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World End  作者: nao
第6章:ギルド編
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vs魔人

 切り上げられた剣をそのまま振り下ろそうとする必殺の一撃はギリギリのところで防がれた。ジンが足元に落ちていたクロウの大楯を使って全力で打つかったのだ。凄まじい勢いのタックルは魔人を数十メートル先へと吹き飛ばした。


「じいさん!」


 そのまま地面を転がっている魔人を横目に、素早くジンはハンゾーの様子を確認する。切断面から夥しい量の血が流れている。早く手当てをしなければ、失血死は免れないだろう。


「くっ、すまん。この手じゃ足手まといになっちまう」


 ハンゾーは腕を失った痛みに脂汗をかきながらも、ジンのことを心配する。


「そんなことはいいから、とにかく傷を見せろ」


 ジンはそう言うとハンゾーの切断された両腕を調べた。出血が一向に止まらない。


「くそっ、時間がねえな。でもこれぐらいなら!」


 素早く腰に差していた短剣を抜き放つと、ハンゾーの患部に近づける。そして落ちていた両腕を掴み上げて、まずは右腕を切断面に接着させてから、その上に短剣を乗せて、小さく『発動』と唱える。すると、淡い緑色の光が患部を照らし、見る見るとハンゾーの腕が癒着し始めた。


「これは……」


「成功するかわからない賭けだけどな」


 ティファニアによると、あまりひどい怪我は治せない。しかし切断されたとはいえ、可能性がゼロというわけではない。治ってもおそらくすぐに戦線に復帰することは無理だろうが、それでも彼が何かに役立つかもしれない。


 幸運なことにジンの目論見は成功した。すぐさまハンゾーの右腕がかすかにではあるが動き始めたのだ。ハンゾーは驚愕する。確かに術を込めた武器は存在する。しかしこのレベルの治癒を行えるほどの物は『人界』では存在しないはずだった。さらに淡い緑色に輝く光は、どの法術にも特徴がないものである。つまり、今彼を癒している力は法術に由来するものではない。


「お主は、やはり……」


 ハンゾーがそう言いかけたところで、一筋の光がジンの左肩を貫いた。肉の焼けたような香りがする。ジンが痛みにうめき声をあげる。


「ぐっ」


「もうわしのことは良い。今すぐ逃げるのだ!」


「うるせえよじいさん。もう右腕は大丈夫なんだろ。じゃあ俺が時間を稼ぐから左腕は自分でやれよ」


 ジンは左肩を垂らしながら、首元から銀色の指輪を取り出し、ハンゾーの首にかけてから、再び『発動』と唱えた。ハンゾーが体から闘気が奪われていくのを感じると同時に、彼を覆うように光の膜が出現した。


「そいつは闘気を込め続ければ、ある程度の攻撃は防いでくれる。その間に回復してくれ」


 ハンゾーはその言葉に驚きつつも、そんなものならジンが使うべきだと言おうとする。しかしジンもそんなことは分かっているはずである。ここで自分がごねても却って彼の邪魔にしかならない。それよりも、今ハンゾーがすべきことは傷を治して、すぐにジンの援護に回ることだ。


 そう考えたハンゾーは飛び出かけた言葉を抑え、代わりに感謝の念を表した。


「何から何までこんな老骨のために忝い。だがお主もわしのことは気にせずに本気でやってくれ。全力でな」


 ジンはその言葉に目を丸くする。


「わしを誰だと思っておる。小僧、いやジンよ。お主が実力を隠していることぐらいわかるわ」


「……ああ、そうかい。そんじゃあ巻き込まれても文句言うんじゃねえぞ!」


 ジンは闘気を練り始める。さらには無神術を使って極限まで肉体を強化する。そしてラグナから与えられた『あの力』も解放する。ラグナの権能は肉体に負荷がかかりすぎて、しばらくまともに動けなくなる。闘気と無神術で限界まで強化した肉体で、ようやく少しだけ行使することができほどだ。しかし目の前の状況ではそんなことも言っていられない。


 身体中を黒い闘気が包み込み、大気が震え出した。ジンを中心に風が舞い踊る。しかし暴風のような風は唐突に止んだ。ハンゾーが視線をジンに向けると、そこには黒い雷が体にまとわりつくように弾ける少年が立っていた。


「おお、やはり、お主が……いや、貴方様こそが……」


 ハンゾーの言葉はジンには届かず、彼が浮かべている崇敬の念が籠もった表情に、ジンは気が付いていない。それはひとえに、彼が今自分の中で暴れ狂う力を必死に抑え、失いそうになる意識を保っていたからである。分かっていたことだが、コントロールが難しく、下手をすれば暴発してしまう可能性があった。そうなれば、相手に攻撃する前に体が崩壊するだろう。


「はあああああ!」


 ジンは大地を強く踏みしめ、蹴った。爆発が起こったかのような轟音が響き渡り、地面が大きく抉れた。ハンゾーの目の前からジンが消えた瞬間に、魔人と黒い影がぶつかり合う。彼らは激しい音を響かせながら、目にも止まらな速さで攻撃を繰り広げていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「凄まじいな。これが真に選ばれた御方の戦いか」


 ハンゾーはその戦いを眺めながらぼそりと呟いた。あの少年こそが、使徒であることは間違いない。それも『フィリア』の方ではなく、『ラグナ』の方のだ。さらにあの力はおそらくただの使徒ではなく、彼らの始祖と同じ類のものだろう。つまりはハンゾーたち一族が望み続けてきた存在だ。髪の色が黒ではないのはおそらく染めているからだろう。そんなことをハンゾーは目の前で繰り広げられる戦いを見つめながら考えていた。


 ハンゾーたちの一族の始祖は狂った女神、フィリアを打倒するために生み出された存在だった。彼は『亜人界』からこちらの世界にやってきたそうだ。その強大な力で周辺の国々を統一し、一つの国家を作り上げた。そしてその力を使って、大陸から国を分離させて、国全体を覆う結界を張ったという。その目的がなんなのかはハンゾーの知るところではないが、始祖が死の淵で残した言葉は彼らの一族の指針となった。


『いつか、いづこより来たる神に選ばれし者が汝らを導かん』


 この言葉を信じて、多くの者がその存在を見つけ出すために旅に出て、戻らなかったという。今ではほとんどの人々が信じていない。もはやおとぎ話と成り果てた。実際にハンゾーも始祖の力を疑うわけではないが、その予言が現実になるとは微塵も思っていなかった。しかし、今目の前に現れた少年こそがまさに予言の者であるという漠然とした確信が彼にはあった。


「まさに姫様の予言通りか」


 ミーシャ、ミコトの壮大な家出の切っ掛けは、彼女が見たとある夢だった。一人の少年が世界に向かって吠えた。たったそれだけだ。しかしそれが数日繰り返したためミコトはこれが神託であると信じたのだ。もちろんそんなことを誰も信じるはずがなかった。だから彼女は家から飛び出し、自力で探そうとしたのであった。まあそれ以上に情報の無かった彼女は『勘』でいろんな輩に声を掛けては外れ、掛けては外れを繰り返すのだが。おかげで路銀が尽き、ハンゾーたちはギルドでクエストをする羽目になった。しかしようやく巡り合った。それを実感したハンゾーは痛みすら忘れるほど胸が熱くなった。


「なればこそわしの役目は……」


 今ハンゾーがすべきことは一つだけ。ジンの助けとなり、魔人を打倒することだ。分かっていたことではあるが、それを再確認し、ハンゾーは痛みをこらえながら強く拳を握りしめた。神経が繋がったばかりだからか、動きが鈍く、痺れ、痛む。


「だがこの程度!」


 ハンゾーは立ち上がり、足元に落ちていた自身の得物を持ち上げようとする。しかし力の入らない両手では持ち上げることすら困難だった。それでも意志の力で掴み上げると、持っていた布でなんとか右掌と剣を固定する。そしてジンを手助けする為の隙を見い出すために、彼らの戦いを見据えた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 横薙ぎの攻撃を、背を反らして回避したジンは、そのまま重力に従って後方に倒れるのではなく、器用に地面を蹴ると空中で一回転しながら、その右足のつま先を魔人の顎先に蹴り込んだ。まともな直撃で一瞬仰け反るも、魔人はすぐに体勢を立て直すと、瘴気の剣を振りかぶり、下ろした。それをバク転しながら回避すると、ジンは一気に反撃に出る。一瞬の隙で右手に持っていた短剣を魔人の首に突き立てようとした。しかしそれは失敗する。それを理解した瞬間にジンは短剣を手放し、再度距離をとった。


「くそ、そんなのアリかよ!」


 ジンの目の前にいる魔人は新たに二本の腕を生やしていた。そのうちの一本が短剣を掴み取っていたのだ。


「確かに二人が合体したから体積的にどうなったのかは少し気になってはいたけどさあ!」


 手数が倍になったからと言って単純に強さが倍になったというわけではないが、危険度は一気に増した。その上、とジンは目を左手に持つ短剣に落とす。そこには瘴気によりボロボロになった、もはや短剣とは呼べないモノがあった。


「やっぱりこの武器じゃ耐えられねえか」


 レヴィから作り上げた短剣ならば耐えうるだろうが、あの短剣は既に無い。そもそもあってもこの状態ではおそらく使えない。


「ははは、マジで詰んでるな」


 思わず苦笑いするジンを興味深そうに魔人は眺めていた。


「「何故この状況で笑うのだ?このままいけばお前は確実に死ぬだろうに」」


 あの重なった声で話しかけてきた魔人に、ジンは少し可笑しくなる。やはり魔物とは違って、人間らしさが残っているというのは彼にとっては妙な気分だった。


「さあな。でも、人間は案外どうしようも無い時でも笑えるんじゃねえかな。お前には無かったか?」


「「お前?俺、いや私、いや俺は誰だ?私はなんだ?」」


 魔人は頭を抱えて唸りだした。


「あぁ、なるほどなるほど。まあそうなるか」


 目の前にいる魔人は継ぎ足した存在だ。つまり彼、あるいは彼女は二つの脳が混じり合っているのだ。自我を認識させれば混乱が生まれるのは当然であろう。そしてこれは大きな隙である。ジンは持っていた武器を手放すと、『力』を右腕に集約させて一気に接近した。


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