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World End  作者: nao
第4章:学園編
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能力測定

「えー、今から能力測定をします。男女に分かれてそれぞれ担当のところに行って下さい、とのことです。つーことで男はまず剣術と体術の計測で、女の方は法術の計測な。そんじゃあ解散……」


 やる気のなさを全く隠そうともせずにベインが紙を読み上げた。生徒たちはそれにうんざりしながらも、ナザルとリュネの指導のもと男女に分かれてそれぞれの演習場へと向かった。


「はー、かったりいな。なんで最初の授業でこんな事やんなきゃいけねえんだよ、なあジン?」


 ルースが両手をズボンのポケットに突っ込み、猫背気味でジンに話しかけて来た。


「まあな、入学試験でやったじゃねえかって思わなくもない」


「だろ? あれからまだ少ししか経ってねえのになんの意味があんのかねぇ」


「うーん、ナザルが読んでた紙の通りに考えるなら、より具体的な能力値を調べたいって事だろ」


「あー、そんなこと言ってたな」


「それにいい機会じゃねえか。ここで良い結果残せば上のクラスに行く近道になるかもしれねえぞ」


「はー、まあそうとも言えるか。だけどやっぱやる気でねえなぁ。そもそもテストっていうのが、っと着いたか」


 話しながら前にくっついて進んでいたためか演習場に着いたことをルースに言われるまで気がつかなかった。


 計測はつつがなく進行した。内容は試験で戦った時に得られたデータよりも少しだけ上の強さのゴーレムと戦うことであった。いつの間にか着いて来ていたベインがゴーレムを生成した。


 さすがにコンディションにより戦闘力も変化するため正確に測ることはできないが、それでもおおよその生徒たちがゴーレムの前になすすべなく敗れ去った。


 その何人か勝った者の中にはルースがいた。『余裕余裕』と言ってはいたがその姿は満身創痍である。未だに肩で息をしているほどだ。


 他にも勝ちはしなかったが目立ったのはナザルだ。開始してから1分ほど剣を振り回したのち体力が尽きたのか地面に倒れ込んだのだ。


 そうして何人かが計測を終わらせるとついにジンの番になった。


「ジン、期待してるぜ!」


 ルースがバンバンとジンの背中を叩いてくる。それに一言返してから、ゴーレムと対峙する。


「あー、次はアカツキか。そんじゃあちょっと待ってろ」


 ベインは今まで使っていたゴーレムを土くれに戻した。そして気を練り始め、土法術を発動させて新たなゴーレムを生成した。それに大分力を込めたのか、ベインは額から大量の汗を流している。その違和感に生徒たちも緊張した面持ちでジンを見つめた。


「ちっ、めんどくせえな。余計に疲れさせやがって、あのクソ女め」


 ボソボソと呟く声がジンの耳に聞こえて来たが、他の生徒には届いていないようだった。


「まあいい、さっさと始めろ」


 眠たそうな目でベインはジンを促す。


「はい!」


 そうしてジンは体を闘気で包み込んだ。イメージはあの時よりも少し上ぐらいの力で。大地を蹴り一気にゴーレムへと詰め寄り木剣を振るう。それをゴーレムは瞬時に反応し、剣を打つけてくる。


 そこからは周囲が呆然とするような剣戟が飛び交った。ステップやフェイントを巧みに使うジンがゴーレムを翻弄したかと思うと、今度はゴーレムの剛撃がジンに襲いかかる。それを躱しながらジンが剣を打ち込むとゴーレムも人間ができないような動きをしてそれを避ける。


「すげえ……」


 ルースが呟いた。その言葉に周囲の生徒たちも自ずと賛同する。目の前で繰り広げられる戦いは自分たちの遥か高みにあるものだ。やがては徐々に両者のスピードが上がっていき、ついには目で追うのもやっとになった。


 しかし終わりは唐突に訪れた。ゴーレムの動きが精彩を欠き始めたのだ。どうやらゴーレムの耐久限界を超えてしまったらしい。そしてついにジンの攻撃がクリーンヒットした。


 ゴーレムはその攻撃を躱しきれず、結果深々と切り裂かれ、土くれへと戻ってしまった。


 時間にして数分ほどだろう。だがルースたちに与えた衝撃は凄まじいものであった。


「……まあ、こんなもんか。アカツキ終わりだ」


 そう呟きジンに呼びかけた。


「はい、ありがとうございました」


 普段は眠そうな目をしているベインが妙に鋭い目付きをしていたことに疑問を覚えたが、ジンは一つ鼻から息を吸い込んでから深く吐き出すと、見学していた生徒たちの元へと歩いて行った。


 その場に着く前にルースが駆け寄ってくる。


「おいおい、すげえじゃねえか。なんだよあの動きやべーよマジで。あんなん俺の地元の道場にゃいなかったぜ!」


 興奮のあまり唾を飛び散らせてくるルースに少し距離を取る。


「まあな。言ったろ? 剣術と体術は得意だって」


 少し自慢げに言うとルースは一層興奮した。


「いや、言ってたけどよ、全然想像と違ってたぜ。つーかもしかしてお前Sクラスレベルなんじゃねえか? なんでこのクラスなんだよ!?」


「あー、まあそれ以外がゴミみたいなもんだからじゃねえかな?」


「はー、あれでEクラスに入るとかよっぽど法術と筆記がクソだったんだな」


「はは、うるせえよ」


 ルースの肩を軽くパンチしつつ他の生徒たちの所に着くと、案の定全員に囲まれ、ルースと同様の反応をされた。


 それからしばらくして全員の測定が終わると今度は女子と入れ替わりで法術の計測のために隣の演習場へと移動した。


 多くの生徒たちが期待の籠った目でジンの実力を確かめようとした。しかし彼が『火球』をやっとの事で発動させ、なんとか的にぶつけたころには彼らの目から失望の色が見て取れた。


 ちなみにルースは動く的ごと周囲にあったものを吹き飛ばすという、威力だけなら間違いなく一級品の『炎爆』という技を放つも、あまりの威力に自分も吹き飛ばされて、意識を失った。


 ナザルに至っては、ジンよりはマシな生成スピードであるが、か弱い法術を発動させ、ぶつけることには成功したが、すでに肩で息をするほど疲れていた。


 ようやく一日の全日程が終わり、帰りのホームルームになった。着替えを終えた生徒たちが机の上に突っ伏したり、今日のことを友人たちと話したりしていると、バンッとドアを足で乱雑に開けて、いつも以上に疲れた表情のベインが入って来た。


「えー、今日一日お疲れ様でした、本当に……つーことで明日から普通の授業始まるんであんまり担当のやつに迷惑かけて俺にめんどくさいことをさせないようにしてください。以上、解散……」


 その一言で全員が早速帰ろうとし始める。ジンもカバンを手に取りマルシェに別れを告げようとすると彼女から先に声をかけて来た。


「ジンくんこれから暇? テレサちんとシオンくんとお茶しに行こうって話になったんだけどよかったらどう?」


「え? なんで?」


「なんかテレサちんが入学祝いで奢ってくれるんだって。それでジンくんの事話したらぜひにって」


「いや、でも俺がいたらシオンが警戒してくるだろ」


「まあねぇ。でもテレサちんもなんかすごい積極的だったし、多分シオンくんも渋々従うと思うよ。って言うよりその場にいて猛反対してたけど、結局黙ってたし」


 その光景が容易に思い浮かびジンは小さく笑みを浮かべた。


「せっかくだしさ。それにテレサちんならすごい美味しい店に連れてってくれるよ?一般人じゃ高すぎて簡単に行けないようなやつに。本当にいいの、行かなくて?」


 その言葉を聞いて以前のことを思い出す。確かに2回とも物凄く高価な物を食べさせてもらった。味は言わずもがなだ。思い出しただけで口の中に唾液が溜まって来た。


「あー、じゃあせっかくだから一緒させてもらおうかな」


「ウンウン、そうしなって! それじゃあ一緒に行こうよ、校門前で待ち合わせすることになってるから」


 マルシェはそう言ってジンの背中をグイグイ押して歩き始める。


「お、おい、押すなって!」


「まあまあ」


 その様子を不思議に思ったのかルースが話しかけて来た。


「おいお前らどっかに行くのか?」


「ちょっとねー、女の子たちでお茶会をねー」


「はあ? なんでジンも行くんだよ?」


「特別ゲストってやつだよ。あ、あんたはダメだけどね」


「いや行かねーよ、まあいい。そんじゃあまた寮でな」


「ああ、じゃあな」


 そうしてルースと別れた後、マルシェとともにジンは校門に向かった。校門では案の定不機嫌な顔をしたシオンと、対照的にニコニコと笑っているテレサが待っていた。


          〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「どうじゃったかな? サリカのオススメの生徒は。確かジン・アカツキと言ったか」


 学長室ではゆったりとした黒い革張りのソファーで間にお茶の置かれたテーブルを置いて向き合うようにして、学長のアルバート・セネクスがベインに話しかけた。


「いや、想像以上ですね。あのクソ女が推すだけはある。つうより、あいつ多分まだ全然本気じゃねえと思いますよ。あの測定で汗一つかいてなかったからな。まあ法術は本当にクソみたいなもんでしたけどね」


「ホッホッホ、元上司をクソ女か。しかし、ふむ、サリカと同様の見解か」


「しかしなぜあいつにそんなに気を配るんですか? わざわざ俺まで呼んで」


「まあ大したことではないんじゃがな。少々気になることがあってな」


「聞いてもいいですか?」


「いや、話すほどのことでもないわ。まあ強いて言えば、お主を呼んだのはその生徒を鍛えて欲しいと思ってな」


「ふー、まあそう言うことにしておきましょう。それに俺も……」


「ん? なんじゃなんか気になることでもあったのか?」


「いえ、多分気のせいだと思うんで」


「そうか? まあいいじゃろう。それじゃあ今後も頼んだぞ」


「はいはい、わかってますよ。そんじゃあ失礼します」


 ベインはお茶に手を伸ばし、一気にそれを飲み干すと気だるそうに右足を引きずりながら学長室から出て行った。


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