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World End  作者: nao
第9章:再起編
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見極め

「さてと、武器が完成するまで私たちも出来る事をしようか。ジン君、外に来たまえ」

 

 エルサリオンがそう言って、ジンに付いてくるように言った。エルサリオンはジンと共に洞穴の外に出て、そこからさらに1キロほど離れた場所まで移動した。


「こんな所まで連れてきて何をするんだ?」


 辺りは何もない荒野だった。草一本すら生えていない。


「君がどの程度の実力なのか知りたくてね。果たして我々を任せるに足るのか。もし十分でないのなら……私達は来るかも分からない君の次をここでまた待ち続けなければならない」


 そう言った瞬間、エルサリオンの姿が消えた。ジンは咄嗟に右に飛ぶ。すると彼が先ほどまで立っていた場所には長剣を突き出していた。両刃の剣で全長は80から90センチほどで幅は5センチほどの一般的なものだ。装飾の類は一切ないが、作り手の技術の高さが滲み出ている。それほどに美しい剣だった。


「よく躱したね。反応と勘は大したものだ」


 ニコリと笑うエルサリオンに、ジンは戦慄する。顔は穏やかなままなのに、その顔から下の部分は、戦士としてジンの理想を体現するかのように隙というものが存在せず、剣を構える姿はもはや芸術の領域だった。


「これが伝説の英雄ってやつか」


 ふと幼い頃にラルフやレックス達と話した事を思い出す。魔物の殺戮者として後世に名を馳せた勇者が目の前で自身と対峙している事に思わず笑ってしまいそうになる。


「随分と楽しそうだね。私など余裕で対処できる」


 エルサリオンに言われて、自分の口元が吊り上がっている事に気がついた。


「いや、まさか伝説の英雄に指南してもらえるとは思わなくてさ。単純に楽しみなんだ」


「ほう、いい気概だ。それじゃあこちらも少しだけ本気を見せようか」


 エルサリオンの剣はそのスラリとした見た目に反して、重かった。一撃一撃が必殺の威力を持っており、その一振りで風が起こり、地面が割れた。まさに魔物を殺す為だけに鍛え上げられた剣だった。


 ジンはその重い攻撃を闘気と無神術による身体強化によって肉体の強度を5倍まで上げて対応する。常人では目で追う事すら難しい速度で、振り下ろされた剣を回避すると、一気にエルサリオンの後ろに回り込み、彼に向かって短剣を突き出した。


 だが、それが届く前に彼の体がまるで何かに縛られたかのように硬直し、動かなくなる。


「何!?」


 エルサリオンは振り返って、そんな彼を見てニコリと笑い、ジンの首筋に剣を当てた。


「これで詰みだ。もう一本やるかい?」


「……ああ、よろしく頼む」


 そう言うと、途端に見えない拘束が緩んだ。ジンは後方に飛んで10メートルほど距離を取り、相手の出方を伺う。


「来ないのかい? それならこちらから行かせてもらおう!」


 エルサリオンは剣を持ったまま、ジンに向かって突進してくる。そのスピードはジンからすれば速くはない。容易に対処出来るはずだった。しかし、後3メートルほどの所で突然エルサリオンが振りかぶって剣を地面に叩きつけた。当然の如く地面が割れ、さらに爆発したかのように不自然に土煙が舞い、ジンの視界を奪う。


「目眩しか!」


 ジンは即座に感覚器官を強化し、目で情報を得る事を止める。そして微かに右から聞こえてきた音を頼りに短剣を横に薙いだ。だが返ってきたのは硬質な何かに当たった音と感触だけだった。その直後、ジンの背中に剣先が当てられた。


「また詰みだ。もう一回やるかい?」


 楽しそうなエルサリオンの質問に、ジンは振り向かないまま頷いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 結局、10回戦って、ジンは一度も勝てなかった。


「筋はいい。その歳にしては十分過ぎる程に強い。だが惜しいな。君はあまりにも素直すぎる」


 エルサリオンはジンと戦ってそのように評価した。


「じゃあ、俺はあんたのお眼鏡には適わないのか?」


「いや、合格だよ。ただ君はもっと狡猾でなければならない」


 そう言われて、ジンは確かにそうだと考える。今までにも格上相手との駆け引きで策を弄した事はいくらでもある。しかし、そのどれもが行き当たりばったりの行為だ。偶然成功したにすぎない。再現しろと言われても無理だろう。だがエルサリオンの狡猾さはジンとは異なって、そのどれもが計算し尽くされた行動だった。無駄など一切ない。


「魔物の中には生前の知能を持つものや、人間を遥かに超える頭脳を持つものもいた。フェンリルなんかがその良い例だ。人々は私の事を英雄や魔物を滅ぼす者として褒め称えたが、その実、私の戦い方は受け入れられなかった。敵を倒す為なら私はなんでもしたからね」


 エルサリオンは自分が犯した罪をジンに話す。例えば、敵の気を引く為に生贄を用いた事。あるいは被害が拡大したとしても、あえて強力な魔物を放置する事で他の魔物の牽制を行った事。他にも、倒すという結果の為に多くの罪を犯した事。どれも伝承では描かれなかった話だった。すぐにジンは当時の人々がそれをあえて隠したのだろうと想像した。勇者はあくまでも勇者でなくてはならない。そうでなければ、人界や魔物によって疲弊したエデンの人々の心に希望を維持させる事は難しかっただろう。


「後悔はしない。私が犠牲にした人の為にも、してはいけない。君には目的を達成する為の覚悟はあれど、何もかもを利用し、欺き、裏切るという狡猾さが足りない。そしてそれは君が今後身につけるべきものだ。たとえ心が摩耗しようとも神を打倒するのならば、君は人でなしにならなければいけないし、二度と人々の間で生きる事を願ってはならない」


 そこまで言うとエルサリオンはジンの目をじっと見据えた。それはまるでジンの覚悟を確認するかのようだった。ジンはそれに応えるように小さく頷いた。


「事実を知る私達以外からすれば、神を殺そうとする君はこの世の悪そのものだ。きっと、そこいらにいる人だけでなく、君の友人も君を恨むだろう。それでも良いかい?」


「……正直、友達から恨まれた時に俺がどんな気持ちになるのかなんて、その時にならないと分からない。だけど、それでも俺は神を……ラグナとフィリアを殺す。それだけは俺が失ってしまった大切な人達に誓った、絶対だ」


 その言葉を聞いたエルサリオンは人懐っこそうな笑みを浮かべてジンの背中をバシリと叩いた。


「よく吠えた! 君がその意志を貫き通すまで、私は君の力となって共に戦おう!」


「ああ、よろしく頼む」


 エルサリオンが差し出してきた右手に、ジンも右手を差し出して、互いに握手をした。


「さてと、次はエルミアの番だな」


 そう言ってエルサリオンが振り向くと、そこにはエルミアが退屈そうに岩に腰掛けていた。


「あ、やっと終わったのね。じゃあ、さっさと試合いましょう」


 ジンは漸く彼らが何をしたいのか、理解した。エルサリオンだけでなく、エルミアも、そしておそらくフルングニルもジンが自分の願いを叶える為の器に足るのかを測りたいのだ。


「私とは単純に術比べをしましょう。私はエルサリオンやあの髭と違って、武器を振り回すなんて野蛮な事はしないの」


 エルミアはそこまで言うと、ジンの方に人差し指を向けた。次の瞬間、彼の周りの景色が一変した。というよりも、いつの間にかジンは宙に跳ばされていた。


「【転移】か!」


 すぐさま空中で回転し、ジンは地面にいるはずのエルミアを探す。


「まだまだ遅いわねぇ」


 しかし、その声は背後から聞こえてきた。ジンがそちらに振り向いた直後、体が何かに包まれて、一気に重くなり、そのまま地面に引きつけられるように急降下し、背中から固い土に叩きつけられる。


「がはっ!」


 肺の中の酸素が一気に吐き出される。さらにはメキメキという音と共に体が地面へとめり込んでいく。凄まじい程の重力を受けて、ジンは身動きが取れなくなる。


「この程度じゃ、私はあなたを認められないわ」


 いつの間にかエルミアは地上に戻っており、地面にめり込んでいるジンをつまらなそうに見ている。


「あぁ、そうかよ! 【転移】!」


 しかしジンはありったけの力を振り絞って空中に【転移】する。そして振り向きざまに全力で無神術を発動する。イメージするのは全てを吸い込む黒い力だ。


「【黒球】!」


 エルミアの眼前に黒い球が現れ、辺りを吸収し始める。


「あら、初歩の術は使えるのね」


 そんな状況であっても、エルミアには何の焦りもない。


「【消えなさい】」


 そして彼女が一言そう言うと、ジンが発動した術は何事もなかったかのように消え去った。


「な、なに!?」


 すでに着地していたジンは驚き、声を漏らす。


「んー、初歩の術ではあるけど、地獄では地上よりも術が発動しやすいというのは置いといても、威力と速度はまあ及第点かしら。あ、でも落第ギリギリって所よ」


 その言葉に、ジンは歯噛みする。


「まあ、精進する事ね。私の【叡智】の権能はきっとあなたの術をさらに優れたものへと導いてくれるでしょう」


 ニコリとエルミアはジンに笑いかける。


「何じゃお主ら、その小僧を測っておったのか」


 そこでフルングニルがやって来た。


「もう出来たのか?」


 先ほど打ち始めてから、まだ2、3時間しか経っていない。ジンは驚きながら尋ねる。


「んにゃ、まだまだかかるぞい。ただまあお主の剣の腕前が知りたくてのう」


「それはあんたと戦うって事か?」


「んにゃ、儂は鍛治師じゃぞ? 見たいのはお主が武器をどのように扱っているかじゃ。まあつまり、お主の剣舞を見せてくれ」


「実際に戦っている所じゃないのか?」


 ジンは素直に疑問に思う。実戦と訓練とでは大きな違いがある。それなのにフルングニルは実戦ではなく、訓練が見たいと言うのだ。


「うむ、確かに実戦では訓練以上の力が出る時もある。しかし、そんなのは稀じゃ。基本的に、実力というのは訓練で培った力の延長線上にしかない。儂はな、そんな不確かな実戦の実力ではなく、平時のお主の実力が見たいんじゃ」


「……わかった」


 フルングニルの言葉にジンは頷くと、両腰の鞘に入れていた短剣を抜き出して構え、それから剣を踊るように振るった。ウィルから教わった型だけでなく、これまでの戦闘で自分の中で生み出してきた型のようなものまで、披露した。


「これでいいのか?」


 30分ほど披露した所で、ジンが尋ねる。


「うむ、大体いいじゃろう。それにしてもまあ、何とも愚直な剣じゃな。だが、儂好みの剣じゃ」


 フルングニルは満足そうに頷いた。


「それじゃあ……」


「うむ、おかげでお主の剣をどう育てるか想像できたわい」


「育てるってどういう事だ?」


 言葉の意味がわからず、ジンは質問する。


「儂は単なる鍛治師ではなく、魔剣、聖剣を打てる者じゃぞ。単なる剣なぞ打つか」


 フルングニルはそう言ってニヤリと笑った。


「ああ、そうか。それならよろしく頼む。あ、あんたは見極めをしなくてもいいのか?」


「ん?」


「いや、他の二人みたいにさ」


 ジンの言葉で得心がいったような顔を浮かべる。


「ああ、あいつらが頑固なだけじゃ。儂はお主に賭けると端から決めておったわい。なんせお主を逃せば次に誰か来るかなど分からんからな」


 ふん、と鼻を鳴らしながらフルングニルが答えた。


「それじゃあ、儂は行くぞ。二日ほど待てい」


 そう言ってフルングニルはさっさと去って行った。


「どうやらあと二日あるみたいだね。それならこの二日間でしっかりと鍛えておこうか?」


 エルサリオンがそう提案してくる。


「ああ、願ってもない」


 ジンはその言葉に頷いた。


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