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World End  作者: nao
第8章:王国決戦編
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動き出した悪意

 目を覚ますと薄暗い部屋の中で、服を脱がされて、背もたれ付きの椅子に座っていた。小さな蝋燭の火だけが灯りだった。


「ここは……」


「目が覚めたようだね」


 蝋燭を持っていた男が話しかけてくる。裸である事に気がついて、一瞬少女らしい悲鳴をあげて体を隠そうとするが、その前に自分の手足が拘束されている事に気がつき、一気に冷静さを取り戻した。強く羞恥心を覚えながらも、それを隠しながら相手を睨みつける。


「へぇ、この状況でそんな目をする事ができるなんてね。さすがはシオン君だね」


「やっぱりあなたか、ガバル先生!」


 目の前にいる禿頭の男に向かってシオンは怒鳴る。それを聞いてガバルは思わず笑い出した。


「はははははは! 君にそう言われるとやっぱり違和感があるね。どれ、答え合わせと行こうか」


 そう言うとガバルの顔が突如変化し、その下から40代半ばぐらいの男の顔が現れた。


「お、お前は一体?」


「そうか、思い出せないかね。まあ、君はあの時まだほんの子供だったからね。でも僕はあの日の事を今でも思い出せるよね。って、この喋り方はもうしなくてもいいか」


「あの日?」


「ああ、そうだ。お前はかつてナギ君から魂を分けてもらった。そうだな?」


「なぜそれを!?」


「まあ、落ち着け。なあ、疑問に思わないか? 『生命置換』は禁術指定だ。普通の人間は存在さえも知らない。それなのに、なぜお前達がそれを行えたのか」


「それは……」


 確かに『生命置換』は国によって秘された術だ。シオンも自分に施されていなければ、知ることすらなかっただろう。そんな術をスラムの孤児だったナギが知っている訳が無い。そして自分の周囲で光法術を使えた人間は使徒のウィリアムしか知らないが、彼が術者とは到底思えない。


「答えは簡単だ。私がお前の愚かな父親に依頼されて、お前達の魂を繋げる施術をしたのだよ」


 そこで、男は芝居臭く頭を下げた。


「我が名はディマン。ディマン・リーラー。フィリアの使徒にして、ラグナに仕える者だ」


「ディマン……『リーラー』?」


 『リーラー』という名に引っ掛かりを覚え、すぐに人工魔人について調べている時に見つけた資料の中にあった『イヴェル・リーラー』という名前に思い至った。


「そう。お前も知っているようだな。私は『イヴェル・リーラー』の血と、彼の意志を継ぐ者だ。それにしてもその様子だとラグナについては知っているようだな。そうか、あの少年から聞いたのだな?」


「……僕をどうするつもりだ」


 ディマンの言葉を無視して、シオンは尋ねる。


「何もしない、と言ってあげたい所だが、これからお前を使って、今度こそ完全なる魔人を作ろうと思っているんだ。当然協力してくれるよな?」


「そんな事!」


「いいや。お前は私の言う事を聞くしかないよ。お腹の子のためにもな」


 ニヤリと悍ましくディマンは笑う。


「……なぜそれを?」


「ははは、研究者が研究素体を調べない訳ないだろう?」


「くっ!」


 シオンは悔しさに唇を噛み締める。


「何、心配することはない。私だって妊婦が魔人になった時、その子供が一体どうなるのか気になっているんだ。無駄に殺すようなことはしないさ。ただ、お前に与えられた選択肢はたった二つ。抵抗して自らの手で子供を殺すか、素直に従って魔人になるか、まあ魔物になるかも知れないが、とりあえずその2択しかないよ」


 笑いながらも、ディマンの瞳には狂気が宿っていた。その顔を見て、シオンは全てを理解した。彼が言っていること全てが真実である事を。しばし逡巡し、彼女は決断した。


「……好きにしろ」


 従うふりをして、機会を窺い、逃げ出そうと考えたのだ。


「はははははは! 協力感謝するよ! なに、心配することはないさ! 上手くいけば、お前は使徒と魔人、全てを超える力を手にする事が出来るのだからな!」


 ディマンは嬉しそうに笑う。それを見てシオンは血が流れるほど唇を噛み締め、手を強く握りしめる。


「そうだ。聞き忘れていた事があった。その子はジン・アカツキの子で間違い無いのだな?」


「……ああ、それがなんだ?」


「お前はジン・アカツキを愛しているのか?」


「……だったらなんだ?」


「その想いは、本当にお前自身のものなのか?」


「え?」


 シオンはその質問に目を丸くする。目の前の男が何を言っているのか理解出来なかった。そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、ディマンはまた狂気に染まった笑顔を浮かべる。


「まずはその検証から実験を開始するとしようか、ね?」


 そうして、彼女に対する実験が始まった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 オリジンに戻ったジンはその足でシオンの家に向かった。彼女の様子が少し変だった事が気になり、自然と足早になっていた。だが、彼が家にいくと、門の前には彼女の代わりに、彼女の父親であるグルードが待ち構えていた。グルードはジンに気がつくと、鬼のような表情で、走り寄ってきた。


「ジン・アカツキ! お前の、お前のせいでシオンが!」


「は?」


 その言葉の意味を理解する前にグルードはジンに掴みかかると、そのまま彼の右頬を思いっきり殴りつけた。大した威力ではないが、思わずジンはよろけて尻餅をついた。


「お前が……お前が!」


 さらに殴りかかろうとしてきたグルードの両手を受け止めて、ジンは真剣な表情を浮かべた。


「シオンがどうしたんですか?」


 ジンの質問を聞いて、グルードが顔をクシャクシャにして膝から崩れ落ちた。


「シオンが……あの子が三日前から消えてしまったんだ。それにこの紙があの子のベッドの上に……」


 グルードは弱々しく上着のポケットに入れていた、クシャクシャになった紙を取り出した。ジンはそこに書かれている文字に目を通した。


『さあ、今度は私の番だ。ジン・アカツキよ。お前が私から彼女を奪い、私を絶望させたように、お前も存分に絶望を味わってくれ』


「これ……は?」


「ああ、シオン、私の可愛いシオン!」


 グルードが外聞も関係なく地に突っ伏して泣く横で、ジンは魂が抜かれたかのように、その場に立ち尽くした。


〜〜〜〜〜〜〜〜


「へぇ、これがオリジンねぇ。外とは違って、随分活気があるな」


 大通りには人がごった返していた。


「まあ、なんせ使徒達のお膝元だからねー」


 ヘルトの言葉にアリーネが答える。


「それで、これからどうするんだ?」


 エリミスがヘルトに尋ねる。


「あー、とりあえず族長様に会えばいいんじゃね?」


「あの、この国は王国だから族長じゃなくて、王様……」


 セルトがおずおずと言うと、ヘルトは振り返り、彼女の顔を殴った。


「いちいちうるせぇんだよ。カスが!」


 瞳に涙を溜めながら倒れたセルトがヘルトを見上げると、その顔に興奮したのか、ヘルトは彼女を蹴り飛ばし、横顔を踏みつける。周囲の人々が、その行為を見てヒソヒソと囁きだした。


「なんて酷い事を……」


「あんな可愛らしい子に酷い仕打ちをするなんて……」


「誰かあの子を助けてあげなよ……」


 そんな声が聞こえてくるが、誰もヘルト達に近寄ろうとしない。冒険者の風体をしている彼らに余計なちょっかいをかけて、自分たちにも被害が出る事を恐れているのだ。


 彼らを横目に、ヘルトの、セルトに対する暴力は続いていく。


「そのくらいにしたらどうだ?」


 突然、男がヘルトに声をかけてきた。


「なんだ、テメェは?」


 蹴り続けていた足を止めて、ヘルトは不快そうに尋ねる。


「お前に素晴らしい提案を持ってきたんだよ。勇者ヘルトよ」


 自分の事を知っている事を理解し、ヘルトは目を鋭くさせる。


「何者だ、テメェは?」


「私はディマン、ディマン・リーラーだ。お前に頼みたい事があってこうして会いにきたんだ。少し話をしたいんだが、いいか?」


「へぇ、俺の事を知っていてそんな事を言うとはねぇ。おもしれぇ。いいぜぇ、どこへでも連れて行けよ」


「ね、ねぇ、そんなに簡単に決めていいの? なんかすっごい怪しいよ?」


 ウェネーがディマンに警戒した様子を見せる。


「そうだ。怪しい」


 すかさずエリミスもウェネーに同意する。


「もっと慎重になった方が……」


「うるせぇ! 女が出しゃばんじゃねぇ!」


 アリーネの言葉に辟易して、セルトの顔を踏みつけながら、ヘルトが怒鳴る。


「相談は終わったか? なら、場所を変えるぞ。ここは些か目立ちすぎる」


 野次馬がどんどん増えつつある事にヘルトは気がついた。


「ちっ、めんどくせぇが仕方ねぇ。さっさとどこへでも連れて行きな」


 もう一度強くセルトを踏みつけると、漸く彼女の頭から足を退けた。


「それでは行こうか」


 そうしてディマンは先頭を歩き始める。ウェネー達が意識を失ったセルトを引きずる様子を眺めていたヘルトは、彼がほくそ笑んでいる事には気が付かなかった。


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