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World End  作者: nao
第4章:学園編
80/300

姉弟

「エ・ル・マー!」


 雑談を交えつつ廊下を進んでいると、突然後ろからハキハキとした声で少女がエルマーに飛びついてきた。


「わぁ!?」


 がしりと彼に抱きついた少女はジンと同じぐらいの背丈で、エルマーと同じ鈍色の髪を1つに縛り、後ろに流している。解けば背中の半ばほどまで届くだろう。俗にいうポニーテールという髪型だ。少し切れ長の瞳は凛々しさを感じさせ、すらりと伸びた手足、キュッと引き締まったウェストに程よく膨らんだバストとヒップは服の上から見ただけで抜群のプロポーションであることがわかる。


 何処と無くエルマーに似た顔つきからジンはすぐに彼女がエルマーの姉のサラであることに気がついた。しかし先ほどエルマーから聞いたイメージが不完全であることがわかった。エルマーは彼女が過保護で優しいと表現していたがそれ以上だ。ジンたちがいるのもかまわずに、エルマーの頰に何度もキスしたり、頬ずりしたりしている。


「み、みんな見ているからやめてよお姉ちゃん!」


「だめー、後少し後少し」


 困った顔を浮かべるエルマーを無視してぎゅっと抱きつく力を強めている。しばらくして、ようやく彼から視線を外すと、ジンたちの方に目を向け、先ほどまでの緩んでいた顔から、凛とした表情へと仮面をつけたかのように変化した。


「それで、君たちが私の弟の友達なのかな?」


 直前までのギャップにひどく違和感を感じながらも、ジンは頷いた。


「……はい」


「そうか、私はサラ。君たちの先輩だ。君たちは……」


「あ、ジンです」 


「ルースです」


「マルシェでーす。このあいだぶりだね、サラちん!」


「うわっ、お前いつの間に!?」


 突如ジンとルースの方に体重を乗せて、マルシェが顔を出してきた。


「ん? なんだ、マルシェか。それにジンくんと、ルースくんだね。よろしく頼むよ」


「あ、はい、こちらこそ」


「お、お願いします」


「はは、まあそんなにかしこまらないで。別にとって食おうってんじゃないんだからさ」


「はあ」


「そうそう、サラちんいい人だよ?」


「ああ、いや別にそういうわけじゃなくて……」


「その……」


 二人は言葉を濁す。そしてそっと未だに放してもらおうとジタバタしているエルマーに視線を向けた。


「ん? ああ、これか。悪いね、どうにもどんな時でも無意識に弟のことをかまってしまうようなんだよ。恥ずかし話なんだけどね。まあ姉弟なんてどこも似たようなもんだろうから、あんまり気にしないでくれ」


 そう言って一層拘束を強くしていく彼女についに諦めたのか、エルマーは抵抗するのをやめた。


「あ、ああそう……ですね?」


「お、おう、姉弟は仲が良い方が良い……もんな?」


「そうそう、あれ、ところで今日はどうしたの?なんでそんな荷物持ってるの? どっか行くの? 旅行?」


 困惑している二人をよそに、剛毅なマルシェはサラとの話を再開する。


「あー、新入生は知らないのか。いやなに、明日から校外研修なんだ。それで実際に王国騎士団、近衛師団、法術師団の3つの団にそれぞれ配属されて、色々体験してくるんだよ」


「え、そうなの?」


 エルマーが姉の顔を抱きついている姉の顔を見上げながら、不思議そうな顔をする。


「あれ? 言ってなかったか?」


「うん、どれぐらいやるの?」


「三週間、1つの団に一週間ずつだ。まあ職場体験ってやつだね」


「へー、そうなんだ。まずはどこに行くの?」


「確か、法術師団だな。それで、王国騎士団、近衛師団に行く予定だ」


「三年ってそんなことやるんだぁ。テレサちんは何にも言ってなかったけどなあ」


「ああ、彼女の場合はすでに入る団が決まっているからな。この研修はあくまで自主的なものなんだ」


「ふーん、とにかく頑張ってね、お姉ちゃん!」


 エルマーが彼女を見上げながら自由に動く両手を握ってガッツポーズする。


「あー、もう可愛いな! クンクン」


 サラはそれを見て顔をとろけさせると、彼の髪に頭を埋め匂いを嗅ぎ始めた。


「お、お姉ちゃん!」


 エルマーは何度もサラの肩をタップするが、それを無視して彼女はじっくり5分は髪の中に顔を埋め続けた。それをエルマーはあたふたと、マルシェはニコニコと、ジンとルースはドン引きしながら眺めていた。




「はぁ、エネルギー充填完了! それじゃあ行ってくる、お土産期待しててくれ!」


「うん、行ってらっしゃい!」


「ジンくんとルースくん、それにマルシェ、色々と手のかかる弟だけど、仲良くしてくれると助かる。じゃあエルマー、また三週間後にな」


 サラはエルマーを放し、頭をくしゃくしゃと撫でてから床に投げ捨てられていたカバンを拾い上げる。


 それから彼女は何度も後ろを振り返り、エルマーに手を振りながら徐々に進んで行った。エルマーもそんな彼女に律儀に手を振り続け、やがて彼女が見えなくなったところで大きく溜息をついた。


「はぁ〜」


「なんつーか、お疲れ」


 ルースが言葉を絞り出す。


「ああ、想像以上にインパクトのあるお姉さんだったな」


「おお、美人なのにやばいレベルのブラコンっていうな」


「うん、で、でもいつもはもう少し普通なんだよ? あんな風にみんなの前で抱きついてきたりしないし」


「つまり、私たちがいないところでは……」


 マルシェがニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらエルマーに尋ねる。


「う、うん」


 エルマーは顔を真っ赤にしながら、蚊の鳴くようなか細い声で答えた。


「あー羨ましいな、コンチクショウ! あんな美人な姉ちゃんに抱きついてもらえるとか、なあジン?」


「は? いや俺に聞かれても……」


「かー、枯れてんなぁ。男ならこう、美人に抱かれたらくるもんがあるだろ?」


 ジンはナギのことをふと思い出す。彼女もよくジンを抱きしめたり、髪に顔を埋めて匂いを嗅ぎ出したりしていた記憶がある。


「いや、でも姉だぜ? なあエルマー」


「う、うんそうだよ。幾ら何でもお姉ちゃんでそんなこと考えられないって」


「ばっか、姉だから良いんだろうが! こう禁断の関係つーか……」


 それからルースがいかに姉が素晴らしいかを語り出した。


「あれ、でもお前、お姉さんがいるって言ってなかったか? その人にされてもお前はそうなるのか?」


「あん? あー、あいつは別だよ、別。つーか美人じゃねえし、力は俺より強ぇえし、なんつーか……そうコング! 人間コングだぜあれは!」


 鼻息荒くしてルースが顔を近づけてくる。


「いや知らねえよ」


 彼にとって、姉が美人であればやぶさかではないようだ。だが現実はそうではないため、理想に囚われているようだ。


「ごほん、私のこと忘れてないかなー? っていうかこんな乙女の前で下品な話しすぎだよ?」


「いてっ!」


 そんなことを話しているとマルシェがわざとらしく咳払いをしながら話に入ってきた。さりげなくルースの太ももに蹴りを入れた。


「ああ、いや悪い」


「おお、あそうだ、お前いつの間にエルマーの姉ちゃんと知り合ったんだよ?」


 太ももを抑えつつ、何の悪びれもせずにルースがマルシェに尋ねる。それをジロリとひと睨みしてからマルシェはため息をつく。


「はぁ、この前テレサちんのところに遊びに行った時に偶然ね。でもエルマーくんの前だとあんな感じなんだー、別人かと思ったよ」


 彼女によると、エルマーの前でなければサラは、エルマーが言った通り姉御肌で周囲に慕われているタイプのようだ。


「へー、あの人がねぇ」


 ジンは訝しげな顔をしながら、マルシェの話を聞いていた。


「まあいいや、それよりさっさと飯行こうぜ。あんまりのんびりしてたら次の時間に遅れちまうぞ」


 ルースの発言に一同頷き、雑談を交わしながら食堂に向かう。




「……と、ところでよぉ、や、やっぱ一緒に寝たり、風呂入ったりしてんのか?」


 ふと、ルースがエルマーに尋ねると、一瞬にして真っ赤になったエルマーが小さく声を出す


「うぅ」


「いい加減にしなさい、このどすけべ!」


「あいてっ!」


 前にマルシェに頭を叩かれた。


「ちょっとあんたそこに座んなさい!」


「は、はい!」


 そのまま、マルシェが正座をさせたルースに説教を始める。先ほどから下世話な話を乙女の前で何度もしていたことにフラストレーションが溜まっていたようだ。それが爆発したらしい。ジンとエルマーは情けないルースとプリプリと怒っているマルシェを見て吹き出した。


「そんじゃあ、俺たちは先行ってるぜ」


「あ、おいジン待っ……」


「まだ話は終わってない!」


「はい!」


 肩を縮こまらせていくルースを尻目にジンとエルマーは食堂に向かい、昼食をとった。それからマルシェとルースが教室に戻ってきたのは授業開始ギリギリだった。昼食は結局取れなかったらしい。


ギュルルルルルッル!


 という音が何度もクラス内に響く。


「うるせえぞ!」


「ふぎゃっ!」


 ベインの水弾がルースの額に直撃した。


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