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World End  作者: nao
第3章:魔人襲来
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友達と

 昨日のことがひどく応えたジンは引き続き落ち込んでいた。ウィルやマリアには気にしすぎるなと何度も言われたのだが、そう簡単に気持ちを切り替えることなどできない。


「ジン、バジットに食料を買いに行くけどよかったら一緒に行かないかい?」


見かねたマリアが思わずジンに声をかけた。バジット砦には彼と同年代の子供が何人かいる。彼らと遊べば少しは人の気持ちも晴れるだろうと考えてのことだった。ジンは一瞬それに反応するように顔を上げるが、


「いい、行かない」


「ありゃ、珍しい。どうしてだい?友達に会えるんだよ?」


「だって……」


自分は能力をうまくコントロールできていない。だがその力は強大すぎる。もし無意識に使ってしまったらと思うと恐ろしくて会いに行こうと思えない。


「ああもう、うじうじしてみっともない。ほら行くよ!」


マリアは俯いているジンにしびれを切らして、彼を肩に担いで強引に歩き始めた。


「ちょっとマリア、放してよ!」


「いいからいいから。あたしの手伝いをしておくれよ」


「ウィルは!」


「あいつならまだ寝てるよ」


そのままズンズンと進んで行く。結局ジンは諦めてマリアに従うことにした。その様子を見て彼女はニンマリと笑った。


 砦までは歩いて数時間の距離であった。食料品ということで大きな背負い袋と荷車を引いて2人は道を進む。


「おや、珍しいね。こんなところにボアが出るなんて。しかもすでに怒ってるみたいだね」


マリアとジンに向かって駆け寄ってくる2体のボアが100メートル先から見て取れた。ボアは体長3メートル前後で、鋭い牙を持つ魔獣である。性格は穏健で、刺激しなければ危険はないが、一度怒らせれば死ぬまで追いかけようとするほどの凶暴性も持ち合わせている。その肉は柔らかく高値で取引されており、ジンの好物の一つでもある。


「ジン、武器は持ってきてるね?」


「うん、一応」


「そんじゃあちゃっちゃと片付けようか」


マリアは腰にぶら下げていたレイピアを抜き放つ。そして流れるようにボア達の前面に木を作り出す。スピードに乗っていた魔獣達はそれを避けようとするがそのままぶつかった。ズズンと音がなってよろけたボア達の足を木の根が搦めとる。足を掴まれて倒れたところでジンが素早く詰め寄り、森の主が残した魔核を宿す短剣を二匹の首筋に力一杯突き刺す。魔獣達は短い断末魔とともに、絶命した。


「やるじゃないかジン!」


ジンに駆け寄るとマリアが頭を撫でながら笑顔で言ってきた。


「ま、まあこれぐらいは……」


気恥ずかしくてごにょごにょと小さい声で呟く。


「ウンウン、よく修行してるね。えらいえらい」


子供扱いされるのはあまり好きではないが、嫌いでもなかった。むしろ母親のように接してくれるのは嬉しかった。


「と、とにかく、血抜きとかしないと肉が臭くなっちゃうんじゃない?」


「おっとそうだったね。ちょっと待ってな」


マリアは携帯していた短剣を取り出すと、素早く内臓を抜き取り薄い氷の膜で覆う。


「解体しないの?」


「しないよ。殺してすぐそれをすると肉の味が落ちるからね。こうやって軽く冷やしておくのさ」


「ふーん。それじゃあこの肉はどうするの?」


「どうってもちろん運ぶに決まってるじゃないか」


「誰が?」


「そりゃあんたに決まってるだろ。あたしゃかよわい乙女なんだから」


「乙女って歳なのかよ。それにかよわいって」


「なんだって?」


「いえなんでもないです……」


 片方の眉を吊り上げて凄むマリアに腰が引ける。ジンは渋々と持ってきていた荷車にそれを乗せてひっぱり始める。ボアは体重が500キログラムほどである。つまり合わせて1000キログラムの重量が荷車にかかっている。壊れないのが不思議である。


「ねえ、この荷車木製だよね。なんで壊れないの?」


「そりゃああたしが木神術で創った木から切り出したやつだからね。そんじょそこらのやつとは耐久力が違うのさ」


「ふーん」


 そんなことを話しながらゆっくりと進む。常に体を強化し続けていなければ運べないほどの重さである。すぐに疲労がたまり、何回か休憩を挟みながら、ようやくバジットに到着した。


「それじゃあ、あたしはちょっと買い物に行ってくるから友達のところに行っといで。それともあんたもあたしの買い物に付き合うかい?」


「いや、俺はいい。」


 その言葉を受けてジンは丁重にお断りした。以前彼女の買い物に付き合った時、数時間ほど付き合わされたからだ。女の買い物は長いとウィルがよくぼやいていたのが身にしみた。


「なんだい、可愛げがないねまったく」


 マリアは少し不満そうな顔をしながらも、その足で食料品店の方に向かって行った。


 ぶらぶらと街の中を歩いていると、前方にこそこそと隠れながら歩いている猫人のラルフを見つけた。


「あ、ジン君! 今日はどうしたの?」


「よう、ラルフ。ちょっとマリアの付き合いで買い物に来たんだ」


「ふーん。それじゃあ今時間ある? あるなら一緒に遊ぼうよ。今からレックス達と森の近くの小川まで遊びに行くんだけど」


「俺は……」


「おっ、ジンじゃん」


「マジだ、ジンじゃねえか」


「ジンだジンだ」


 レックスの取り巻きの猿人、犬人、兎人がラルフの背後から現れた。ザルク、ヨーク、ラビだ。さらにその後ろからレックスも現れた。彼らは各々腰に武器、肩に釣竿、片手に魚籠を持っている。3人のことは過去の一件であまり良い印象を持っていなかったのだが、レックスと喋るようになってから彼らの印象は少し変わった。ザルクもラビもヨークも人間に親や兄妹を殺された経験があった。だからこそジンには彼らの気持ちを理解することができた。

 

 結局のところ彼らもジンと同じ思いを抱いていたのだ。ただ彼らの場合、憎悪する対象が人間そのものであったというだけだった。少しずつレックスを介して話すようになり、やがては友人と呼べる関係になっていた。


 あの事件の後レックスは彼らとともにラルフに、今までのことを謝罪した。最初は戸惑っていたラルフだったが今では彼もレックス達と遊ぶようになっていた。そんな彼らの最近の遊び場はバジットの近くにある森の近くを流れる小川である。季節柄徐々に気温が高くなりはじめたので、川辺に足繁く通っているのだった。


 森に近づ来すぎると魔獣が出てくるかもしれないので注意が必要だが、所詮そういった魔獣は、豊富な食料のある森の奥には住めないような下級の魔獣である。彼らぐらいの年齢ならば、その程度の魔獣は5人いれば10匹は難なく倒せた。もちろんそれ以上となると少し危ないのだが、そんなことはここ10年ほとんど例がない。そのため大人達も別段彼らが小川に遊びに行くことには大して心配はしていなかった。


「ジンも行くだろ?」


「いや、俺は……」


 レックスの質問に口籠もる。森に遊びに行くことに魅力は感じているが、正直昨日の今日である。何か起こったらと思うと気が気でない。


「いいじゃねえか、一緒に行こうぜ」


 レックスが彼の肩を組んでくる。


「それともなんか用があるのか?」


「いや、特にはないけど……」


「よし、そんじゃあ行くぞ!」


 強引にジンの肩を組んだまま歩き始める。ジンも最初は抵抗しようかと思ったが、マリアがわざわざ連れて来てくれたのだ。森について行ってもあまり触れ合わなければ危険は多分ないだろう。そう思いおとなしくレックス達について行くことにした。


「そういや、最近何してんだジン? やっぱり修行か?」


6人で森までの道を歩いているとレックスが尋ねて来た。


「ああ、朝から晩までな」


「いつも思うんだけど、どんなことやってんじゃん?」


 ザルクも興味を持っていたようだ。


「そうそう」


 ラビが頷く。


「いや、別に体術とか、神術とか色々…」


「あれ、ジン君神術の修行はじめたの?」


「ちょと前からな」


「ジンって何属性なんだ?」


 ヨークが後ろから聞いて来た。


「無属性……」


 その言葉を聞いてレックス達は唖然とする。


「む、無属性!? それってノヴァ・メウが使ってたっていうやつじゃん!?」


 ザルクが声を上げる。


「マジかよ! えっと……マジかよ!!」


 ヨークは思わず言葉が出なくなった。


「すげぇすげぇ!!」


 ラビも興奮している。

 

 無神術とはエデンに住む者達にとって伝説に等しいものである。今までに確認されている術者はわずか5人。はるか昔、オルフェによって大結界が張られる前に現れ、多くのフィリアの使徒を滅ぼしたとされる、最強の龍人の勇者ノヴァ・メウ。


 魔物の掃討に注力し、当時最恐と呼ばれていた巨狼フェンリルを死闘の末に討伐したエルフの勇者エルサリオン。


 天才的な頭脳から数多くの発明と兵法を発展させ、今日のエデンの文明の基盤となったとされるエルフの女王エルミア。


 鍛治神と呼ばれ多くの聖剣、魔剣を造り出したドワーフの刀匠フルングニル。


 そして人界にラグナに与えられた使命を果たすために送り出されたとされる謎の偽人カムイ・アカツキ。


 カムイ以外は皆、数多くの伝説を残しており、その残滓がそこかしこに残っている。その中でも多くの獣人達の憧れはノヴァ・メウである。


 彼らの反応を見ていてジンは改めて気が落ち込む。自分は伝説の英雄と肩を並べられるような存在になれるのだろうか、そしてこんな危険な力が彼らは怖くなかったのかと。もし伝説にある彼らも似たような経験をしていたならどうやって乗り越えたのか教えて欲しかった。


「それにしちゃ、随分暗いな。なんかあったのか?」


ジンの表情に気づいたレックスが声をかけて来た。

それを受けてジンはポツポツと昨日のことを彼らに話し始めた。


「……だから正直に言って、自分の力が怖いんだ」


「で、でもジンくんならきっと大丈夫だよ! いつも必ず問題を解決して来たじゃないか」


「俺もそう思うぜ」


「そうそう」


「それに俺たちだって最初からできたわけじゃないぜ」


 各々ジンに慰めの言葉を投げかけてくる。それが少し嬉しかった。


「それによ、ジン。お前がそう思うなら、むしろ使ったほうがいいんじゃねえか?」


「どういうこと?」


「いや、コントロールができないってことは相手もお前の攻撃を予測できないってことだろ? だからお前はいかにコントロールしないかを訓練すりゃいいんだよ」


 真面目な顔をして間抜けなことを言うレックスに思わず笑いが溢れる。


「あはは、何馬鹿なこと言ってんだよ」


「む、俺は結構本気だぜ?」


 ニヤリとレックスが笑う。


「そうそう、適当でいいんだよ」


「おう、レックスとラビの言う通りだぜ」


「いい加減がベストじゃん」


「あ、あんまり適当すぎるのは良くないけど、心配しすぎるのも良くないと思うよ」


 レックス達の言葉を静かに受け止める。ジンは心の中の靄が少し晴れたような気がした。


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