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World End  作者: nao
第8章:王国決戦編
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密命

 満月を背負った黒い影が宙に浮かんでいた。


「なんだ、あれは?」


 空を警戒していた。兵士の1人がそれに気がつく。


「何かあったのか?」


「ああ、いや、あそこに何かいるんだよ」


 質問してきた同僚が分かるようにその影に指を向ける。


「あれは……」


 月の光を受けて、足まで届くと思われる美しい銀色の長い髪が怪しく輝き、風で揺らめいている。顔は見えないが、まるで女神のような印象を見る者に与える。


「手を挙げた?」


 最初に発見した兵士がポツリと呟いた瞬間、空に巨大な太陽が現れた。





 その日、オリジンから10kmほど離れたイグズの街が焼失した。廃墟と化した街から、突然数千を超える幻想的な光の玉が宙に浮かび上がり、その影の元へと向かって行き、吸収されるかのように消えていった。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「イグズが? 本当か?」


「はい。調査隊が確認したところ、生きている者は誰もいなかったそうです」


王城の執務室で仕事をしていたイースにグルードが報告書を渡しながら答える。


「……まさか法魔が生きていたのか?」


「いえ、分かりかねます」


 しかし、グルードも同じような見立てだった。なぜなら数ヶ月前にも同様の事件があったからだ。その時はウェラスの街が消失し、多くの人命が失われた。


「複数による犯行か?」


「ウィリアム卿の話によると、ウェラスの時と同様に一度しか術は行われていないそうです」


「そうか。つまり、以前の事件は『あの』法魔とは無関係だったという事か」


「恐らくは」


「一体何が動いているんだ? そいつの思惑は何だ?」


 街を一つ破壊する行為の理由が何なのかイースには想像もつかない。魔人ならば食事の為とも考えられるが、死体は全て黒焦げになっていたため、流石に彼らでも食べる事は難しいだろう。謎は募るばかりだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「べイン先生が?」


「うん。話したい事があるから学校に来るようにって」


 最近お気に入りのレモンシャーベットを食べていたシオンにマルシェが話す。


「何の用だろう?」


「うーん、分かんないけど、もしかしたら騎士団関係じゃない? あの先生、元近衛騎士団の副団長だし」


「それでも、なんであの先生が?」


「さあ? 行ってみるしかないんじゃない?」


「僕もあんまり暇じゃないんだけどなぁ」


「まあまあ、そう言わずにさ。普段一切やる気がないベイン先生が、わざわざシオン君を呼んだってことは、それだけ何か大切な話があるって事だよ」


「はぁ、仕方ないか」


 シオンはシャーベットを食べ終えて立ち上がると、突如目眩が襲いバランスを崩す。


「大丈夫?」


「立ちくらみ?」


 驚いたマルシェの横でアルトワールが本から顔を少し上げて尋ねた。


「うん。そうみたいだ。でも大丈夫、もう治ったから。それじゃあ僕は行くね」


「バイバーイ」


「またね」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ベイン先生。お呼びですか?」


 シオンが職員の休憩所に向かうと、案の定、ベインがソファに横になって居眠りをしていた。


「来たか。まあ適当な所にかけてくれ」


ベインは体を起こしてシオンに席に座るよう目で促した。それに従って、シオンも素直に着席する。


「それで、どんな用でしょうか?」


「あー、何だ……その、あいつが……アカツキが戻ってきたそうだな」


「え? ええ、そうですけど」


 シオンは予想外の質問に目を丸くする。しかし、すぐにベインが一年の時のジンの担任であった事を思い出す。


「マルシェ達から聞いたんですか?」


「正確にはアニックからだがな」


「アニック?」


 聞き慣れない名前に一瞬誰の事かと考える。そしてすぐにアルトワールの苗字である事を思い出した。


「ああ、アルる……アルトワールさんの事ですね」


 現在アルトワールはベインが担任をしているEクラスに在籍している。彼女から報告を受けたのだろうと、シオンは推測した。


「ああ、そんで……奴の様子はどうだ?」


「……どうして僕に聞くんですか?」


「どうしてって、お前ら付き合っているんだろう?」


「そ、それもアルトワールさんから?」


「いや、こいつはサーフィスからだ」


 サーフィスとはマルシェの苗字である。


「……元気ですよ」


 マルシェの顔を思い浮かべ、心の中で彼女に悪態をつきながらもベインの質問に答える。


「そうか」


「質問はこれだけですか?」


「いや、まだだ。ちょっと学長室まで付き合ってくれ」


「学長室に?」


「ああ。本題はこっちだ」


「学長が僕に何か用があるんですか?」


「さあな。俺も詳しい話は聞いてねぇ」


〜〜〜〜〜〜〜〜


「ホッホッホッ、久しいのぅ。元気にしておったか?」


 学長室の執務机に部屋の主人はついていた。


「お久しぶりです、セネクス学長」


 その声に、椅子に座りながら学長はにっこりと笑った。


「久しぶりに会った『じぃじ』に冷たいのう」


 2人に血縁関係は無いが、昔から学長であるアルバート・セネクスはグルードの父、つまりシオンの祖父と親友であり、度々家に遊びに来ていた。まだ小さかったシオンは彼の事を『じぃじ』と呼んでよく懐いていたのだ。


「い、いえセネクス学長にそんな気安い言葉を……」


「わしが良いと言っておるのじゃ。さあ、昔のように『じぃじ』と呼んでおくれ」


「えっと、その……じ、じ、じぃ……」


「さっさと話を進めてくれねぇか?」


 2人の様子に辟易しながら、ベインが口を挟む。途端にシオンが顔を真っ赤にし、アルバートは不満そうな顔を浮かべた。


「そ、そうですね。今日はどのような御用件でしょうか?」


「……まあ、良い。今日の用件じゃったな。シオン、ベイン、お主達に頼みたい事がある」


「何でしょうか?」


「ある男を調査して欲しい」


 その言葉に、すぐにベインは思い当たる。


「あいつか」


「うむ」


「あいつって誰の事ですか? それに、申し訳ありませんが、僕は今ちょっと手が離せない仕事があるんです」


「いや、これは陛下の勅命、つまり、最優先事項という事じゃ」


「……わかりました。それで、『あいつ』とは一体誰の事なのでしょう?」


 シオンの質問にアルバートとベインは目を合わせ、頷き合う。


「ガバル・ローシ。お前のクラスの担任だ」


「ガバル先生!? 一体なぜ?」


 突然出てきた名前に、シオンは目を丸くする。


「お主は最近学校に来ていないからあまり知らないじゃろうが、ガバルの様子が変なんじゃ。遅刻をよくする上に無断欠勤も増えておる。それに何より、あやつの周囲で人が消える」


「どういう事ですか?」


 アルバートの代わりに、ベインが口を開く。


「分からねぇ。だが、今の魔獣や魔物の増加が始まりだした、ここ数ヶ月で一気に増えている。多分、今回の件に関わっている可能性が高い」


「わしはあやつに警戒されているのか、近づいてもボロを出さぬ。同僚という立場と、生徒という立場から探ってみて欲しいのじゃ」


 シオンが真剣な顔をするのとは正反対に、ベインは心底嫌そうな顔を浮かべる。


「他の奴に任せてくださいよ。なんで俺が? 大体、俺は足が悪いんですよ? そういう任務には向かねえっすよ」


「ホッホッホッ、近衛騎士団の元副団長にして、諜報任務を一手に請け負っていたお主がそれを言うか?」


「だ・か・ら! 足が悪いって言ってんだよ!」


 不満を漏らすベインを無視して、アルバートはシオンに目を向ける。


「どうじゃ、やってくれるかのう?」


「分かりました! 精一杯やってみます!」


「うむ、ただし、あまり深入りはするでないぞ。何よりもお主の命の方が大事なのじゃから」


 アルバートは立ち上がるとシオンに近寄り、優しく彼女の頭を撫でた。シオンは少し気恥ずかしく思い、顔を赤くした。


「それでは、2人とも任せたぞ」


 未だに不満を溢しているベインを無視して、アルバートはそう言った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ふむ。ベインとシオンか。全くあの爺も厄介な人選を選んだものだね」


 彼らの会話を盗聴していた白衣の男が椅子にゆったりと座りながら呟く。地下の部屋からは獣の唸り声や人の悲鳴が響き渡っている。彼の横にはメイドの衣装や様々な国の民族衣装を着飾った、同じ顔の生気のない少女達が5人ほど並んで控えている。


「しかし、これはチャンスと言ってもいいかね。彼女を手に入れる事が出来るだろうしね。その上、シオン君が彼の恋人になったのなら、上手くいけば彼も手に入れる事が出来るはずだね」


 ガバルの顔を盗んだ男は、優しい目で少女達を見つめた。


「君達もそう思うだろう? ナギ君」


 だが魂の無い彼女らはその問いに応えなかった。


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