第二話 デブ、手話の偉大さを実感する
HK21Eを景気良くぶっ放して、一時の解放感を味わうのは良いが、まぁ、その代償は酷いものだ。
例えるならティッシュを用意しないで盛大にオナった感じだ。
「軽機関銃って言うのはこういう時には最高だ」
HK21Eを肩に担いで端末を弄る。戦いはほぼ終わりだ。僕が統制された軍隊をひき肉にしたせいだ。無統制の軍隊は服装だけでなく指揮もほとんど統制されていない様で一部は追撃戦に移ってるし一部は死体を漁ってる。
そして、別の一部は……何か揉めてる。
「何やってんだ彼奴等?」
揉めているというか、倒れている女兵士を囲んでズボンを下ろしていた。あーレイプか。
「ダメだよなーああ言うの」
HK21Eを肩に担いで近付く。
「おい!何やってんだ!」
叫ぶが、向こうは反応しない。
「おい!無視するな!そこのお前等だよ!おい!」
HK21Eを上空に数発撃った所で向こうが驚いてこちらに反応した。
「な、何だよ?お前もやるか?」
「へ、へへっ、見ろよ。雪山猫族だぜ?」
「順番は俺等の後だが良いか?ヘヘ」
「寝てる女の子を襲うな!
しかも、仲間だろう!」
「何だ?」
「先が良いのか?それはダメだ。
こいつを見付けたのは俺なんだからな」
「お前逝かれてるのか?
俺の言葉が分からないのか?」
頭が逝かれていると頭の横で指を回す。
「何だ此奴?
もしかして、喋れないのか?」
「何だ唖か」
はぁ?
まぁ、良いや。銃を構えて倒れている少女の前に。
「何のつもりだテメェ?」
「俺達が見つけた女だぞ!」
足元目掛けてHK21Eをぶっ放す。トリガー引きっぱなしの100発だ。
男達は大慌てで何処かに走り去る。やれやれ。脇に落ちていた旗を少女に掛けてやる。僕は紳士的だからね。
そして、HK21Eに新しい弾倉を抱えさせ弾を薬室に収める。
「取り敢えず、彼女が起きるまでは立哨でもしておこう。
ついでに店長に報告だ」
脇に落ちていた木箱に腰掛けて周囲を眺める。
周囲はいまだに混乱しているが、だんだんと落ち着いて来ていた。まぁ、僕の周囲は実に警戒しているがね。
「店長、店員」
《店長》
「ああ、店長。
取り敢えず、現状報告します。現在、我は統制された軍、これを敵と認定し撃破。無統制の軍、これを我の味方として戦い、現在我の他部隊が敵を追撃に入った。
店員はこの追撃に加わらず、途中で倒れて味方にレイプされそうになっていたあー……猫耳少女を保護し当人が起きるまで周囲を警戒中」
《店長了。
よくやった。流石我がショップのエリート店員》
「有難う御座います。給料アップを願ってますよ」
《それとこれとは別である。
残念ながら、私達に貴方をどうする事も出来ない。私は何としてでも貴方を助ける。絶望せずに前を向いて行動して。作戦は命大事に。ゲームでは死ねるが、そこで死んだらどう成るかは分からない。決してゲームの様な行動を取らないように。私と店に誓って頂戴》
「ええ、僕だって流石にゲームみたいな無謀な事はしません」
蘇生出来るのかすら分からないんだから。
何時もの癖で足元に弾薬バッグを展開する。するとカシャっと何時もの弾薬が補充されたという音がする。見れば使った弾薬がすべて元通りだ。Mk24Mod0の予備弾倉も戻っていた。
「……わお」
取り敢えずサイドアームもリロード。
「そこの貴方」
リロードが終えたところでどうするか考えていると話しかけられた。顔を上げればシスター然とした格好の少女が腕に包帯を巻いた少女や頭に血の滲んだ包帯を巻いた男達と共に立っていた。
「貴方は何処かケガをしていますか?」
「いいや、してない」
首を振って体を見せてみる。
「えっと、ケガをしていないって言う事ですか?」
「だからそう言ってるだろう?」
肩を竦めて見せる。
「あー……えっと、ケガはしていないようですね」
シスターは困った様に告げる。
どーにも言葉が通じてない。おかしいな?よし、此処は意を決して。
「よぉ、姉ちゃん。俺のをしゃぶってくれよ。なぁ?」
「後ろのお方は大丈夫ですか?」
「あんた神様の使いだろう?前は取っておいてやるから尻は俺にくれよ。俺の一物はデカすぎるからちゃんと馴らしてから入れてやるからよ」
後ろの方こと猫耳少女を見てから肩を竦める。
「すこし、拝見いたしますね」
うん。ここまでスルーされると逆に恥ずかしい。多分、僕の言葉は聞こえていないんだろうね。何でだよ。
「これは酷い!?
筋肉が酷く損傷していますし、骨折している場所もあります!」
誰か!と声を上げる。そういえば、弾が出るんだから体力回復も出来るんじゃないか?試しに救急ポーチを取り出して腕をケガした少女に投げてみる。
「ん?なにこれ?」
少女が足元に投げた救急ポーチを拾い上げ、それから驚いた顔をした。
「え?」
自身の腕をまさぐる様にして触る。
「うそ!」
そして、包帯を取ると血の汚れはあるが、確かに傷は塞がっていた。おぉ、自分だけではなくこっちの世界の人にも効くんだ。スゲーな!
なので大慌てしているシスターを脇に退けて救急ポーチを投げる。猫耳少女はうぅっと呻いたたと思ったら今まで少し顔を顰めていたが、もう大丈夫という顔で寝息を立てていた。ふむ。治ったんじゃね?
シスターの肩を叩き、少女を指さす。
「取り敢えず、どうするかなー」
これ以上此処で面倒臭い事に巻き込まれても嫌だから何処かに行くかな?
端末を取出して、周囲を確認する。マップ機能も普通に使える。そこでふと、ヘルメットカメラとライブ状況を思い出す。慌てて、コメント読み上げ機能をオンにするとコメントの嵐だった。
「えーっと、すいません。
少し混乱してたので読み上げオフにしてました。取り敢えず、一段落付いたので色々と試したいと思います」
《戻って来た》
《人殺しならんの?》
《↑正当防衛だろ》
《過剰防衛っぽくね?》
《↑剣とか槍と持って襲って来たのを銃で撃ったのはどうなんだよ?》
《↑そもそもゲーム無いだろうが》
コメント欄が荒れ始めた。取り敢えず注意して放置だ。
「喧嘩やめてなー
取り敢えず、ログアウト関連」
機能欄からのログアウト。案の定使えない。
「うーん、この糞ゲー感。
運営に連絡しよう」
直ぐに運営へのカスタムメールを起動する。そして、そこから音声入力する。
「ログアウト出来ない。
ログアウトが出来ないのでどうにかして欲しい。また、よくわからないサーバーに居るのでそこらへんもどうにかして欲しい。
動画添付。動画ファイル00133を選択。送信」
ふーっと溜息を吐いてから、端末を見る。マップにはここから30㎞程行けばそれなりの大きさの町がある。そこに向かって当面の活動拠点都しよう。
それから、男にもメディカルポーチを投げてやり、それから男の肩を叩き猫耳少女を見ていろと言うハンドサインをしてやる。自分の目を指してから少女を指さすのだ。意味は伝わるだろう。
HK21Eを担ぎ、端末を仕舞う。遣れる事は……分からない。
「あ、あの!」
立ち去ろうとして、背後から呼びかけられた。
振り返ると、先ほどのシスターが胸を三本指でひっかく動作をした。
「貴方の様なお方に精霊様のご加護がありますように」
こっちの世界のお祈りらしい。それに片手を上げて答えると、脇に居た男が前に出た。
「ありがとう、コケの人。
後方でギルドが炊き出しをしている。良ければ食べてくれ」
男にも手を上げる。後ろで炊き出しねぇ。食事してみるか?お腹減ってないけど。
端末を操作してギリースーツを買える。ギリースーツは光の粒子になって消えると同時に僕が何時も着ている重防弾ベストと強化プラスチックで保護されたまるで鎧の様な戦闘服に変わる。ノーマル武装で最も防御力が高い装備で弾の他に防刃、耐火、耐電、耐爆の効果もある。これ以上にないほどに高い防御力を誇るが、機動力は大幅に落ちている。
これを着て3000メートルを走ると軽装の兵士が10分のところを13分程になる。短距離も遅い。
が、僕自身生身でも足が速くないのでこの状態でも十分に早い。それに、機関銃と言う武器も相まってこの装備が最も適当なのだ。もっとも、この状況でLMGは必要なさそうなので代わりに折りたたみ出来るアサルトライフルにする。
日本人だから89式小銃だな。89の折り畳み。FNCに似てる奴。2脚が標準装備されていて、これを取るとスマートになる着やせ美人な銃だ。
「これでコケの人って言われなくて済むな」
《ギリースーツだもんねw》
《コケの人てwww》
変な鎧の人とか言われそうだけどな。
「さて、炊き出し行ってみよう。久し振りに孤独のグルメリポートやってみようかな?」
《待ってました!》
《ゲームでの食事増えないと出来なかったからな!》
《俺もその世界行きたい》
《↑そういう発言は控えろ》
《あんまりそういう事言うな》
非常に荒れやすいな、この放送。
「よし、皆、此処でこの異世界生放送に関してのルールを決めよう」
《確かに》
《その方が良いな》
《治安維持にはルールが必要だもんな》
《賛成》
反対派は居なかった。当たり前だ。
「一つ、放送が荒れそうな発言の書き込みは禁止。僕個人の個人的な行動に対しての羨ましいとかの発言は良いけど、この世界に行きたいとかは辞めよう」
反論はなし。当たり前だけどね。
「この世界の人に対しては余り悪く言ってはいけない。
そもそも、この人達がコンピューターなのかそれとも本当に僕が異世界に来てしまったのかは分からないけど。
兎に角、本当に悪い奴以外は罵詈雑言を飛ばすのは止めよう」
後は……
「あとは何か有るかな?」
《まとめウィキ作ってもよい?》
「あ、そうですね。寧ろお願いします。
僕頭悪いので大事な事とか、世界情勢とかそう言うの纏めておいて貰えると助かります」
ふと、端末からネットワークに接続する。店長との通話もスカイプみたいな通信アプリで通話しているし、この実況だってwwwだ。
つまり、ネットにつながらなければ可笑しいのだ。
「よし!ネットktkr!これでこっちに居てもアニメが見れる!」
《アニメてww》
《どんだけwww》
《とどまんwww》
《状況考えてwww》
取り敢えず、SNSを開いて、端末のカメラ機能で自分をパシャリ。
「異世界なうっと……」
カタカタやって送信。
「さて、どうするかな?
ごはんを貰って、運営とやり取りして……帰れるのかね?」
炊き出しを取りに向かえばシスターみたいな恰好をした女達がポトフみたいな奴を作り上げていた。
「ポトフかな?
おいしそう」
《ポトフだな》
《シチューじゃね?》
《白く無くね?》
《ポトフはコンソメから作るぜ》
《透明だからポトフじゃね?》
取り敢えず食べてみるか。
列に並び、ポトフの皿を受け取る。
「どうぞ、精霊様のお導きを」
「精霊様って何だよ。
この世界の宗教か?キリストみたいな?アッラーアクバル?」
《教会とか行って説法聞いたら?》
《日曜日だな》
皿を受け取り、スプーンを貰い、適当な場所に座る。まずは見た目を味わう。
「この見た目。乱雑に切った様に見えて、丁寧に皮を剥いて煮込んである」
スプーンでジャガイモっぽい物を掬い上げて眺める。芽を丁寧に取り、皮もキレイに剥いてある。艶々な黄色。
絶対甘い。確信がある。一口、頬張るとホクホクとしたジャガイモの肉が壊れる。それに伴いジャガイモの甘い汁が口の中に広がった。
「やば、糞美味い。
初めてこんなにおいしいジャガイモを食べた……多分」
《多分ってなんだよwww》
《でも、ガチで美味そう》
《俺もポトフ食べたい》
人参も甘い。まぁ、ベーコンはあんまり多くない。しかし、ベーコンは美味い。かなり歯ごたえが強い。しかし、実に美味しい。
「スープも野菜の出汁も出ていて実に美味しい。
最高だな。久々にこんなおいしいスープを飲んだ」
ハフハフやりながらポトフを食べる。ああ、美味い。本当に、美味しいです。