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World End  作者: nao
第6章:ギルド編
156/300

vs魔人3

「「「ジン様!」」」


 ハンゾー達の声が響き渡る。


「はははははははははははははははははは!」


 突如拘束されているはずの魔人が笑い出し、拘束を簡単に外して立ち上がりジンに向かって歩きよった。倒れているジンを見下ろして、バカにしたように口の端を釣り上げて残虐な笑みを浮かべた。


「いつまで俺が知能なく動いていると思っていた?」


 その声は先ほどとは異なり、あの不気味な二つの音が重なった声ではない。最初に戦った時に聞いたアイザックという少年の声である事にハンゾー達は気がついた。


「なあジン、どんな気分だ?」


 アイザックはジンの背中の傷を踏みつける。


「ぐ、があああああ!」

 

 魔人の姿がどんどんに人間のものへと変化していく。やがて化け物の特徴は消え去り、1人の少年へと変貌した。その少年の横にジンを襲った少女が近寄る。


「よくやったアイラ」


 そう言うとアイザックは少女の頬を撫でた。アイラと呼ばれた少女はくすぐったそうに笑う。


「さてと」


 くるりとアイザックは背後に顔を向ける。ハンゾー達はその凍りつくような笑みを向けられて体が硬直した。


「どうした?そんなところで見てないで早く来いよ。じゃないとこいつが死ぬぜ?」


 再度ジンの背中を踏みつける。痛みでジンが悲鳴をあげた。その声を聞き、ハンゾーが動き出す。それに遅れてクロウ、ミコトが駆け出した。


「はああああ!」


 ハンゾーが風を纏った斬撃を放つ。横薙ぎの攻撃は渦巻く風の力によって、アイザックに接近していくごとに研ぎ澄まされていく。しかしそれはアイザックの体にぶつかるが傷をつけることすらできない。続いてクロウが攻撃を加えようとするも、アイラという少女が岩弾を放ち、そちらの対応をするために手が止まる。ミコトは距離をとって状況を俯瞰的に見ることに徹し、援護に備えるとともに回復術の準備をする。低位の術では治すのに時間がかかる。だからこそ彼女は自分ができる最高の治癒法術を発動するために集中し始めた。しかし、如何せん援護と同時並行で行なっているため、上手く力を溜められない。


「しっ!」


 短い呼吸とともにハンゾーの斬撃がアイザックに激突する。その横でクロウがアイラにタックルを敢行する。クロウは少女の外見をしながらも、その本質は魔人であるということを即座に理解した。自分よりも数十センチも小さい少女がまるで大木であるかのように全く動く気配がなかった。


 その上無造作に膝が上がり、頭にぶつかったと認識した瞬間に弾き飛ばされて空中に浮かび上がった。そのまま流れるように少女は蹴りを放つ。どう見ても素人のそれは、しかし身体能力だけで達人の域を超えるほどの速度と威力を伴っていた。クロウは空中で器用に体を動かして回避する。だが蹴りによって生じた風によって吹き飛ばされた。回転しながら地面に着地したクロウの額から一筋冷や汗が流れる。


 すぐさま少女が放った光線がクロウの顔に迫ってくる。それを最小限の動きで回避すると、再度突進を試みる。今度は足元を崩し、押し倒す。そのまま馬乗りになって拳を炎で包み拳を叩き込む。だが少女の体から光が発したと同時にクロウは吹き飛んだ。何度も受けてきたバリアーのようなものを爆発させる術だ。至近距離から直撃したクロウは地面を転がり、すぐさま起き上がる。ミコトが張った結界は瘴気だけでなく、ある程度の攻撃は防いでくれる。それに加えて『蒼気』によって肉体を強化していたおかげでことなきを得ていた。仮にそれらの補助がなければ、受けた感じからして内臓が吹き飛んでいたであろう。


 しかしクロウは気がついた。相手の強さは先の戦いほどではないということに。


『分裂したからか』


 魔人とはいえ、クロウでもある程度戦えている感触があるということは、おそらく目の前の少女はもう一体の少年から力の一部分を受け取っただけの存在なのだろう。つまりはここでクロウが少女を倒せれば相手の力を大きく削ぐことができるはずである。その上相手は融合体だったはずである。それが2体に分かれているということは、本来一つの体に2つあるはずの核が分かれていることも意味する。同時に破壊する必要がなくなったのだ。


 クロウは呼吸を整える。ジンのことは気になるが、それは自分の師に任せる。今彼がすべきは目の前にいるアイラという名の少女を全力で抑え、可能ならば倒すことだ。体を包む『蒼気』をさらに研ぎ澄ませる。『蒼気』は扱いを間違えれば命を落とす諸刃の剣である。だからこそ猛る気持ちを抑えてから、右手を掲げ、上空に向かって二発の炎弾を放った。それは数十メートル上まで飛ぶと突如弾けて中に潜んでいた石弾とともに、雨のように少女に降りかかった。


 それを横目に、ハンゾーは瞬時にクロウとアイラの力量差を見切り、アイザックとその足元で倒れているジンに意識を向ける。どうにかしてジンを救わなければ、本気で攻撃を仕掛けることができない。幸いなことにうめき声が聞こえてくることからまだ生きていると分かるが、だからと言って出血量からして放置していてはまずい。そう考えたハンゾーは相手を釣るために、あえて少女の方に斬撃を放った。今までのアイザックの行動を鑑みるにあの少女の存在が彼にとって大きいということを理解していたからだ。


 続けてその意図を理解したミコトも同様に遠距離から風弾を飛ばす。それらを察知したクロウはアイラの動きを抑えながら、ギリギリのところで後方に飛び、ミコトの術に重ねるように炎弾を放った、風によって膨れ上がった猛火がアイラに襲いかかる。


「アイラ!」


 アイザックが叫び、一瞬のうちに移動してアイラの前に立つとそれらの攻撃を振り払った。そしてアイラを守るように彼女を背後に隠す。ハンゾーの予想通りの展開となった。なぜ融合体という有利な肉体をわざわざ捨てたのかわからないが、それは今考えることではない。ハンゾーがすべきはジンを回収し、ミコトの側に連れて行くことだ。


「クロウ、任せた!」


 ハンゾーはクロウを見ずに叫ぶと、ジンに駆け寄り、抱え上げてミコトの方へと走った。


「姫様、いかがですか?」


「ひどいけど、この程度なら大丈夫!」


 ジンの背中の傷の状態を確認し、回復法術を即座に発動する。淡い光がジンの患部を包みこみ、肉体の再生が始まった。


「ではわしはクロウの所に行きますので、ジン様をよろしくお願いします」


 そう言ってハンゾーは纏っていた『蒼気』をさらに強める。極限まで肉体を強化し、蒼い雷となって戦場を駆け、今まさにクロウを殺そうとしているアイザックに斬りかかった。


 一方クロウは右手で首を絞められ、宙に持ち上げられている状態でもハンゾーの接近に気がつき、アイザックの腕を自ら離せないように固定する。その行動をアイザックが疑問に思った瞬間に、ハンゾーの全力の攻撃が彼の右腕を半ばから斬り落とした。


「———————————————!!」


 突然の痛みに叫ぶアイザックに、追撃とばかりにその首を狙ってハンゾーが剣を振るう。地面に落ちたクロウは咳き込みながらも、首を絞められても手放さなかったハルバードでアイザックの両膝を切断しようと、瞬時に高めた『蒼気』で巨体をしゃがませながら、横薙ぎの一撃を見舞う。だが彼らの攻撃はアイザックに打つかる前に、彼の体を覆った光の膜に防がれる。


「ちっ」

「くそっ」


 ハンゾーとクロウはすぐさまに距離を取ると相手の動きを観察する。追撃をしたくても、あの膜は反撃にも利用できる。そのため下手に突撃して体勢でも崩せば、相手に大きな隙を与えることになる。せめてジンが復活すれば、ミコトの援護とともにハンゾーとクロウが作った僅かな隙で相手に攻撃することができるのだが、おそらく治療にはまだ時間がかかる。


「しかし、二つに別れた理由はこれか」


「ええ、そう見たいですね」


 先の戦いではバリアーを反撃に用いる時に僅かに隙ができていた。つまり攻撃と防御は同時に出来ないということだ。彼らが一つであったなら。


「さっき見せたバリアーの爆発もおそらくあの少女が遠距離から、あの少年が行ったように見せたのでしょうね」


 アイザックは岩に閉じ込められた時、追撃にきた彼らを騙すために自分でバリアーを張ったように見せかけていたのだ。


「まんまと一杯食わされたな」


 その行動によって、彼らは分裂するという可能性を一切考慮しなくなった。元から融合体がわざわざ再度分裂するなどという状況を想定してはいなかったが、おかげで全員が第三者の介入という可能性を頭の中から外していた。戦闘経験が圧倒的に多いハンゾーでさえだ。


「全く、随分と狡賢い敵だな」


「ええ、本当に」


 目の前では少女が少年の治療をしている。そんな状況で何もできない自分たちに、2人は歯噛みしていた。


「「「『風嵐』!」」」


 突如背後からそう叫ぶいくつもの声が響いた。ハンゾーとクロウが慌てて背後を見ると、そこには生き残っていた冒険者と兵士たち、そして彼らを率いるモガルが立っていた。


「待たせたな馬鹿野郎供!てめえら、ぶっ放しやがれ!」


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