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World End  作者: nao
第1章:物語の始まり
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冒険の始まり

 視界が徐々に光を取り戻していく。近くに鳥の鳴き声が、雨が降ったあとの森の湿った匂いがする。意識を徐々に取り戻したジンの目の前には、ごつい男の顔があった。


「お、目え覚めたか、坊主。お〜い、マリア〜、坊主が起きたぞ〜」


「あら、本当? よかったわ。どれどれ」


緑髪の髭面の男が、誰かに声をかけた。すると近くにいたらしい赤髪のグラマラスな女性が近づいてきた。


「気分はどう、坊や?」


「ここはどこだ? あんたたちは誰だ?」


ゴツン、

ジンの頭に男の拳骨が落ちる。


「???ッツウウウ」


 余りの痛みに頭を抱え、涙目になりながら男を睨みつける。


「おいおい、起きて最初の言葉がそれか? 挨拶は大事だぜ?」


「あんた、ようやく気付いたばかりの子に何してるんだい!ごめんね、坊や。この間抜けは、常識をどこかに置いてきちまった、筋肉バカなんでね」


「おいマリア、俺はただこのガキに常識を教えようとしただけっ」


「どこの世界に、まだ起きて混乱している子供に、説明もなく殴る奴がいるんだい!? 頭の悪いこと言ってないで、さっさと謝りな!」


 女の気迫を受けて、しぶしぶと男がジンに頭を下げて、謝罪の言葉を述べた。

彼はそれを受け入れ、頭をさすりながら、


「それでここはどこなんだ? あんたたちは?」


「ここはオリジンの南にあるダルニア平原で、王国から馬で5日ほどの距離さね。あんたは5日間も目を覚まさなかったんだよ」


「そんで俺たちは、ラグナの使徒で、神さんからお前の回収を頼まれた。俺はウィルで、こっちは嫁のマリアだ。よろしくな、坊主」


「よろしくね、坊や。お前さんの名前はなんていうの?」


「……ジン」


 彼は二人を警戒しながら、名前を述べた。緑髭はウィル、赤髪の女性はマリアというらしい。徐々に頭のモヤがとれてきたジンは、ウィルのいうラグナの使徒ということから、つい先ほどまでの夢が、実際にあったことであることを理解した。


「大丈夫かい、坊や? 顔が真っ青だよ」


「姉ちゃんたちはどうしてここにいないの? それになんで俺を連れてきたの?」


「ラグナから聞いてんだろ? お前の家族はもういない。フィリアのせいでな。お前の家族は、埋めることができなかったんで、悪いが火葬してきた。それと俺たちの戦いにはお前が必要だ。だから連れてきた。あとこれはお前の姉ちゃんの指にはめてあったやつだ。遺品として持っとけ。って言ってもお前の指には少しでかいか。あとで鎖に通してネックレスにしてやるよ。まあ一応持っとけ」


 そう言って男が背負い袋から、それを探し出して渡してきた。それは確かに姉がいつも身につけていた指輪だった。それを力ない手でジンは引き取ろうとする。腕を持ち上げると、肩には白い包帯が巻き付けられ、突き刺すような痛みが肩から広がった。


「そっか。やっぱりあれは夢じゃなかったんだぁ。ぅあっ、あああああああああああ…」


ジンの目から涙が溢れ出してくる。顔をぐしゃぐしゃにしながら泣き続けるジンをマリアが優しく抱きしめる。


「この馬鹿が、もっと言いかたってもんがあるだろう!」


マリアが頭を撫でながら


「もっと泣きなさいな、ジン。大事な人のために泣くのは、お前のためにも彼らのためにも大切なことなんだ。だからもっともっと泣いていいんだよ。我慢しないんでいいんだ」


その言葉にジンはより一層声を大にして、泣き出す。彼の泣き声は周囲に彼の強い悲しみを伝えていた。


 やがてジンは泣き疲れて、眠ってしまった。


「ありゃ、寝ちまったのか」


「そうさね。まだこんな子供なんだ。あんなことがあってまだ心が壊れていないこと自体が奇跡に近いよ。この子の目を見たかい? かわいそうにこんな小さいのに、完全に怒りと憎しみを宿してるよ。これからのこの子のことを考えると、どっちが良かったのかはわからないね。あの場所で死んでいた方が良かったのかもしれないよ」


「そうだな。こんな坊主があん時の俺たちと同じ目をしてるっていうのがやるせねーよな。俺たちと違ってこいつは生まれた時から、このクソッタレな神の争いの歯車にされている。全くもって忌々しいもんだ」


 ウィルの言葉を聞いて、マリアの心に暗い気持ちがよぎる。『本当にこの子を救いたいなら、今この子を殺してしまった方がいいかもれないね』ジンほどの年齢で死んでしまった自分の息子と、その面影を重ねながら、彼女はそんなことを思っていた。


 数時間後再びジンが目をさますと、薄暗くなってはいるが、先ほどの場所にまだいることに気がついた。そして自分がマリアに膝枕されて、頭を優しく撫でられているのに気がついた。『まるで母さんみたいだ……』もはや記憶にうっすらとしか残っていない母親の影が、母親代わりに育ててくれた、姉の影が脳裏によぎる。気づけば彼の目には再び涙が浮かんでいた。しかしそれを悟られないようにジンは我慢する。ナギとの約束を思い出したからだ。

 

 目に浮かんだ涙をごまかしながら、頭を上げようとして、マリアの胸に頭が当たる。柔らかい。姉にはなかった感触だった。


「おや、起きたかいジン」


 少し気恥ずかしく思いながら、ジンは立ち上がる。するとすぐにパチパチという音と、美味しそうな匂いがしてくる。音と匂いがする方を見ると、ウィルが料理を作っていた。


「お、起きたか坊主。ちょっと待ってろ、もうすぐ飯ができるからな」


 そのまま調理を続け、10分ほどして完成する。すぐ近くの川でとってきたと思われる魚を焼いたものに、シチュー、そして異様に硬いパンが一つ。


「ほい、たんと食えよ」


 ジンはそれを受け取るがなんとなく、手をつけられない。お腹は空いているはずなのだが。


「こいつは、頭は悪いけど、料理だけはまともなもんを作るんだ。美味しいはずだから食べてみなよ」


 マリアがそういうので渋々と食べ始める。一口、二口と恐る恐る食べていたが、動かす手はだんだん速くなり、あっという間に食べ終えてしまった。それを見て、機嫌をよくしたウィルがもっと食うかと聞いてきたので、ジンはお代わりを要求した。数日ぶりに食べた食事は簡素ではあるが、全身に染み渡るように熱を広げ、彼は心の底から自分の生を実感した。


 そうして食事を終えたジンは再び眠くなり、床についた。彼が寝付くことに気づいたマリアが、彼を優しく抱きしめながら、一緒に横になった。ジンは彼女の胸に抱かれ、安らぎを感じながら、しばらくして寝息を立て始めた。


 マリアはそんなジンを見て優しく微笑みながら不寝番をウィルに任せ、自分もそのまま寝ることにした。しかし彼女がまどろんでいると、ジンがうなり出した。その声は徐々に大きくなり、体を激しく暴れさせ始めた。そしてすぐに彼はガバッと体を起こした。蒼白の面には脂汗が滲み出、目からは涙がこぼれ落ちていた。


「ジン、大丈夫?」


 マリアが心配そうな顔をして、彼の顔を覗き込んできた。ジンはマリアに抱きつき、喉からかすれるような声を絞り出す。


「みんなが、目がないみんなが、こっちを見て笑いかけて来るんだ。『うらやましいね』『ジンだけずるいよ』って言って来るんだ。そんで姉ちゃんが俺にどうして助けてくれなかったのって…」


「そうかい…」


マリアはそう言ってジンを抱きしめながら背中をポンポンと軽く叩いた。それで落ち着いたのかいつの間にか再びジンの意識は薄れていった。


 次の日ジンが目覚めると、横になって休んでいるウィルの代わりにマリアが朝食を準備していた。


「おや? 起きたかねジン。待ってな、今朝食を作ってるから」


 それを聞いたジンは途端に自分が空腹であることに気がついた……のだがマリアが作っている食事から異臭がすることに気づいた。


「なにつくってるの?」


「昨日のシチューのあまりと米でリゾットをね。どうだいうまそうだろ?」


 そういって鍋を見せてくるが、それを覗き込んだ瞬間に、ジンの目が強烈な刺激に襲われた。目を何度も擦り、涙を流しながら再度恐る恐る覗いてみると、異様に唐辛子が入れられ、白かったシチューが赤くなった、強烈なリゾットがそこにあった。


「これ食べられるの?」


当然の質問をジンは投げかける。


「当然だろ。朝から辛いものを食べると気合が入って1日元気でいられるんだよ。騙されたと思って食べてみな」

だが彼女は満面の笑みで、器に救ったそれを渡してきた。


 ジンはそれを受け取り、恐る恐るスプーンに右手を伸ばそうとして、鋭い痛みが走ったので、顔をしかめながら左手を伸ばした……


「ジンやめとけ……」


ところで眠そうな声を出してウィルが起き上がった。


「それを食ったら、明日まで腹が土石流でやばい。絶対に食うな」


 大きくため息をついたウィルの忠告により動かしていた左手をそのまま下ろす。


「なに余計なこと言ってんだいウィル。人の料理にケチつけようってのかい?」


マリアの目が鋭く細まり、ウィルを睨めつける。


「お、落ち着けって。そんなつもりはねえよ。ただこいつはまだ昨日目を覚ましたばっかだし、いきなり腹にくるもんいれたらヤバイだろ?」


「そうかい? 美味しくて、辛いもんを食えば自然と元気になるだろ?」


「(そいつはおめーだけだろ)まあ念のためだよ念のため。それにジンも辛いの苦手かもしれないしまず好みを聞いてみねーと。どうだジン辛いの好きか?」


ウィルが質問を投げかけてきた。どうやらこの状況からどうにかしてジンを救ってくれようとしているらしい。


「あんまり得意じゃない…」


「そうか! じゃあしょうがねえな。その飯はとりあえず置いといて別のを作ってやるから待ってな!」


 その返答を聞いたウィルは人懐っこい笑みを浮かべて、新たに料理を作ろうと荷物から食材を二人分取り出そうとして、マリアに腕を掴まれた。


「ジンは残念だけど、あんたは私の料理を食べてくれるんだよね? まさか愛する妻のご飯を食べられないなんてことはないよね?」


とニコニコと笑いながら無言の圧力を体から発する。


「いや、俺今日はちょっと腹の調子が……、それに俺とジンの分、お前も好きなだけ食べれるだろ?」


「あたしはこんなに朝から食べられないよ。さあ一緒に食べようよ」


マリアがスプーンにすくったそれをウィルの口元に持っていく。ウィルの額から大量の汗が流れ落ちた。


 全てを失い、未だその悲しみを振り切ることのできないジンにとって、彼らの馬鹿騒ぎは心を少し穏やかにしてくれた。


 食事を終えるとマリアとジンは出発の準備をし始めた。ウィルはお腹を抱えながら、紙をもって遠くの茂みまで走りさった。


「ラグナが言ってたけど、今魔界、じゃないやエデンだっけ? に向かっているんでしょ? あとどれぐらいで向こうに着くの?」


「そうさね。だいたい半月ぐらいかね。そこからまた1週間ぐらい馬で走って私たちの家に行く予定さ」


「エデンに家があるの!?」


「そりゃそうさ。たまに結界外に出たりはするけど、私らの役割は攻め入ってきた使徒や魔獣、魔物たちの迎撃だからね。だからホームはそっちの世界にあるのさ」


「ラグナから聞いてて思ったんだけど、フィリアに見つかるから人界であまり活動できないんだよね? それじゃ、いつまでたってもフィリアを倒すことなんてできないんじゃ? あとウィルとマリアは見つかったら魔人にされたりするの?」


「おやおや、そんなに一度に聞かれたら困っちまうよ。そうだね、まず私、いやラグナの使徒はみな呪いから解放されているんだ。ラグナはフィリアほど強い力は持っていないけど、なにかの力の流れを邪魔することが得意なのさ。だから使徒になった時点で、フィリアの呪縛からは解放されるってわけだ。しかもラグナの力で、向こうでも少しだけなら力を使ってもばれないんだ。本当に短い時間だけどね。あんたのその右肩もそのおかげで、なんとか危ないところを脱したんだよ。まあまだ痛むだろうけど、あと数日で包帯も外れるだろうさ」


 マリアの言葉を聞いて自分の右肩を見る。ナギに食いちぎられたはずの右肩が元の形に戻っていたのはそういった理由らしかった。


「そんでもう一つの件だけど、確かにあたしらはこちらでの活動を制限されている。だから基本的に向こうで行うのはスパイ活動なんかだね。そんで相手を特定のポイントまで呼び寄せて、一斉に襲うとかそういった作戦しかできないのが現状だね。だから今は完全に押されている状態なんだよ。向こうはいくらでも攻めてこられるからね。それでラグナは焦れてんのさ。」


「だから俺が生まれたってことか。どっちの世界でも戦えるから……」


「まあそういうことになるんだろうね。でもね、本当に嫌ならあんたは別に戦う必要なんてないんだからね。逃げてもいいっていうことを覚えておくんだよ?」


「…うんわかった。ありがとうマリア。」


「かまやしないよ。」


 マリアは少し困ったような笑顔を浮かべた。


 そんなことをぽつぽつと喋っていると、よろよろとウィルが戻ってきた。そしてジンはマリアと一緒の馬に、ウィルも自分の馬に跨り、出発することにした。


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