すれば内容に応じて階級が上がります。例えば、トドマン様がお受けになられた依頼を全て達成すれば嬰二から変ホ程度の実力はあると言うことになりますね」
なるほどなースゲーな、おい。
「パッカーとか金とかAランクとかBランクかと思いきやまさかの音階って言うね。
音階の概念あるんかな?」
ホールを見渡せばピアノと1弾高いホールが見えるのでそういう事なんだろう。
「音楽はあるのな」
以上だとメモに書き込み手を振ってその場を後にする。
貰った地図を見てから、端末の地図にアクセスすると普通にマップが更新されており、何も書き込みの無かったマップが貰ったマップ分の情報に更新されていた。
スゲー……マップ埋めるのに地図とか見つければ良いのか。ゲームみたい。
「取り敢えず、町中の散策だな」
外に出れば既に日は落ち始めてオレンジ色だった。
太陽は普通に1つだ。月は思っ糞2つあるけどな。
「すげー、ハルケギニア来たよ」
《よっしゃ!ルイスクンカクンカしに行こうぜ!》
《ティファ探そうぜ!》
《ノボルセンセー!いらん子の続き待ってます!》
《↑違う奴が書いたろうが》
《↑俺はノボル先生のイラン子が読みたいんだ!》
「自分は皇国の守護者とHOTDの続きが読みたい」
《諦めろ》
《諦めろ》
《諦めろ……》
ちくせう