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World End  作者: nao
間の章
168/300

伯父との対面

「はっきりと言おう。僕は君が嫌いだ」


 目の前にいる青年の言葉にジンはため息をつく。歳の頃は彼よりも少し下だろうか。茶色い短髪と同じように茶色い瞳。眼鏡をかけており、顔をしかめて威圧感を出そうとしている。しかしどことなく滑稽に見える。身長が160センチあるかないかだ。そろそろ180センチに届こうとしているジンと20センチ近く開きがある。彼の名前はゴウテン。ミコトの許嫁である。そんな彼はミコトとともに来たジンを目の敵にしているのだ。ジンが使徒でなければ確実に闇討ちされているだろう。


「もう聞き飽きたって。さっさと修行しようぜ」


「なんだと!?」


 鼻息を荒くするゴウテンを置いて、どんどん修行場へと向かう。彼と最初に会った日からもうすでに3ヶ月は過ぎている。それなのに毎日のように同じセリフを吐くのだから、ジンはある意味で彼に感心していた。なぜジンを嫌っているゴウテンがわざわざ彼と修行しているかというと話は3ヶ月前に遡る。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ここが我が国の帝都、カムイです。」


 海を渡ってからかれこれ10日程かかって、漸くジンたちは帝都にたどり着いた。ジンの目の前には一風変わった建物の街並みが広がっていた。道行く人々はズボンではなく、着物と呼ばれる服を着ており、ジンたちの格好は少し浮いていた。だがそれ以上にジンが驚いたのは、そこかしこに亜人たちがいたからである。それも奴隷としてではなく。


 エデンでは亜人たちは普通に暮らしていたが、人間界ではほとんどが奴隷としてこき使われていた。しかしこの国にそんな様子はない。人間と亜人たちとが共存しているのが見て取れる。


「ふぅ、ようやくこれ外せるわ」


 そう言ってミコトが腕輪を外す。綺麗に装飾されたもので、どんな時でも外さなかったものだ。次の瞬間、ミコトの頭とお尻の付け根あたりから狐の耳と尻尾が生えてきた。


「あ〜、スッキリ」


「は?」


 ジンが驚きに目を丸くする。その様子に気づいたミコトが不思議そうな顔を浮かべた。


「あれ? 言ってなかったっけ。あたし、狐人と人間のハーフ」


「聞いてねえよ!? じゃ、じゃあもしかしてハンゾーたちも?」


 恐る恐る聞いてみるとハンゾーとクロウは首を振った。


「いえ、わしらは普通の人間です」

 

「そ、そうか」


 なんとなくジンは安心する。もしこれでハンゾーやクロウから兎の耳でも飛び出そうものなら、腰を抜かすほど驚くことは確実だ。


「あ! 巫女姫様だ!」


 突然小さな女の子がミコトに気がついて声を上げた。すると周囲の人々が一斉に顔を向けた。


「本当だ!」


「いつ帰ってこられたのですか?」


「陛下はずっと心配しておられたんですよ」


「姫様、お話聞かせて!」


 どんどん、人が集まってきて、あっという間に囲まれてしまった。


「いやぁ、人気者は辛いわね」


 まんざらでもなさそうな笑みを浮かべるミコトにハンゾーは溜息を吐いた。


「姫様、陛下がお待ちしております。そのぐらいになされよ」


「仕方ないわね〜。わかったわよ。それじゃあ、みんなまたね」


 ミコトが手を振ると、歓声が湧いた。どうやら彼女はこの国でかなりの人気者のようだとジンは理解した。案の定歩くたびに声をかけられては止まって、声をかけられては止まってと、城にたどり着くまでにかなりの時間がかかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜


「それではここでお待ちください」


 通された場所で、用意された椅子に座って待っていると、しばらくしてドタドタという慌てたような足音が近づいてきた。そしてバンッという扉を叩きつける音とともに2メートルを越える背丈の熊のような大男が現れた。髭面の男はキョロキョロと周囲を見回し、ジンたちの方に、正確にはミコトに目を固定させた。


「ミ、ミ、ミコトちゃーーーーーん!!!!」


 獣の吠え声のような声でミコトに飛びかかる大男をミコトは華麗に回避する。しかし男も懲りずに、見た目とは裏腹に機敏な動きで体を切り返すと、ミコトにタックルするかのように抱きついた。


「ミコトちゃんミコトちゃんミコトちゃんミコトちゃーーーーん!!!」


 ミコトの顔に頬ずりする男に向かって、ミコトは心底嫌そうな顔を浮かべる。


「お父様、痛いから離れて!」


 普段からは全く想像もつかない、凍てついた声音を聞いて、ジンは目を丸くする。


「そんなこと言わないでよ! ミコトちゃんと最後に会ってから358日と16時間も経っているんだ。さあもっと俺に可愛い顔を見せておくれ!」


 さらにきつく抱きしめる男に少女がしていいものではない表情を浮かべ、ミコトは男の顔を必死で押す。


「う・ざ・い!」


 本来ならばメンタルを削る一言ではあったのだが、目の前の男には久しぶりに愛娘と再会できたという喜びの方が優った。


「ごほん。陛下、そろそろ落ち着いて下さい。ご報告したい議がございます」


 見かねたハンゾーの声にようやく顔をミコトから放す。だがその顔はひどく不満そうだ。


「ああん?」


 これが一国の王なのかとジンは信じられなくなる。ただの娘大好きなチンピラではないか。


「先達てお伝えしましたように、目的の御方をお連れいたしました」


 その言葉でようやく男はジンに目を向けて、パッと顔を輝かせた。


「お、おお、おおおおおお! お前がジンか! 姉上の息子か!」


 ミコトを話すと一瞬にしてジンの目の前に来て、がっしりと両肩を掴んだ。


「確かに、確かにどことなく姉上の気配がある! どうだ、姉上は息災か?」


 その質問にジンが答えると、男は驚いた表情を浮かべた。


「な、なに? 姉上が身罷られた……だと?」


「はい、かなり前……に」


 ジンはギョッとする。なぜなら目の前の男が大粒の涙をこぼし始めたからだ。


「う、うおおおおおおお! 姉上! あーねーうーえ!」


 獣の咆哮が部屋一体に響き渡った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「すまんな。取り乱した。では改めて自己紹介といこう。俺は可愛いミコトちゃんのパパで、この国を治めているコウランだ。一応はお前の伯父だ。それで、その容姿は一体どうなっている?姉上と兄者の子であるならば、そのような髪色にはならないはずだが」


 どうやら、この男はジンの父親に対して特に悪い印象を抱いていないようだ。道中ハンゾーやクロウにそれとなく聞いてみたが、二人とも顔をしかめてあまり話してくれなかった。むしろハンゾーに至っては親の仇ではないかと思うほどだった。もちろんミコトは年齢的なこともあってそもそも知らないようだった。


「これは術で色を変えているんです」


 そう言うとジンは髪と瞳の色を元の黒色に戻した。それを見てコウランがニヤリと笑った。


「その髪、その瞳、確かに姉上と兄者との子供だな。黒い瞳も、黒い髪もこの世界にはほとんどいないからな。それじゃあ今までどんな風に過ごしてきたか話してくれないか?」


 コウランの質問に、ジンは今までのことを話すことにした。それにエデンであったこともだ。コウランはその話を聞いてどんどん涙をこぼし始めた。特に、ジンの姉であるナギの死、それと育ててくれた二人、ウィルとマリアの話を聞いた時にはハンカチなしでは聞けなくなり、龍魔であるレヴィの話を聞いて怒りに拳を握った。今までのことを全て話し終えた頃にはもう日が傾き始めていた。


「……なるほどな。薄っぺらい言葉だが、苦労してきたんだな」


「………はい」


「よし! ここでしっかりと英気を養ってくれ。やりたいことがあればなんでも言ってくれ。鍛えたいならそれに必要なものは全て用意しよう!」


「ありがとうございます陛下」


 その言葉にジンは深く頭を下げると、コウランが優しく微笑んだ。


「お前は姉上と兄者の息子だ。つまり俺たちは家族だ。そんな畏まらなくていい」


「……っ、ありがとうございます」


 もう誰もいないと思っていた家族とこうして会うことが出来たのだ。確かにミコトはいとこではあるが、彼女はそれを知る前に得た印象のためにそんな風には捉えられなかった。しかし今目の前にいる男は、自分の知らない父と母を知っている家族だ。それが無性に嬉しかった。


 突然、先ほどコウランが来たように部屋の外からドタドタと、誰かが走ってくる音が聞こえてきて、次の瞬間、バンッとドアが開いた。そこには茶色い短髪と同じように茶色い瞳で眼鏡をかけた少年がいた。身長は160センチあるかないかだ。ここまで走ってきたのだろう。ものすごい汗とともに息が上がっている。


「ミ、ミコト様が、ミコト様が帰ってこられたんですか!?」


「げっ!」


 ミコトはそう言うと、そっとジンの陰に隠れた。


「おう、ゴウテン」


 ミコトの反応をよそにコウランが朗らかに手を振る。


「こら、ゴウテン! 陛下の前で無礼だぞ!」


 ハンゾーが怒りを露わにするも、コウランはそれを止めた。


「まあまあ、こいつも一年も心配してたんだ。これぐらい許してやれや」


「しょ、承知しました」


「ミ、ミコト様は!?」


 しかしハンゾーの注意は全く聞こえていなかったらしい。キョロキョロと首を回し、ミコトを見つけ、ついで彼女の前に立つジンに気がついた。


「誰だ貴様はああああああああ!!!」


 ゴウテンは蒼気を纏うとジンに向かって殴りかかった。

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