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World End  作者: nao
第10章:四魔大戦編
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カムイの記憶1

 この世界に生まれて1000と少し。儂が何を得て、何を失ったのか。それを少しだけ語ろう。この愚か者と同じ過ちを、お前がしない為に。


〜〜〜〜〜〜〜〜


 儂はエデンではなく、この人界にて生まれた。母はエデンへの遠征時に奴隷として捕まり、売られたまだ50にも満たない若いエルフ、父はとある地方の領主の醜く肥え太った息子。簡単に言えば庶子のハーフエルフ、それが儂じゃ。


 だが奇妙な事に儂には両親の外見が一つも遺伝しておらんかった。髪も瞳も黒く、さりとて耳は人の様。金の髪と翡翠の瞳を持つ母とも、赤い髪と茶色い瞳を持つ父ともまるで似ておらん。ただ、まあ外見は母に似ていたがな。


 そんな訳で、母に夢中だった父は、彼女が他の男に股を開いたと思い、母を激しく虐待し、さらに生まれた儂を殺そうとしたそうだ。そんな儂を必死になって母は救ってくれたのだという。


 母は毎日、父に殴られ、蹴られ、犯され、ボロ雑巾の様に扱われた。それでも彼女の瞳は光を失わず、儂を愛おしそうに見てくれた。だが母の愛を感じられた日々も終わりを告げた。


 あらゆる者は術を持つ場合、3歳までの間に何かしらの兆しを見せる。だが儂にはその兆候が一向に現れなかった。5歳を過ぎても儂は何も出来ない弱者のままだった。そうして母は儂を見限った。彼女が儂に期待していたのは、能力が覚醒し、隷属の紋様が刻まれ逆らう事ができない母に代わって、儂が父を殺す事だったのだ。けれども儂にその力はない。それを知った母は一変して儂を憎んだ。


「役立たず」「無能」「お前が生まれなければ」「死ね」


 今ならば歯向かえる言葉も、当時のまだ幼い儂には呪詛の様だった。その言葉を投げかける母は相変わらず、父に辱められ続けた。だから儂は母から拒絶されても、彼女の面倒を見続けた。それから5年ほど月日が流れ、母がついに父に殺された。母の死骸は兵士達によって運び出され、道に打ち捨てられた。


 儂は怒りで我を失った。気がつけば儂は崩れ落ちた領主城の中で、父の首を絞めていた。辺りは多くの人々の血に染まっていた。


「この化け物め」「気狂いが」「お前さえいなければ」「死ね」


 そんな言葉を愚かで醜い父は儂に浴びせかけた。だから儂は父の首をそのままへし折った。そうして儂は両親から解放され、自由になった。それから儂は旅に出る事にした。いつか、母から聞いたエデンを目指して。


〜〜〜〜〜〜〜〜


 旅は数年に及んだ。理由は単純。愚かな領主、つまり儂の祖父が儂を許さず、追手を出したのだ。死ぬ様な目には何度もあった。毒を盛られ、夜襲を受け、背後から仕掛けられ、集団に囲まれ、騎兵達に襲われ、傭兵達に体を斬りつけられ、それでも儂は生き残り、その都度死体の山を生み出した。


 悪鬼羅刹と恐れられ、獣と罵られ、悪魔と忌み嫌われて、それでも儂はエデンならば救われると思い、ようやく大結界を越える事ができた。だがエデンも儂にとっては単なる地獄でしかなかった。人の容姿をしている。それが人界から結界を抜けてやってきたのだ。彼らは儂を間者と認識し、儂を捕まえ、殺そうとした。


 結果として、儂は一つの街を滅ぼし、追ってきた1000を超える兵士達を皆殺しにした。そうして、儂は人界に戻る事にした。そこでならば、祖父の息がかかっていない所まで逃げさえすれば、エデンにいるよりも安全だと思ったからだ。


 それから5年、儂は世界を放浪し続けた。どこかに儂を受け入れてくれる場所があるのではないかと思いながら。


〜〜〜〜〜〜〜〜


 20にもなると、儂は自分の力をある程度把握して用いる様になっていた。どの系統にも属さぬ力。一定範囲にいる存在を死に至らしめる謎の能力。発動の為の条件は身の危険を感じた時と、激しい怒りを覚えた時。さらには無から有を生み出す事すら可能だった。


 儂は敵として現れた者達との戦いの中で、それらの力を磨いていった。そうしてある日、儂は東の海を越えた先にある巨大な島の話を聞いた。そこは大小多くの国家が乱立し、覇を競い合っているという話だった。その頃の儂は強くなる事を渇望していた。だからこそ、戦場を求めて海を渡る事にしたのだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜


 その大地は確かに血に塗れていた。着いた数時間後には既に、儂はとある国の傭兵として戦場に立っていた。それから数年、様々な国を渡り武勲を積み重ね、儂はいつの間にか傭兵の王として名を馳せる様になっていた。


「常勝の王」「戦の神」「勝利へ導く者」


 かつて忌み嫌われたこの身はいつの間にか、人々から称賛を受ける存在へと代わっていた。それが心地よく、儂を更に戦場へと向かわせた。しかし、そんな儂を快く思わない者も多かった。そうして儂は信じていた部下に裏切られ、腹を貫かれて道に捨てられた。


 多くを虐殺した儂の最後が母の様に道端で死ぬ事だったと分かり、儂は思わず笑ってしまった。そんな儂を不思議そうに、ある女性が覗き込んできた。


「なぜ今にも死にそうなのに、あなたはそんなに嬉しそうなんですか?」


 血に塗れた赤く暗い儂の世界に一筋の光が差し込んだ様な気がした。


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