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異世界ゲーム実況  作者: はち
異世界は僕にそこまで注目していない
1/4

第一話 デブ、異世界に立つ

 慣れない事をする物じゃない。

 何時もは重アーマーを纏い、LMGをぶっ放しているのだが、今回は僕の唯一のリアルでも面識のあるパーティーメンバーであるとっさんと同じ戦術で戦う事を選んだ。

 作戦自体は簡単だ。デス鬼ごっこと呼ばれる余興に近いものだ。鬼たる2人のプレイヤーから20名前後のプレイヤーが逃げるゲームで、鬼は逃亡者を見付けたら殺す。あらゆる手を使って。

 逃亡者は発煙筒とスタングレネードに照明弾を使って時間いっぱい逃げる。元々は2Dゲーム時代からFPS界隈では一般的にやられていた“お遊び”である。

 そして、それはフルダイブシューティングになっても変わらない。特に所謂FPSと言われる時代と同じタイプのゲームでは変わらない。最も、2DFPS(今の時代は全てがファーストパーソンなのでFPSと言うジャンル分け自体不要なのだが、戦争物で人同士で撃ち合うゲームを慣例的にFPSと呼んだりしている)は視覚と聴覚が重大な探索要素であったがフルダイブFPS、FDFPSでは視覚、嗅覚、聴覚、触覚も追加されており、ゲーム上で行うガチ鬼ごっこなのだ。


 で、僕は今回鬼役である。

 意外と思われるが、このデス鬼ごっこでギリースーツは不人気だったりする。何故か?と言えば動かずにいれば普通に目立たない。しかし、そこが平原ではなく砂漠や砂浜だったら?岩がゴロゴロしている山岳地帯だったら?という地形に合わせて色を変えねば成らぬと言う理由が一つ。

 次に、そのモサモサ故に少しでも大きく動けばサワサワと音を立てる。走りでもすれば結構五月蠅いのだ。また、全身を覆うモサモサの端切れが熱放射を抑えてくれる代わりに、豪く暑い。別に暑くても死にはしないが、それが不快感としてプレイヤーに何とも言えない感じにしてくれる。ちなみに、寒さも同じである。

 実際に脳を誤魔化すと色々と健康的にヤバい事になるので寒暖はこの不快感としてプレイヤーを蝕む設定らしい。

 そして、それは慣れれば耐えられるが、慣れなければ地獄なのである。

 つまり、僕は、今、地獄なのだ。


「あ、来た」


 双眼鏡を覗いて周囲を警戒していると、前方から周辺を探すようにユックリとした足取りの2人組が近づいて来ている。

 彼等はこの生放送で逃亡者役として応募してきたリスナー達である。手元にはVSS狙撃銃。狙撃銃とは言うが400メートルぐらいしか狙撃出来ないが、その消音性は非常に高い。

 ただ、モノホンはガタが大きくサイレンスはあんまり高く無いとか。


「さーって……」


 VSSをゆっくりと緩やかに構える。


《トドさんがんばー》

《あれは誰だろう?》

《心Gさんとましゅさんじゃない?》

《ココGとマシュだな》


 心Gさんにマシュさんだ。

 狙撃出来るかな?本当に……うん。


「店長、此方店員」

《店長》


 耳元のインカムから少し冷たい感じの声質を持つ声が返ってきた。

 僕がこのゲームを始める切っ掛けにもなり、また、リアルでもお世話になっている上司でもあるトッサンだ。本名とプレイスタイルからその名前になったそうな。


「心Gさんとマシュさん見付けました。

 これから狙撃に入ります」

《店長了。ココよりマシュを狙撃しなさいよ。

 あのデブ狙撃特化だから初弾で位置バレるわよ》

「了解」

《撃ち漏らしたら、東側に逃げる様誘導して。

 アンタから見て右》

「了解です」

《じゃ、頑張って》

「うっす」


 狙いを心Gさんではなくマシュさんに狙いを変えた。


「……っ」


 引き金に掛かる指の力を強め、遊びを殺す。距離はまだ350といった処だ。

 二人は順調2歩いている。周囲を警戒しているが、偽装された僕を見付けるのはほぼ無理だろう。

 距離300。200は最低でも欲しい。まだ撃てない。しかし、彼等に集まる集中はどんどん上がる。

 距離250。武器の代わりにフレアガンとスモークグレネードを持った男二人だ。息を吸い込み、少し吐いてから止める。イメージとしては10吸ったら2か3吐くイメージ。

 人に寄って吐く量も違う。全く吐かない人もそもそも息吸わずに止めるだけの人も居る。らしい。

 距離200。しかし、二人は突然その場に止まるとしゃがんだ。バレたか?

 吸った息を全て吐き出し、呼吸を整える。二人は周囲を双眼鏡で覗いて探っている。マシュさんに狙いは付けてある。息を吸い込み、少し吐いてから止める。

 二人共双眼鏡で周囲を探っている。マシュさんの視線が僕を含めた全体を眺めて行く。ユックリと慎重に。

 そして、マシュさんと目が合う。マシュさんが一瞬、怯んだ。しかし、もう、引き金は引かれていた。抑圧された銃声、バシャンと音がしたかと思うと、瞬きをする間もなくマシュさんに突き刺さる。

 口径は9mm。弾は双眼鏡を貫いてマシュさんの頭部に突き刺さる。ボディーアーマーすら貫通しても尚殺傷能力を保有している弾丸は左の目元から入り、脳みその左脳や海馬あたりを衝撃とひしゃげた弾頭を持って傷付けて後頭部から突き抜けたのだろう。

 マシュさんは声を出す間もなく、前のめりに倒れた。


「マシュさんタッチ」


 この試合に限り、鬼は相手を殺した際に「タッチ」と報告する。理由は鬼ごっこだから。勿論、タッチされた方は通称幽体と呼ばれる不可視で非接触の透明人間になれる。

 そして、他のプレイヤーの周りについていったり、ゴーストモードと呼ばれるちょっとしたゾンビゲームが出来る。

 もっとも、このゾンビゲームはものの数分で終わってしまうしマルチ用のゾンビが出てくるサーバーでやる方が数百倍面白いので本当に暇つぶし用だ。

 マシュさんが倒れる音を聞いて心Gさんが振り返る。しかし、もう既に狙いは定まっており、引き金も引かれていた。


「くそっ!?」


 心Gさんがそのまま脱力するように倒れた。弾は心Gさんの右側頭部を掠っていく。糞、やり損ねた。流石心Gさんだ。

 心Gさんはスモークを投げると同時に直上にフレアガンを発射した。どーすっかね?

 取り敢えず、倒れた地点に数発撃ち込む。


「店長店員。心Gさん撃ち漏らし。

 右に誘導する」

《店長了》


 それから気持ち左側を撃つ。

 そして、立ち上がって小走りで少し走り、ヒダリを撃つ。すると、向こうからもガサガサと音がして人影が右に向かうのを認めた。

 それを追う様に撃ち掛けていくのだ。これで完全に心Gさんは店長の獲物である。


《はいたーっち》


 流石店長だ。


「さて、残るは誰かな?」


 端末を開いて確認するとあと一人だ。


《店員店長》


 そこで店長、とっさんからの通信が入る。


「店員」

《残るはMEGSの阿呆だ。

 奴は多分、市街地だろう》

「その根拠は?」

《乙女の勘である》

「あ~……店員了解。これより街に向かう」


 コメント欄が大草原である。


《何か意見があるようだが?》

「乙女とは店長の事である。これで良いか送れ」


 コメント欄はまたも大草原。


《www死ぬ気かw》

《やwwwめwwwwろwwwww》

《とどまんRIP》

《命知らずが此処にいるwww》


 返信の代わりに一発の弾丸が僕の足元に着弾し、僕は堪らずに扱ける。


「て、店長店員!

 我は味方である!」


 そして、顔を上げると、目の前では大勢の兵士達が殺し合いをしていた。剣や槍を持った統制された鎧を持った兵士達とばらばらの鎧に武器を持った兵士達が殺し合っているのだ。


「は?何?」

《え?》

《何これ?w》

《え?やばw》

《どういう事?w》


 五月蠅いのでコメント読み上げを切る。


「て、店長!店長聞こえます!?」

《店員、どうした?早く立て》

「い、いや、なんか、目の前で、兵士が戦争してて……剣とか槍とか弓とか」

《落ち着け。目を閉じて深呼吸一回。報告は明確に》


 店長の言葉に多少の落ち着きを取り戻す。目を閉じて一回深呼吸をする。深く息をすると血の臭いと肉が焼ける臭いがした。


「店長、店員。

 報告します」

《送れ》

「えっと、我の位置は不明。敵は不明。人数も規模も……数百から数千。

 武装は、剣、槍、弓……杖?指輪物語みたいな連中が戦っている。お互いに。片方が統制された鎧と兜をかぶって、もう片方がバラバラ。あ、統制された防具は人間ではない。繰り返す。人間ではない!」


 化け物だ。おおよそ、自分が知っている人種の肌の色をせず、角が生えてる。鱗がある。


《……我の位置から、店員の前方500メートル四方何も認められない。平原が広がっているだけだ》


 そんなはずはない。


「えぇ?どういうことだ?」


 立ち上がって双眼鏡を取り出し、前を覗く。目の前にある現象は確かに実在する。試しに銃撃するか?


「うぉぉぉ!!」


 俺の存在を認めた統制された鎧を着た指輪物語が切りかかってくる。マジかよ!


「止せよ!」


 咄嗟にVSSで鎧の男を撃った。腹に一発。

 男はもんどりうって倒れる。それを境に周囲の鎧達が一斉にこちらにやってくる。やらかしたなぁ……


「こっちに来い!

 コケの化け物だ!」

「誰がコケの化け物だ!

 店長!バレました!撃ちました!逃げます!」

《糞、完全に見失った。

 現在、店員が居た地点に接近中。何としてでも生き残れ》


 店長の珍しく焦りの籠った声。しかし、実に頼もしい声だった。


「ええ、勿論ですよ!」


 VSSを背負い、こちらに走ってくる十数名の鎧から逃げる。逃げる先は勿論、無統制の鎧達の方。まぁ、これは一種の賭けだな。

 無統制達が比較的多く集まる方に。走る。何だ此処?どうすりゃ良いんだ?

 畜生。


「おぉい!助けてくれ!おおい!」


 叫んで手を振る。しかし、無統制共は反応しない。こちらに気が付いていない。畜生。何なんだ? 取り敢えず、後ろを確認すると、数十人までに膨れ上がっていた。しょうがない。振り返って、その場に伏せる。

 VSSを構えてセミオートからフルオートに。ヴァスススと尻を枕に押し付けて屁をしたような音が連続でし、ガチャガチャとボルトが前後する。

 前方を走る数名を撃ち殺すと敵もこちらが攻撃に転じたのを明確に理解して追い掛ける事を止めて武器を構える。だが、その程度の物でこちらの武力を上回れると思わない事だ。

 弾が切れたVSSを肩に掛け、腰から拳銃を引き抜く。Mk24Mod0と呼ばれる、いわゆるHK45CTを構える。サプレッサーを取り付けてあるので全長は結構長い。そんなデカい奴を構えて手短にいる敵の顔を目掛けて引き金を引く。

 脳みそがほとんど飛び散らない。まぁ、そうだろうな。兜被ってるし。


「さぁ、どうした?

 こっちは後10人殺せるぞ!」


 さらにもう一発撃って近付く。こちらが近づけば向こうは怯んで一歩下がる。


「後ろに回れ!」

「槍が前に出ろ!」


 向こうも最善の体勢を取ろうとそれぞれの得意な分野に分かれる。

 が、無意味だ。拳銃の射程は20メートル。有効射程が、だ。実用的な戦闘射程はおよそ5メートルから1メートル。相手が弓を持っていればイーブンだが、生憎弓は後ろの方で待機しているように見受けられる。

 と、成ると次にイーブンに持ってこれるのは槍だ。槍だが、お互いの立ち位置がかなり離れている。およそ7メートル。彼等の槍は1メートルとちょっと。つまり、僕との距離は6メートルもある。狙って撃てばおおよそに当たる。

 向こうが体勢を立て直しきる前にこちらが攻撃を行う。

 まずは目の前の連中だ。槍を中心に無造作に撃っていく。一人一発。その射撃はゲームの時と同じである。

 Mk24Mod0のスライドが開き、薬室を解放した。弾切れを意味する。

 槍を持った兵士は完全に沈黙し、剣を持った兵士もだいぶ大人しくなった。残った兵士達は手にした武器を捨てて後方に下がっていくが、別の無統制の兵士達によって切り殺された。あーあ。

 端末を開き、別の銃を取り出す。

 僕の相棒銃種だ。手早く、LMG欄を開いて愛用する30口径シリーズの銃を取り出す。


「おぉ、君か……」


 HK21Eだ。ヘッケー&コック社の軽機関銃で、G3系統の突撃銃を軽機関銃用に発展した物だ。


「さぁ、ロックンロールだ!」


 口径は7.62mmで使用弾丸は7.62mm×51NATO弾。それを100発綴りの金属ベルトで繋げているのだ。

 敵の、統制された兵士達に向けて9.3㎏の化け物を放つ。

 この旧態然とした戦場に現代の息吹を押し込んでやる。ドラムロールだ。ロックな音だ。


「堪んないねぇ……」

《店員店長》


 おっと、店長からの通信だ。


「店員」

《現在、最後に店員が居た場所をMEGSと共に捜索中。

 しかし、私が撃った地点周辺に店員の痕跡無し。同時に、全員のログに店員がログアウトした形式もなし。同時にログイン管理にはログイン状態である》

「あ~……つまり、どういう事か?」

《店員はゲーム内に居ると言う事である。

 そこは何処か?サーバー情報を確認し、報告せよ》

「少し待て。

 現在、あー……現地の戦いに巻き込まれた。そして、えー……我に攻撃を仕掛けてきた方に防衛戦闘を展開。

 ひと段落したら再度報告したい」

《店長了。

 何が何でも生き残れよ。店長命令だ》

「店員了解」

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