お茶会2
「学校二日目はどうだった? 確か能力測定したんでしょ?」
ゆっくりとお茶を飲んでいると、テレサが三人に聞いてきた。
「まあまあかな。なんかあんまり大したことなかったよ」
「まあぼちぼちって感じかな。ただただめんどくさかったよ」
「えー、私はとにかく疲れたなー。大体私は治癒系の能力しかないんだから、戦闘とか、的当てとか難しかったよ」
「ふむふむ、そういえば一年生の時の能力測定って私の時もそんな感じだったかなぁ。担任の人はどう?どんな先生?」
「僕のクラスはガバルっていう男の先生だったよ」
「嘘! ガバル先生なの!? あのカツラと揉み上げの!?」
「あ、やっぱりそうなの? なんかすごい生え際が不自然で揉み上げもすごいからみんな笑うの我慢してた」
「あー、やっぱり……私も一年の時の担任の先生だったんだけど、一度授業中にカツラが凄くズレたことがあったなあ。あの時の先生の顔が未だに忘れられないわ、ふふふ……それでマルシェたちはどんな先生だった? 同じクラスなのよね?」
「うん、なんとね私達のクラスの担任は元近衛騎士団副団長のベイン・レシオンだったの! すんごいやる気ない先生だった!」
「ああ、最初のホームルームから二日酔いだって言って寝始めたしな」
「えっ! ベイン先生ってそんな人なの? 確か副団長時代は切れ者でかっこよかったんだけど?」
「あー、うん。最初は他の奴らも興奮してたんだけどさ。途中から全くやる気が無いってことが分かって、しかも睡眠の邪魔をすると滅茶苦茶切れるからもう腫れ物扱いだよ」
「ウンウン、すでに何人もあの人の餌食になってるもんね」
「へー、そうなんだ。なんか意外だなー。ね、シオン?」
「確かにね。あの人って何を教えることになってるの?」
「えっと、確か世界史だったかな? どんな風に世界ができたか〜みたいなやつ」
「へえ、じゃあ僕のクラスでも教えるのかな? 少し楽しみだね」
「ねえ、ガバル先生はなんの授業の先生なの?」
「ああ、あの人は法術の応用理論についてだよ」
「えー、なんかめんどくさそう……」
「でもカツラで、揉み上げもすごいけどいい先生よ。教え方もすごいわかりやすいし、私達の代でも人気の先生だったんだから」
「うっそ! 信じられない。僕なら絶対授業よりそっちに集中しちゃいそう」
「ふふふ……そうね。あ、そういえばジンくんクラスメイトはどう? 面白い子はいた?」
「えっととりあえず同じ寮室のやつとは仲良くなったよ。ルースってやつなんだけどさ。すごい田舎臭くて妙に自信家なやつなんだよ。結構間抜けみたいで一番最初にベイン先生に吹っ飛ばされた」
「へえ、面白そうね。どんなことしたの?」
「遅刻して、大声で教室に入ったら、二日酔いでダウンしていた先生の逆鱗に触れた」
「初日から遅刻したの!? なんて言うか凄い豪胆な子ね。マルシェはどう?」
「んー、まあ何人かとは話したんだけどね。なんだろ? 二人と話してたのを見られてたのか、みんな二人のことを聞きたがってくるんだよねぇ」
「あらあら、それは……」
「うん、だから適当に流してるよ。あ、でも一人面白い子がいるよ。エルマーっていう男の子なんだけどね。ものっすごいシスコンで、ずっとお姉さんの話をしてるんだ。お姉さん3年生らしいから、もしかしたらテレサちんの知り合いかも。サラ・オプファーって言うんだけど」
「ああ、サラちゃんね。そういえばサラちゃんの弟が入ったんだっけ。どんな子? かわいい?」
「うん、なんか小動物みたいな感じ。凄く餌付けしたくなる」
「サラちゃんもそんなこと言ってたなー。今度見に行こうかしら。シオンの方はどう? 確か今年はなかなか面白そうな子が入ったんでしょ。アレキウス様のご子息とか」
「あー、うん。なんて言うか声が大きくていつも周りにお付きのものを侍らせてる感じで僕はあんまり好きじゃないな。しかも俺の方が強い〜みたいな感じで妙に対抗意識燃やしてくるから、まだ二日しか一緒のクラスじゃないけど、なんか疲れちゃうよ」
「確かにそれは面倒ね。でも喧嘩を売ってきても買っちゃダメよ?」
「わ、分かってるよ……」
「本当にー? シオン嘘つく時いつも目が左の方見るんだけどなぁ?」
「う、嘘じゃないよ! 多分……きっと……そ、そんなことよりテレサの方はどうなのさ!?」
「あ、そうそう! アスラン様と同じクラスなんでしょ?」
「あー、アスランくんか。なんかいつも誰かに囲まれてて大変そうよ。この前なんかストーカーにつけられたって言ってたわ。怖いわよねー」
「マジかよ、そんなことする女子がいるのか……」
「嘘! 本当に!?」
マルシェがそれからアスランのことについてテレサに尋ね始めた。
それを眺めているとシオンがジンの袖を引っ張り顔を耳元に近づけてきた。突然の行動にジンは少し緊張する。
「あんなこと言ってたけどテレサなんか今まで七、八人に後をつけられてたんだよ。あの子が気がつかなかっただけで……」
耳元で吹きかけられる息が少しくすぐったい。それと同時にジンは確信した。
「なるほど、それで全員お前が救護院送りにしたと」
「当然」
シオンの方に目を向けると、得意げな顔をしている。以前に見たようにシオンはテレサを守るために色々やっているらしい。
未だにアスランのことについて話し続けている。彼女たちを放置してジンはシオンに小声で尋ねる。
「なあ、なんでお前はそんなにテレサのこと大事にしてるんだ?」
「うーん、なんでだろう? 幼馴染だからかな?」
「それだけでか?」
「え? んー、まあ強いて言えば、テレサって放っておいたらどんな目にあうか分からなそうじゃない? だからかな」
「あー、なるほど。確かにそんな感じするわ」
そんなこんなで彼女と会話を続けていく。そしてふとジンはシオンとまともに話していることに気がついた。そのことに内心驚く。数時間前は睨みつけられていたはずだが、何度も会う内に彼女も少し自分に心を開いたのだろうか。思い返せば、からかったことと下着を覗いたことしか記憶にないのだが。しかしそのことは指摘しない。わざわざ関係を拗らせる気はジンには元より無い。
おそらくこれがシオンの元々の性格なのだろう。短気で見栄っ張りだが人懐っこい少女のようだ。一度話し始めると自然と言葉が出てきた。
「それよりさ……お前って、あの……いや、やっぱいいや」
しばらく話していると突然シオンが何かを話そうとしていい渋った。
「なんだよ?」
「いや、やっぱいいって。多分違うから……」
「ん? よく分からないけど、まあいいよ」
そこでジンとシオンは二つの視線を感じた。いつの間にか話し終えていたらしい。ニヤニヤと言う擬音が聞こえてきそうないやらしい笑みを浮かべたテレサとマルシェが二人を観察していたのだ。
「ねえねえ、どう思いますテレサちん?」
「うーん、黒に近い灰色かなぁ? あんな男の子と楽しそうに話しているシオンって初めて見たし。マルシェはどう思う?」
「同じく」
ヒソヒソと何かを話しているが小さすぎて聞き取れない。だがシオンは二人に見られていたことが恥ずかしかったのか耳を赤くしていた。
「おほん。ズバリ、シオンくんはジンくんのことをどう思っているのかな?」
テレサと話し終えたマルシェが唐突にそんなことを聞いてきた。
「どうって……」
何を聞かれたのか、分からずキョトンとした表情を浮かべる。
「敵……知り合い? ……やなやつ? かな」
「むう、そう言うことを聞いてるんじゃないんだよ。ねえ、テレサちん?」
「そうそう、なんかこうもっと甘酸っぱい感じの……」
「あの、それ俺の前で話すような内容じゃなくないか?」
なんとなく気まずく思い、ジンが口を挟む。
「えー、当事者がいないと面白くないじゃん!」
「そうだそうだ! それならジンくんはシオンのことどう思ってるの?」
マルシェの言葉に賛同してテレサが同じ質問をジンに聞いてくる。
「いや、どうって、このタイミングで聞く? 今俺シオンに嫌なやつ扱いされたばかりなんだけど……」
ジンが言い淀むと、何を聞かれていたのかようやく理解したらしいシオンが顔を赤くして二人を止めようとする。
「もう終わり! この話は終わり! それにほら、そろそろ暗くなってきたし帰らないと! 特にテレサとマルシェは通いなんだから、最近夜道は危ないって言うし! 解散解散!」
「えー、もうちょっと話そうよー。ね、テレサちん?」
「そうそう、もう少しだけ。お願いシオン?」
テレサが手を組んでシオンを見つめる。
「うっ、ジ、ジンもそう思うよね?ね?」
「あ、ああ。それにほら俺たち明日が授業初日な訳だし、今日の能力測定で疲れているから、さっさと帰って休まないと明日に響くかもしれないだろ?」
「そ、そうその通り! だから解散、解散!」
未だに不満そうなテレサとマルシェを強引に立たせる。その後テレサが渋々と会計を済ませると彼らは店の前で別れた。シオンはこれからテレサを家まで送って行くらしい。
「それじゃあ私たちも行こっか?」
「ああ」
そしてジンは半ば強引にマルシェを家まで送ることになった。




