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World End  作者: nao
第10章:四魔大戦編
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プロローグ

 暗い暗い洞穴の中、皺がれた声で老人が歌う


「ねむれ、ねむれ、母の胸で

 ねむれ、ねむれ、父の背で

 夜がお前を包む時、魔の神々がお前に呪いをかける

 朝がお前を包む時、善なる神がお前の光となる

 だけど気をつけねばならぬ

 魔の神々は光すら喰らう

 

 ねむれ、ねむれ、姉の胸で

 ねむれ、ねむれ、兄の背で

 星のない夜には決して外に出てはならぬ

 魔の神々がお前を騙そうと、常に目を光らせている

 愚かな子供は贄となり奴等は全てを奪い去る

 

 ねむれ、ねむれ、祖母の胸で

 ねむれ、ねむれ、祖父の背で

 もしもお前が失せ物を

 取り戻したいと願うなら、東に馬を進めなさい

 我、神威の名の下に、お前の願いを叶えよう」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 エレミア砂漠を出て、数ヶ月かけてアカツキ皇国に向かうはずだったジン達一行の旅はその実、たったの数分で終了した。


「まさか長距離の『転移』が使えるなんてびっくり。でも大丈夫なの?」


 ミコトが目を丸くしながら視線の先にある宮殿を見て嘆息した。


「ああ、この程度なら体にもあまり負担はないようだ」

 

 ジンはそう言って右腰に挿した魔剣の柄に手を置く。以前のジンでは不可能だった長距離の『転移』も全てエルミアの【叡智】の権能によるものだ。魔剣から必要な分の知識を獲得したのである。


「気をつけろよ。まだどの程度扱えば体に影響が出るのか判明していないんだからな」


 ゴウテンはそう言ってからチラリと同行してきたアスルを見る。彼の能力ならば、長距離転移も持っていそうなものだが、都合の悪い事に長距離の『転移』はまだ使えないのだそうだ。それが嘘なのか本当なのか、アスルの表情は変わらない為ゴウテン達には分からない。


「とにかく、まず陛下にお会いしましょう」


 クロウがそう提案した為、ジン達は面倒だという理由で1人残ると告げたアスルを置いて、謁見の間へと向かう事となった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「うぉおおおおおおおお!! ミコトちゃーーーーん!!!」


 相変わらずのコウランだった。獣のような大男はそのままミコトに抱きつくと、顎に生やした無精髭をミコトに擦り付けた。ミコトはひどく嫌そうな顔を浮かべて押しのけようとするも、流石にその力には敵わない様だった。それからコウランが落ち着くまで10分ほど待つ事になった。


「さてと、久しいな、ジンよ。何があったかは聞かん。よく帰ってきた」


 先ほどとは打って変わって別人の様になったコウランは落ち着いた声音でジンにそう告げた。


「こっちもお前と別れてから色々あってな。まず、お前に伝えなければならんのは、もう聞いているかもしれんが、始祖様がお目覚めになられたという事だ」


「始祖様っていうのはカムイ・アカツキだよな。それが目覚めたってどういう事だ? 遥か昔に死んだ人間じゃないのか? まさかエルフだったとか?」


 その質問に、コウランは首を横に振った。


「いや、カムイ様は我らと同じ人間だ。ただ、あのお方は【領域】の権能をお持ちだった」


 かつてジンが聞いた話によると、【領域】の権能とは空間を自在に操る力だったはずだ。


「それって……」


「うむ。あのお方が操れるのは時空間にすら及ぶという事だ。あのお方は自分の死期を悟り、その肉体を時が緩やかに流れる空間に封じたのだ。全ては遥か未来に現れる己の後継者と対峙する為にな」


「それが俺か」


「うむ。以前お主がこの国に来た時より徐々に封印が解け始めていたようだ。我らも古文書でしか知らなかったが、数ヶ月前にあのお方が封じられた祠より証が示された事でお目覚めになられた事が判明したのだ」


「ところで、封印の祠っていうのはどこにあるんだ?」


 数年ではあるが生活していた時に、ジンはそのような大層なものを見た記憶がなかった。


「お前も知っているはずだ。例の修練場。第十の試練を超えた先にある頂の祠だ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 伝承によると、第十の試練は第九の試練で身につけた『紅気』を用いて、祠の門番を倒すというものだった。残念ながらジン達の中で『紅気』を扱える者はいない。しかし、幸いな事に皇家に残された秘宝の中にそれらの試験を経ずに直接祠へと転移する事が可能になる宝玉が存在していた。どうやら謁見する時を見越して、カムイが残したものだそうだ。それを用いてジンは1人、早速祠の前まで飛ぶ事になった。


 そこを初めて見たジンの感想は祠というよりも巨大な洞穴と表現した方が正しいというものだった。申し訳程度に洞穴の前に社が建てられているもののその背後に広がる洞穴の入り口はあまりにも巨大だった。縦幅だけで100メートルはあり、横は200メートルほどもある。そんなものを覆うほどの建造物を建てられるはずもなく、恐らくその洞穴が神聖なものである事の証としてささやかながら社を建てたのだろう。


 そんな益体のない事を考えていると。突然、頭の中に声が響いてきた。


『さっさと来い』


 たった一言ではあるが、その声には威厳が満ち溢れていた。


「どうやらお呼びの様だ」


 その言葉に従い、ジンは社を抜けて洞穴の中に入る。そこは変わった空気が流れていた。時間が緩やかに流れているような不思議な感覚に陥る。ジンはそのまま奥へと進み、ついに大きな扉の前に立った。


「この中にカムイ・アカツキがいるのか」


 ジンがそう呟くと同時に、ゆっくりと扉が動き始めた。


「はてさて、どんな奴なのか」


 緊張した面持ちでジンは中に入る。すぐさま彼の目は100メートルほど離れた所で座している70歳ほどの白髪の老人を捉える。


 その肉体は老いを感じさせない程に引き締まり、活力に満ち溢れ、その眼光は猛獣の様な鋭さがあり、そして、何処となくではあるが自身に似た顔立ちをしているように彼には感じられた。


「よう、くそガキ。散々待たせやがって」


 歯を剥き出して笑いながら、老人がそう言った。


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