再び遺跡へ
翌日、早速ミコト達がアカデミーにあるジンの部屋にやって来た。
「へぇ、これが結界装置なんだ」
ミコトは物珍しげに結界術式が封じ込められた封術具を持ち上げた。
「ああ、でもお前が来たなら正直もう必要無い物かもしれないがな」
「まあ、張りたい結界の大きさ的には大丈夫だとは思うけど、大きいと強度が下がるのよね」
「そこは俺が強化するから大丈夫だ」
「うーん、それならいいかな。外から入ってくるのと、中から出てくるのを防ぐ結界でいいんだよね?」
「ああ、すぐに行けそうか?」
「ええ、それじゃあ案内してくれる?」
「分かった。ちょっと来てくれ」
そう言って部屋からミコト達と一緒に出たジンはイブリスの元へと向かった。
「イブリス、いるか?」
ジンがドアをノックすると中から入るようにとの声が聞こえてきたので、ドアを開けて中に入る。
「結界を張るの……を……」
手伝ってくれる人を紹介しようとして、ジンは言葉を失った。なぜならそこには全裸に白衣を羽織って眠そうに目を擦るイブリスがいたからだ。
「わお」
ミコトがボソリと呟き、ジン達男性陣は慌てて部屋の外へと出た。しばらくの間、部屋の中でゴソゴソという音が聞こえてきたかと思えば、ようやくドアが開けられてすまなそうにイブリスが顔を出した。
「いやぁ、悪かったわね。寝ぼけて教え子と間違えてたわ」
それはそれで問題発言ではあるのだが、ジンはそれを言いたい気持ちを抑えて、ミコト達を紹介する。初めは真面目な顔を見せなかった彼女も真剣な表情を浮かべ、いつの間にか話をしっかりと聞いていた。
「カムイ・アカツキの権能を受け継いでいる……か。それで、すぐに結界は張れそうなの?」
「ええ、お望みなら今すぐにでも」
「分かったわ。それじゃあ私は学長と他の長達にも連絡しておくから、あなた達は先行して遺跡に向かって。場所は覚えているわよね?」
イブリスがジンに尋ねると、彼は頷いた。
「それじゃあ、あの車貸してくれ」
ついでとばかりにジンが提案すると、イブリスは心底嫌そうな顔を浮かべて、床に唾を吐き捨てた。
「ペッ、ガキが生言ってんじゃねぇよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それから数時間後、結界のある遺跡に辿り着いたジン達は早速様子を伺った。ジンが作り上げた長大な溝はそのまま放置されており、そこを乗り越えようとした跡や立ち往生している人々などが50人ほどいた。彼らは皆取り憑かれたように遺跡の中心部に行こうとしていた。何も考えずに穴に落ちる訳では無いので理性まで奪われたようではなかった。
「つまり、思考が制限されているって事だな」
それを見たゴウテンが呟くとクロウが不思議そうな顔をした。
「どういう事でしょうか?」
「要は頭の中に絶対的な命令が構築されているんだよ。恐らく『無事な状態で鏡の前に辿り着け』とかそんな感じでな。だから溝を越えられる奴と越えられずにいる奴、その為の知恵を捻っているっぽい奴なんかがいるんだ」
「なるほど」
「ま、そんなのどうでもいいわよ。どうせ私が結界を張ればどうしようもなくなるんだから」
そう言って、ミコトは地面に両手をついた。
「ちょっと離れてて」
ジン達はその言葉に従う。すると彼女はボソボソと何かを呟くと同時に輝き始め、体の内から凄まじい力が溢れ出した。力はそのままドームのように溝に沿って膜を形成し始めた。すると、彼女が結界を張り始めた事に気がついた人々が突然ジン達の方に向かって駆けてきた。
「どうやら、倒さないといけないようだな」
腰に装備していた1対の短剣をジンは引き抜く。その彼に続いて、ゴウテンとクロウも武器を構えた。
「どんな理屈か知らないが、アスルは奴らを吸収する事で強さを増していくみたいだ。だから向かってくる奴は全員殺すぞ」
ジンの命令に、ゴウテンとクロウは驚く。いつもの彼ならば気絶させるように命令するはずだ。しかし、有言実行するかの如く、ジンは自分に飛びかかってきた10歳ほどの少年を即座に斬り殺した。
「な、何を!?」
思わずゴウテンが叫ぶ。
「あいつを復活させたら世界が終わる。今は人道的な事なんて言っている暇はないんだ!」
唯一アスルを見たジンだけは事の重大さを理解していた。だからこそ、批判されようと、子供であろうと女性であろうと、老人であろうと、誰であろうと殺す事を決めていた。そこにかつてあった彼の甘さは存在しなかった。
「ゴウテン、クロウ! 奴らは人間じゃない! アスルを復活させる為に存在する何かだ! 躊躇うな、殺せ!」
その言葉にしばしゴウテンは躊躇うも、クロウは覚悟を決めたように、自分に向けて稲妻を飛ばしてきた女性を斬り裂いた。
「ゴウテン様、覚悟を決めなされ。正気を失っている奴らからミコト様をお守りするには決断しなければなりません!」
「ああ、クソっ。やりゃあいいんだろ、やりゃあ!」
ゴウテンはそう言うと、自身に向かって突きを放ってきた老女を斬った。しかし、詰めが甘く、まだ生きていた彼女はそのまま突進を続け、ゴウテンの腹に僅かに剣先が触れた瞬間に、ジンによって首を斬り飛ばされて、その力を失った。
「しっかり止めを刺せ!」
「っ、分かってるよ!」
ジンの叱咤に言い返し、ゴウテンは改めて自分に攻撃してきた男性を今度こそ斬り殺した。そうして3分後、ミコトが結界を張り終えたと同時に最後に残っていた屈強な男の首をジンが斬り飛ばし、辺りは静寂に包まれた。砂で覆われた地面は流れた大量の血によって赤く染まっていた。
告知です。ジンの父親のハヤトを主人公にした外伝を書き始めました。彼がなぜ国を出たのかについてを書いていく予定ですので、興味がございましたら是非ご一読ください!
World End 外伝:ハヤトの章
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