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World End  作者: nao
第9章:再起編
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尋問

「少しは落ち着いたか?」


 しばらくして目を覚ましたジンにゴウテンが話しかける。


「ああ。すまねぇ」


 痛む頭を抑えつつ、ジンは謝罪する。


「あんまり面倒をかけんじゃねぇよ。お前は一応俺たちの上に立つ奴なんだからよ」


 ぶっきらぼうにゴウテンは言って、そっぽを向いた。


「悪かった。ミコトにクロウも」


 心配そうな2人にもジンは頭を下げてから尋ねた。


「それで、ソールはどうなった?」


「一応私が封じているよ。まだ目を覚ましてないけどね」


 ミコトはそう言って左の方を指差した。そこには光の檻に閉じ込められ、同じように光る輪で両手足を拘束され、芋虫のように地面に這いつくばっているソールがいた。


「しかし、死人だったんだろ? なんで動いているんだ?」


 ゴウテンが疑問を投げかける。


「……多分それがアスルの力なのかもしれない。確かに俺が最後に見たソールは完全に死んでいたと思う。それなのに彼女は全く別の存在となって蘇った。さらに歪な力を手に入れてな」


 『転移』だけでなく『同一体』という不可思議な力を扱えるようになったのだ。彼女が本来持っていなかった力をどうやって手に入れたのかなど、考えればすぐに想像できる。


「それに戦った感じだけど、このソールはラグナの使徒じゃない。あまりにも弱すぎるんだ」


「どういうことでしょうか?」


 ジンの言葉にクロウが質問する。


「使徒は隔絶した力を手に入れた存在だ。それは単純に扱える属性の多い少ないに関わらず、術の速度や肉体面の強度、闘気の量など多岐に及ぶ。それなのにこいつはそのどれもが平均よりも少し上程度だった。『転移』なんてものにやられなければ、お前らも十分勝てる相手になっていた」


「つまり、同じ使徒とは思えないほど弱っているって事か」


「ああ。考えられる可能性は一つ。ソールはあの時、魂もろとも完全に死亡したという事だ。そしてここにいるこの女はあの場に残っていた死体から生み出された全く異質な存在なのかもしれない」


 ジンは術が魂に刻み込まれているという話をウィルから聞いていた。それは初めてノヴァと対峙した時に彼が直接ノヴァから聞いた話である。それの真偽は不明だが、そうだと仮定した場合、使徒の力を失っている目の前のソールに宿る魂は本来の彼女のものではないと言える。


「どういうこと? それならなんであんたの事を知ってたの? アスルっていう神様は記憶も復元したって事?」


「分からない。でもアスルはこの世界を生み出した神々を創造した原初の存在だ。もしかしたら完全なる複製が可能なのかもしれない」


「うーむ。そんで、お前はこの後どうするんだ? アスルとやらに会いに行くつもりか?」


「ああ。もしアスルが同一のモノを生み出せるのなら、その力は俺にとって絶対に必要なものだ」


「シオンの為……よね」


 ミコトの言葉にジンは頷いた。


「アスルがどんな神なのか知っているのか?」


「分からない。でも少なくとも封じられるぐらいだからとんでもない神かもしれない。それにラグナはオルフェの息子だ。その使徒である俺はアスルにとって復讐の対象かもしれない……」


 ジンは一呼吸ついてしっかりと顔を上げた。


「だがそれでも、俺はあいつを救える可能性があるのなら、こんな命いくらでもくれてやる。何を犠牲にしても俺はあいつにもう一度会いたい」


 その言葉を聞いて、ゴウテンは面倒臭そうな顔を浮かべながら頭を掻き、ミコトとクロウは満足そうに頷いた。


「仕方ねぇが主人の言葉だ。従ってやるよ」


「それに、じいの為にもあの子を助けてあげなきゃね」


「ええ。お師匠様もきっとあの世でそれを願っているはずです」


「お前ら、あいつがハンゾーの孫だって知ってたのか?」


「うん。あの子からお母さんの名前を聞いた時からね。でもハンゾーが何も言わなかったから私も何も聞かなかったけど」


「私はミコト様から教えていただきました」


「そうか。まあ、とりあえず事情聴取するとしますか。檻の解除を頼む」


 ジンはソールに近寄る。彼の言葉に従い、ミコトは光の檻のみを消した。


「起きろ」


 ジンがソールの腹を蹴ると、うめき声を上げながらソールが目を開けた。


「うぅ……な、なんだ?」


「単刀直入に訊かせてもらう。アスルとは一体どんな存在だ? なぜお前はラグナの使徒で無くなっている? どうやって復活した?」


「う……」


 ソールが再度呻く。すかさずジンは彼女の腹を蹴った。


「答えろ」


 どすの利いた声を聞いてソールは怯む。過去の過酷な訓練の記憶がフラッシュバックしてその恐怖に怯える。そんな彼女の腹部をもう一度蹴り飛ばした。ソールが痛みを感じたように悲鳴を上げる。


「痛みがないのは分かっている。演技はやめろ」


 その言葉は正しい。彼女には痛みを感じる機能がない。彼女が呻く理由は彼女の記憶の中にある痛みが呼び起こされているからだ。そんな事知りようのないジンが無駄と思いながらそれでもソールを攻撃するのは、暴力というもの自体が人に恐怖を与えるからだ。痛みを感じなくても、殺意を向けられ、自分の体が損壊していくのを見せつけられる事に恐怖しない者はいない。復活したソールは完全に人間性を失っていない為、恐怖を与える事こそが彼女から情報を手に入れる為の最適解だった。


「わ、分かった。話すからもう止めてくれ!」


 そう叫ぶソールを見て、漸くジンはその攻撃を止めた。


「ま、まず、アスル様は……」


 そこまで言って、ジンとソールは異常が発生した事に気がついた。彼女の手足が砂のように崩れ始めたのだ。


「な!?」


「あ、あああ! 嫌だ、死にたくない! 死にたくない死にたくない死にたくな……」


 驚くジンをよそに、あっという間にソールの体は砂となり、吹いてきた風に飛ばされていった。


「くそったれ。何にも分からずじまいじゃねぇか」


 ジンは思わず悪態をついた。アスルに会う前に可能な限り情報を集めようとした結果がこれだ。


「でも、どうしていきなり砂になっちゃったんだろう?」


 目の前で起こった現象にミコトが首を捻る。


「分からん。情報を漏らせば自壊するように仕組んでいたのかもしれねぇ」


「うーむ、ソールとやらは封印されているアスルが外の世界に介入する為に創った尖兵ってわけじゃねぇのか」


 ゴウテンも眉間に皺を寄せ、首を傾げた。


「何かしらの実験だったのかもしれませんね」


「クロウの言う通り実験だったのかもな。まあ、聞いてみないと分からんが」


 ジンは肩をすくめて言う。情報が得られなかったのは残念ではあるが、元よりアスルに会いに行くつもりだったのだ。結局の所何も変わりはない。


「さてと、それじゃあ原初の神とやらに会いに行くとするか」


〜〜〜〜〜〜〜


【ほう、僅かとはいえ我が力を持つ傀儡が破壊されるとは。なかなかに興味深いな】


 ソールの目を通してアスルはジン達を見ていた。結界に囲まれてはいる為、動く事は出来ないが、この程度の事であれば彼にとって何の苦労もない。諜報の為に創り直し、余分なモノを排除したものの、出来は良くなかったようだった。


【力は肉体に宿らず、魂に宿る。そう言う事であろう? ラグナとやら】


 こちらに目を向けて話しかけてくる。ああ、そうさ。あなたは設計を間違えていた。あなたの言う通り、僕が彼女に与えた力は魂に刻まれている。いくらあなたが外側を真似て創った所で中身がなければ意味がない。


【まあいい、所詮は手慰みで創ったもの。壊れた所で何も問題はない】


 アスルはどうでもいいかのようにそう断言した。

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